169 / 239
第四章
204
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆
俺が選んだ植民地の孕み子は、子を孕んだのに堕胎させられた。死にはしなかっただろうか?それとも、生きてまた、陛下の夜の相手をつとめるのだろうか?
「・・陛下は、狂ったように怒りだした。そして、シュテフェンを処刑せよとまで命じた。その場は静まり返り、誰もが黙り込んだ。陛下の怒りのとばっちりが来ないように、誰もが俯いて黙り込んだ」
「では・・シュテフェン殿下は、どうして許されたのですか?先に、シュテフェン殿下は罪を免れたと仰っていたはずです。ヴェルンハルト殿下が、口添えをされたのですか?」
俺の質問に、ヴェルンハルト殿下は顔をしかめて否定した。
「俺がシュテフェンを救って、どんな利益がある?シュテフェンは、俺の子供の頃の行動をよく観察していた。俺は憂さ晴らしに、小動物を地中に生き埋めにする事が好きだった。バラバラに刻むことも好きだった。大人になり、その衝動は止んだがな。だが、王となる人間にそのような性癖があったことは・・世に知られるのは不味い。俺は、シュテフェンの死を望んだ」
「ヴェルンハルト殿下・・」
俺はうっすらと笑みを浮かべる殿下に、恐怖を感じ始めていた。殿下に変調が起きる兆しを感じて、俺はカールに助けを求めていた。
◇◇◇
『カール、ご免なさい。殿下の様子がおかしくなってきて・・怖い。殿下にとって私の存在は、土に埋める小動物に過ぎないと暗に示したのだと思う。危なくなったら、人格交代して表に出てくれる、カール?』
『確かに、不味い感じだね?マテウス、安心して。危ないと思ったら、すぐに僕が表に出るから大丈夫だよ、マテウス』
『ご免なさい、カール』
『心配は要らないよ、マテウス?殿下は「カール」には暴力を震わない。僕は「カール」の偽物に過ぎないのに、殿下は親友として振る舞いたがる』
『でも、カールだって完全に安全とはいえないのに・・私は卑怯だ』
『マテウス、大丈夫。殿下は「カール」の殺害を命じながら、いまだに殿下は「カール」の親友であり続けたいらしい。同じ名前の僕に、親友として振る舞うことを求めるとは・・殿下は可哀想な人だ。だけど、殿下は敵を作りすぎた。殺される運命から逃れることは無理だ。そうだろ、マテウス?』
『カール、私は・・』
『マテウス、危ない!!』
『え?』
◇◇◇
殿下が上半身を起こし、俺の間近に身を寄せていた。その手は俺の髪を掴み、きつく髪を引っ張る。俺は痛みに涙目になっていた。
「殿下、ひっ、痛い!!」
「俺の存在を無視するな、マテウス!」
「ご、ご免なさい殿下。その、あの・・シュテフェン殿下に、救いの手を差し伸べたのが誰なのかを、推理していたのです。ですから、ヴェルンハルト殿下を無視した訳ではありません」
俺の言葉に、殿下の手の力がゆるんだ。だが、いまだに俺の髪を掴んでいる。室内に控えていた使用人が、静かに扉から廊下に出てまたすぐに室内に戻ってきた。
殿下が私に危害を加えそうな場合には、ルドルフおじさまに知らせがいく様になっている。だけど、ルドルフおじさまに、これ以上迷惑を掛けたくない。
早く、殿下を落ち着かせないと。
「殿下、私の推理が当たっていたら・・私の髪の毛を離して下さいますか?それと、カールが殿下に逢いたがっています。私は少し疲れたので、人格を交代します」
不意に、殿下が目を見開いた。その瞳に優しい色が鮮やかに広がる。俺はその様を見て、胸に痛みを感じた。殿下の心には、明らかに『カール』が生きている。
「カールが・・」
殿下の手から、あっさりと力が抜けていく。殿下はいまだに、俺の髪から手を離さない。だが、殿下はぼんやりと赤茶色の髪を撫でるだけで、もう痛みは感じなかった。
「・・ヴェルンハルト殿下」
「ん?ああ、マテウス。お前の推理の結果をさっさと聞かせろ。当たっていたら、髪を離してやる。シュテフェンに、救いの手を差し伸べたのは誰だと思う、マテウス?」
俺は慎重に言葉を紡いだ。
「クリスティアン = バイラント枢機卿」
「正解だ、マテウス。クリスティアンが、どういう思惑で動いたのかはわからない。枢機卿は陛下を巧く丸め込むと、『シュテフェンは罪を購った』と陛下に発言させた。陛下と枢機卿の意に従うしかない異端審問官は、随分と悔しそうな様子だったな」
殿下は、俺の髪を一撫ですると手を離した。俺は背中に、冷や汗が流れるのを感じた。俺は室内に待機する使用人に、問題ないと合図を送った。それから、ベッドのクッションに身を沈めて目を閉じた。
枢機卿は・・何故、シュテフェン殿下を救ったのだろうか?ただの気紛れ?それとも・・二人は何かしら繋がっている?
「マテウス・・カールと人格交代するのか?」
「そのつもりですが、殿下はカールとまたチェスをなさるつもりですか?殿下は敗けが続いていますが、大丈夫ですか?お金を賭けてチェスを止めてはいかがですか?私は、眠っている間にお金が溜まり嬉しいですが・・」
「カールのイカサマを暴くために、毎回チェスの相手をしている。大体、おかしいだろ?マテウスを相手にチェスをすれば・・俺は全勝だ。同じ頭のカール相手に、敗けが込むとはおかしいだろ!どう考えても、イカサマだろ。今回こそ、イカサマを暴く!」
俺は殿下の言葉に僅かに笑いながら、カールに呼び掛けていた。
◆◆◆◆◆◆
俺が選んだ植民地の孕み子は、子を孕んだのに堕胎させられた。死にはしなかっただろうか?それとも、生きてまた、陛下の夜の相手をつとめるのだろうか?
「・・陛下は、狂ったように怒りだした。そして、シュテフェンを処刑せよとまで命じた。その場は静まり返り、誰もが黙り込んだ。陛下の怒りのとばっちりが来ないように、誰もが俯いて黙り込んだ」
「では・・シュテフェン殿下は、どうして許されたのですか?先に、シュテフェン殿下は罪を免れたと仰っていたはずです。ヴェルンハルト殿下が、口添えをされたのですか?」
俺の質問に、ヴェルンハルト殿下は顔をしかめて否定した。
「俺がシュテフェンを救って、どんな利益がある?シュテフェンは、俺の子供の頃の行動をよく観察していた。俺は憂さ晴らしに、小動物を地中に生き埋めにする事が好きだった。バラバラに刻むことも好きだった。大人になり、その衝動は止んだがな。だが、王となる人間にそのような性癖があったことは・・世に知られるのは不味い。俺は、シュテフェンの死を望んだ」
「ヴェルンハルト殿下・・」
俺はうっすらと笑みを浮かべる殿下に、恐怖を感じ始めていた。殿下に変調が起きる兆しを感じて、俺はカールに助けを求めていた。
◇◇◇
『カール、ご免なさい。殿下の様子がおかしくなってきて・・怖い。殿下にとって私の存在は、土に埋める小動物に過ぎないと暗に示したのだと思う。危なくなったら、人格交代して表に出てくれる、カール?』
『確かに、不味い感じだね?マテウス、安心して。危ないと思ったら、すぐに僕が表に出るから大丈夫だよ、マテウス』
『ご免なさい、カール』
『心配は要らないよ、マテウス?殿下は「カール」には暴力を震わない。僕は「カール」の偽物に過ぎないのに、殿下は親友として振る舞いたがる』
『でも、カールだって完全に安全とはいえないのに・・私は卑怯だ』
『マテウス、大丈夫。殿下は「カール」の殺害を命じながら、いまだに殿下は「カール」の親友であり続けたいらしい。同じ名前の僕に、親友として振る舞うことを求めるとは・・殿下は可哀想な人だ。だけど、殿下は敵を作りすぎた。殺される運命から逃れることは無理だ。そうだろ、マテウス?』
『カール、私は・・』
『マテウス、危ない!!』
『え?』
◇◇◇
殿下が上半身を起こし、俺の間近に身を寄せていた。その手は俺の髪を掴み、きつく髪を引っ張る。俺は痛みに涙目になっていた。
「殿下、ひっ、痛い!!」
「俺の存在を無視するな、マテウス!」
「ご、ご免なさい殿下。その、あの・・シュテフェン殿下に、救いの手を差し伸べたのが誰なのかを、推理していたのです。ですから、ヴェルンハルト殿下を無視した訳ではありません」
俺の言葉に、殿下の手の力がゆるんだ。だが、いまだに俺の髪を掴んでいる。室内に控えていた使用人が、静かに扉から廊下に出てまたすぐに室内に戻ってきた。
殿下が私に危害を加えそうな場合には、ルドルフおじさまに知らせがいく様になっている。だけど、ルドルフおじさまに、これ以上迷惑を掛けたくない。
早く、殿下を落ち着かせないと。
「殿下、私の推理が当たっていたら・・私の髪の毛を離して下さいますか?それと、カールが殿下に逢いたがっています。私は少し疲れたので、人格を交代します」
不意に、殿下が目を見開いた。その瞳に優しい色が鮮やかに広がる。俺はその様を見て、胸に痛みを感じた。殿下の心には、明らかに『カール』が生きている。
「カールが・・」
殿下の手から、あっさりと力が抜けていく。殿下はいまだに、俺の髪から手を離さない。だが、殿下はぼんやりと赤茶色の髪を撫でるだけで、もう痛みは感じなかった。
「・・ヴェルンハルト殿下」
「ん?ああ、マテウス。お前の推理の結果をさっさと聞かせろ。当たっていたら、髪を離してやる。シュテフェンに、救いの手を差し伸べたのは誰だと思う、マテウス?」
俺は慎重に言葉を紡いだ。
「クリスティアン = バイラント枢機卿」
「正解だ、マテウス。クリスティアンが、どういう思惑で動いたのかはわからない。枢機卿は陛下を巧く丸め込むと、『シュテフェンは罪を購った』と陛下に発言させた。陛下と枢機卿の意に従うしかない異端審問官は、随分と悔しそうな様子だったな」
殿下は、俺の髪を一撫ですると手を離した。俺は背中に、冷や汗が流れるのを感じた。俺は室内に待機する使用人に、問題ないと合図を送った。それから、ベッドのクッションに身を沈めて目を閉じた。
枢機卿は・・何故、シュテフェン殿下を救ったのだろうか?ただの気紛れ?それとも・・二人は何かしら繋がっている?
「マテウス・・カールと人格交代するのか?」
「そのつもりですが、殿下はカールとまたチェスをなさるつもりですか?殿下は敗けが続いていますが、大丈夫ですか?お金を賭けてチェスを止めてはいかがですか?私は、眠っている間にお金が溜まり嬉しいですが・・」
「カールのイカサマを暴くために、毎回チェスの相手をしている。大体、おかしいだろ?マテウスを相手にチェスをすれば・・俺は全勝だ。同じ頭のカール相手に、敗けが込むとはおかしいだろ!どう考えても、イカサマだろ。今回こそ、イカサマを暴く!」
俺は殿下の言葉に僅かに笑いながら、カールに呼び掛けていた。
◆◆◆◆◆◆
22
お気に入りに追加
4,584
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
囚われ王子の幸福な再婚
高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。