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第四章
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◆◆◆◆◆
「ヴェルンハルトと『妃候補』の間に、子が産まれたなら、君の事を誰も第一王子とは呼ばなくなる。新たに産まれた子が、第一王子になるからね。つまり、『側室』の子には、それだけの価値しかないということだよ。分かったかい、ファビアン?」
「僕は、」
「ファビアン殿下、私を庇って下さりありがとうございました。お陰で、私を後宮から追い払おうとなさったのか、王弟殿下だと分かりました。私に、発言の機会を与えて下さいますか、ファビアン殿下?」
「かまわないよ、マテウス」
ファビアン殿下は、明らかに安堵した表情を浮かべた。交代することで、殿下の成長の妨げになるかもしれない。でも、王弟殿下相手では、ファビアン殿下が、一生の傷を心に追いかねない。
俺はルドルフに寄り掛かったまま、シュテフェン殿下に話しかけていた。
「シュテフェン殿下が、過去の過ちを悔やみ去勢されたことは、存じ上げております。ですが、ここは王太子殿下の後宮です。そこに、医者ではない王弟殿下が、どうして出入りされているのですか?それに・・王弟殿下は、イグナーツ様と随分と親密な間柄のご様子・・王太子殿下は、この事をご存じなのでしょうか?」
俺がそう尋ねると、ファビアン殿下は何故か楽しそうに微笑んだ。
「マテウスは、やはり生意気な方が魅力的だ。ルドルフに寄り掛かる姿を見て、私は正直少しがっかりしたよ。だが、マテウスは今から、亡くなった子を生むのだから、元気がなくても当然かもしれないね?だが、後宮を出る機会を、私が与えてあげたのだから・・役割はしっかりと果たして貰わないとね」
「・・役割ですか?」
「マテウスは目的を達するために、ヴォルフラムを利用している事に、私は苛立ちを感じている。だが、ヴォルフラムがそれを望むなら、その気持ちに答えてあげたい。あれは、可哀想な子だからね。私のように、目的なく生きるよりも・・命を掛けて何かをなす方が、ヴォルフラムらしい生き方かもしれない。そうは思わないかい、マテウス?」
「シュテフェン殿下は、味方ですか?」
「『誰の味方』なのかと、聞かないところがマテウスらしいね。実に、狡いやり方だ。さて、もう後宮を後にしてはどうだい、マテウス?君が体調を崩すと、色々と面倒だからね」
「シュテフェン殿下は、後宮で夜を過ごされるのですか?」
「王太子殿下は、私が後宮に出入りしていることはご存じだよ。それに、私が誰と親しくなろうとも、興味は無いようだね?あの子は、子供の頃から、小動物を虐める事にしか興味を示さなかった。まあ、今も・・変わっていないようだがね。だが、ヴェルンハルトの過去をよく知る私は・・彼には、目障りで仕方無いようだ。彼が国王になれば、私は処刑されるかもしれないね?」
シュテフェン殿下の言葉に、敏感に反応したのは、イグナーツだった。
「シュテフェン殿下!その様な恐ろしいことを、どうか仰らないで!どうか、私の側にいてください、王弟殿下。私は絶対に、シュテフェン殿下を処刑になどさせない。だって、私の孤独を埋めてくれたのは、ヴェルンハルト殿下ではなく・・貴方だったのですから」
「イグナーツ、可愛い人だね。さあ、マテウスが、後宮を出ることは確認できたね?これで安心しただろ、イグナーツ?だから、これ以上、可哀想なマテウスを、虐めるのはやめるとしよう。流産を一度経験している君なら、マテウスの辛さは分かる筈だよね?」
「ああ、そうだったわ。子が流れたとき、ヴェルンハルト殿下は、慰めてもくれなかった。シュテフェン殿下だけが、私の孤独を理解してくれる。私には、殿下だけよ・・本当に、貴方だけよ、シュテフェン殿下」
「それは嬉しい言葉だね、イグナーツ。さあ、邸に帰って、楽しい時を過ごそう。そうそう、クスリを持ってきたけど、きちんと量を守って飲んでいるかい?元気の出るクスリだけど、飲み過ぎると害が出るからね?」
「勿論、飲みました。あれを飲まないと、動くことも辛いくらいよ?早く邸に帰りましょ。ああ、そうでした。ファビアン殿下、私はマテウス様には謝りません。だって、貴方の命令に、私が従う必要などありませんもの。将来、この国の王になるのは、我が子ヘロルド = フォーゲルですから。では、皆様、さようなら」
シュテフェン殿下に体を密着させると、イグナーツは俺たちに背を向け歩き出した。すでに、イグナーツは、こちらへの興味を失っている。
イグナーツの様子がおかしい。そして、その原因は、明らかにシュテフェン殿下だろう。彼は、イグナーツにクスリを盛り利用している。だが、その相手に、イグナーツは恋心を抱いているようだ。
やがて二人の姿は、闇の中に消えていった。その姿を見送ったファビアン殿下が、そっと呟いた。
「・・この前ね、ヘロルドと久しぶりに会ったんだ。でも、何だか元気がなかった。でも、産みの親があの様子では、元気がなくて当然だね?僕はヘロルドの兄なのに、何も知らなかった。弟の辛さを、何も分かってなかった」
ファビアン殿下の言葉が、俺の心を揺らした。心が強くなった筈なのに、やっぱり胸は痛くなり・・全てを投げ出したくなる。それでも、『前に進もうよ』と、心の中で、誰かが囁いている気がして・・俺は、先に進むことにした。
「ファビアン殿下。ルドルフ様。さあ、王城に向かいましょう。どうか、私の事を支えて下さいね?」
「マテウス様、喜んで支えます」
「僕も支える!マテウスの一番の味方は、僕だからね!忘れちゃ駄目だよ、マテウス?」
「はい、殿下!」
俺は少し笑顔を取り戻し、後宮を後にする事となった。
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「ヴェルンハルトと『妃候補』の間に、子が産まれたなら、君の事を誰も第一王子とは呼ばなくなる。新たに産まれた子が、第一王子になるからね。つまり、『側室』の子には、それだけの価値しかないということだよ。分かったかい、ファビアン?」
「僕は、」
「ファビアン殿下、私を庇って下さりありがとうございました。お陰で、私を後宮から追い払おうとなさったのか、王弟殿下だと分かりました。私に、発言の機会を与えて下さいますか、ファビアン殿下?」
「かまわないよ、マテウス」
ファビアン殿下は、明らかに安堵した表情を浮かべた。交代することで、殿下の成長の妨げになるかもしれない。でも、王弟殿下相手では、ファビアン殿下が、一生の傷を心に追いかねない。
俺はルドルフに寄り掛かったまま、シュテフェン殿下に話しかけていた。
「シュテフェン殿下が、過去の過ちを悔やみ去勢されたことは、存じ上げております。ですが、ここは王太子殿下の後宮です。そこに、医者ではない王弟殿下が、どうして出入りされているのですか?それに・・王弟殿下は、イグナーツ様と随分と親密な間柄のご様子・・王太子殿下は、この事をご存じなのでしょうか?」
俺がそう尋ねると、ファビアン殿下は何故か楽しそうに微笑んだ。
「マテウスは、やはり生意気な方が魅力的だ。ルドルフに寄り掛かる姿を見て、私は正直少しがっかりしたよ。だが、マテウスは今から、亡くなった子を生むのだから、元気がなくても当然かもしれないね?だが、後宮を出る機会を、私が与えてあげたのだから・・役割はしっかりと果たして貰わないとね」
「・・役割ですか?」
「マテウスは目的を達するために、ヴォルフラムを利用している事に、私は苛立ちを感じている。だが、ヴォルフラムがそれを望むなら、その気持ちに答えてあげたい。あれは、可哀想な子だからね。私のように、目的なく生きるよりも・・命を掛けて何かをなす方が、ヴォルフラムらしい生き方かもしれない。そうは思わないかい、マテウス?」
「シュテフェン殿下は、味方ですか?」
「『誰の味方』なのかと、聞かないところがマテウスらしいね。実に、狡いやり方だ。さて、もう後宮を後にしてはどうだい、マテウス?君が体調を崩すと、色々と面倒だからね」
「シュテフェン殿下は、後宮で夜を過ごされるのですか?」
「王太子殿下は、私が後宮に出入りしていることはご存じだよ。それに、私が誰と親しくなろうとも、興味は無いようだね?あの子は、子供の頃から、小動物を虐める事にしか興味を示さなかった。まあ、今も・・変わっていないようだがね。だが、ヴェルンハルトの過去をよく知る私は・・彼には、目障りで仕方無いようだ。彼が国王になれば、私は処刑されるかもしれないね?」
シュテフェン殿下の言葉に、敏感に反応したのは、イグナーツだった。
「シュテフェン殿下!その様な恐ろしいことを、どうか仰らないで!どうか、私の側にいてください、王弟殿下。私は絶対に、シュテフェン殿下を処刑になどさせない。だって、私の孤独を埋めてくれたのは、ヴェルンハルト殿下ではなく・・貴方だったのですから」
「イグナーツ、可愛い人だね。さあ、マテウスが、後宮を出ることは確認できたね?これで安心しただろ、イグナーツ?だから、これ以上、可哀想なマテウスを、虐めるのはやめるとしよう。流産を一度経験している君なら、マテウスの辛さは分かる筈だよね?」
「ああ、そうだったわ。子が流れたとき、ヴェルンハルト殿下は、慰めてもくれなかった。シュテフェン殿下だけが、私の孤独を理解してくれる。私には、殿下だけよ・・本当に、貴方だけよ、シュテフェン殿下」
「それは嬉しい言葉だね、イグナーツ。さあ、邸に帰って、楽しい時を過ごそう。そうそう、クスリを持ってきたけど、きちんと量を守って飲んでいるかい?元気の出るクスリだけど、飲み過ぎると害が出るからね?」
「勿論、飲みました。あれを飲まないと、動くことも辛いくらいよ?早く邸に帰りましょ。ああ、そうでした。ファビアン殿下、私はマテウス様には謝りません。だって、貴方の命令に、私が従う必要などありませんもの。将来、この国の王になるのは、我が子ヘロルド = フォーゲルですから。では、皆様、さようなら」
シュテフェン殿下に体を密着させると、イグナーツは俺たちに背を向け歩き出した。すでに、イグナーツは、こちらへの興味を失っている。
イグナーツの様子がおかしい。そして、その原因は、明らかにシュテフェン殿下だろう。彼は、イグナーツにクスリを盛り利用している。だが、その相手に、イグナーツは恋心を抱いているようだ。
やがて二人の姿は、闇の中に消えていった。その姿を見送ったファビアン殿下が、そっと呟いた。
「・・この前ね、ヘロルドと久しぶりに会ったんだ。でも、何だか元気がなかった。でも、産みの親があの様子では、元気がなくて当然だね?僕はヘロルドの兄なのに、何も知らなかった。弟の辛さを、何も分かってなかった」
ファビアン殿下の言葉が、俺の心を揺らした。心が強くなった筈なのに、やっぱり胸は痛くなり・・全てを投げ出したくなる。それでも、『前に進もうよ』と、心の中で、誰かが囁いている気がして・・俺は、先に進むことにした。
「ファビアン殿下。ルドルフ様。さあ、王城に向かいましょう。どうか、私の事を支えて下さいね?」
「マテウス様、喜んで支えます」
「僕も支える!マテウスの一番の味方は、僕だからね!忘れちゃ駄目だよ、マテウス?」
「はい、殿下!」
俺は少し笑顔を取り戻し、後宮を後にする事となった。
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