嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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俺が選んだ植民地の孕み子は、子を孕んだのに堕胎させられた。死にはしなかっただろうか?それとも、生きてまた、陛下の夜の相手をつとめるのだろうか?

「・・陛下は、狂ったように怒りだした。そして、シュテフェンを処刑せよとまで命じた。その場は静まり返り、誰もが黙り込んだ。陛下の怒りのとばっちりが来ないように、誰もが俯いて黙り込んだ」

「では・・シュテフェン殿下は、どうして許されたのですか?先に、シュテフェン殿下は罪を免れたと仰っていたはずです。ヴェルンハルト殿下が、口添えをされたのですか?」

俺の質問に、ヴェルンハルト殿下は顔をしかめて否定した。

「俺がシュテフェンを救って、どんな利益がある?シュテフェンは、俺の子供の頃の行動をよく観察していた。俺は憂さ晴らしに、小動物を地中に生き埋めにする事が好きだった。バラバラに刻むことも好きだった。大人になり、その衝動は止んだがな。だが、王となる人間にそのような性癖があったことは・・世に知られるのは不味い。俺は、シュテフェンの死を望んだ」

「ヴェルンハルト殿下・・」

俺はうっすらと笑みを浮かべる殿下に、恐怖を感じ始めていた。殿下に変調が起きる兆しを感じて、俺はカールに助けを求めていた。


◇◇◇


『カール、ご免なさい。殿下の様子がおかしくなってきて・・怖い。殿下にとって私の存在は、土に埋める小動物に過ぎないと暗に示したのだと思う。危なくなったら、人格交代して表に出てくれる、カール?』

『確かに、不味い感じだね?マテウス、安心して。危ないと思ったら、すぐに僕が表に出るから大丈夫だよ、マテウス』

『ご免なさい、カール』

『心配は要らないよ、マテウス?殿下は「カール」には暴力を震わない。僕は「カール」の偽物に過ぎないのに、殿下は親友として振る舞いたがる』

『でも、カールだって完全に安全とはいえないのに・・私は卑怯だ』

『マテウス、大丈夫。殿下は「カール」の殺害を命じながら、いまだに殿下は「カール」の親友であり続けたいらしい。同じ名前の僕に、親友として振る舞うことを求めるとは・・殿下は可哀想な人だ。だけど、殿下は敵を作りすぎた。殺される運命から逃れることは無理だ。そうだろ、マテウス?』

『カール、私は・・』

『マテウス、危ない!!』

『え?』


◇◇◇


殿下が上半身を起こし、俺の間近に身を寄せていた。その手は俺の髪を掴み、きつく髪を引っ張る。俺は痛みに涙目になっていた。

「殿下、ひっ、痛い!!」

「俺の存在を無視するな、マテウス!」

「ご、ご免なさい殿下。その、あの・・シュテフェン殿下に、救いの手を差し伸べたのが誰なのかを、推理していたのです。ですから、ヴェルンハルト殿下を無視した訳ではありません」

俺の言葉に、殿下の手の力がゆるんだ。だが、いまだに俺の髪を掴んでいる。室内に控えていた使用人が、静かに扉から廊下に出てまたすぐに室内に戻ってきた。

殿下が私に危害を加えそうな場合には、ルドルフおじさまに知らせがいく様になっている。だけど、ルドルフおじさまに、これ以上迷惑を掛けたくない。

早く、殿下を落ち着かせないと。

「殿下、私の推理が当たっていたら・・私の髪の毛を離して下さいますか?それと、カールが殿下に逢いたがっています。私は少し疲れたので、人格を交代します」

不意に、殿下が目を見開いた。その瞳に優しい色が鮮やかに広がる。俺はその様を見て、胸に痛みを感じた。殿下の心には、明らかに『カール』が生きている。

「カールが・・」

殿下の手から、あっさりと力が抜けていく。殿下はいまだに、俺の髪から手を離さない。だが、殿下はぼんやりと赤茶色の髪を撫でるだけで、もう痛みは感じなかった。

「・・ヴェルンハルト殿下」

「ん?ああ、マテウス。お前の推理の結果をさっさと聞かせろ。当たっていたら、髪を離してやる。シュテフェンに、救いの手を差し伸べたのは誰だと思う、マテウス?」

俺は慎重に言葉を紡いだ。

「クリスティアン = バイラント枢機卿」

「正解だ、マテウス。クリスティアンが、どういう思惑で動いたのかはわからない。枢機卿は陛下を巧く丸め込むと、『シュテフェンは罪を購った』と陛下に発言させた。陛下と枢機卿の意に従うしかない異端審問官は、随分と悔しそうな様子だったな」

殿下は、俺の髪を一撫ですると手を離した。俺は背中に、冷や汗が流れるのを感じた。俺は室内に待機する使用人に、問題ないと合図を送った。それから、ベッドのクッションに身を沈めて目を閉じた。

枢機卿は・・何故、シュテフェン殿下を救ったのだろうか?ただの気紛れ?それとも・・二人は何かしら繋がっている? 

「マテウス・・カールと人格交代するのか?」

「そのつもりですが、殿下はカールとまたチェスをなさるつもりですか?殿下は敗けが続いていますが、大丈夫ですか?お金を賭けてチェスを止めてはいかがですか?私は、眠っている間にお金が溜まり嬉しいですが・・」

「カールのイカサマを暴くために、毎回チェスの相手をしている。大体、おかしいだろ?マテウスを相手にチェスをすれば・・俺は全勝だ。同じ頭のカール相手に、敗けが込むとはおかしいだろ!どう考えても、イカサマだろ。今回こそ、イカサマを暴く!」

俺は殿下の言葉に僅かに笑いながら、カールに呼び掛けていた。



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