嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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カールは肩を竦めた。それから、少し考えた後に言葉を紡いだ。

「確かに、シュナーベル家は、その特殊な立ち位置から医療技術に長けています。ですが、どれ程実力があろうとも・・シュナーベル家の出自というだけで、宮廷医師にはなれません。シュナーベル家の名により、望む職業につけないのです。確かに、シュナーベル家の医療を頼りやってくる貴族もいます。だが、彼らはシュナーベル家の医療により治癒しても、その事を世間に公にしません。シュナーベル家の穢れた治療で助かったと知られる事は、恥だと考えているからです。逆に、シュナーベル家の医療を受けても亡くなる場合は必ずあります。その時には、酷い噂を流されます。人体実験に使われた等です。シュナーベル家は利益を得ているのは確かですが、世間からの差別を考えるなら、それくらいの利益を得ても罪にはならないでしょう?違いますか、ヴェルンハルト殿下?」

「処刑業務を、王国が担うねえ?だが、今更誰がそれを担う?貴族の間で当番制にするか?それとも、栄誉ある騎士に『ギロチン』業務をさせるのか?不満が続出するだろうな。改革は、面倒な上に危険を伴う。悪いが、俺が国王となっても、シュナーベル家の処刑人の人を解く気はない。ガッカリしたか、カール?」

「いえ、殿下ならそう答えると思っていました。ですが、『ギロチン』の開発は進めるべき事案だと僕は思いますよ。もしも、シュナーベル家が滅亡してしまったら、誰が罪人の首をはねるのですか?貴人の首に幾度も斧をふり下ろすのは・・あまり、外聞が良くありませんからね」

ヴェルンハルト殿下は、マテウスが描いた『ギロチン』の絵に指を沿わせた。奇妙な形をしている。

「これで、どうやって罪人の首をはねる?」

「それはマテウスに聞いてください」

「『ギロチン』はマテウスの案か・・仕方ないな。マテウスが目を覚ましている時に、話を聞いてみるか」

「それがよろしいかと、殿下」

「では、『ギロチン』の話は終わりだ。カール、チェスの相手をしろ。今日こそ、お前のイカサマを暴いてやる!」

「イカサマはしていませんよ、殿下。ですが、殿下とチェスをするのは好きですよ。いつもよい勝負になりますから・・楽しいです」

「イカサマ師の癖に生意気な事をいうな、カール。だが確かに・・お前とチェスをする時間は悪くない」

ヴェルンハルト殿下は、スケッチブックを閉じると脇に寄せて、チェスセットを手に取った。殿下のその表情は明るく楽しげであった。

その様子を見るたびに、カールは殿下を憐れに思った。


◇◇◇


『ねえ、マテウス。聞いている?いま、殿下とチェスをしているところだよ。殿下の機嫌は良くなったから安心してね、マテウス』

『・・・・』

『マテウス、殿下はカールの殺害を命じたのに、今でもカールを求めているみたいだよ?とにかく、僕に暴力を向ける感じはしないかな。でも、安心できないから・・殿下が後宮を後にするまで僕が相手するね、マテウス?』

『・・・・』

『うーん、聞こえてないのかな?』


『Virescit Vulnere Virtus 』


「マテウス、殿下は今も過去に生きているみたいだよ。もう、殿下の時は止まっているみたいだ。いつ、殿下の時は止まったのかな?カールが死んだ時だろうか?それとも、産みの親が死んだ時からだろうか?それとも・・産まれた瞬間から殿下の時は、もう止まっていたのかな?マテウスはどう思う?』


『我が終わりに我が始まりあり』


『・・マテウス。灰色の世界で、別世界の事に想いを馳せるのかい?あまりに深く・・灰色の世界に馴染んでは駄目だよ、マテウス。主人格は、マテウスなんだからね。ねえ、返事してよ、マテウス。僕は寂しいよ』


『・・処刑人は、ぶるぶると震えていた。斧を二度振りおろしたけれど、メアリー女王の首はまだ胴体と繋がっていた。苦痛でもがく罪人を、人々が押さえつける。処刑人はだらだらと脂汗をかきながら、斧を振り下ろした。三度目にして、ようやくメアリー女王の首は床に転がり落ちていった』


「マテウス、僕の声が聞こえないの?」


『メアリー女王は、産まれた瞬間から死ぬことが決まっていたのかな?それとも、生き方を誤ったから、死の運命からのがれられなかったのかな?でも、生き方を誤るってなんだろう。殿下は、これからどうなのかな?生き方を誤ったから、死の運命からは逃れられないのかな?でも、誰が殿下の生き方は、誤りだったと判断するのかな?神様?それとも・・』


『駄目だ。マテウスが思考の迷路にはいりこんじゃったよ。じゃあ、僕は殿下とチェスをしているから、少しは休みなよ、マテウス』



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