嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

第四章

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「ふん、運命とは大袈裟なことを言う。しかし、お前が『予言者』かもしれないと思ったのは、単なる誤りだったな。自身の子が亡くなる事も、出産直前に横やりが入ることも、予期できなかった。『親友』にも『予言者』にもなれないお前は、俺にとっては何の価値もない」

「殿下にとっては、私は虐め甲斐のある小動物といったところでしょうか？」

「ああ、そうだ。お前を虐めると、性的興奮を感じることは確かだ。だからこそ、一生手放す気はない。お前が死ぬまで、飼い殺してやる。俺から逃れられると思うな、マテウス？」

殿下の言葉に、ルドルフがゆらりと立ち上がった。明らかに殺気を纏うルドルフの腕を、俺は何とか掴んだ。

「マテウス様」
「ルドルフ、座りなさい」

俺が命令口調で指示すると、ルドルフは殺気を纏ったまま席に付いた。いや、殺気も沈めて欲しいのだが・・ルドルフおじさま

「は、ルドルフはマテウスの犬だな。よく処刑人を飼い慣らしたものだ、マテウス。お前は、俺などより・・余程性悪男だな？」

「その意見には、同意できません。ですが、殿下に小動物として扱われるのは御免です。それならば、『予言者』として、殿下に仕えた方が・・まだ、待遇が良さそうです」

「無能な『予言者』に、給金をやるつもりはない。それとも、今ここで、俺にとり有益な予言でもしてくれるのか、マテウス？」

「・・ヴェルンハルト殿下。イグナーツ様の仰る通り、私は、殿下の『側室』ではありません。ですが、後宮で子を産むと、世間に無益な誤解を招きそうです。これを機会に、後宮を出たいと考えております。ヴェルンハルト殿下、後宮を出る許可を頂けますでしょうか？」

ヴェルンハルト殿下が眉を上げ、俺を見つめた。そして、ゆっくりと聞いてきた。

「それが、予言の褒美として欲しいものか？」
「左様です、殿下」

「ふん・・まあ、いいだろう。だが、出産は王城でおこなえ。産まれた子は、王家の墓に埋葬する意思は変わらない。子の墓を参る時は、王族の許可を・・俺の許可を得て、子の墓を訪れよ。死んだ子は王家の墓に埋葬され、マテウスを俺に縛る役目を果たす。何も役に立たず葬られるよりは、死んだ子も喜ぶだろう。そう思うだろ、マテウス？」

俺は思わず唇を噛み締めていた。今から産まれる我が子が、俺を殿下に縛る目的で王家の墓に葬られるなんて、あまりにバカげている。この子は、いつか必ず、シュナーベル家の領地に連れ帰る。

俺は、ヴェルンハルト殿下の死を望む。
子は必ず、シュナーベル家の領地に連れ帰る。

「さあ、お前の窮地を救うために、王城の一室を貸すのだから、それに相応しい予言をしろ、マテウス」

俺は大きく息を吐き出した。そして、視線を殿下に向けて口を開く。

「陛下の死が間近に迫っております。私は出産を終えた後、しばらくは王都のシュナーベル家の邸で産後の休養を取らせて貰います。再び、王太子殿下の元に私が出仕する頃、ヴァルデマール陛下は崩御されるでしょう」

「っ！」

ヴェルンハルト殿下の瞳が僅かに揺らいだ。その揺らぎが何を意味するのかは、俺には分からなかった。

「死因は何だ、マテウス？」
「腹上死です」
「ははっ、国王の死因がそれか！」
「植民地の孕み子と交わりすぎました」

「情けなくも羨ましい死因だな、父上は！ついでに、俺の死因も予言してはどうだ？」

ヴェルンハルト殿下は、意地悪な笑みを浮かべて挑発気味に問う。俺は殿下に微笑み返し応じた。

「先見や予言は、私の命を削ります。出産前に、先見はできません。私は、お腹の子を無事に産みたいのです、殿下」

「産声を上げぬ子を、無事に産みたいねぇ？ふん、よかろう。王城で出産後は、自由にするといい。但し、再び俺の元に出仕しろ。お前が『予言者』として使えると分かれば、大事に扱ってやらなくもない。ヴォルフラムも、そろそろ呼び戻す頃合いだな。面白くなってきた。では、王城に部屋を準備させる。後宮を去る準備をしろ、マテウス」

「よろしくお願いします、殿下」

自室から殿下が出ていくと、俺はルドルフの手を借りて再びベッドに横になった。体がだるい。だが、後宮からやっと出られる。

俺はいつの間にか、泣いていた。

「ヘクトールにいさま、マテウスは後宮を出ます。ヘクトール兄上の元に・・早く帰りたい」

ヘクトール兄上は、子を死なせた俺を恨んではいないだろうか。その事がひどく怖い。


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