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第四章
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◆◆◆◆◆
ここで、ルドルフが、ヘクトールの言葉を引き継ぎ説明を始めた。
「例の宮廷医師だが、王弟殿下の産みの親の実家である、ヴァインガルトナー家に出入りをしていた事が判明している。ヘクトール様の調べでは、ずいぶん前から交流があったようだ。表向きは、王弟殿下の産みの親の往診とされていたが、実際はフォルカー病に罹患した植民地の奴隷や植民地の孕み子を診察して、密かに奴隷を処分していたようだ。だが、彼らと関わるうちに、自らも感染してしまった訳だ」
「マテウスがフォルカー病に罹患していたと仮定して、病を克服したと判断する材料はなんだ、ルドルフ?」
アルミンの鋭い突っ込みに、ルドルフはあまりこの答えを言いたくないと考えたが渋々応じた。
「新たな発疹が見当たらず、高熱は治まり、微熱の回数も激減した。著しい倦怠感は、回復傾向にある。思考や言動の混乱も治まり、何時ものマテウス様らしい、妙な言動が増えてきた。後は・・レーズンチーズケーキが食べられる様になったなら、完全に病を克服したと判断してよいと私は考える」
ルドルフの言葉にヘクトールは沈黙を保った。だが、アルミンは唖然としてルドルフを見た。
「兄貴は医者だよな?」
「医者だな。お前が診療所を破壊するまでは、開業医でもあった」
「その医者が、患者の病気克服の最終判断を、レーズンチーズケーキに頼るのか?え、マジで言ってる、ルドルフ?」
ルドルフはプライドを傷つけられ、半ばなげやりにアルミンに応じた。
「フォルカー病は、いまだに全容が解明されていない伝染病だ。今回のフォルカー病の株は、五年前の株と比べ、重症化のリスクは低いとおもわれる。だが、体力の落ちたマテウス様にとっては、命に関わる病でもあった。私は早期に、フォルカー病の治療に関わった医師に教えを請い、マテウス様の治療に全力を尽くした。対症療法になるが、マテウス様には免疫力をあげる食品を積極的に摂取していただいた。そして、産褥期特有の倦怠感を残し、ほぼ他の症状の押さえ込みに成功した。ただし、味覚異常のみが残ってしまった。故に、マテウス様が、大好物なレーズンチーズケーキを、食べることができたなら、味覚異常も回復したと判断することにした。そして、その際に、マテウス様にお伝えする予定だ。フォルカー病に罹患されていた事と、伝染病を克服された事を」
「レーズンチーズケーキを、フォルカー病克服の指針にするとか、医師としてあり得ないだろ?やっぱり、ルドルフはやぶ医者だな。しかし、・・くそっ、俺の『☆マテウスを大好物でメロメロにさせる大作戦☆』が無駄になったじゃないか!マテウスの為なら、この大陸さえ飛び出してもよいと、考えていたのに!」
アルミンの言葉に、ヘクトールがピクリと眉を上げた。そして、ゆっくりと口を開く。
「『☆マテウスを大好物でメロメロにさせる大作戦☆』とはなんだ、アルミン?」
「え、いや・・ただのジョークです」
「アルミンは、俺の目を盗んで、度々マテウスの自室に忍び込んでいるようだが、いい加減にしろ。庭に仕掛けたトラップを、執拗に破壊して、新たなトラップを仕掛けただろ?撤去に掛かった費用を払え、アルミン。それに、俺の馬車に細工して脱輪させた事も分かっている。嫌がらせも大概にしろ・・甚だ迷惑だ。アルミンが、この大陸を去りたいのならば、侯爵家から船代は出してやろう」
「いやぁ~、それは無理です。ちょっと試しに船に乗ったら、船酔いしましたから。ゲロ吐きまくって、船員に海に捨てられました。あの時は、死んだと思いましたよ~」
「まったく、マテウスは、アルミンのどこに魅力を感じているのか・・まるで理解できない。アルミン避けの鉄格子を、窓に設置する提案をしたが、甘い言葉で伝言を返され・・危うく、マテウスの寝室に突入するところだった。しかし、マテウスの、あまりに愛らしい伝言に惑わされて、アルミンを野放しにする事は・・危険すぎる。マテウスを鉄格子で囲えないのなら、アルミンを鉄格子に入れるしかないな」
「ヘクトール様・・マテウス様に、鉄格子で囲うと脅したのですか?」
ルドルフが急に低い声を出した。ヘクトールはルドルフよりも、さらに低い声を出し応じた。
「脅した訳ではない。提案をしただけだ。それに、ルドルフには関係のないことだ。事が全て終われば、俺はマテウスを伴侶とする。この事には、マテウスは同意している。マテウスを縛るつもりはないが、害悪からは全力で守らねばならない。伴侶を持つ身として、当たり前だろ、ルドルフ?」
「窓に鉄格子をと提案した時点で、ヘクトール様の思考には歪みを感じます。このままでは、主治医として、マテウス様を婚姻させることはできません」
ヘクトールとルドルフが、険悪な雰囲気になる。相変わらず、二人は仲が悪いと見つめていたアルミンは、別の質問を振ってみた。
「ヴァインガルトナー家は、王弟殿下の産みの親の実家なんだよな。何を目的に、植民地の奴隷を買い込んでいたんだ?」
アルミンの質問に答えたのは、ヘクトールだった。
「ヴァインガルトナー家は、陛下や王太子殿下に妃候補を輩出する名門の家柄だ。だが、王弟殿下は、左右異なる瞳の色に産まれ、側室の子に王太子の座を奪われた。その事に、長年恨みを募らせていたらしい。元戦士の奴隷を集め、王太子殿下の殺害を目論んでいたようだ。まあ、その元兵士の奴隷には逃げられ、フォルカー病を王国中に撒き散らす、大失態を犯したわけだがな」
「せっかくなら、王太子殿下を、殺害してくれていたら良かったのに・・そう思っているのではないてますか、ヘクトール様?ルドルフは、どうなんだ?」
「さあ、どうだろうな」
アルミンの言葉を、ヘクトールは軽く受け流した。ルドルフは少し考え、アルミンに言葉を返す。
「医師としては、今回のフォルカー病が、五年前のものより、罹患した患者の症状が重篤にならないことを祈りたい。王国でのフォルカー病の蔓延を、マテウス様はいち早く危惧されていたからね。それに、殿下を害した場合に、国政の乱れは少なからずあるだろう。同時期に、フォルカー病の大流行があれば、王国の存続も危うくなる。新王の身も危険に晒される。それを、マテウス様は望まれはしないだろう」
ルドルフがマテウスを見つめると、皆の視線が眠るマテウスに集まった。いつの間にか、アルミンもベッドの側で立っていた。
「マテウスには、フォルカー病に罹患している事を伏せていたんだな、二人とも」
「産褥期の病も恐ろしいが、マテウス様は身を清潔に保つ事で、病に打ち勝てるとご存知だった。打ち勝てる病だと思うことが、何よりの治療の力になる」
「なるほど、フォルカー病の名を出して弱気になられては、治る病気も治らないか。マテウスは・・死産したばかりで、気持ちが丈夫とは言えない状態だったからな・・」
アルミンの言葉に、ヘクトールは頷く。そして、静かに決意を口にした。
「何があろうと守ってみせる・・マテウス」
ヘクトールの言葉に呼応するように、再びマテウスの目尻から涙がこぼれ落ちた。ヘクトールはハンカチを手に取ると、優しく頬を拭いその額に軽くキスをした。そして、小さく呟く。
「どんな夢を見ている、マテウス?」
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ここで、ルドルフが、ヘクトールの言葉を引き継ぎ説明を始めた。
「例の宮廷医師だが、王弟殿下の産みの親の実家である、ヴァインガルトナー家に出入りをしていた事が判明している。ヘクトール様の調べでは、ずいぶん前から交流があったようだ。表向きは、王弟殿下の産みの親の往診とされていたが、実際はフォルカー病に罹患した植民地の奴隷や植民地の孕み子を診察して、密かに奴隷を処分していたようだ。だが、彼らと関わるうちに、自らも感染してしまった訳だ」
「マテウスがフォルカー病に罹患していたと仮定して、病を克服したと判断する材料はなんだ、ルドルフ?」
アルミンの鋭い突っ込みに、ルドルフはあまりこの答えを言いたくないと考えたが渋々応じた。
「新たな発疹が見当たらず、高熱は治まり、微熱の回数も激減した。著しい倦怠感は、回復傾向にある。思考や言動の混乱も治まり、何時ものマテウス様らしい、妙な言動が増えてきた。後は・・レーズンチーズケーキが食べられる様になったなら、完全に病を克服したと判断してよいと私は考える」
ルドルフの言葉にヘクトールは沈黙を保った。だが、アルミンは唖然としてルドルフを見た。
「兄貴は医者だよな?」
「医者だな。お前が診療所を破壊するまでは、開業医でもあった」
「その医者が、患者の病気克服の最終判断を、レーズンチーズケーキに頼るのか?え、マジで言ってる、ルドルフ?」
ルドルフはプライドを傷つけられ、半ばなげやりにアルミンに応じた。
「フォルカー病は、いまだに全容が解明されていない伝染病だ。今回のフォルカー病の株は、五年前の株と比べ、重症化のリスクは低いとおもわれる。だが、体力の落ちたマテウス様にとっては、命に関わる病でもあった。私は早期に、フォルカー病の治療に関わった医師に教えを請い、マテウス様の治療に全力を尽くした。対症療法になるが、マテウス様には免疫力をあげる食品を積極的に摂取していただいた。そして、産褥期特有の倦怠感を残し、ほぼ他の症状の押さえ込みに成功した。ただし、味覚異常のみが残ってしまった。故に、マテウス様が、大好物なレーズンチーズケーキを、食べることができたなら、味覚異常も回復したと判断することにした。そして、その際に、マテウス様にお伝えする予定だ。フォルカー病に罹患されていた事と、伝染病を克服された事を」
「レーズンチーズケーキを、フォルカー病克服の指針にするとか、医師としてあり得ないだろ?やっぱり、ルドルフはやぶ医者だな。しかし、・・くそっ、俺の『☆マテウスを大好物でメロメロにさせる大作戦☆』が無駄になったじゃないか!マテウスの為なら、この大陸さえ飛び出してもよいと、考えていたのに!」
アルミンの言葉に、ヘクトールがピクリと眉を上げた。そして、ゆっくりと口を開く。
「『☆マテウスを大好物でメロメロにさせる大作戦☆』とはなんだ、アルミン?」
「え、いや・・ただのジョークです」
「アルミンは、俺の目を盗んで、度々マテウスの自室に忍び込んでいるようだが、いい加減にしろ。庭に仕掛けたトラップを、執拗に破壊して、新たなトラップを仕掛けただろ?撤去に掛かった費用を払え、アルミン。それに、俺の馬車に細工して脱輪させた事も分かっている。嫌がらせも大概にしろ・・甚だ迷惑だ。アルミンが、この大陸を去りたいのならば、侯爵家から船代は出してやろう」
「いやぁ~、それは無理です。ちょっと試しに船に乗ったら、船酔いしましたから。ゲロ吐きまくって、船員に海に捨てられました。あの時は、死んだと思いましたよ~」
「まったく、マテウスは、アルミンのどこに魅力を感じているのか・・まるで理解できない。アルミン避けの鉄格子を、窓に設置する提案をしたが、甘い言葉で伝言を返され・・危うく、マテウスの寝室に突入するところだった。しかし、マテウスの、あまりに愛らしい伝言に惑わされて、アルミンを野放しにする事は・・危険すぎる。マテウスを鉄格子で囲えないのなら、アルミンを鉄格子に入れるしかないな」
「ヘクトール様・・マテウス様に、鉄格子で囲うと脅したのですか?」
ルドルフが急に低い声を出した。ヘクトールはルドルフよりも、さらに低い声を出し応じた。
「脅した訳ではない。提案をしただけだ。それに、ルドルフには関係のないことだ。事が全て終われば、俺はマテウスを伴侶とする。この事には、マテウスは同意している。マテウスを縛るつもりはないが、害悪からは全力で守らねばならない。伴侶を持つ身として、当たり前だろ、ルドルフ?」
「窓に鉄格子をと提案した時点で、ヘクトール様の思考には歪みを感じます。このままでは、主治医として、マテウス様を婚姻させることはできません」
ヘクトールとルドルフが、険悪な雰囲気になる。相変わらず、二人は仲が悪いと見つめていたアルミンは、別の質問を振ってみた。
「ヴァインガルトナー家は、王弟殿下の産みの親の実家なんだよな。何を目的に、植民地の奴隷を買い込んでいたんだ?」
アルミンの質問に答えたのは、ヘクトールだった。
「ヴァインガルトナー家は、陛下や王太子殿下に妃候補を輩出する名門の家柄だ。だが、王弟殿下は、左右異なる瞳の色に産まれ、側室の子に王太子の座を奪われた。その事に、長年恨みを募らせていたらしい。元戦士の奴隷を集め、王太子殿下の殺害を目論んでいたようだ。まあ、その元兵士の奴隷には逃げられ、フォルカー病を王国中に撒き散らす、大失態を犯したわけだがな」
「せっかくなら、王太子殿下を、殺害してくれていたら良かったのに・・そう思っているのではないてますか、ヘクトール様?ルドルフは、どうなんだ?」
「さあ、どうだろうな」
アルミンの言葉を、ヘクトールは軽く受け流した。ルドルフは少し考え、アルミンに言葉を返す。
「医師としては、今回のフォルカー病が、五年前のものより、罹患した患者の症状が重篤にならないことを祈りたい。王国でのフォルカー病の蔓延を、マテウス様はいち早く危惧されていたからね。それに、殿下を害した場合に、国政の乱れは少なからずあるだろう。同時期に、フォルカー病の大流行があれば、王国の存続も危うくなる。新王の身も危険に晒される。それを、マテウス様は望まれはしないだろう」
ルドルフがマテウスを見つめると、皆の視線が眠るマテウスに集まった。いつの間にか、アルミンもベッドの側で立っていた。
「マテウスには、フォルカー病に罹患している事を伏せていたんだな、二人とも」
「産褥期の病も恐ろしいが、マテウス様は身を清潔に保つ事で、病に打ち勝てるとご存知だった。打ち勝てる病だと思うことが、何よりの治療の力になる」
「なるほど、フォルカー病の名を出して弱気になられては、治る病気も治らないか。マテウスは・・死産したばかりで、気持ちが丈夫とは言えない状態だったからな・・」
アルミンの言葉に、ヘクトールは頷く。そして、静かに決意を口にした。
「何があろうと守ってみせる・・マテウス」
ヘクトールの言葉に呼応するように、再びマテウスの目尻から涙がこぼれ落ちた。ヘクトールはハンカチを手に取ると、優しく頬を拭いその額に軽くキスをした。そして、小さく呟く。
「どんな夢を見ている、マテウス?」
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