嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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◆◆◆◆◆


「マテウス様、朝食をお持ちしました。ベッドにお持ちしましょうか?それとも、テーブルでお食べになりますか?」

怠惰の衣装を身に纏い、ベッドでまどろみつつ使用人に返事する。

「おはよう~。朝食は、ベッドで食べようかな。ふぁ~、眠い」

「承知しました。支度を致しますね」
「よろしく」

俺、何様?

前世の社畜生活では、駅の売店で購入する栄養ドリンクが俺の朝食だった。あの頃は胃も荒れて、俺の贅沢飯は刺激少なめの栄養ドリンク。

それが今や、ベッドで朝食!なにこれ、素敵。ベッドティー用の木製テーブルの上には、紅茶セットと二つのパンとマーマレードジャム、デザート。幸せ過ぎます!

使用人はベッドにテーブルを置くと、幸せをかみしめる俺に話し掛けてきた。

「マテウス様」
「ん?」
「お手紙が、二通届いています」

使用人の言葉に促され、テーブルの端に置かれた銀製トレイ上の手紙に目をやる。

「ヴェルンハルト殿下からの手紙かな?朝食の時に読むね。ヘクトール兄上は、もう王城に出仕されたのかな?」

「はい、出仕されました。ヘクトール様より、マテウス様に伝言がございます。『アルミンの侵入防止の為に、マテウスの部屋の窓に鉄格子を嵌めたいのだが許してくれるだろうか、マテウス?』との事です」

可哀想な、ヘクトール兄上。おそらく、現在大きな処刑案件を抱える兄上は、前世の俺のような社畜生活に追い込まれているのだろう。そんな時って、時々発想がおかしくなるよね。うん。わかるよ、ヘクトール兄上!

「では、兄上にはこう伝えてくれる?『ヘクトール兄上。鉄格子の件ですが、設置は控えてください。兄上は、鉄格子でマテウスを囚われの身になさるおつもりですか?もしも、兄上が私を囚われの身とするならば、その腕で囲い甘い言葉で私をメロメロにしてください』」

「わかりました。ヘクトール様が帰宅された折りに、マテウス様の伝言をお伝えいたします。マテウス様、朝食は何時ものように、お一人でお食べになりますか?」

「うん。一人でゆっくり食べるね」
「喉にパンを詰まらせないで下さいね」
「こ、子供ではないから問題ないよ」

「・・一週間前に、パンを喉に詰まらせた状態で、マテウス様が発見された時には、邸中が大騒ぎになりましたので・・とても心配です」

「大丈夫!ヘクトール兄上から、パンはちぎって食べるようにと、指導されたから問題ないよ。ほら、ちぎって、食べる・・モグモグ」

俺は使用人を安心させるために、パンをちぎって食べた。そして、紅茶をゆっくりと口に運ぶ。優雅さもマナーもないが、実に安全な食べ方だ。間違いない。

「承知致しました。では、私はお部屋を下がります。何かありましたら、使用人をすぐにお呼び下さいね。パンを喉に詰めたときは、ベッド脇の紐を引き使用人を呼び出してください。いいですね、マテウス様」

「分かったよ。さあ、私を一人にして」
「失礼いたします」

俺は使用人を全て部屋から退出させると、ベッドに寝転がってパンにかじりついた。この時間が最高なんだよね。この怠惰な生活を邪魔する殿下の手紙などは読みたくないが、目を通さない訳にもいかない。俺は二通の手紙をトレイから手に取り眺める。そして、目を見開いた。

「あっ、ヴォルフラム様からの手紙だ~!ちっ、こっちは王太子殿下の手紙か。さて、どちらを先に読むべきか・・やはり、卑猥な手紙から読むかな。その後に、美味しい口直しに、ヴォルフラム様からの手紙を読む!よし、決まり。先ずは、殿下の手紙から」

俺はまず、王太子殿下の手紙を読み始めた。手紙の内容自体には、卑猥なところはない。ヴェルンハルト殿下らしく、かなり身勝手な内容ではあるけれど、不快感を感じるほどではない。

『陛下は死ぬどころか、日々元気に過ごしておられる。お前の予言はまるで当たらない。インチキ予言者のマテウス。体調不良など言い訳にはならない。お前が登城する頃には、陛下は腹上死すると予言していたな?さっさと、王城に登城して、予言を現実のものとせよ!これは命令だ、マテウス!』等々

どうやら、陛下は日々元気にお過ごしのようだ。小説のストーリー通り、陛下が近々腹上死するのか自信が失くなってきた。

『俺の戴冠式では、王家の慣習にのっとり、『妃候補』と『側室』とその子供たち、そして、『親友』と『護衛』を連れて、俺は玉座の広間に向かうつもりだ。マテウスには、『親友』枠として、戴冠式の列に加えてやる。名誉にうち震えよ。体調不良での不参加など、俺は許さないからな。国王となった俺を見て、シュナーベル家破滅の始まりに絶望しろ、マテウス=シュナーベル!』等々

BL小説『愛の為に』のラストでは、殿下と共に『親友』が、戴冠式の行われる玉座の広間に向かうシーンが確かにある。うーむ。作中の『親友』は、やはり俺なのだろうか?

確かに、作中の『親友』は毒草好きで共通点はあるが、殿下との会話のやり取りに違和感を感じる。作中の『親友』は「死の香水」なるものを知っていたし、殿下の為に作成しても良いと言っていた。だけど、俺は「死の香水」を全く知らない。やはり、作中の『親友』は俺とは別人なのかな?

香水といえば、前世の同僚(♂)が、俺に「ウビガンの香水」をプレゼントしてくれた事があったな。マリー・アントワネットが愛用し、ギロチン台にのぼる時にも、服に忍ばせていたとか言っていた。香水を貰い、意味もなく狼狽えた前世の自分が妙に懐かしい。まあ、そんな事はどうでもいいか。

「殿下の手紙の内容は、相変わらずだな。これは、ムキムキ側近Aさんの代筆だろうか?うーむ・・ラスト辺りになると、文字が乱れて読めないな。実に・・卑猥だ・・」

アルミンの「☆王城スキャンダル情報☆」によると、ムキムキ側近達は、王太子殿下とセックス中に代筆業務を行っているらしい。おそらく、ムキムキ側近Aさんは、手紙のラストで殿下のぺニスにより絶頂させられて、文字が乱れたものと思われる。変態プレイに、俺宛の手紙を使わないで欲しい・・切実に。

「さて、卑猥な殿下の手紙の後には・・最高の口直しが必要だよ!次は、ヴォルフラム様からの手紙を読もう~!」

俺はベッドに寝転んだまま、ヴォルフラムの手紙を読み始めた。だが、その内容に、俺は青ざめてしまった。

「アルトゥール様主宰の茶会で・・ファビアン殿下が右目を失明した?何故、どうして!?」

俺はベッド脇の紐を引き、使用人を呼んだ。部屋の外に待機していた使用人がすぐに現れた。俺は彼に向かい、強い口調で命じていた。

「ルドルフを、今すぐに、私の部屋に呼びなさい!今すぐに!ファビアン殿下の事で聞きたいことがあると伝えて!お願い、早く、」

俺の声はひどく震えていた。


◆◆◆◆◆◆

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