嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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王弟殿下、シュテフェン = フォーゲル

第二王子の産みの親、ヘロルド = フォーゲル

夜の闇の中、ランプの光で浮かび上がる二人の姿は、どこか妖艶で危うい関係を感じさせた。俺は王弟殿下の突然の登場に動揺しつつも、殿下に挨拶をすることにした。

「シュテフェン殿下、久しく殿下にお会いする機会に恵まれず、私は寂しく思っておりました。ですが、王弟殿下が、私の名前を覚えていて下さっていた事が、何より嬉しく思えます」

「マテウスの名を、私が忘れる事などあり得ないよ。初めての挨拶で、私の瞳の色に触れ・・この禍々しい瞳を『美しい』と評した。あの様な印象的な挨拶をされて、忘れられると思うかい、マテウス?」

「申し訳ございません、シュテフェン殿下。王城出仕一日目の私は、あらゆる面において・・余りにも無知でした・・」

俺が初めて王弟殿下と出逢ったのは、王城出仕一日目の事だった。カールの真実の姿を知ったのも、王城出仕一日目の事。ヴェルンハルト殿下の、異常な行動に晒されたのもその日だった。あの頃は、ヴェルンハルト殿下によって、後宮に閉じ込められる事になるとは思いもしなかった。

そして・・死産とわかりながら、出産に挑む事になるとは、想像もしていなかった。

「私は、余りにも無防備で無知でした」

様々な出来事があり過ぎて、記憶の欠片が刺となり胸に突き刺さる。俺は心の痛みに耐えられず、ルドルフに寄りかかった。ルドルフは、そんな俺をしっかりと支えてくれた。

すると、心の痛みが少し和らいだ。

「ルドルフ様、少し疲れました。寄り掛かりながら、王城に向かっても宜しいですか?」

「勿論です、マテウス様」

シュテフェン殿下とイグナーツの前で、弱味を見せたくはなかった。だけど、俺は自分が思うよりも、心がすっかり弱りきっていたようだ。

王弟殿下は、そんな俺の様子を見て少し失望したような表情を浮かべた。それに対して、イグナーツは、獲物を前にした捕食者の様に目を輝かせた。

「マテウス様は、王城に向かわれるのですね!マテウス様が、後宮を出る決意をしてくださり安心しました。多くの『側室』達が、マテウス様がこの後宮から去ることを、望んでおりました。シュナーベル家の穢れた血液で、後宮が汚されなくて本当によかった!後宮の品格が、貴方の存在の為に、随分と損なわれました。後宮に、シュナーベル家の者は不要です!」

イグナーツが、何の躊躇もなく『シュナーベル家』の名を貶めた。あまりにも露骨な侮蔑の言葉に、俺は唖然としてしまった。

『側室』は下位貴族や庶民の出自。シュナーベル家は、上位貴族の侯爵家である。実家への影響を考えるならば、イグナーツは侮蔑の言葉は陰口のみで止めるべきだ。こいつは、馬鹿なのか?うむ・・俺は、怒りモードに突入しているようだ。

しかし、身分差を無視して、イグナーツが露骨に、シュナーベル家に対して侮蔑の言葉を浴びせるのは・・第二王子の産みの親という、自信からきているのだろうか?

そんな事を考えていると、目の前のファビアン殿下がランプの光で、イグナーツを照らしながら言葉を発していた。

「イグナーツ = ファッハ。マテウスは、僕が尊敬する大切な人だ。そのマテウスを侮辱されて、僕は黙ってはいられない。イグナーツ。今すぐに、マテウスに頭を下げ謝るように。これは、第一王子としての命令だ」

ガンガンに殺気を放ちながら、ファビアン殿下が冷たい口調でイグナーツに命じていた。

俺が隣のルドルフを見ると、彼は満足そうに頷き殿下を見守っている。ルドルフは、我が子の成長を喜ぶように目を細める。だが、もっとイグナーツを攻撃をせよと、ファビアン殿下に指示を出した瞬間を俺は見てしまった。殿下も、静かにルドルフに合図を返した。なに、この師弟関係・・怖いのだが。

ビビったのは、俺だけではなかった。イグナーツが目を見開き、隣に立つ王弟殿下の腕に自身の腕を絡めた。その様子に、俺はまた二人の危うげな関係性に引き付けられた。

「あれ?ファビアンは、言葉が話せなくなったと聞いていたが・・実際は違うようだね?第二王子のヘロルドが将来の国王になると、君は言っていたけど・・どうやら、諦めた方がよさそうだよ、イグナーツ?まあ、私はどちらが将来の国王になろうと、興味は無いけれどね」

「そんな、シュテフェン殿下!私と殿下は特別な関係にあると言うのに、私を見捨てるような事を仰らないで下さい!国王になれぬ『側室』の子が、どの様な扱いを受けるかはご存じでしょ?それに、マテウス様を後宮から追放するよう、知恵を与えて下さったのは、シュテフェン殿下ではありませんか!マテウス様の事が、殿下もお嫌いなのでしょ?」

「全く『孕み子』は、本当にお喋りだね?悪いが、私は『妃候補』から産まれた正真正銘の王子だ。悪いが、君達『側室』の子とは、生まれが違う。まあ、歴史を見れば、国王になれなかった『側室』の子は、あまり良い運命を辿ってはいないね。ファビアン、これは君にも当てはまることだよ?」

「え?」

王弟殿下が、ファビアン殿下に話しかけた。王弟殿下の言葉に、ファビアン殿下は明らかに動揺していた。

このままでは、ファビアン殿下の言葉が乱れて、話せなくなるかもしれない。ここで、ファビアン殿下の弱味が知れるのはまずい。


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