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第四章
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◆◆◆◆◆
「ルドルフの淹れた紅茶など、飲む気にもならない。マテウス、奴が戻る前にカールからの伝言を伝えるぞ。別人格のカールからの伝言だ」
俺の向かい側のソファーに座ったヴェルンハルト殿下は、早口で切り出した。どうやら、殿下は長くこの場に居座るつもりはないらしい。
「カールが殿下に伝言を託したのですか?」
王太子殿下を刺激しない様に尋ねたつもりだったが、不信感が声に乗ってしまったようだ。殿下は眉を跳ね上げた後に、皮肉な笑みを浮かべ言葉を発した。
「カールは、主人格のマテウスの居場所を守るために、周囲の人間にわざとキツく当たっていた。更に回りと距離を取るために、カールは俺を利用した。俺はこの邸では、嫌われているからな。俺と親しく接する程に周囲と溝ができ、カールには都合が良かったのだろう。ま、俺はカールの『駒』だったってことだな」
「そうですか・・」
ヴェルンハルト殿下は俺を見つめると、軽く息を吐き出した。そして、ポツリと呟いた。
「やはり、お前とカールでは別人だな。マテウスとは、会話が弾まない」
「カールとは会話が弾んでいたのですか?」
「悪いか?まあ、黙ってチェスをする事が多かったがな。結局、奴の頭にあったのは、マテウスの事だけだ。亡くなったカールと同じだな。俺がマテウスに苛つく理由は、カールの想いに気づきもしない・・お前への嫉妬心からかもしれないな?俺の『親友』を、お前は常に独占してきた」
ヴェルンハルト殿下が思いも掛けず、雄弁に語る。しかも、会話が成立している。話している内容が理解できる。何てことだ!俺が眠っている間に、カールは殿下の調教に成功したらしい。さすが、俺の別人格のカール!
「おい、マテウス」
「はい、殿下」
「今、俺の事を馬鹿にしただろ?」
「どうしてそのような事を仰るのですか、殿下?私は、ヴェルンハルト殿下が、私の別人格のカールの味方について下さった事に、とても感謝しているのです。心から王太子殿下には、感謝しております」
「ニヤニヤ笑いながら、感謝の言葉を述べられても腹が立つだけだ。お前を苛めたくなる前に伝言を伝える。よく聞け、マテウス」
「はい、ヴェルンハルト殿下」
やべぇ、心読まれてた。俺は必死に真剣な表情を作ると、殿下に託されたカールの言葉を待った。殿下がゆっくりと言葉を紡いだ。
「『僕はマテウスが眠っている間、日記をつけ続ける事にしました。内容は、孕んだ子の成長日記ですが、この邸での日々の出来事も書いています。後は、真偽の程は定かではないけれど、シュナーベル家の現状や、王城や後宮で流れている噂の類いも書きました。マテウスが目覚めたら、まずはその日記を読んで、これからの生活の参考にしてください』」
「で、殿下!待ってください。メモを取らせて下さい。カールが私の為に、日記を書いていてくれていただなんて・・感動です!!」
俺が興奮気味に言葉を発すると、ヴェルンハルト殿下は不機嫌そうな顔をした。だが、お小言はなく殿下は言葉を続ける。殿下の言葉には嫌みが挟み込まれたが、許容範囲のものだった。カール・・殿下の調教にまじで成功したの?切実に、方法を知りたい。
「馬鹿なマテウスでも、頭で覚えられる長さの伝言だ。伝言の続きを話すぞ、マテウス。『日記はベッドサイドのチェストの二段目の引出しの中にあります。但し、マテウスには棚のカギを探して貰う必要があります。用心の為に、鍵の置き場所は常に変えていました。その場所を示すヒントは、『しおり』に書きそれも隠しています。『しおり』の在りかは、ヘクトール兄上がこよなく愛する毒草に関わる場所にあります。マテウスならこのヒントを解けるよね?』カールからの伝言は以上だ。マテウスには、このヒントから鍵の場所が分かるか?」
「ベラドンナ草だ!!」
俺はソファーから立ち上がった。いや、立ち上がろうとして失敗した。お腹の大きさの扱いに慣れず、再びソファーに座る羽目になってしまった。殿下は俺の動きに呆れた表情を浮かべる。
「カールは孕んでいても、颯爽と動いていたぞ。マテウスは、不気味な動きで目障りだ。気づいた事が有るなら俺に言え。鍵の在りかを探す手伝いを、カールに約束させられたからな」
俺は思わず目を見開き呟いていた。そして、感じたことをそのまま言葉にしていた。
「カールは、殿下を『駒』扱いなどしていなかった。カールは、殿下の事を信頼していた。殿下はカールのただ一人の親友だった・・」
俺の言葉に、ヴェルンハルト殿下は苦い表情を浮かべた。そして、自嘲気味に嗤う。
「それはない、マテウス」
「ですが、カールは殿下を頼りにしています」
「黙れ、マテウス!」
「・・殿下」
「同じ名の人間に・・しかも、実在も危うい奴に、友情を期待するほど愚かではない。俺はただの『駒』でいい。さあ、鍵の在りかを探し出すぞ、マテウス」
殿下の瞳が、ゆらりと揺れた様に思えた。だけど、それを言葉にはせず別の言葉を口にした。
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「ルドルフの淹れた紅茶など、飲む気にもならない。マテウス、奴が戻る前にカールからの伝言を伝えるぞ。別人格のカールからの伝言だ」
俺の向かい側のソファーに座ったヴェルンハルト殿下は、早口で切り出した。どうやら、殿下は長くこの場に居座るつもりはないらしい。
「カールが殿下に伝言を託したのですか?」
王太子殿下を刺激しない様に尋ねたつもりだったが、不信感が声に乗ってしまったようだ。殿下は眉を跳ね上げた後に、皮肉な笑みを浮かべ言葉を発した。
「カールは、主人格のマテウスの居場所を守るために、周囲の人間にわざとキツく当たっていた。更に回りと距離を取るために、カールは俺を利用した。俺はこの邸では、嫌われているからな。俺と親しく接する程に周囲と溝ができ、カールには都合が良かったのだろう。ま、俺はカールの『駒』だったってことだな」
「そうですか・・」
ヴェルンハルト殿下は俺を見つめると、軽く息を吐き出した。そして、ポツリと呟いた。
「やはり、お前とカールでは別人だな。マテウスとは、会話が弾まない」
「カールとは会話が弾んでいたのですか?」
「悪いか?まあ、黙ってチェスをする事が多かったがな。結局、奴の頭にあったのは、マテウスの事だけだ。亡くなったカールと同じだな。俺がマテウスに苛つく理由は、カールの想いに気づきもしない・・お前への嫉妬心からかもしれないな?俺の『親友』を、お前は常に独占してきた」
ヴェルンハルト殿下が思いも掛けず、雄弁に語る。しかも、会話が成立している。話している内容が理解できる。何てことだ!俺が眠っている間に、カールは殿下の調教に成功したらしい。さすが、俺の別人格のカール!
「おい、マテウス」
「はい、殿下」
「今、俺の事を馬鹿にしただろ?」
「どうしてそのような事を仰るのですか、殿下?私は、ヴェルンハルト殿下が、私の別人格のカールの味方について下さった事に、とても感謝しているのです。心から王太子殿下には、感謝しております」
「ニヤニヤ笑いながら、感謝の言葉を述べられても腹が立つだけだ。お前を苛めたくなる前に伝言を伝える。よく聞け、マテウス」
「はい、ヴェルンハルト殿下」
やべぇ、心読まれてた。俺は必死に真剣な表情を作ると、殿下に託されたカールの言葉を待った。殿下がゆっくりと言葉を紡いだ。
「『僕はマテウスが眠っている間、日記をつけ続ける事にしました。内容は、孕んだ子の成長日記ですが、この邸での日々の出来事も書いています。後は、真偽の程は定かではないけれど、シュナーベル家の現状や、王城や後宮で流れている噂の類いも書きました。マテウスが目覚めたら、まずはその日記を読んで、これからの生活の参考にしてください』」
「で、殿下!待ってください。メモを取らせて下さい。カールが私の為に、日記を書いていてくれていただなんて・・感動です!!」
俺が興奮気味に言葉を発すると、ヴェルンハルト殿下は不機嫌そうな顔をした。だが、お小言はなく殿下は言葉を続ける。殿下の言葉には嫌みが挟み込まれたが、許容範囲のものだった。カール・・殿下の調教にまじで成功したの?切実に、方法を知りたい。
「馬鹿なマテウスでも、頭で覚えられる長さの伝言だ。伝言の続きを話すぞ、マテウス。『日記はベッドサイドのチェストの二段目の引出しの中にあります。但し、マテウスには棚のカギを探して貰う必要があります。用心の為に、鍵の置き場所は常に変えていました。その場所を示すヒントは、『しおり』に書きそれも隠しています。『しおり』の在りかは、ヘクトール兄上がこよなく愛する毒草に関わる場所にあります。マテウスならこのヒントを解けるよね?』カールからの伝言は以上だ。マテウスには、このヒントから鍵の場所が分かるか?」
「ベラドンナ草だ!!」
俺はソファーから立ち上がった。いや、立ち上がろうとして失敗した。お腹の大きさの扱いに慣れず、再びソファーに座る羽目になってしまった。殿下は俺の動きに呆れた表情を浮かべる。
「カールは孕んでいても、颯爽と動いていたぞ。マテウスは、不気味な動きで目障りだ。気づいた事が有るなら俺に言え。鍵の在りかを探す手伝いを、カールに約束させられたからな」
俺は思わず目を見開き呟いていた。そして、感じたことをそのまま言葉にしていた。
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俺の言葉に、ヴェルンハルト殿下は苦い表情を浮かべた。そして、自嘲気味に嗤う。
「それはない、マテウス」
「ですが、カールは殿下を頼りにしています」
「黙れ、マテウス!」
「・・殿下」
「同じ名の人間に・・しかも、実在も危うい奴に、友情を期待するほど愚かではない。俺はただの『駒』でいい。さあ、鍵の在りかを探し出すぞ、マテウス」
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