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第四章
209
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◆◆◆◆◆
俺は泣きながらベッドで目覚めた。カールの声を、確かに聞いた。だけど、カールと会話を交わすことなく、人格は交代していた。
「カール、私・・目覚めたよ」
目覚めた俺は、大きくなったお腹に右手を添えた。そして、撫でた。俺が灰色の世界に留まっていた時間を、大きくなったお腹が教えてくれた。
「ごめんなさい、カール。ごめんなさい、ファビアン殿下。ごめんなさい、ルドルフ様。アルミン、ごめん。皆、ごめんなさい。兄上、兄上、私は逃げ出してしまいました・・」
胸を締め付けられて、涙が溢れて止まらない。涙が止まらず、俺は顔を両手で覆った。恥ずかしくて、情けなくて堪らない。
「マテウス、な、な、泣かないで!ぼ、僕が側にいるよ。マテウス、ご、ごめ、ご免なさい。クッキーを投げつけた。いっぱい、いっぱい、投げつけて。うわぁぁあっーーーっっー!」
ファビアン殿下が、大きな声で泣き出した。俺はびっくりして、顔を覆っていた両手を外したた。ファビアン殿下は、顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いていた。
「ファビアン殿下、大丈夫ですよ。私が目覚めた切っ掛けは、クッキーの雨ですから!殿下のクッキーは大活躍でした。あの、その、クッキーは、美味しくいただきます!」
俺は涙で霞む視界の中から、ベッドに転がったハートのクッキーを掴んだ。かなり硬かった。だが、殿下の愛情たっぷりのクッキーは食べなくては駄目だよね。
このクッキーが、俺を目覚めてくれたのだから。漢を見せろ、マテウス!
「あ、だめーーー!」
「食べてはいけません、マテウス様!」
ルドルフが素早い動きで、俺の腕をつかんでいた。ファビアン殿下も必死の形相で、ベッドによじ上るところだった。
「あ、食べると・・ヤバイやつですか?そういえば、ファビアン殿下の作った当たりクッキーを食べて、ヴォルフラム様が気を失った事を思い出しました・・これは、当たりのクッキーですか?」
ルドルフは俺の指先から、クッキーを取り上げた。そして、クッキーをしげしげと見つめながら口を開いた。
「別の意味で当たります。つまり、お腹を下すという意味です。ファビアン殿下・・古いクッキーは捨てて下さいと、お願いした筈ですが?約束は守られなかったようですね?」
「ひっ、ごめんなさい!ルドルフ先生!」
「使用人達に、清掃とベッドメイキングをお願いしましょう。クッキーは処分しますが、よろしいですか、ファビアン殿下」
ファビアン殿下はがっくりと肩を落としながらも返事をした。
「ルドルフ先生。クッキーは処分して貰って構いません。また新しく作ります」
俺はルドルフの手を借りて、ベッドから降りた。ファビアン殿下がすぐに俺に寄り添い、体を支えてくれた。俺は目を丸くしながら、ファビアン殿下を見た。
「ファビアン殿下、とても上手に話せるようになりましたね。マテウスは、とてもビックリしました。ルドルフ様の元で、とても頑張ったのですね。凄いです、ファビアン殿下!」
俺の言葉に、ファビアン殿下は涙を引っ込めて笑顔を見せてくれた。俺もいつの間にか、笑顔になっていた。ルドルフとファビアン殿下は、俺をソファーに移動させてくれた。
「ああ、空が青い・・」
ソファーに座り窓から外を見ると、青空が広がっていた。もう昼に近いのかもしれない。太陽が空高くにあり少し眩しい。
「マテウス様、太陽を直接見てはいけません。瞳を痛めてしまいます」
俺はルドルフの言葉に頷いていて、視線を室内に移した。使用人達が、丁寧に清掃してベッドメイキングをしてくれている。
「綺麗にしてくれて、ありがとう」
俺が使用人達に声を掛けると、何故か彼らがびくりと肩を震わせた。そして、おどおどした様子で俺に頭を下げる。
あれ、なんだか・・部屋の空気が凍りついたのだが?何故だ?
「マテウス様、お気になさらず。彼らは、カール殿を恐れているのです」
「そうだよ、マテウス!マテウスは全然悪くないからね。カールが皆に意地悪するから、使用人に嫌われているだけ。僕にもカールは意地悪だった。だから、カールは嫌い」
「え、ええ??」
ファビアン殿下が、淀みなく話をする姿に驚いたが・・その話す内容に更に驚かされた。
「カールは、とても優しい子だよ?何かの間違いでは・・これでは、悪役令息に逆戻りなのだけれど」
その時、邸の使用人が、ティーセットを持って現れた。だが、手が明らかに震えていた。そして、予想通りテーブルに置く際に、ガチャリと音を立ててしまった。
「ひぃーー、マテウス様、お許しください!」
「大丈夫、問題ないよ。紅茶は私が淹れるから、貴方は下がっていいよ。ご苦労様」
「ご苦労様とは・・クビですね。マテウスさま、お役にたてず申し訳ございません。一時間以内に、荷物を整理して邸を出ます」
「え?あの?」
ティーセットを持って来てくれた使用人は、一礼すると俯きながら部屋を出ていった。俺が使用人の反応に、頭を抱えそうになってしまった。
使用人達は、俺の事をマテウスと呼んでいた。カールは彼らの前では、マテウスと名乗っていたのだろう。だけど、使用人の反応から見て・・カールも気鬱を発症していたみたいだ。
「うう、カール。申し訳ない。私が灰色の世界でゴロゴロしている間に、カールは気鬱を発症したんだね」
相当のストレスがカールに変調をもたらしたに違いない。優しいカールが気鬱を発症して、使用人に八つ当たりしていたとしたら・・俺の責任だ。いったい、俺は何ヵ月眠っていたんだ?
「ルドルフ様、質問を宜しいですか?」
ルドルフはすぐに反応を返してくれた。
「はい、マテウス様。何でも聞いてください」
俺は深い息を吐いた後、意を決してルドルフに質問していた。
「私は・・妊娠何ヵ月でしょうか?」
「昨日、マテウス様は妊娠8ヶ月を迎えました。お腹の赤ん坊は、順調に成長しております。逆子でもありません。ご安心下さい。今のところ何も問題はございません、マテウス様」
◆◆◆◆◆◆
俺は泣きながらベッドで目覚めた。カールの声を、確かに聞いた。だけど、カールと会話を交わすことなく、人格は交代していた。
「カール、私・・目覚めたよ」
目覚めた俺は、大きくなったお腹に右手を添えた。そして、撫でた。俺が灰色の世界に留まっていた時間を、大きくなったお腹が教えてくれた。
「ごめんなさい、カール。ごめんなさい、ファビアン殿下。ごめんなさい、ルドルフ様。アルミン、ごめん。皆、ごめんなさい。兄上、兄上、私は逃げ出してしまいました・・」
胸を締め付けられて、涙が溢れて止まらない。涙が止まらず、俺は顔を両手で覆った。恥ずかしくて、情けなくて堪らない。
「マテウス、な、な、泣かないで!ぼ、僕が側にいるよ。マテウス、ご、ごめ、ご免なさい。クッキーを投げつけた。いっぱい、いっぱい、投げつけて。うわぁぁあっーーーっっー!」
ファビアン殿下が、大きな声で泣き出した。俺はびっくりして、顔を覆っていた両手を外したた。ファビアン殿下は、顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いていた。
「ファビアン殿下、大丈夫ですよ。私が目覚めた切っ掛けは、クッキーの雨ですから!殿下のクッキーは大活躍でした。あの、その、クッキーは、美味しくいただきます!」
俺は涙で霞む視界の中から、ベッドに転がったハートのクッキーを掴んだ。かなり硬かった。だが、殿下の愛情たっぷりのクッキーは食べなくては駄目だよね。
このクッキーが、俺を目覚めてくれたのだから。漢を見せろ、マテウス!
「あ、だめーーー!」
「食べてはいけません、マテウス様!」
ルドルフが素早い動きで、俺の腕をつかんでいた。ファビアン殿下も必死の形相で、ベッドによじ上るところだった。
「あ、食べると・・ヤバイやつですか?そういえば、ファビアン殿下の作った当たりクッキーを食べて、ヴォルフラム様が気を失った事を思い出しました・・これは、当たりのクッキーですか?」
ルドルフは俺の指先から、クッキーを取り上げた。そして、クッキーをしげしげと見つめながら口を開いた。
「別の意味で当たります。つまり、お腹を下すという意味です。ファビアン殿下・・古いクッキーは捨てて下さいと、お願いした筈ですが?約束は守られなかったようですね?」
「ひっ、ごめんなさい!ルドルフ先生!」
「使用人達に、清掃とベッドメイキングをお願いしましょう。クッキーは処分しますが、よろしいですか、ファビアン殿下」
ファビアン殿下はがっくりと肩を落としながらも返事をした。
「ルドルフ先生。クッキーは処分して貰って構いません。また新しく作ります」
俺はルドルフの手を借りて、ベッドから降りた。ファビアン殿下がすぐに俺に寄り添い、体を支えてくれた。俺は目を丸くしながら、ファビアン殿下を見た。
「ファビアン殿下、とても上手に話せるようになりましたね。マテウスは、とてもビックリしました。ルドルフ様の元で、とても頑張ったのですね。凄いです、ファビアン殿下!」
俺の言葉に、ファビアン殿下は涙を引っ込めて笑顔を見せてくれた。俺もいつの間にか、笑顔になっていた。ルドルフとファビアン殿下は、俺をソファーに移動させてくれた。
「ああ、空が青い・・」
ソファーに座り窓から外を見ると、青空が広がっていた。もう昼に近いのかもしれない。太陽が空高くにあり少し眩しい。
「マテウス様、太陽を直接見てはいけません。瞳を痛めてしまいます」
俺はルドルフの言葉に頷いていて、視線を室内に移した。使用人達が、丁寧に清掃してベッドメイキングをしてくれている。
「綺麗にしてくれて、ありがとう」
俺が使用人達に声を掛けると、何故か彼らがびくりと肩を震わせた。そして、おどおどした様子で俺に頭を下げる。
あれ、なんだか・・部屋の空気が凍りついたのだが?何故だ?
「マテウス様、お気になさらず。彼らは、カール殿を恐れているのです」
「そうだよ、マテウス!マテウスは全然悪くないからね。カールが皆に意地悪するから、使用人に嫌われているだけ。僕にもカールは意地悪だった。だから、カールは嫌い」
「え、ええ??」
ファビアン殿下が、淀みなく話をする姿に驚いたが・・その話す内容に更に驚かされた。
「カールは、とても優しい子だよ?何かの間違いでは・・これでは、悪役令息に逆戻りなのだけれど」
その時、邸の使用人が、ティーセットを持って現れた。だが、手が明らかに震えていた。そして、予想通りテーブルに置く際に、ガチャリと音を立ててしまった。
「ひぃーー、マテウス様、お許しください!」
「大丈夫、問題ないよ。紅茶は私が淹れるから、貴方は下がっていいよ。ご苦労様」
「ご苦労様とは・・クビですね。マテウスさま、お役にたてず申し訳ございません。一時間以内に、荷物を整理して邸を出ます」
「え?あの?」
ティーセットを持って来てくれた使用人は、一礼すると俯きながら部屋を出ていった。俺が使用人の反応に、頭を抱えそうになってしまった。
使用人達は、俺の事をマテウスと呼んでいた。カールは彼らの前では、マテウスと名乗っていたのだろう。だけど、使用人の反応から見て・・カールも気鬱を発症していたみたいだ。
「うう、カール。申し訳ない。私が灰色の世界でゴロゴロしている間に、カールは気鬱を発症したんだね」
相当のストレスがカールに変調をもたらしたに違いない。優しいカールが気鬱を発症して、使用人に八つ当たりしていたとしたら・・俺の責任だ。いったい、俺は何ヵ月眠っていたんだ?
「ルドルフ様、質問を宜しいですか?」
ルドルフはすぐに反応を返してくれた。
「はい、マテウス様。何でも聞いてください」
俺は深い息を吐いた後、意を決してルドルフに質問していた。
「私は・・妊娠何ヵ月でしょうか?」
「昨日、マテウス様は妊娠8ヶ月を迎えました。お腹の赤ん坊は、順調に成長しております。逆子でもありません。ご安心下さい。今のところ何も問題はございません、マテウス様」
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