嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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◆◆◆◆◆◆


『カール、カール?』

『聞こえているよ、マテウス。何時でも表にでられるよ、マテウス。でも・・灰色の世界で、深く眠っては駄目だよ、マテウス。マテウスは、灰色の世界に長居をすると、僕の呼び掛けまで気がつかずに過ごしてしまうから』

『わかってる。表の人格は、あくまでも私だと言いたいのでしょ?でも、私は半分半分でよいと思うけどな・・』

『マテウス、それは駄目だよ』

『・・・・』

『もう寝たの?もう、マテウスは、僕の忠告を全く聞かないのだから。さて、殿下の相手をするか。運命が殿下の心臓を止めるまで・・あと僅かだからね。夢を見るといいよ、殿下。喪った親友を取り戻した夢を見て、死を時を待つといい』


◇◇◇


ベッドのクッションに背を預けたまま、カールはゆっくりと目を覚ました。

「どっちだ?」

ベッドに寝転がったまま、ヴェルンハルト殿下はカールに尋ねた。

「カールです、ヴェルンハルト殿下」

カールの答えに、ヴェルンハルト殿下が嬉しげに目を細める。殿下はカールの髪に、そっと手を伸ばした。そして、赤茶色の髪に触れながら口を開く。

「そうか!では、チェスを始めるぞ!」

だが、カールは、ヴェルンハルト殿下の言葉に、微笑んで応じることはなかった。カールは殿下を鋭い眼差しで見つめながら、鋭く問いただした。

「何故です?何故、殿下はマテウスに暴力を振るうのですか!僕はマテウスを傷つける者を、決して許しません・・殿下、貴方も例外ではありませんよ?」

殿下はマテウスの話題に、詰まらなそうに応じる。だが、殿下の指は、変わらず赤茶色の髪に触れていた。

「カール、そう怒るな。俺はマテウスに、悪感情を抱いているわけではない。むしろ、好意を抱いている。だが、時折・・懐かない小動物を相手にしているように感じる時がある。暴力の理由をあげるなら、それかな?」

カールは深いため息をつき、自身の髪を弄るヴェルンハルト殿下の手を弾いた。

「懐かない小動物は、土に埋めて口を聞けなくさせる訳ですか?ヴェルンハルト殿下は、国王となった後も・・そう振る舞うおつもりですか?」

「つまらない話はやめだ、カール。チェスをやろう。今日こそは、お前のイカサマを暴いてみせるからな、カール!」

殿下は話を一方的に切り上げた。そして、ベッドから降りると、マテウスの机に向かい歩き出した。

「チェスセットは、マテウスの机の引出しに入っていてな。一番下の段か?」

「その筈です、殿下」

ヴェルンハルト殿下は、マテウスの机の引出しからチェスセットを見つけた。チェスセットを取り出した殿下は、カールの元に戻ろうとして立ち止まった。

「どうされましたか、殿下?」

「机の上に、スケッチブックがある。ページを開きっぱなした。この杜撰な管理は、マテウスだな?違わないだろ、カール?」

カールは思わず笑みを浮かべ、殿下の問に応じていた。

「違いません、殿下。マテウスは、体調の良いときには絵を描きます。中々、上手でしょ?」

「上手?いや、確かに絵は巧いと思うが・・これは、何の絵だ?」

カールは殿下の言葉に興味を惹かれ、ヴェルンハルト殿下に声を掛けた。

「僕にも見せてください、殿下」
「ああ、待ってろ」

ヴェルンハルト殿下は、チェスセットの上にスケッチブックを置くとベッドに向かう。そして、ベッドサイドにチェスセットを置くと、カールにスケッチブックを渡して。

「あっ、この絵ですか!」
「何の絵だ、カール?」

「マテウスの話では、『ギロチン』の絵だそうです。罪人の首を人の手ではなく、この器具ではねるそうです」

カールの説明を聞き、ヴェルンハルト殿下は呆れた表情を浮かべた。そして、呟く。

「・・流石、シュナーベル家の孕み子」

「マテウスの考えでは、処刑業務は王国が担うべき事柄だと考えています。フォルカー教の教義が王国民に浸透する中で、いち臣下に処刑人の役目を全て担わせる事は、間違っていると言っていました。シュナーベル家が、近親婚や血族婚に頼るのは・・世間に蔓延る差別の為です」

「罪人の首をはねるには、処刑人の技術が重要だと耳にした事がある。だが、この『ギロチン』があれば・・誰もが、シュナーベル家の処刑人のように、綺麗に首をはねられる訳か?ふん、だがそれでいいのか?シュナーベル家は、処刑人の役目を担う事で、利益も得ているはずだ。カール、否定はできないはずだぞ?」

カールは目を細めて殿下を見た。

「シュナーベル家は、処刑人であることで利益を得ているでしょうか?」

「ああ、得ているだろ?まず、王国は処刑人のシュナーベル家が存続出来るように・・豊かな領地を与えた。差別は受けても、飢えたことはないはずだ、カール?それに、処刑した罪人の人体解剖も認められている。それにより、独自の医療技術を手にしているはずだ。重病の貴族や金持ちが、最期に頼るのはシュナーベル家だと聞いている。シュナーベル家は、重病人から大金を巻き上げていると、悪い噂が立っているぞ、カール?」

カールは肩を竦めた。それから、少し考えた後に言葉を紡いだ。




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