嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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◆◆◆◆◆


『アルトゥールが心を病み、ファビアン殿下に危害を加えた』小説内でそう書かれていたのに、俺は完全に油断していた。

「アルトゥールとファビアン殿下の関係は、良好だとヘクトール兄上は言っていたのに・・」

現実には違っていたという事なのか?兄上の言葉は嘘だった?兄上が、俺に嘘を付いた?いや、今はその事に、ショックを受けている場合ではない。

「・・ファビアン殿下が失明だなんて」

幼い殿下の姿を思い浮かべると、胸が苦しくなる。言葉を取り戻し、すくすくと成長を続ける殿下に頼もしさを感じていた。同時に、巣立ちの準備を始めるファビアン殿下に、一抹の寂しさも覚えていた。

だけど、この事件を切っ掛けに、再びファビアン殿下の心が閉じてしまったら。そう思うと、涙が滲んできた。その時、自室の扉がノックされた。俺はベッドから飛び出し、自室の扉を自ら開いた。そこには、ルドルフが立っていた。

「ルドルフ様。ファビアン殿下の件で、聞きたいことがあります。ソファーに座って下さい」

俺の固い口調に、ルドルフは僅かに目を細めたが、すぐに返答が返ってきた。

「承知しました、マテウス様」

その返事に安堵しつつ、俺はソファーに座った。ルドルフも一礼した後に、向かい側のソファーに座った。使用人が紅茶を用意してくれたので、それを一口飲んだ後に人払いを命じた。使用人は頷き一礼すると、部屋を出ていった。

何時の頃からか、俺は人に命を下すことに抵抗を感じなくなっていた。前世の自分との解離に戸惑いつつ、俺はルドルフに話しかけていた。

「ファビアン殿下が眼を負傷されたことを、ヴォルフラム様の手紙で知りました。ルドルフ様が持っている情報を、全て私に教えて下さい」

「事件の背景が明らかになった後に、ヘクトール様より説明があると思います。それまで、待っては頂けませんか、マテウス様?」

「待てないよ、ルドルフ様」

「では、持ち得た情報のみで説明いたします。推測も含まれますが、宜しいですか?」

「それで構わない。ルドルフ様、出来るだけ詳しく説明して。アルトゥール様とファビアン殿下の関係性も含めて」

ルドルフを真っ直ぐに見つめて、俺はそう彼に迫った。ルドルフは真剣な表情で話し始める。

「アルトゥール様は、当初はファビアン殿下を庇護下に置くことに消極的でした。ですが、ファビアン殿下の人柄に触れて、二人の関係は良好なものとなっておりました」

「二人は良好な関係だった・・」

その言葉に、俺は知らず知らず安堵の息を吐き出していた。ヘクトール兄上が、俺に嘘を付いていた訳では無さそうだ。

「以前のアルトゥール様は、王城どころか王都でも『永遠の妃候補』と呼ばれ始めており、心を病んでおられた様子。自室から出ることも、滅多になくなっておられました」

「アルトゥール様が、王城で『永遠の妃候補』と呼ばれていることは、承知していたけれど。王都でも、アルトゥール様は・・そう呼ばれているの?」

「ディートリッヒ家で、大切に育てられた『孕み子』です。心ない言葉で、アルトゥール様は、心を病んでしまわれた」

この件に関しては、反省しまくっている。初めてアルトゥール様に出会った時、俺は思わず『永遠の妃候補』と口走ってしまった。その口の動きを、王太子殿下の配下の者に読み取られるとは考えもしなかった。迂闊だった。

ヴェルンハルト殿下がアルトゥール様を『永遠の妃候補』と呼び、彼を貶めた事は確かだが・・切っ掛けは、俺にある。

「マテウス様?」

「ん、あっ、ごめんなさい。考え事してました。続きを話してくれますか、ルドルフ様」

「ですが、ファビアン殿下を庇護する立場になり、アルトゥール様の心に変化が起こったようです。以前ほど、心の起伏は激しくはなくなり、穏やかに過ごす日々も増えていたようです。そして、珍しくアルトゥール様の提案で、部屋を出て、庭園でお茶会が開かれる事になりました。他の『妃候補』や『側室』も呼ばれ、華やかなものとなりました」

「その茶会で、ファビアン殿下は怪我を負ったのね?でも、二人の関係は良好だったのだよね?どうして、殿下が失明する事になるの?」

「悪意と事故、様々な要因が重なりました」
「悪意と事故?」

「まず、アルトゥール様に悪意を持つ何者かが、彼の紅茶に異物を混入させたようです。そして、紅茶に口をつけたアルトゥール様は、苦味の強い紅茶の味に毒物を盛られたと感じた。動揺した彼の手から、ティーカップがテーブルに落ち小皿に当たりました。薄い小皿は、衝撃で砕けてしまった。そして、小皿の破片が、アルトゥール様の隣に座っていた、ファビアン殿下の瞳を傷付けてしまった」

「・・っ、」

「アルトゥール様の紅茶には、確かに異物が混入されていたようです。紅茶のティーポットを調べた者の話では、堕胎を促す植物の葉が混ざっていたそうです」

「アルトゥール様は、子を孕んでいらしたの?まさか、異物の混入で・・流産をされたの?」

「いいえ、アルトゥール様は妊娠はされていませんでした。ですから、流産もありません。それに、混入された毒草は、孕んでいない方ならハーブティーとして飲んでも良いとされているものです。混入された量も少量で、堕胎を促す効力もなかった。同じテーブルにいた他の方々も、同じ紅茶を飲んでいましたが皆無事です」

「でも、悪質だよ。きっと、アルトゥール様が味覚に敏感だと知っていた誰かが混入させたのね。確かに、悪意を感じる。では、ファビアン殿下は・・不幸な事故に遭われたと考える事が、正しいのかな。アルトゥール様を恨むのは、間違っているよね」

俺は気持ちとは、反対の事を口にしていた。たとえ事故でも、ファビアン殿下を失明においやったのは、アルトゥールの様に思えて怒りの矛先は彼に向いていた。そんな俺の気持ちを見透かしたように、ルドルフがゆっくりと話し出す。

「ファビアン殿下の瞳を傷付けた直接の原因を作ったのは、アルトゥールの様で間違いありません。ですが、その瞳の傷は失明に至るものではありませんでした。ファビアン殿下の治療に当たった宮廷医師の悪意が、殿下を失明に追いやったのです」

「どういう意味ですか、ルドルフ様?」




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