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第四章
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◆◆◆◆◆◆
「父上ならば、元気に日々を過ごしているぞ、マテウス。植民地の孕み子の精子を飲むことで、若さを保っているらしいともっぱらの噂だ」
「ヴェルンハルト殿下!?」
俺の自室の扉を遠慮なく開け放つと、殿下がづかづかと室内に入ってきた。ソファーに座っていた俺は、殿下の名を口にしたものの言葉に詰まってしまった。
ルドルフおじさまとファビアン殿下が、同時に俺の前に回り込み殿下の前に立ちふさがる。ヴェルンハルト殿下は、眉を跳ね上げて二人を睨み付けた。
「邪魔だ・・俺はマテウスに用がある」
「マテウス様は、先ほど目覚めたばかりです。今は、ゆっくりと現実世界に馴染んでいただいているところです」
ルドルフが話終えた直後だった。突然、ヴェルンハルト殿下が、ファビアン殿下に蹴りを入れた。
「ひっ!」
「ぐっ、」
ヴェルンハルト殿下の蹴りは、ファビアン殿下を庇ったルドルフの脇腹で炸裂した。
「はっ、流石は元処刑人だな?動きが早い!」
ファビアン殿下を抱いたまま、ルドルフが床に片膝をついた。王太子殿下は冷たい表情で床に崩れたルドルフを見つめる。
「だが、ルドルフ・・お前が守るべき相手は、マテウスではないのか?お前がファビアンに言葉を教えているらしいが、感情移入しすぎだ。処刑人として、首をはねていた奴とは思えない有り様だな?」
「私がファビアン殿下を守らねば、マテウス様の信頼を失います。それに、私はもう処刑人ではなく医者です。殿下の蹴りに手加減は感じられなかった。大人の一蹴りで子が亡くなることも少なくありません。殿下の行いは、容認できません」
ルドルフは王太子殿下に対して、はっきりと言い切った。俺はソファーに座ったまま、身動きも出来なかった。久しぶりに目の当たりにしたヴェルンハルト殿下が恐ろしくて、足がガクガクと震えだしていた。
「ち、ちちうえ、」
「ファビアン、命令だ。ルドルフを足止めしろ。俺の息子ならば、それくらいの事は出来るだろ?」
「や、やだ、ちち」
「黙れ!!」
「ひっ!」
俺はあまりの事に、言葉を発することも出来なかった。だが、突如、ルドルフから殺気が放たれたことに、俺は敏感に反応した。
「ルドルフおじさま、駄目です!」
「マテウス様、ぐっ、!」
ルドルフはファビアン殿下を抱いたまま、床に蹴り倒された。ルドルフは王太子殿下が更に攻撃を加える事を察知して、殺気を放ったようだった。なのに、俺が声を掛けた事で、ルドルフは殿下の蹴りをまともに受けてしまった。俺の手は悪手ばかりだ。
「はっ、マテウス。ルドルフが俺を殺すとでも思ったのか?相変わらず、間抜けだな。やはり、暗部の報告は正しかったわけか」
「殿下、どうしてここに・・?」
「カールが消えたと、暗部より報告を受けた」
「この邸に暗部を忍ばせているのですか?」
「マテウス、答えろ。カールを殺したのか?」
「!?」
「別人格のカールを、お前は殺したのかと聞いている!カールを殺して、表に出てきたのか?答えろ、マテウス!!」
ヴェルンハルト殿下との間には、床に倒れ込んだルドルフとファビアン殿下がいる。俺だけがソファーに座り、何をしている!
「言葉を交わして、人格を交代したわけではありません。私は長く心の奥深くで眠っておりました。別人格のカールは、きっとその間も私に目覚めるように、声を掛けてくれていたに違いありません。そして、ようやく私は目覚めました。人格交代でカールと言葉を交わしはしませんでしたが・・カールが眠りにつく気配は感じました」
「ああ、そうだ。カールはお前の事を気にかけていた。そのまま、主人格になってしまえば良いものを・・自ら悪役を演じ、友を作ろうともしなかった。マテウスが表に出てきた時の為にな。孤独なその姿は、まるで本物のカールのように思えた・・」
俺は息を深く吐き出した後に、ヴェルンハルト殿下に言葉を掛けた。
「ヴェルンハルト殿下、ソファーに座りませんか?悪役を演じたカールの事を、殿下は気に掛けて下さったのですね?私が眠っていた間のカールの事を聞かせて下さい、殿下」
「いけません、マテウス様!」
ルドルフがファビアン殿下を抱き上げ、ゆらりとふらつきながら立ち上がった。
「ルドルフおじさま、ファビアン殿下を連れて一階に降りていただけますか?殿下と二人きりになりたいのです。人払いもお願いします」
「マテウス様!」
「これは、命令です。ルドルフ=シュナーベル。例え私の医師であろうとも、シュナーベル本家の者に逆らうことは許しません」
ルドルフは唇を噛み締めると、ゆっくりと口を開いた。その声は低く、何時もの優しい声ではなかった。
「マテウス様の指示に従い、ファビアン殿下を連れ一階に降ります。ヴェルンハルト殿下、一階に降りましたら紅茶と菓子を用意いたします。五分と掛からず戻って参りますので、マテウス様と共にティータイムとなさって下さい。給仕は私がいたします。では、失礼します」
ルドルフはそう言うと、素早い動きでファビアン殿下を抱いたまま、部屋を飛び出し階下に向かった。ルドルフおじさまが、処刑人化していくようで・・怖いです、ルドルフ様!
「はっ。あの様子では、一分とせずに部屋に戻って来そうだな?まあいい」
ヴェルンハルト殿下は、俺の向かい側のソファーに座ると、じっと俺の顔を見つめる。そして、口を開いた。
「マテウス、先の言葉に偽りはないな?カールはお前の中で生きている。それで間違いないな?」
ヴェルンハルト殿下は、どこか不安そうにそう口にした。どうやら、殿下は別人格のカールに相当入れ込んでいるようだ。ヴェルンハルト殿下は、喪った親友のカールを取り戻した様な錯覚に陥っているのだろうか?
「今は・・カールと言葉を交わす事はできません。でも、カールが消えたとは思えません。だって、幼い頃から別人格のカールは存在していたのですから・・そう簡単には消えません」
俺はヴェルンハルト殿下に向かい、はっきりと言い切った。
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「父上ならば、元気に日々を過ごしているぞ、マテウス。植民地の孕み子の精子を飲むことで、若さを保っているらしいともっぱらの噂だ」
「ヴェルンハルト殿下!?」
俺の自室の扉を遠慮なく開け放つと、殿下がづかづかと室内に入ってきた。ソファーに座っていた俺は、殿下の名を口にしたものの言葉に詰まってしまった。
ルドルフおじさまとファビアン殿下が、同時に俺の前に回り込み殿下の前に立ちふさがる。ヴェルンハルト殿下は、眉を跳ね上げて二人を睨み付けた。
「邪魔だ・・俺はマテウスに用がある」
「マテウス様は、先ほど目覚めたばかりです。今は、ゆっくりと現実世界に馴染んでいただいているところです」
ルドルフが話終えた直後だった。突然、ヴェルンハルト殿下が、ファビアン殿下に蹴りを入れた。
「ひっ!」
「ぐっ、」
ヴェルンハルト殿下の蹴りは、ファビアン殿下を庇ったルドルフの脇腹で炸裂した。
「はっ、流石は元処刑人だな?動きが早い!」
ファビアン殿下を抱いたまま、ルドルフが床に片膝をついた。王太子殿下は冷たい表情で床に崩れたルドルフを見つめる。
「だが、ルドルフ・・お前が守るべき相手は、マテウスではないのか?お前がファビアンに言葉を教えているらしいが、感情移入しすぎだ。処刑人として、首をはねていた奴とは思えない有り様だな?」
「私がファビアン殿下を守らねば、マテウス様の信頼を失います。それに、私はもう処刑人ではなく医者です。殿下の蹴りに手加減は感じられなかった。大人の一蹴りで子が亡くなることも少なくありません。殿下の行いは、容認できません」
ルドルフは王太子殿下に対して、はっきりと言い切った。俺はソファーに座ったまま、身動きも出来なかった。久しぶりに目の当たりにしたヴェルンハルト殿下が恐ろしくて、足がガクガクと震えだしていた。
「ち、ちちうえ、」
「ファビアン、命令だ。ルドルフを足止めしろ。俺の息子ならば、それくらいの事は出来るだろ?」
「や、やだ、ちち」
「黙れ!!」
「ひっ!」
俺はあまりの事に、言葉を発することも出来なかった。だが、突如、ルドルフから殺気が放たれたことに、俺は敏感に反応した。
「ルドルフおじさま、駄目です!」
「マテウス様、ぐっ、!」
ルドルフはファビアン殿下を抱いたまま、床に蹴り倒された。ルドルフは王太子殿下が更に攻撃を加える事を察知して、殺気を放ったようだった。なのに、俺が声を掛けた事で、ルドルフは殿下の蹴りをまともに受けてしまった。俺の手は悪手ばかりだ。
「はっ、マテウス。ルドルフが俺を殺すとでも思ったのか?相変わらず、間抜けだな。やはり、暗部の報告は正しかったわけか」
「殿下、どうしてここに・・?」
「カールが消えたと、暗部より報告を受けた」
「この邸に暗部を忍ばせているのですか?」
「マテウス、答えろ。カールを殺したのか?」
「!?」
「別人格のカールを、お前は殺したのかと聞いている!カールを殺して、表に出てきたのか?答えろ、マテウス!!」
ヴェルンハルト殿下との間には、床に倒れ込んだルドルフとファビアン殿下がいる。俺だけがソファーに座り、何をしている!
「言葉を交わして、人格を交代したわけではありません。私は長く心の奥深くで眠っておりました。別人格のカールは、きっとその間も私に目覚めるように、声を掛けてくれていたに違いありません。そして、ようやく私は目覚めました。人格交代でカールと言葉を交わしはしませんでしたが・・カールが眠りにつく気配は感じました」
「ああ、そうだ。カールはお前の事を気にかけていた。そのまま、主人格になってしまえば良いものを・・自ら悪役を演じ、友を作ろうともしなかった。マテウスが表に出てきた時の為にな。孤独なその姿は、まるで本物のカールのように思えた・・」
俺は息を深く吐き出した後に、ヴェルンハルト殿下に言葉を掛けた。
「ヴェルンハルト殿下、ソファーに座りませんか?悪役を演じたカールの事を、殿下は気に掛けて下さったのですね?私が眠っていた間のカールの事を聞かせて下さい、殿下」
「いけません、マテウス様!」
ルドルフがファビアン殿下を抱き上げ、ゆらりとふらつきながら立ち上がった。
「ルドルフおじさま、ファビアン殿下を連れて一階に降りていただけますか?殿下と二人きりになりたいのです。人払いもお願いします」
「マテウス様!」
「これは、命令です。ルドルフ=シュナーベル。例え私の医師であろうとも、シュナーベル本家の者に逆らうことは許しません」
ルドルフは唇を噛み締めると、ゆっくりと口を開いた。その声は低く、何時もの優しい声ではなかった。
「マテウス様の指示に従い、ファビアン殿下を連れ一階に降ります。ヴェルンハルト殿下、一階に降りましたら紅茶と菓子を用意いたします。五分と掛からず戻って参りますので、マテウス様と共にティータイムとなさって下さい。給仕は私がいたします。では、失礼します」
ルドルフはそう言うと、素早い動きでファビアン殿下を抱いたまま、部屋を飛び出し階下に向かった。ルドルフおじさまが、処刑人化していくようで・・怖いです、ルドルフ様!
「はっ。あの様子では、一分とせずに部屋に戻って来そうだな?まあいい」
ヴェルンハルト殿下は、俺の向かい側のソファーに座ると、じっと俺の顔を見つめる。そして、口を開いた。
「マテウス、先の言葉に偽りはないな?カールはお前の中で生きている。それで間違いないな?」
ヴェルンハルト殿下は、どこか不安そうにそう口にした。どうやら、殿下は別人格のカールに相当入れ込んでいるようだ。ヴェルンハルト殿下は、喪った親友のカールを取り戻した様な錯覚に陥っているのだろうか?
「今は・・カールと言葉を交わす事はできません。でも、カールが消えたとは思えません。だって、幼い頃から別人格のカールは存在していたのですから・・そう簡単には消えません」
俺はヴェルンハルト殿下に向かい、はっきりと言い切った。
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