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第四章

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「ファビアン殿下の治療に当たった宮廷医師は、汚染された眼病用軟膏を・・殿下の眼球に塗りました」

「まさか!どうして!?」

「今、宮廷医師の背後関係を調べていますが、ヘクトール様の話では・・どうやら、個人の恨みから、宮廷医師はその様な愚かな行為に及んだものと思われます」

「ファビアン殿下が、どうして宮廷医師の恨みをかうというの?接点なんて・・」

そう言い掛けて、俺は口を閉ざした。あるではないか。俺の出産の際に、ファビアン殿下は俺の味方となり必死に守ってくれた。その行為が、宮廷医師の誰かの悪意に触れたのかもしれない。

「その宮廷医師は、私の出産に立ち会った医師なの、ルドルフ様?」

「・・確かに、その場におりました」

ルドルフが少し言いにくそうに、そう返事をした。俺は片手で目を覆った。怒りと悲しみが襲い、目から涙が溢れそうになったからだ。

俺への悪意が、ファビアン殿下に向けられてしまった。宮廷医師の背後関係を調べて何もでず、個人の恨みから犯行に及んだのなら、ファビアン殿下の失明の原因は、俺が作ったようなものだ。

ヘクトール兄上は、俺の心が傷つく事を恐れて、ファビアン殿下の失明の件を今まで伏せていたのかも知れない。でも、兄上には話して欲しかった。

ヴォルフラム様の手紙では、俺から一言も見舞いの言葉が無いことに、ファビアン殿下は動揺していると書かれていた。出来れば見舞いの手紙を殿下に送って欲しいと、ヴォルフラム様の手紙には書かれていた。俺の手紙で、右目を失明したファビアン殿下の心を救えるとは思えない。でも、すこしでも殿下の励ましとなるならば、手紙を書きたい。何通でも、書きたい。

「マテウス様、ベッドにお入りになった方が宜しいかと思います。熱が出ているように、見受けられます」

「・・確かに、体が怠いね。また、微熱かな。ルドルフ様、ベッドに移りますが、話は最後まで聞かせて下さいね?」

「承知しました。さあ、私に寄り掛かって下さい。ベッドに横になりながら、話を聞いてください」

「・・そうする」

時々、微熱がでて、体調を崩す状態が続いている。これでは、ヘクトール兄上も心配して、ファビアン殿下の件を切り出せなかったことも分かる。殿下の件を切っ掛けにして、俺が無理に王城出仕を再開したら、兄上の負担は増すばかりだ。それでも、王城出仕に気持ちが動き掛けている。時間があまりないのも、確かで・・

「マテウス様」
「ん、ありがとう」

俺はルドルフに寄りかかりながら歩き、支えられてベッドに横たわった。

「体調はいかがですか、マテウス様?」

「出産後に比べると、大分体調はいいよ。でも、微熱が出ると、なかなか引かないのが厄介だね。体調を崩すと治りも悪い。でも、食欲はあるよ。レーズンチーズケーキが食べられたら、体調が一気に回復しそうな予感がするのに、何故こんなに好みが変わるかな。はあー。アルミンが、私の新しい大好物を探すことに、一生を捧げてくれるらしいけど・・幼馴染みが200歳くらい生きてくれないと見つからない気がする」

「マテウス様の為なら、アルミンは120歳位までは生きるかもしれませんね。そして、上品な老婦人となったマテウス様の元に、よぼよぼの老人となったアルミンが、手土産片手に現れるかもしれませんね」

「ふふ、120歳か。アルミンなら生きそう」
「そうでしょ?さて、続きを話しますね」
「はい、ルドルフさま」

その後、ルドルフは、ファビアン殿下が失明に至った経緯を話してくれた。

汚染された眼病用の軟膏を目に塗られたファビアン殿下は、目の炎症が増すばかりで痛みがひどく寝込んでしまったらしい。ヘクトール兄上を通じて連絡を受けたルドルフが診察した時には、すでに目の傷口から内部に汚染が広がり、対症療法しか出来ない状態だったらしい。やがて、炎症が収まると、瞳孔は白く濁り失明してしまったとのことだった。

右目の眼球が白く濁ってしまった為に、周囲の視線を集める結果となり、ファビアン殿下は部屋に籠りがちになったそうだ。その時に、先の拷問により右目を失ったヴォルフラムが、眼帯を用意して殿下を励ましてくれたそうだ。アルトゥールの兄であるヴォルフラムは、きっと誰よりも責任を感じているに違いない。

だけど、それならば、俺こそ責任を感じるべきだ。BL小説『愛の為に』に、『アルトゥールが心を病み、ファビアン殿下に危害を加えた』と書かれていたのだから。現実には、アルトゥールには悪意はなかった。でも、ファビアン殿下に危害を加えた事には違いない。

小説は真実は伝えなくとも、起きた出来事は確かに書かれていた。ならば、陛下の死も、ヴェルンハルト殿下の死も、目前に迫っているのは確かだが。

「ルドルフ様、王城出仕の許可を下さい」
「・・まだ、許可は出せません」

ルドルフの返事は短いものだった。それでも、返事に僅かな間があった。それは、完全には否定ではない兆しではないだろうか?俺はそうであって欲しいと願いながら、ベッドに怠い体を沈めた。



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