嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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◆◆◆◆◆◆



「シュテフェンが去勢して、陛下の前に現れた。その件で、王城では大騒ぎだ」

「はぁひ!?」

俺は思わず驚きの声をあげてしまった。しかも、舌を噛んで変な声になってしまった。恥ずかしい!

「その反応では、マテウスは全く知らなかったみたいだな。マテウスは、シュナーベル家の者に愛されてはいるが・・情報の統制をされているらしい」

ヴェルンハルト殿下は、目を細目ながら俺の反応を観察していた。俺はそれを無視して、シュテフェン殿下の姿を思い浮かべていた。

「シュテフェン殿下は、どうして去勢されたのですか?理由をご存知なのでしょ?」

「後宮に囲われたお前に逢うために、奴は去勢したらしいぞ。マテウスは人気者だな?」

俺は殿下をじろりと睨み付けた。不愉快な冗談は聞くだけ無駄だ。

「本当の理由をお聞かせ下さい、殿下」

「笑って主の冗談に付き合う事も、側室の役目だぞ。側室の役割を果たせ、マテウス」

「ヴェルンハルト殿下・・我慢の限界です」

更に俺をからかう殿下に、自然と低い声で話し掛けていた。すると、殿下はひょいと肩を竦めると、シュテフェン殿下の話題を再開した。

「シュテフェンは、死者の眼球集めと眼球解剖の罪で再び告発された。王弟殿下は、眼球集めの趣味を止められなかったようだな?異端審問官により・・シュテフェンは、死者への冒涜と悪魔崇拝の疑いを掛けられている」

「ええ!?」

殿下は俺の反応にいちいちニヤニヤと笑う。鬱陶しいので、ベッドから殿下を蹴落としたい。そんな俺の思いに気付きもせずに、にやつきながら殿下は話を続ける。

「シュテフェンは、同じ罪を二度犯した事となる。陛下は一度目の罪で、弟を軟禁状態とした。だが、慈悲を持って弟を解放した。しかし、今回の件により、シュテフェンは陛下の慈悲を台無しにした。陛下の怒りは相当なものだった。シュテフェンは、牢獄に監禁される。そして、一生そこからは出られないだろうと、誰もがそう思った。陛下も、そうするつもりだった筈だ」

「でも、そうはならなかったのですね。シュテフェン殿下は何らかの方法で罪を免れた?」

ヴェルンハルト殿下は、楽しそうに目を細めて言葉を紡ぐ。

「ああ、そうだ。陛下の御前に呼び出されたシュテフェンは、その両手に小さな壺を握りしめていた。陛下の前で膝をつくと、奴はその小さな壺を床に置いた。そして、シュテフェンは、はっきりとした声で、陛下に対して己の心情を語り始めた」

俺は思わず、ごくりと唾を飲み込んでいた。そんな俺の反応を伺いつつ、殿下が話を続ける。

「『陛下、私は死者を冒涜などしておりません。死者の家族は、皆が貧しい者達ばかりです。死者の埋葬代はおろか生活苦に喘いでおります。私は眼球提供の対価として、相応以上の金銭を渡しておりました。その金銭により、家族は死者を埋葬し、立派な墓標を建てる事ができるのです。彼ら家族は教会に寄付をして、心の安寧を得る事でしょう。そして・・彼らは少しの余裕をもって、生活を送れるのです。これは、死者の魂の願いに沿うものであると考えます。故に、私は死者の魂を汚すような行為は、一度たりとも行っておりません。まして、悪魔など崇拝しておりません』」

殿下は一度言葉をきり、一呼吸入れてから再び語り始めた。

「『私は普通の瞳をもち・・産まれたかった。私はこの瞳により、散々苦しめられました。私は呪われた者とされ・・この瞳により、子をなす事も禁じられました。ですが、私も・・陛下のように、愛する人との間に子をもうけたかった。私は自らの手で、呪われた者でないことを証明したかったのです。ただ、それだけなのです。己の左右の瞳の色が何故違うのかを・・自らの手で解明したかった。私の眼球の研究は、己が普通の人間である事を、人々に認めてもらう為の研究でした』」

「うう、シュテフェン殿下ぁ~!」

俺はシュテフェン殿下の言葉に切なくなった。人々に認められたい。愛する人と共になりたい。とても人間らしい感情を、シュテフェン殿下は、常に否定されて生きてきたのだ。

「シュテフェン殿下の眼球集めの方法には、やはり倫理的問題があるとは思います。ですが、シュテフェン殿下には同情を禁じ得ません」

「話はまだ続くぞ、マテウス?」

「話の腰を折りました。さあ、早く続きを聞かせて下さい。お願いします、ヴェルンハルト殿下!シュテフェン殿下の処遇は!?」

「マテウス、話に食い付き過ぎではないか?それに、どうも情緒不安定気味だ」
 
そうなのだ。俺は後宮の塀に囲まれ、時々気鬱を発症する時がある。子を孕んで嬉しいはずなのに、気持ちが落ち込むのだ。

そんな時は、カールに表に出て貰っている。そろそろ、カールの助けが必要かもしれない。

「殿下、続きを!」

だがしかし、この話は最後まで聞く!俺の不気味な気迫に気圧されたのか、殿下が再び話し出す。

「『しかしながら、私は・・今回も瞳の謎を解き明かすことは出来ませんでした。これ以上、陛下に・・兄上に迷惑をかける訳には参りません。私は今度こそ、眼球研究から身を引くことにいたします。ですが・・私の眼球研究への執着は、己の子孫を残したいという本能から産み出されています。故に、その本能の元を絶つことにより・・今回の罪を購いたく思います。陛下、どうかこの弟を憐れとおもい・・今一度、正しく生きる道を、私にお与え下さい』」

「おうぅ、シュテフェン殿下ぁ~!そして、ここで・・壺の出番ですね、殿下」

「すでに壷の中身は分かっているのだろ?」

「アレですよね、ヴェルンハルト殿下?」

俺はごくりと、唾を飲み込んでいた。



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