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第四章
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◆◆◆◆◆
テーブル上には、レーズンチーズケーキと水のみが置かれていた。俺はソファーに座ったまま、こっそりと周囲を伺った。テーブルを取り囲むように、ヘクトール兄上とルドルフ様、そして、アルミンが立っている。
「あの、これは一体どういう事でしょうか?」
俺は三人から異様な圧迫感を感じながら、ヘクトール兄上に質問した。兄上はにこりと微笑み、テーブルの上のケーキを指差した。
「実は王都に、新しいケーキ屋がオープンしてね。アルミンの話では、レーズンチーズケーキが非常に美味しく評判らしい。朝ごはんの代わりに、食べる者も多いと聞き、早朝に馬車を走らせ自ら買ってきたものだ。是非とも、マテウスに食して貰いたい」
ヘクトール兄上からの、プレッシャーがすごい。だが、レーズンチーズケーキを食べて、嘔吐した過去を思い出すと、絶対に食べたくない。別に、食べなくても生きていけるしね。
「あの、ヘクトール兄上。私はつわりと出産を経て、レーズンチーズケーキを受け付けない、残念な体になってしまったのです。ですから、これは・・食べることは出来ません。ごめんなさい、ヘクトール兄上」
「そ、そうか。む、無理に食べることはないよ。だが、いや・・そうか」
ヘクトール兄上が、とんでもなくがっかりした表情を浮かべた。え、何故そこまで落ち込む?
「マテウス~、食わず嫌いは駄目だぞ!子供の頃に、ハーブのコンフリーの香りが苦手な俺の為に、マテウスは『食わず嫌いは駄目!』とか言って、手作りスープを作ってくれたじゃないか?まあ、コンフリーと良く似た、有毒植物のジギタリスが混入したスープを食わされて、俺は死にかけたがな。まあ、とにかく・・ケーキを食え。死ぬ気で食え!」
アルミンが過去の話を持ち出しながら、ケーキを食べるように強要してきた。なんだよ、ふざけるなよ、アルミン!
「そんな昔の話を持ち出すなんて、アルミンはとっても卑怯です!確かに、ジギタリス混入スープを食べさせた事はあったけど、あれはちょっとしたミスだから。それに、私は食わず嫌いな訳じゃないよ?散々、レーズンチーズケーキを食べた結果、現在の結論に至っただけ。レーズンチーズケーキは、最悪に不味いってね」
「ジギタリス混入スープを、ちょっとしたミスと表現するか、マテウス!あの時の、腹痛と嘔吐は今でも俺のトラウマだ!」
「アルミンがトラウマになったように、私もトラウマになったの!大好物のレーズンチーズケーキを食べて、嘔吐するなんて・・ものすごいショックを受けたのだから!ヘクトール兄上、私を助けてください!アルミンが、私を苛めてきます!」
ヘクトール兄上は、俺の言葉に応じて頷いた。そして、アルミンを糾弾する。
「婚約者の俺でさえも、マテウスの手料理を食べていないというのに。何故、幼馴染みの分際で、マテウスの手料理を食べている!?しかも、そのマテウスの料理を、非難するとは許しがたい!ジギタリス入りのスープなら、量を調節して食べれば死には至らない。トラウマなどと大袈裟に表現して、マテウスの気を惹こうとするな、アルミン!」
「えー、ヘクトール様!おかしいから。絶対におかしいから。ジギタリススープを、死なない程度に摂取するとか無理だから!そんなにマテウスの手料理が食べたいなら、直接マテウスに頼んだらいいでしょ。ジギタリススープを食わされても、そんな涼しい顔はしてはいられないと思いますけどね!とにかく、俺に嫉妬の眼差しを向けるのは、やめてください」
ヘクトール兄上とアルミンが、険悪な状態になる。何故、レーズンチーズケーキを巡って、こんな状態になっているんだ??
「ヘクトール様・・ここは、マテウス様に真実をお伝えして、ケーキを食して貰いましょう」
ルドルフの冷静な言葉に、ヘクトール兄上とアルミンが押し黙った。兄上は、慎重に話し出す。
「真実を話すにはまだ早い」
「早いとは思いません、ヘクトール様」
「俺は、ルドルフに賛成だ。マテウスに、真実を話すべきだと思うぞ。さあ、2対1だな。ヘクトール様、どうされますか?」
俺はアルミンに続いて発言した。
「3対1です、ヘクトール兄上。何を隠しておいでなのですか?私は、真実を知りたいです」
ヘクトール兄上は、俺の短い言葉に真剣な表情で応じてくれた。そして、不意に俺の額にキスをくれた。やがて、優しく髪を撫でて兄上の体が離れていった。俺は離れていくヘクトール兄上の手を、思わず掴んでいた。そして、兄上にお願いしていた。
「ヘクトール兄上、手を繋いでいてください」
「マテウス、勿論だ」
ヘクトール兄上は、俺の手をしっかりと握ってくれた。そして、兄上はルドルフに命令を下した。
「ルドルフ、全てをマテウスに話してくれ」
「承知しました」
ルドルフは俺に向き直ると、ゆっくりとはなしはじめた。それは、俺がフォルカー病に、罹患していたという内容だった。俺は思わず、ヘクトール兄上の手を、ぎゅっと握りしめていた。
「マテウス」
「ヘクトール兄上」
「俺がそばにいる」
「はい、兄上」
全ての説明が終わると、俺は震え声でルドルフに尋ねていた。
「私の今までの病状は、フォルカー病の罹患により、引き起こされていたのですね?味覚異常も、その病状の一つだった。そして、ルドルフ様の仰るように、私が病を克服していたのならば・・味覚は元に戻っている?そういうことですか、ルドルフ様?」
「左様です、マテウス様」
「ならば、試すしかありませんね」
俺は覚悟を決めた。そう、美味しいものは、マナーなど気にせず食べる!それこそ、食を楽しむ秘訣!
「いただきます!」
俺は皆が見守るなか、豪快に手掴みでいった。レーズンチーズケーキをむんずと掴むと、大きな口を開けて頬張った。
「んんっーーーーふみゅ、!?」
「マテウス!」
「マテウス様!」
「手掴みって、ありかよ!?」
「ふみゅー、美味しいぃーーーーー!!」
俺は歓喜の雄叫びを上げていた。俺の大好物のレーズンチーズケーキが、無事に帰還しました!
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テーブル上には、レーズンチーズケーキと水のみが置かれていた。俺はソファーに座ったまま、こっそりと周囲を伺った。テーブルを取り囲むように、ヘクトール兄上とルドルフ様、そして、アルミンが立っている。
「あの、これは一体どういう事でしょうか?」
俺は三人から異様な圧迫感を感じながら、ヘクトール兄上に質問した。兄上はにこりと微笑み、テーブルの上のケーキを指差した。
「実は王都に、新しいケーキ屋がオープンしてね。アルミンの話では、レーズンチーズケーキが非常に美味しく評判らしい。朝ごはんの代わりに、食べる者も多いと聞き、早朝に馬車を走らせ自ら買ってきたものだ。是非とも、マテウスに食して貰いたい」
ヘクトール兄上からの、プレッシャーがすごい。だが、レーズンチーズケーキを食べて、嘔吐した過去を思い出すと、絶対に食べたくない。別に、食べなくても生きていけるしね。
「あの、ヘクトール兄上。私はつわりと出産を経て、レーズンチーズケーキを受け付けない、残念な体になってしまったのです。ですから、これは・・食べることは出来ません。ごめんなさい、ヘクトール兄上」
「そ、そうか。む、無理に食べることはないよ。だが、いや・・そうか」
ヘクトール兄上が、とんでもなくがっかりした表情を浮かべた。え、何故そこまで落ち込む?
「マテウス~、食わず嫌いは駄目だぞ!子供の頃に、ハーブのコンフリーの香りが苦手な俺の為に、マテウスは『食わず嫌いは駄目!』とか言って、手作りスープを作ってくれたじゃないか?まあ、コンフリーと良く似た、有毒植物のジギタリスが混入したスープを食わされて、俺は死にかけたがな。まあ、とにかく・・ケーキを食え。死ぬ気で食え!」
アルミンが過去の話を持ち出しながら、ケーキを食べるように強要してきた。なんだよ、ふざけるなよ、アルミン!
「そんな昔の話を持ち出すなんて、アルミンはとっても卑怯です!確かに、ジギタリス混入スープを食べさせた事はあったけど、あれはちょっとしたミスだから。それに、私は食わず嫌いな訳じゃないよ?散々、レーズンチーズケーキを食べた結果、現在の結論に至っただけ。レーズンチーズケーキは、最悪に不味いってね」
「ジギタリス混入スープを、ちょっとしたミスと表現するか、マテウス!あの時の、腹痛と嘔吐は今でも俺のトラウマだ!」
「アルミンがトラウマになったように、私もトラウマになったの!大好物のレーズンチーズケーキを食べて、嘔吐するなんて・・ものすごいショックを受けたのだから!ヘクトール兄上、私を助けてください!アルミンが、私を苛めてきます!」
ヘクトール兄上は、俺の言葉に応じて頷いた。そして、アルミンを糾弾する。
「婚約者の俺でさえも、マテウスの手料理を食べていないというのに。何故、幼馴染みの分際で、マテウスの手料理を食べている!?しかも、そのマテウスの料理を、非難するとは許しがたい!ジギタリス入りのスープなら、量を調節して食べれば死には至らない。トラウマなどと大袈裟に表現して、マテウスの気を惹こうとするな、アルミン!」
「えー、ヘクトール様!おかしいから。絶対におかしいから。ジギタリススープを、死なない程度に摂取するとか無理だから!そんなにマテウスの手料理が食べたいなら、直接マテウスに頼んだらいいでしょ。ジギタリススープを食わされても、そんな涼しい顔はしてはいられないと思いますけどね!とにかく、俺に嫉妬の眼差しを向けるのは、やめてください」
ヘクトール兄上とアルミンが、険悪な状態になる。何故、レーズンチーズケーキを巡って、こんな状態になっているんだ??
「ヘクトール様・・ここは、マテウス様に真実をお伝えして、ケーキを食して貰いましょう」
ルドルフの冷静な言葉に、ヘクトール兄上とアルミンが押し黙った。兄上は、慎重に話し出す。
「真実を話すにはまだ早い」
「早いとは思いません、ヘクトール様」
「俺は、ルドルフに賛成だ。マテウスに、真実を話すべきだと思うぞ。さあ、2対1だな。ヘクトール様、どうされますか?」
俺はアルミンに続いて発言した。
「3対1です、ヘクトール兄上。何を隠しておいでなのですか?私は、真実を知りたいです」
ヘクトール兄上は、俺の短い言葉に真剣な表情で応じてくれた。そして、不意に俺の額にキスをくれた。やがて、優しく髪を撫でて兄上の体が離れていった。俺は離れていくヘクトール兄上の手を、思わず掴んでいた。そして、兄上にお願いしていた。
「ヘクトール兄上、手を繋いでいてください」
「マテウス、勿論だ」
ヘクトール兄上は、俺の手をしっかりと握ってくれた。そして、兄上はルドルフに命令を下した。
「ルドルフ、全てをマテウスに話してくれ」
「承知しました」
ルドルフは俺に向き直ると、ゆっくりとはなしはじめた。それは、俺がフォルカー病に、罹患していたという内容だった。俺は思わず、ヘクトール兄上の手を、ぎゅっと握りしめていた。
「マテウス」
「ヘクトール兄上」
「俺がそばにいる」
「はい、兄上」
全ての説明が終わると、俺は震え声でルドルフに尋ねていた。
「私の今までの病状は、フォルカー病の罹患により、引き起こされていたのですね?味覚異常も、その病状の一つだった。そして、ルドルフ様の仰るように、私が病を克服していたのならば・・味覚は元に戻っている?そういうことですか、ルドルフ様?」
「左様です、マテウス様」
「ならば、試すしかありませんね」
俺は覚悟を決めた。そう、美味しいものは、マナーなど気にせず食べる!それこそ、食を楽しむ秘訣!
「いただきます!」
俺は皆が見守るなか、豪快に手掴みでいった。レーズンチーズケーキをむんずと掴むと、大きな口を開けて頬張った。
「んんっーーーーふみゅ、!?」
「マテウス!」
「マテウス様!」
「手掴みって、ありかよ!?」
「ふみゅー、美味しいぃーーーーー!!」
俺は歓喜の雄叫びを上げていた。俺の大好物のレーズンチーズケーキが、無事に帰還しました!
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