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第四章
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◆◆◆◆◆
王城に向かう馬車の中で、俺は現在の王国の現状についてヘクトール兄上から説明を受けた。
陛下が崩御されて暫く経つが、未だに玉座の主は不在のまま。王国の安定の為にも、国王不在の状態は好ましくない。だが、王太子殿下は、戴冠式を断行できない、複雑な状況に陥っているようだ。
「うーん?ヘクトール兄上、王太子殿下が即位なさる事に、今頃になって反対の声が上がるのはおかしくないですか?」
「まあ、普通に考えるとそうなるね」
「陛下のお子は、ヴェルンハルト殿下のみです。側室との間の子とはいえ、既に王太子の位も授かっています。それに、反対勢力が即位式に反対しようとも、王太子殿下の性格ならば戴冠式を断行すると思うのですが?」
BL小説『愛の為に』では、フォルカー病の流行の兆しを考慮して、戴冠式の規模は縮小されたと記されていた。だが、それ以外の記載はなかった。
でも、戴冠式では「死の香水」の元になる、ゴールドチェーンが、王城の庭園に咲いていると思われる描写があった。でも、ゴールドチェーンは、まだ咲いていない。戴冠式は、もう少し先になるのかな?
「王太子殿下が国王にならぬ事が、最も望ましいと俺は考えている。だが、状況が変わり厄介な事になってきた」
「それはどういう意味ですか、兄上?」
「ヴェルンハルト殿下の産みの親が、シュナーベル家の血縁者だと暴露された」
「え、そうなのですか!?」
俺は驚いて、ヘクトール兄上を凝視した。崩御された陛下は、レトガー男爵家の令息のペーア=レトガーを、側室として後宮に迎えた。
だが、ヴェルンハルト殿下が産まれた後、側室達の詳しい出自の調査が行われた。その結果、殿下の産みの親が、出自を偽り後宮入りしていた事が判明した。本名は、ペーア=シュナーベル。シュナーベル家の血縁者であった。
「ヴェルンハルト殿下以外にお子がいない陛下は、殿下の産みの親の出自を知る者を、残らず闇に葬ったと思っておりました。殿下の産みの親のペーア様を、火刑に処されたぐらいですから。でも、秘密は漏れた」
「秘密は隠そうとしても、どこからか漏れるものだよ、マテウス。特に、陛下に抑圧され育った人物にとっては、王太子殿下の秘密を明かすこの行為は、亡くなって陛下に対する復讐だったのかもしれないね。兄弟の確執が、今回の事態を招いたといえるね」
「兄弟の確執?王太子殿下の秘密を明かしたのは、王弟殿下なのですか、兄上?」
「そうだよ、マテウス。ヴェルンハルト殿下の産みの親が、シュナーベルの血縁者だと明かしたのは、王弟殿下のシュテフェン = フォーゲルだ。シュテフェン殿下は、王太子殿下の地位を揺るがし、玉座を狙っているのかも知れない。そうは思わないかい、マテウス?」
「王弟殿下が玉座を?私は一度だけ、シュテフェン殿下とお逢いしました。ですが、野心的な印象は受けませんでした。虹彩異色症により、人々に『呪われた瞳』と呼ばれ、差別されておられました。眼球を集める奇行も、虹彩異色症が『呪い』と関わりがない事を、証明する為の行為です。ある意味、純粋な方にお見受けしました。そのような方が、王太子殿下を差し置き、玉座を狙うでしょうか?」
「シュテフェン殿下自身は、長く玉座に就くつもりはないかもしれないね。殿下は、自ら去勢されている。『妃候補』との間に、もう子は得られない。だが、彼には既に子が存在する。そうだろ、マテウス?」
「・・ヴォルフラム = ディートリッヒ」
「そうだ。ヴォルフラムは、シュテフェン殿の子ではあるが、『呪われた瞳』は受け継いではいない。シュテフェン殿下は、王太子殿下より玉座を奪い、時が来るのを待ち、ヴォルフラムに玉座を譲る気かも知れない」
「ヘクトール兄上、その考えには無理があります。シュテフェン殿下には、王位継承権があります。ですが、ヴォルフラム様には継承権はありません。他の王位継承者を差し置き王位につけば、王位簒奪者となります。その罪は、死です・・ヘクトール兄上」
「マテウス、我々も同じ立場だ。王太子殿下の命を奪い、第一王子のファビアン殿下を、玉座に戴く事を企てている。しくじれば、死が待っている。だが、それは・・企てた瞬間から分かっていた事だ。問題は、シュテフェン殿下が玉座に色気を見せた事で、我々は処刑計画に変更を加える必要が出てきた事だ」
「・・ヴォルフラム様の事ですか?」
「ヴォルフラムを処刑計画から外し、彼を敵として捉える。マテウスには、その心づもりでヴォルフラムに対してもらいたい」
「ヘクトール兄上!」
「ヴォルフラムは、第一王子が玉座につく事に賛同した。だが、ヴォルフラム自身が玉座に絡む以上・・奴の事は信用できない。我々を裏切る可能性がある。マテウス、ヴォルフラムと距離を置きなさい。いいね?」
「・・そんな、私は、」
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王城に向かう馬車の中で、俺は現在の王国の現状についてヘクトール兄上から説明を受けた。
陛下が崩御されて暫く経つが、未だに玉座の主は不在のまま。王国の安定の為にも、国王不在の状態は好ましくない。だが、王太子殿下は、戴冠式を断行できない、複雑な状況に陥っているようだ。
「うーん?ヘクトール兄上、王太子殿下が即位なさる事に、今頃になって反対の声が上がるのはおかしくないですか?」
「まあ、普通に考えるとそうなるね」
「陛下のお子は、ヴェルンハルト殿下のみです。側室との間の子とはいえ、既に王太子の位も授かっています。それに、反対勢力が即位式に反対しようとも、王太子殿下の性格ならば戴冠式を断行すると思うのですが?」
BL小説『愛の為に』では、フォルカー病の流行の兆しを考慮して、戴冠式の規模は縮小されたと記されていた。だが、それ以外の記載はなかった。
でも、戴冠式では「死の香水」の元になる、ゴールドチェーンが、王城の庭園に咲いていると思われる描写があった。でも、ゴールドチェーンは、まだ咲いていない。戴冠式は、もう少し先になるのかな?
「王太子殿下が国王にならぬ事が、最も望ましいと俺は考えている。だが、状況が変わり厄介な事になってきた」
「それはどういう意味ですか、兄上?」
「ヴェルンハルト殿下の産みの親が、シュナーベル家の血縁者だと暴露された」
「え、そうなのですか!?」
俺は驚いて、ヘクトール兄上を凝視した。崩御された陛下は、レトガー男爵家の令息のペーア=レトガーを、側室として後宮に迎えた。
だが、ヴェルンハルト殿下が産まれた後、側室達の詳しい出自の調査が行われた。その結果、殿下の産みの親が、出自を偽り後宮入りしていた事が判明した。本名は、ペーア=シュナーベル。シュナーベル家の血縁者であった。
「ヴェルンハルト殿下以外にお子がいない陛下は、殿下の産みの親の出自を知る者を、残らず闇に葬ったと思っておりました。殿下の産みの親のペーア様を、火刑に処されたぐらいですから。でも、秘密は漏れた」
「秘密は隠そうとしても、どこからか漏れるものだよ、マテウス。特に、陛下に抑圧され育った人物にとっては、王太子殿下の秘密を明かすこの行為は、亡くなって陛下に対する復讐だったのかもしれないね。兄弟の確執が、今回の事態を招いたといえるね」
「兄弟の確執?王太子殿下の秘密を明かしたのは、王弟殿下なのですか、兄上?」
「そうだよ、マテウス。ヴェルンハルト殿下の産みの親が、シュナーベルの血縁者だと明かしたのは、王弟殿下のシュテフェン = フォーゲルだ。シュテフェン殿下は、王太子殿下の地位を揺るがし、玉座を狙っているのかも知れない。そうは思わないかい、マテウス?」
「王弟殿下が玉座を?私は一度だけ、シュテフェン殿下とお逢いしました。ですが、野心的な印象は受けませんでした。虹彩異色症により、人々に『呪われた瞳』と呼ばれ、差別されておられました。眼球を集める奇行も、虹彩異色症が『呪い』と関わりがない事を、証明する為の行為です。ある意味、純粋な方にお見受けしました。そのような方が、王太子殿下を差し置き、玉座を狙うでしょうか?」
「シュテフェン殿下自身は、長く玉座に就くつもりはないかもしれないね。殿下は、自ら去勢されている。『妃候補』との間に、もう子は得られない。だが、彼には既に子が存在する。そうだろ、マテウス?」
「・・ヴォルフラム = ディートリッヒ」
「そうだ。ヴォルフラムは、シュテフェン殿の子ではあるが、『呪われた瞳』は受け継いではいない。シュテフェン殿下は、王太子殿下より玉座を奪い、時が来るのを待ち、ヴォルフラムに玉座を譲る気かも知れない」
「ヘクトール兄上、その考えには無理があります。シュテフェン殿下には、王位継承権があります。ですが、ヴォルフラム様には継承権はありません。他の王位継承者を差し置き王位につけば、王位簒奪者となります。その罪は、死です・・ヘクトール兄上」
「マテウス、我々も同じ立場だ。王太子殿下の命を奪い、第一王子のファビアン殿下を、玉座に戴く事を企てている。しくじれば、死が待っている。だが、それは・・企てた瞬間から分かっていた事だ。問題は、シュテフェン殿下が玉座に色気を見せた事で、我々は処刑計画に変更を加える必要が出てきた事だ」
「・・ヴォルフラム様の事ですか?」
「ヴォルフラムを処刑計画から外し、彼を敵として捉える。マテウスには、その心づもりでヴォルフラムに対してもらいたい」
「ヘクトール兄上!」
「ヴォルフラムは、第一王子が玉座につく事に賛同した。だが、ヴォルフラム自身が玉座に絡む以上・・奴の事は信用できない。我々を裏切る可能性がある。マテウス、ヴォルフラムと距離を置きなさい。いいね?」
「・・そんな、私は、」
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