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第四章
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◆◆◆◆◆
後宮内には産院があり、『側室』は邸か産院で子を産むかを選ぶことができる。俺は『側室』ではないが、産院の管理者の計らいにより利用が許可されていた。
だが、出産直前になり、第二王子ヘロルド殿下の産みの親である、イグナーツ = ファッハから横やりが入った。イグナーツは、死産と分かっている出産を産院で行うことは、不吉であると主張した。又、産院の管理者に対して、『側室』でない者に、産院を利用させる事を認めたことは職権の乱用に当たると非難した。
明らかに、俺に対する嫌がらせだった。ルドルフと相談の上、後宮の邸で出産を行うことに決めた。だが、この変更に対しても、イグナーツ側から抗議文が届いた。
◇◇◇◇
王太子殿下は、イグナーツから届いた抗議文を読みながら皮肉な笑みを浮かべた。そして、手紙を読み終えると、自室のベッドで休む俺に向かい、手紙を投げて寄越した。
「マテウス、随分とイグナーツに嫌われたものだな。イグナーツは、お前の腹の子が死んだと知り・・喜んだはずだ。息子のヘロルドの地位が、揺るがないと分かった訳だからな。だが、イグナーツはお前の存在が、目障りで仕方ないようだ。だから、こんな抗議文を寄越してきた。それでどうするつもりだ、マテウス?」
「・・・」
「沈黙を返答とするか。情けない事だな、マテウス?お前はカールを喰らっておきながら、何も思い付かないのか?カールならば、良い案を即座に思い付く筈だ」
「私は・・カールを喰らった訳ではありません。亡くなった子を出産する私の為に、カールは共に在ることを望んでくれたのです。私の心を守る為に、一つの人格に統合する事を選んでくれた。私は、心からカールに感謝しています」
俺がベッドに横たわったまま、ヴェルンハルト殿下にそう声を掛けると、殿下は目を細めて俺を見つめてきた。俺は殿下としばらく視線を絡めた後に、イグナーツから届いた抗議文を手に取り目を通した。
『第二王子ヘロルド殿下の産みの親であるイグナーツ = ファッハは、後宮の秩序を守る為に、マテウス様に抗議文を送らせて頂きます。王太子殿下は、マテウス様を『側室扱い』されておられますが、正式な『側室』ではないと、後宮の『側室』達は考えております。マテウス様は、第一王子ファビアン殿下の話し相手であり、王太子殿下の『側室』ではありません。その事を前提として抗議いたします。『側室』でない者が、後宮で出産をする事は前例がなく、マテウス様には後宮での出産資格はないものと思われます。又、死産と分かっていながら、後宮内で出産を行うことは不吉であり、後宮の『側室』達は皆恐れを感じております。更に申し上げるならば、処刑人一族のマテウス様が出産をおこなえば、シュナーベル家の穢れた血液で、後宮の土地が穢れると考える『側室』も多数存在します。その様な環境下で出産をなさることは、マテウス様にとっても不幸であると、私は考えます。マテウス様には、後宮の秩序を守って頂きたく強く願います』
長い抗議文を読み終えて、一気に疲れがでた。俺の側で様子を伺っていたルドルフに、抗議文を渡し彼に話しかけていた。
「ルドルフ様、陣痛は明日の朝方にはくるのですよね?今から変更は可能ですか?」
「出産日の変更は、マテウス様のお体に障りが出ます。抗議など無視して、出産に挑むべきです。シュナーベル家の血で、後宮の土地が穢れるとは・・マテウス様や侯爵家に対し、あまりに無礼な物言い。こちらからも、抗議文を送りましょう、マテウス様」
うむ・・ルドルフが凄くぴりぴりしている。
俺の出産が後宮の産院で行われる事は、後宮内に早い段階で周知されていた。なのに、直前の抗議文である。ルドルフの苛立ちもわかる。俺はルドルフに、産まれてくる子を取り上げてくれるように頼んでいる。責任感の強いルドルフの事だから、直前の横やりを防げなかった事に対して、自分を責めているのかもしれない。
「出産の直前に抗議文とは、明らかに嫌がらせですよね?殿下が仰った通り、私はイグナーツ様に随分と嫌われているようです」
俺がヴェルンハルト殿下に視線を向け話しかけると、殿下は僅かに眉をあげて俺を見つめた。そして、ゆっくりと口を開く。
「ふん、窮地に追い込まれながら・・随分と余裕の態度だな、マテウス?」
「焦りはあります。ですが、心の内から『強くあれ』と、気持ちが沸き上がってくるのです」
「それが、カールを喰らって得たものか?」
「・・・」
「答えろ、マテウス!」
俺はお腹を押さえながら、ルドルフの手を借りて上半身を起こした。そして、殿下に向かい頭を下げた。
「別人格のカールが残した日記を、私は最後まで読みました。殿下がカールに対して、優しい気持ちを持って接して下さった事が、十分に伝わる内容でした。殿下が今日この邸にお越しになったのも、カールとの再会を願っての事だと思います。ですが、もう別人格のカールが現れることはありません」
「お前が消えるべきだった・・マテウス」
「私は消えません、殿下」
「カールが主人格ならば、俺とお前は友となれた!だが、その可能性をマテウスは消し去った。お前は何時も、カールを犠牲にして生きているな。その事に罪の意識はないのか、マテウス?」
「私は・・カールに拘る事を止めました」
「なに!?」
「亡くなったカールに拘るあまり、今生きている周囲の人々を、蔑ろにしていたことに気がついたのです。これからは・・私は、生きている人達と寄り添いながら前に進みます」
「俺は、カールを忘れない!」
「殿下は、永遠にカールを忘れません。ヴェルンハルト殿下は、それで良いのです。ヴェルンハルト殿下の運命は、カールに出逢ったその時から、カールと運命を共にしているのですから。終わりが来るその時まで、殿下はカールと共に在る運命なのです」
◆◆◆◆◆◆
後宮内には産院があり、『側室』は邸か産院で子を産むかを選ぶことができる。俺は『側室』ではないが、産院の管理者の計らいにより利用が許可されていた。
だが、出産直前になり、第二王子ヘロルド殿下の産みの親である、イグナーツ = ファッハから横やりが入った。イグナーツは、死産と分かっている出産を産院で行うことは、不吉であると主張した。又、産院の管理者に対して、『側室』でない者に、産院を利用させる事を認めたことは職権の乱用に当たると非難した。
明らかに、俺に対する嫌がらせだった。ルドルフと相談の上、後宮の邸で出産を行うことに決めた。だが、この変更に対しても、イグナーツ側から抗議文が届いた。
◇◇◇◇
王太子殿下は、イグナーツから届いた抗議文を読みながら皮肉な笑みを浮かべた。そして、手紙を読み終えると、自室のベッドで休む俺に向かい、手紙を投げて寄越した。
「マテウス、随分とイグナーツに嫌われたものだな。イグナーツは、お前の腹の子が死んだと知り・・喜んだはずだ。息子のヘロルドの地位が、揺るがないと分かった訳だからな。だが、イグナーツはお前の存在が、目障りで仕方ないようだ。だから、こんな抗議文を寄越してきた。それでどうするつもりだ、マテウス?」
「・・・」
「沈黙を返答とするか。情けない事だな、マテウス?お前はカールを喰らっておきながら、何も思い付かないのか?カールならば、良い案を即座に思い付く筈だ」
「私は・・カールを喰らった訳ではありません。亡くなった子を出産する私の為に、カールは共に在ることを望んでくれたのです。私の心を守る為に、一つの人格に統合する事を選んでくれた。私は、心からカールに感謝しています」
俺がベッドに横たわったまま、ヴェルンハルト殿下にそう声を掛けると、殿下は目を細めて俺を見つめてきた。俺は殿下としばらく視線を絡めた後に、イグナーツから届いた抗議文を手に取り目を通した。
『第二王子ヘロルド殿下の産みの親であるイグナーツ = ファッハは、後宮の秩序を守る為に、マテウス様に抗議文を送らせて頂きます。王太子殿下は、マテウス様を『側室扱い』されておられますが、正式な『側室』ではないと、後宮の『側室』達は考えております。マテウス様は、第一王子ファビアン殿下の話し相手であり、王太子殿下の『側室』ではありません。その事を前提として抗議いたします。『側室』でない者が、後宮で出産をする事は前例がなく、マテウス様には後宮での出産資格はないものと思われます。又、死産と分かっていながら、後宮内で出産を行うことは不吉であり、後宮の『側室』達は皆恐れを感じております。更に申し上げるならば、処刑人一族のマテウス様が出産をおこなえば、シュナーベル家の穢れた血液で、後宮の土地が穢れると考える『側室』も多数存在します。その様な環境下で出産をなさることは、マテウス様にとっても不幸であると、私は考えます。マテウス様には、後宮の秩序を守って頂きたく強く願います』
長い抗議文を読み終えて、一気に疲れがでた。俺の側で様子を伺っていたルドルフに、抗議文を渡し彼に話しかけていた。
「ルドルフ様、陣痛は明日の朝方にはくるのですよね?今から変更は可能ですか?」
「出産日の変更は、マテウス様のお体に障りが出ます。抗議など無視して、出産に挑むべきです。シュナーベル家の血で、後宮の土地が穢れるとは・・マテウス様や侯爵家に対し、あまりに無礼な物言い。こちらからも、抗議文を送りましょう、マテウス様」
うむ・・ルドルフが凄くぴりぴりしている。
俺の出産が後宮の産院で行われる事は、後宮内に早い段階で周知されていた。なのに、直前の抗議文である。ルドルフの苛立ちもわかる。俺はルドルフに、産まれてくる子を取り上げてくれるように頼んでいる。責任感の強いルドルフの事だから、直前の横やりを防げなかった事に対して、自分を責めているのかもしれない。
「出産の直前に抗議文とは、明らかに嫌がらせですよね?殿下が仰った通り、私はイグナーツ様に随分と嫌われているようです」
俺がヴェルンハルト殿下に視線を向け話しかけると、殿下は僅かに眉をあげて俺を見つめた。そして、ゆっくりと口を開く。
「ふん、窮地に追い込まれながら・・随分と余裕の態度だな、マテウス?」
「焦りはあります。ですが、心の内から『強くあれ』と、気持ちが沸き上がってくるのです」
「それが、カールを喰らって得たものか?」
「・・・」
「答えろ、マテウス!」
俺はお腹を押さえながら、ルドルフの手を借りて上半身を起こした。そして、殿下に向かい頭を下げた。
「別人格のカールが残した日記を、私は最後まで読みました。殿下がカールに対して、優しい気持ちを持って接して下さった事が、十分に伝わる内容でした。殿下が今日この邸にお越しになったのも、カールとの再会を願っての事だと思います。ですが、もう別人格のカールが現れることはありません」
「お前が消えるべきだった・・マテウス」
「私は消えません、殿下」
「カールが主人格ならば、俺とお前は友となれた!だが、その可能性をマテウスは消し去った。お前は何時も、カールを犠牲にして生きているな。その事に罪の意識はないのか、マテウス?」
「私は・・カールに拘る事を止めました」
「なに!?」
「亡くなったカールに拘るあまり、今生きている周囲の人々を、蔑ろにしていたことに気がついたのです。これからは・・私は、生きている人達と寄り添いながら前に進みます」
「俺は、カールを忘れない!」
「殿下は、永遠にカールを忘れません。ヴェルンハルト殿下は、それで良いのです。ヴェルンハルト殿下の運命は、カールに出逢ったその時から、カールと運命を共にしているのですから。終わりが来るその時まで、殿下はカールと共に在る運命なのです」
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