嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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◆◆◆◆◆◆


灰色の世界に心地よい風が吹く。

『わたし、この世界が好きみたい・・』
『この世界では、私の思い通りになるもの』

灰色の世界は様々な花たちが咲き乱れていた。思い付くままに、ここでは行動できる。

時には花の草原を思いっきり走る。疲れたら、その場に寝転んで空を見る。空の色は今日も灰色。でも、すっかり慣れてしまった。

『空の色が青色だなんて、誰が決めたのかな?灰色の空だからこそ、花の色をこんなにも鮮やかに感じられるのだもの。ここは、素敵だよ』

『わたしは、ここを出たくない』
『わたしには、カールがいる』

『カールが全てをうまくやってくれる』
『ここがいい』

灰色の空を見上げる。灰色の世界に体が溶けてしまいそう。だけど、それは問題のあること?

『ここでは、誰も傷つかない』
『わたしも、貴方も、誰も傷つかない』

花畑に寝転がって考える。今日はどんな一日にしようかな?うーん、でもなんだか、また眠くなってきたなぁ。

『さっき目覚めたばかりなのに』
『でも・・心地いいから。このまま・・目を瞑って、おやすみなさ~い』

パラパラパラパラ

んん??

あれ、なんだろう。雨かな?体に何かが当たってる。でも、雨より・・痛いのだが?

バラバラバラバラバラバラバラバラ

『痛いってば、なにこれ!?』
『絶対に雨じゃないよ!』

頭を庇いながら、覚悟を決めて目を開いた。お花畑に、ハートや星形のクッキーが散乱していた。

『クッキー?え、クッキーがなんで?』

顔を手で覆いながら灰色の空を見上げた。俺はその意味不明な光景に呟いていた。

『灰色の世界に・・クッキーが降ってる』

ハートや星形のクッキーが、幾つも幾つも灰色の空から降り注ぐ。俺はその光景に呆気にとられた。ただただ、無言で空を見つめていた。

すると、誰かの声が微かに聞こえてきた。


『この声は、ファビアン殿下とカール?』


◇◇◇◇


ベッドのクッションに身を預けるカールに、ファビアン殿下は喚きながら、クッキーを投げつけていた。

「僕のマテウスを返せ!お前はマテウスを閉じ込めて、体を乗っ取った!カールなんて、大嫌いだ!お前なんて消えてしまえ!」

カールは、ファビアン殿下の子供っぽい怒りの発露に、苛立ちを隠すことなく切り返した。

「酷いなぁ、ファビアン殿下。確かに僕はマテウスではなくカールだけど、体はマテウスのものだよ?君の手作りクッキーで、マテウスの体に怪我を負わせるつもりかい?」

「あ、後でマテウスに謝る!」

「なるほど。まあ、クッキーで怪我をするとは思えないけどね。それにしても・・このクッキーは随分と硬いね?もしかして、マテウスにあげる筈だったクッキーを、捨てずに溜め込んでいたの?」

「カールがマテウスを乗っ取ったりしなければ、クッキーは硬くならなかった。ざくざくで、マテウスならきっと喜んで食べてくれた」

カールは嗤いながら言葉を紡ぐ。

「マテウスへの想いが、たっぷり、たっぷり、詰まったクッキー。それを捨てることもできずに、缶の中にクッキーを閉じ込めた。大事なマテウスへの想いが詰まったクッキー缶の出来上がり。でもね、その行動は・・ちょっと気持ち悪いよ、ファビアン殿下」

「う、うるさい!だ、だまれ!」

カールは殿下の反応を伺いながら、うっすらと笑った。そして、ベッドに転がったハート型のクッキーを掴み、ファビアン殿下に向けて投げつけた。

「いた!」

頭に命中したクッキーは、壊れもせずに床に落ちた。それを見て、カールが皮肉な笑みをもらす。

「もはや食べ物ではなく・・凶器だね?このクッキーで、僕を殺すつもりだったの?」

「そ、そんな・・こ、ちが、あっ、ぼく、」

殿下の言葉が乱れ始めると、カールはますます笑みを深めた。

「ルドルフは、大したものだよ。この数ヵ月で、ファビアン殿下の言葉を取り戻したのだからね?でも、慌てると・・すぐに言葉に詰まって元通り。父親の前でも同様だね?ねえ、もう無駄な努力はやめたら?」

ファビアン殿下が唇を噛み締めて涙ぐむ。その姿に、カールは苛立ちを覚えた。

「もしかして、ファビアン殿下は・・忘れてしまったのかな?マテウスを後宮にとどめたくて、自身の産みの親になって欲しくて・・そんな自分勝手な理由で、マテウスを収納家具に閉じ込めた!その為に、マテウスは君の父親に囲われたんだよ?この後宮にね!」

「ぼくは、た、ただ、ただ・・」

「そうやって、話せないふりをして同情を誘うか?浅ましいね、ファビアン殿下?殿下、マテウスは、貴方の産みの親にはなれない。もうその年齢なら・・理解できる筈だよね?この膨らんだお腹を見てみなよ?マテウスを産みの親にするのは、この子であって君じゃない。いい加減に諦めなよ。殿下には、殿下の産みの親がいる。これ以上、マテウスの負担になることはするな!」

「あっ、ぼ、ぼくは、マテウスのふたん、ちがう。たすける、マテウス。えらくなって、ぼくは、し、しょうらい、王に、なるから。ま、まもれ、る!」

「何も分かっていない!誰が君など王にする。動揺するたびに言葉に詰まる君に・・王など無理だ。さっさと玉座など諦めて、弟に媚びへつらったらどうだい、ファビアン殿下?これから先、無事に生きていく道は早めに探らないと命を落とすよ、殿下?」



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