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第四章
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◆◆◆◆◆
俺は『怠惰の衣装』を身に纏い、姿見で全身をチェックしていた。たたし、何時もの茶系色ではなく、黒色の『怠惰の衣装』を着ていた。
「いや~、これは黒というより漆黒だよね。漆黒の『怠惰の衣装』くうー、この中二感!」
生地の染め上げが素晴らしく、俺には漆黒と呼ぶにふさわしい色味に思えた。上着の裾を飾る白色の刺繍が、漆黒に映えて厳粛な雰囲気を醸し出していた。
フォーゲル国王
ヴァルデマール = フォーゲル崩御
ヴァルデマール陛下が亡くなった日は、俺が王城出仕を再開する旨を手紙に記し、王太子殿下に送ったその日の夜の事だった。あまりのタイミングに、俺の手紙が引き金となり、陛下の命を奪った様な気がして動揺を隠せなかった。
その気持ちを、ヘクトール兄上は察してくれた。そして、陛下の崩御で混乱した王城が落ち着くまでは、シュナーベルの邸にとどまるように提案してくれた。俺はヘクトール兄上の提案に従い、王城の混乱がおさまるまで出仕日を延期した。
そして、ようやく、王城に出仕する日が巡ってきた。俺は出仕に着用する漆黒の『怠惰の衣装』を身に付け、姿見に映る自分をじろじろと観察していた。
「マテウス様」
「ん、どうしたの?」
使用人に声を掛けられて、俺は振り返った。
「ヘクトール様が、扉の前でお待ちです。お部屋に、お招きしても宜しいでしょうか?」
「え、ヘクトール兄上がいらっしているの?もう、出仕されたと思っていたや。部屋に入って貰って。あ、この衣装、似合ってるかな?」
「とてもお似合いです、マテウス様」
「うーん、やっぱりそう思う?私もそう思うのだけれど・・何故これを着ると、私の魅力がアップするのか、未だに解明されていないんだよね。だから、不安になるんだよ。おっと、ごめんね。兄上を部屋に案内して下さい」
「承知しました」
俺は鏡の前でポーズをとっていた事を、ヘクトール兄上知られない為に、慌ててテーブルのソファーに座った。俺が紅茶に口を付けたときに、ヘクトール兄上が部屋に入ってきた。
「マテウス、急に部屋を尋ねて悪いね。紅茶を飲んでいたのか。俺にも貰えるかな?」
「勿論です、ヘクトール兄上」
俺は穏やかに微笑み、ヘクトール兄上にソファーを勧めた。優秀な使用人は即座に動き、テーブル上に新たな紅茶とクッキーを、用意してくれた。
「今日から、王城出仕再開だね。体調は問題ないかい、マテウス?」
「ルドルフ様から、出仕の許可を頂きました。気力も体力も回復しましたよ、兄上。それに、味覚も元に戻りました。クッキーを、美味しく頂いております」
俺はヘクトール兄上の前で、クッキーにかじりついた。モグモグしていると、兄上が微笑み俺の頬に触れた。俺は思わず頬を赤らめた。
「クッキーの粉が、唇に付いているよ」
「そ、そうですか?」
「キスをしたい」
「はい?」
「クッキーの粉を味わっても良いかい?」
「あの、あの、兄上が望むのならば」
ヘクトール兄上の唇が、俺の唇と重なる。軽いキスなのに、胸が高鳴り息が苦しくなってしまった。ヘクトール兄上は、少し照れ臭そうに俺から身を離した。そして、指のはらで俺の唇を優しく拭った。
「・・ヘクトール兄上、あの、」
「すまない、マテウス。喪に服すマテウスの姿に、俺は場違いにも・・欲情してしまっている。自分の行為が恥ずかしいよ、マテウス」
ヘクトール兄上が、僅かに顔を赤らめた。その姿に、胸が熱くなった。兄上が可愛い!
しかし、漆黒の『怠惰の衣装』に欲情している兄上は、もしや欲求不満に陥っているのではないだろうか?その時、不意に、以前に見た夢の内容を思い出していた。
「ヘクトール兄上。もしや、欲求不満に陥っているのではありませんか?もしもそうならば、私の事など気にせず、好ましい側室の方を、お迎え下さいね!」
「はっ?」
「以前に・・私は夢の中で、亡くなった我が子と会話を交わしました。少年に成長した我が子は、自分のお墓の場所を知りたがっていました。ですか、私も埋葬場所を知らないので、少年と共に、シュナーベルの領地でお墓を探しました。その子の面差しは兄上に似ており、髪は私に似ていました。とても、愛らしい姿をしていました。その子を、私は夢の中でぎゅっと抱き締めました。そして、二人でシュナーベルの領地を巡り、やっとお墓を見つけたのです。私たちは、その場所で地面に横になり、抱き締めあって眠りました。ふふ、夢の中で眠るなんて、おかしな話ですね?」
「マテウス、それは・・」
ヘクトール兄上が、不安そうな表情を見せた。だから、俺は兄上を安心させる為に、言葉を続けた。
「ヘクトール兄上、大丈夫ですよ?私はちゃんと、夢と現実の区別はついています。きっと、夢の中に現れた少年は、私のもやもやした気持を代弁してくれたのだと思います」
「もやもやした気持ち?」
「そうです。様々な気持ちです。亡くなった子を、抱き締められなかった事への後悔。我が子の、お墓の場所を知らない事への寂しさ。その他、色々です」
「俺達の子供の埋葬場所を、マテウスに教えずにいることは、心苦しく思っている。辛い思いをさせてすまない、マテウス」
俺は思わず、笑みを浮かべてしまった。
「ヘクトール兄上は、先程から謝ってばかりです。兄上の決定は正しいです。だって、私は、思っていることが、すぐに顔に出てしまいますから。殿下に、我が子を奪われては大変です。知らない方が良いのです。全てが終わるまでは・・知らない方が・・良いのです」
「マテウスが・・処刑計画の内容を、俺に聞かないのは同じ理由からなのかい?」
「そうです。だって、ヴェルンハルト殿下に煽られたら、私の性格では・・処刑計画の詳細まで、話してしまいそうですから。そう思いませんか、ヘクトール兄上?」
「まあ、マテウスは、思ったことを口にせずには、いられない性格だからね。その為に、幾度も窮地に陥った事を考えると、確かに知らない方が良いかもしれない」
「そうでしょ?少し話がそれましたが、その夢の中の少年が、私に語ったのです。恐らくは、私のもやもやした気持ちを、はっきりと言葉にしてくれたのだと思います」
「少年はマテウスに、何を言ったのかな?」
「『ヘクトール父さんは、処刑案件をいっぱい抱えて大忙しだから無理は言えないよ。ね、僕たちだけで探そうよ、マテウス母さん。それに、父さんには側室が沢山いるでしょ?子供もいっぱいいるから、死んだ僕の事には、もう興味なんてないよ』と、少年は私に言いました」
「えっ!いや、待ってくれ、マテウス!?」
◆◆◆◆◆
俺は『怠惰の衣装』を身に纏い、姿見で全身をチェックしていた。たたし、何時もの茶系色ではなく、黒色の『怠惰の衣装』を着ていた。
「いや~、これは黒というより漆黒だよね。漆黒の『怠惰の衣装』くうー、この中二感!」
生地の染め上げが素晴らしく、俺には漆黒と呼ぶにふさわしい色味に思えた。上着の裾を飾る白色の刺繍が、漆黒に映えて厳粛な雰囲気を醸し出していた。
フォーゲル国王
ヴァルデマール = フォーゲル崩御
ヴァルデマール陛下が亡くなった日は、俺が王城出仕を再開する旨を手紙に記し、王太子殿下に送ったその日の夜の事だった。あまりのタイミングに、俺の手紙が引き金となり、陛下の命を奪った様な気がして動揺を隠せなかった。
その気持ちを、ヘクトール兄上は察してくれた。そして、陛下の崩御で混乱した王城が落ち着くまでは、シュナーベルの邸にとどまるように提案してくれた。俺はヘクトール兄上の提案に従い、王城の混乱がおさまるまで出仕日を延期した。
そして、ようやく、王城に出仕する日が巡ってきた。俺は出仕に着用する漆黒の『怠惰の衣装』を身に付け、姿見に映る自分をじろじろと観察していた。
「マテウス様」
「ん、どうしたの?」
使用人に声を掛けられて、俺は振り返った。
「ヘクトール様が、扉の前でお待ちです。お部屋に、お招きしても宜しいでしょうか?」
「え、ヘクトール兄上がいらっしているの?もう、出仕されたと思っていたや。部屋に入って貰って。あ、この衣装、似合ってるかな?」
「とてもお似合いです、マテウス様」
「うーん、やっぱりそう思う?私もそう思うのだけれど・・何故これを着ると、私の魅力がアップするのか、未だに解明されていないんだよね。だから、不安になるんだよ。おっと、ごめんね。兄上を部屋に案内して下さい」
「承知しました」
俺は鏡の前でポーズをとっていた事を、ヘクトール兄上知られない為に、慌ててテーブルのソファーに座った。俺が紅茶に口を付けたときに、ヘクトール兄上が部屋に入ってきた。
「マテウス、急に部屋を尋ねて悪いね。紅茶を飲んでいたのか。俺にも貰えるかな?」
「勿論です、ヘクトール兄上」
俺は穏やかに微笑み、ヘクトール兄上にソファーを勧めた。優秀な使用人は即座に動き、テーブル上に新たな紅茶とクッキーを、用意してくれた。
「今日から、王城出仕再開だね。体調は問題ないかい、マテウス?」
「ルドルフ様から、出仕の許可を頂きました。気力も体力も回復しましたよ、兄上。それに、味覚も元に戻りました。クッキーを、美味しく頂いております」
俺はヘクトール兄上の前で、クッキーにかじりついた。モグモグしていると、兄上が微笑み俺の頬に触れた。俺は思わず頬を赤らめた。
「クッキーの粉が、唇に付いているよ」
「そ、そうですか?」
「キスをしたい」
「はい?」
「クッキーの粉を味わっても良いかい?」
「あの、あの、兄上が望むのならば」
ヘクトール兄上の唇が、俺の唇と重なる。軽いキスなのに、胸が高鳴り息が苦しくなってしまった。ヘクトール兄上は、少し照れ臭そうに俺から身を離した。そして、指のはらで俺の唇を優しく拭った。
「・・ヘクトール兄上、あの、」
「すまない、マテウス。喪に服すマテウスの姿に、俺は場違いにも・・欲情してしまっている。自分の行為が恥ずかしいよ、マテウス」
ヘクトール兄上が、僅かに顔を赤らめた。その姿に、胸が熱くなった。兄上が可愛い!
しかし、漆黒の『怠惰の衣装』に欲情している兄上は、もしや欲求不満に陥っているのではないだろうか?その時、不意に、以前に見た夢の内容を思い出していた。
「ヘクトール兄上。もしや、欲求不満に陥っているのではありませんか?もしもそうならば、私の事など気にせず、好ましい側室の方を、お迎え下さいね!」
「はっ?」
「以前に・・私は夢の中で、亡くなった我が子と会話を交わしました。少年に成長した我が子は、自分のお墓の場所を知りたがっていました。ですか、私も埋葬場所を知らないので、少年と共に、シュナーベルの領地でお墓を探しました。その子の面差しは兄上に似ており、髪は私に似ていました。とても、愛らしい姿をしていました。その子を、私は夢の中でぎゅっと抱き締めました。そして、二人でシュナーベルの領地を巡り、やっとお墓を見つけたのです。私たちは、その場所で地面に横になり、抱き締めあって眠りました。ふふ、夢の中で眠るなんて、おかしな話ですね?」
「マテウス、それは・・」
ヘクトール兄上が、不安そうな表情を見せた。だから、俺は兄上を安心させる為に、言葉を続けた。
「ヘクトール兄上、大丈夫ですよ?私はちゃんと、夢と現実の区別はついています。きっと、夢の中に現れた少年は、私のもやもやした気持を代弁してくれたのだと思います」
「もやもやした気持ち?」
「そうです。様々な気持ちです。亡くなった子を、抱き締められなかった事への後悔。我が子の、お墓の場所を知らない事への寂しさ。その他、色々です」
「俺達の子供の埋葬場所を、マテウスに教えずにいることは、心苦しく思っている。辛い思いをさせてすまない、マテウス」
俺は思わず、笑みを浮かべてしまった。
「ヘクトール兄上は、先程から謝ってばかりです。兄上の決定は正しいです。だって、私は、思っていることが、すぐに顔に出てしまいますから。殿下に、我が子を奪われては大変です。知らない方が良いのです。全てが終わるまでは・・知らない方が・・良いのです」
「マテウスが・・処刑計画の内容を、俺に聞かないのは同じ理由からなのかい?」
「そうです。だって、ヴェルンハルト殿下に煽られたら、私の性格では・・処刑計画の詳細まで、話してしまいそうですから。そう思いませんか、ヘクトール兄上?」
「まあ、マテウスは、思ったことを口にせずには、いられない性格だからね。その為に、幾度も窮地に陥った事を考えると、確かに知らない方が良いかもしれない」
「そうでしょ?少し話がそれましたが、その夢の中の少年が、私に語ったのです。恐らくは、私のもやもやした気持ちを、はっきりと言葉にしてくれたのだと思います」
「少年はマテウスに、何を言ったのかな?」
「『ヘクトール父さんは、処刑案件をいっぱい抱えて大忙しだから無理は言えないよ。ね、僕たちだけで探そうよ、マテウス母さん。それに、父さんには側室が沢山いるでしょ?子供もいっぱいいるから、死んだ僕の事には、もう興味なんてないよ』と、少年は私に言いました」
「えっ!いや、待ってくれ、マテウス!?」
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