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第四章
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◆◆◆◆◆◆
後宮内のファビアン殿下の邸に住み込み、随分と時が経過した。窓から見える『セント・メアリ・ミード村』は、今日も変わらず美しい。
だけど、体調を崩している今の俺には、ベッドのクッションに凭れかかり、窓の外を眺める事しかできない。まあ、この時期は、誰でもこんな状態になるらしいから仕方がないかな?
◇◇◇◇
「マテウス様、おめでとうございます。無事に、妊娠3ヶ月を迎えましたね。赤子の心音も、しっかり聴こえますよ」
「あぁ・・私、本当に嬉しいです」
ルドルフの言葉に、俺は思わず涙ぐんでしまった。ルドルフは聴診器を首にかけると、俺の頭を撫で撫でしてくれた。
「ルドルフおじさま、赤子の心音を私も聴きたいです。おじさまの聴診器をお借りしても、宜しいですか?」
「ああ、もちろん構わないよ」
「ありがとうございます」
俺はルドルフから聴診器を借りると、自身のお腹に当てた。そして、色々と場所を変えてみた。うーむ、心音が聴こえない。
「あの、ルドルフおじさま・・心音が聴こえないのですが?あの、ザーザー音しか聴こえません。あの、その、赤子は無事でしょうか!」
俺があまりに不安な顔をしていたのか、ルドルフは聴診器を再び操り心音を探してくれた。そして、心音を見つけると俺の耳に聴診器を宛がってくれた。
「さて、聴こえるかな?」
「うーん??」
「マテウス様には、どうやら練習が必要なようだね?この聴診器をあげるから、毎日お腹に当ててごらん。その内に、胎児の心音を見つけられるようになる筈だよ。多分ね?」
「ありがとうございます、ルドルフおじさま!嬉しいです!大切にしますね」
俺は聴診器を観察した後、ベッドのサイドテーブルに聴診器を置いた。
「さあ、マテウス様。診察は終わりました。衣服を整えましょう。ところで、これがヘクトール様から贈られた、孕み子用の怠惰の衣装ですか?肌触りも良いし、診察がしやすかったよ。これは、良いね」
俺はヘクトール兄上の功績を誉められて、上機嫌になってしまった。
「そうでしょ、ルドルフおじさま!頻繁に診察が必要な孕み子用に、診察中も肌の露出が最小限に済む事を念頭に開発したそうなのです。着心地は最高だし、この改良版の怠惰の衣装も必ず市場で売れる筈です!兄上にそう伝えて頂けますか、ルドルフおじさま」
「伝えるよ、マテウス様」
「お願いします」
◇◇◇
ヴェルンハルト殿下に、無理矢理ゲームを仕掛けられた時には、本当に心が折れそうになってしまった。しばらく、カールが表の人格を担ってくれていた。
俺は灰色の世界に閉じ籠り、長く時を過ごした。灰色の世界で目覚めている時は、外の様子も少しは分かる様になった。
そんな頃に、ルドルフおじさまが、後宮の邸にやって来てきた。ルドルフおじさまは、去勢して宦官の医師となって俺の前に現れた。
あまりにビックリして、俺はカールに声かけをせずに、無理矢理に人格を交代していた。後で、カールにたっぷりと叱られた。
ルドルフおじさまは、俺が出産するまで邸で主治医として同居したいと申し出てくれた。おれは、躊躇いなく承諾していた。
◇◇◇
「マテウス様、どうしました?」
「少しぼんやりしていました。あの、『つわり』の症状は、いつ頃に終わりますか?」
「悪阻の症状は人によるが、妊娠4ヶ月か5ヶ月位で、大抵の孕み子は楽になる筈だよ?もう少しの辛抱だ、マテウス様。でも、毎日、茹で玉子とグレープフルーツだけでは、栄養が片寄るね?他は、まだ食べられない?」
「梅干しも、毎日食べてますけど?」
「梅干し?マテウス様、あの正体不明の劇物は、口にしてはいけないと言った筈だが?」
ルドルフが顔をしかめた。梅干しの毒味をした時の記憶が、甦ったのかもしれない。
「多量には食べてませんよ?塩分が高い事は、分かっていますから。でも、つわりで吐き気がする時に、口に含むと楽になるんです。それに、梅干しは、正体不明の劇物ではありませんよ?食べ物です。食べ物!」
「しかし、あの王太子殿下が異国より取り寄せた物だよ?しかも、あの味!毒が含まれていても、気が付かない筈だ。主治医として、避けて貰いたい食べ物だがね?」
俺は思わず笑みを漏らした。
「梅干しの件で・・私は王太子殿下に対して、初めて心から感謝したのですよ?軽い気持ちで『梅干しが欲しい』と、殿下におねだりしました。そうしたら、殿下が本当に異国から取り寄せてくれたのです。殿下は少しだけ・・私に、優しく接してくれるようになりました」
ルドルフが僅かに目を細めた。そして、俺の腕を不意に掴んだ。
「マテウス様・・計画は進んでいます」
「っ!」
俺は思わず口に手をやった。そして、ゆっくりと息を吐き出す。
「ルドルフ様、私の気持ちに・・変わりはありません。これは、運命ですから」
「そう聞き、安心しました」
俺は話題を変えることにした。そして、頭に浮かんだのが、アルミンの姿だった。ルドルフおじさまが去勢に踏み切った、直接の原因がアルミンなのだから、現状を聞いておこう。
「ルドルフおじさま、アルミンは元気に過ごしていますか?」
「あいつには困ったものだよ。いまだに、貞操帯を外せない状態でね。不自由にしているようだが、外すとアソコを切り落とそうとするから、外せなくてね・・」
「アルミン~、もう諦めて~」
俺は思わず呟いていた。
◆◆◆◆◆
後宮内のファビアン殿下の邸に住み込み、随分と時が経過した。窓から見える『セント・メアリ・ミード村』は、今日も変わらず美しい。
だけど、体調を崩している今の俺には、ベッドのクッションに凭れかかり、窓の外を眺める事しかできない。まあ、この時期は、誰でもこんな状態になるらしいから仕方がないかな?
◇◇◇◇
「マテウス様、おめでとうございます。無事に、妊娠3ヶ月を迎えましたね。赤子の心音も、しっかり聴こえますよ」
「あぁ・・私、本当に嬉しいです」
ルドルフの言葉に、俺は思わず涙ぐんでしまった。ルドルフは聴診器を首にかけると、俺の頭を撫で撫でしてくれた。
「ルドルフおじさま、赤子の心音を私も聴きたいです。おじさまの聴診器をお借りしても、宜しいですか?」
「ああ、もちろん構わないよ」
「ありがとうございます」
俺はルドルフから聴診器を借りると、自身のお腹に当てた。そして、色々と場所を変えてみた。うーむ、心音が聴こえない。
「あの、ルドルフおじさま・・心音が聴こえないのですが?あの、ザーザー音しか聴こえません。あの、その、赤子は無事でしょうか!」
俺があまりに不安な顔をしていたのか、ルドルフは聴診器を再び操り心音を探してくれた。そして、心音を見つけると俺の耳に聴診器を宛がってくれた。
「さて、聴こえるかな?」
「うーん??」
「マテウス様には、どうやら練習が必要なようだね?この聴診器をあげるから、毎日お腹に当ててごらん。その内に、胎児の心音を見つけられるようになる筈だよ。多分ね?」
「ありがとうございます、ルドルフおじさま!嬉しいです!大切にしますね」
俺は聴診器を観察した後、ベッドのサイドテーブルに聴診器を置いた。
「さあ、マテウス様。診察は終わりました。衣服を整えましょう。ところで、これがヘクトール様から贈られた、孕み子用の怠惰の衣装ですか?肌触りも良いし、診察がしやすかったよ。これは、良いね」
俺はヘクトール兄上の功績を誉められて、上機嫌になってしまった。
「そうでしょ、ルドルフおじさま!頻繁に診察が必要な孕み子用に、診察中も肌の露出が最小限に済む事を念頭に開発したそうなのです。着心地は最高だし、この改良版の怠惰の衣装も必ず市場で売れる筈です!兄上にそう伝えて頂けますか、ルドルフおじさま」
「伝えるよ、マテウス様」
「お願いします」
◇◇◇
ヴェルンハルト殿下に、無理矢理ゲームを仕掛けられた時には、本当に心が折れそうになってしまった。しばらく、カールが表の人格を担ってくれていた。
俺は灰色の世界に閉じ籠り、長く時を過ごした。灰色の世界で目覚めている時は、外の様子も少しは分かる様になった。
そんな頃に、ルドルフおじさまが、後宮の邸にやって来てきた。ルドルフおじさまは、去勢して宦官の医師となって俺の前に現れた。
あまりにビックリして、俺はカールに声かけをせずに、無理矢理に人格を交代していた。後で、カールにたっぷりと叱られた。
ルドルフおじさまは、俺が出産するまで邸で主治医として同居したいと申し出てくれた。おれは、躊躇いなく承諾していた。
◇◇◇
「マテウス様、どうしました?」
「少しぼんやりしていました。あの、『つわり』の症状は、いつ頃に終わりますか?」
「悪阻の症状は人によるが、妊娠4ヶ月か5ヶ月位で、大抵の孕み子は楽になる筈だよ?もう少しの辛抱だ、マテウス様。でも、毎日、茹で玉子とグレープフルーツだけでは、栄養が片寄るね?他は、まだ食べられない?」
「梅干しも、毎日食べてますけど?」
「梅干し?マテウス様、あの正体不明の劇物は、口にしてはいけないと言った筈だが?」
ルドルフが顔をしかめた。梅干しの毒味をした時の記憶が、甦ったのかもしれない。
「多量には食べてませんよ?塩分が高い事は、分かっていますから。でも、つわりで吐き気がする時に、口に含むと楽になるんです。それに、梅干しは、正体不明の劇物ではありませんよ?食べ物です。食べ物!」
「しかし、あの王太子殿下が異国より取り寄せた物だよ?しかも、あの味!毒が含まれていても、気が付かない筈だ。主治医として、避けて貰いたい食べ物だがね?」
俺は思わず笑みを漏らした。
「梅干しの件で・・私は王太子殿下に対して、初めて心から感謝したのですよ?軽い気持ちで『梅干しが欲しい』と、殿下におねだりしました。そうしたら、殿下が本当に異国から取り寄せてくれたのです。殿下は少しだけ・・私に、優しく接してくれるようになりました」
ルドルフが僅かに目を細めた。そして、俺の腕を不意に掴んだ。
「マテウス様・・計画は進んでいます」
「っ!」
俺は思わず口に手をやった。そして、ゆっくりと息を吐き出す。
「ルドルフ様、私の気持ちに・・変わりはありません。これは、運命ですから」
「そう聞き、安心しました」
俺は話題を変えることにした。そして、頭に浮かんだのが、アルミンの姿だった。ルドルフおじさまが去勢に踏み切った、直接の原因がアルミンなのだから、現状を聞いておこう。
「ルドルフおじさま、アルミンは元気に過ごしていますか?」
「あいつには困ったものだよ。いまだに、貞操帯を外せない状態でね。不自由にしているようだが、外すとアソコを切り落とそうとするから、外せなくてね・・」
「アルミン~、もう諦めて~」
俺は思わず呟いていた。
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