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第四章
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◆◆◆◆◆◆
「持ち歩いている毒薬の中に、堕胎薬もコレクションしていただけだ。シルフィウムには劣るが、弱毒性の物だ。子は流れる。だが、マテウスの体に異常は残らない。苦しみはあるが、一時の事だ。必要なら・・今渡す」
カールは押し黙った。そして、アルミンに向かい、俯きがちに呟いた。
「体の苦しみは一時でも、心の傷は生涯続く。そう思わない、アルミン?」
「マテウス、こんなかたちで孕むのは・・お前の為にはならない。辛くても、選択肢の一つとして・・」
カールはアルミンを睨み付けていた。
「僕はカールだよ、アルミン?間違えないで欲しいな。それと、アルミンは、全然分かってない。マテウスは、産みの親のグンナーが死ぬ姿を見て言葉を失ったんだよ?今でも、マテウスは怖がっている。血が流れ・・子が流れることを。マテウスは、今度こそ壊れるかもしれないね・・心が」
「俺はそんな事は望んでいない。マテウスの心を壊してまで、堕胎を勧める訳がないだろ?」
「堕胎薬を見せられただけでも、マテウスの心にはヒビが入るだろうね。そして、心が壊れてしまったら・・僕が、主人格だね?なんて、魅力的だろう。でもね、僕はそうはしない。僕はマテウスに嫌われたくないからね。アルミンも嫌われたくないなら、堕胎の件は話題に出さない方がいいよ?まあ、出産までは、マテウスは後宮から出ないから・・アルミンは、当分はマテウスには会えないだろうけどね?」
マテウスは苦い顔をして、カールからは視線を反らした。カールはアルミンの様子を伺いながらも、先から気になっている事を口にした。
「ねえ、収納家具から微かに音がするのだけど・・あれは、何?」
「ああ、ファビアン殿下だ」
「ええ?ファビアン殿下を、収納家具にいれたの?どうして?アルミン、正気か?」
「邸に侵入する時に、裏庭でファビアン殿下を見つけた。マテウスと一緒に後宮から連れ出そうとしたら、抵抗されてな・・事情を聞いたら、全て吐いた。ファビアン殿下は、マテウスを騙して収納家具に閉じ込めて、門限まで足止めするよう企てた事をな。だから、ファビアン殿下を気絶させて、収納家具に突っ込んだ」
カールがあきれた表情で呟いた。
「・・アルミンは短気なのか?こんな奴に、処刑計画を任せて大丈夫なのか・・僕は心配でたまらないよ。とにかく、ファビアン殿下は、後で僕が救出するよ」
「ああ、ファビアン殿下の件はお前に任せる。短気かって?まあ、俺は処刑人としては・・短気だったかもな。罪人の首をすぐにはねるから、見学者には不評だった。見学者は処刑人が首をはねるのを失敗して、罪人が苦しむのをみたがるんだよな。だが、わざわざ失敗するなんて面倒だろ?肉塊の後片付けもあるし、俺は短気で面倒くさがりなんだよ。性格だから、仕方ないだろ、カール?」
「色々、心配だ・・」
「その反応はなんだよ。まあいい。処刑計画の立案は、ヘクトール様が担当するのだろ?ヘクトール様なら、上手くこなして下さる筈だ。うーん、マテウスの護衛の仕事がなくなると、領地で処刑人の仕事をこなしながら、ヘクトール様の手伝いをする事になるか?あるいは・・」
「アルミン・・マテウスに迷惑を掛けるような事は、絶対にするなよ?」
「分かっているよ、カール。それより、『マテウスの伝言』はそれで終わりか?」
「ああ、終わりだ。終わりだが・・」
カールは表情を暗くしてうつ向いた。
「なんだよ、いきなり?」
「マテウスが伝えることを望んでいるのか、分からないメッセージがある。僕は・・伝えたくない」
「カール・・マテウスの言葉を隠すな。独り占めするな。話すつもりがないなら、カールなら端からおくびにも出さなかった筈だよな?勿体ぶるな、カール」
アルミンの声は低く、殺気が籠っていた。カールははっとして、アルミンを見た。そして、マテウスの言葉を、カールは口にすることにした。
「『違う!!全然、違う!私が伝えたいことは、そんな事じゃない。ヘクトール兄上、全てはただの言い訳です。綺麗事です。どうか、兄上、私への『愛の為に』手を血で染めて下さい。私を、ヘクトール兄上の元に連れ帰るために、ヴェルンハルト殿下を・・殺して下さい。あにうえ、私はシュナーベル家に帰りたい。皆の元に帰りたいのです。あにうえ、ごめんなさい、帰りたいです。あにうえ、あにうえ、帰りたい、あにうえの元に、皆の元に、帰りたいです』・・これが、マテウスの本音」
「・・・」
アルミンは黙って頷いた。悲痛な表情を隠すことを諦めたのか、アルミンは辛そうに言葉を紡いだ。
「・・俺はもう行く。カール、マテウスを頼むな。マテウスは、ヘクトール様だけではなく『皆の元』に帰りたいと言ったんだよな?なら、その中に俺は含まれている筈だ。ならば、俺はヘクトール様の為ではなく・・俺自身の為に、マテウスを取り戻す」
アルミンは、それだけをカールに伝えると素早く身を離した。そして、カールを振り替えることもなく、その場を去っていった。カールはアルミンの後ろ姿を見送った後、深く息を吐き出した。
「さて、まだ厄介な子の対応が残っているな」
カールは、収納家具に視線を送ると、ぼそりと呟いた。カールは髪をくしゃりと弄った後、収納家具に向かい歩きだしていた。ファビアン殿下にどう接したらよいものかと、頭を悩ませながら。
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「持ち歩いている毒薬の中に、堕胎薬もコレクションしていただけだ。シルフィウムには劣るが、弱毒性の物だ。子は流れる。だが、マテウスの体に異常は残らない。苦しみはあるが、一時の事だ。必要なら・・今渡す」
カールは押し黙った。そして、アルミンに向かい、俯きがちに呟いた。
「体の苦しみは一時でも、心の傷は生涯続く。そう思わない、アルミン?」
「マテウス、こんなかたちで孕むのは・・お前の為にはならない。辛くても、選択肢の一つとして・・」
カールはアルミンを睨み付けていた。
「僕はカールだよ、アルミン?間違えないで欲しいな。それと、アルミンは、全然分かってない。マテウスは、産みの親のグンナーが死ぬ姿を見て言葉を失ったんだよ?今でも、マテウスは怖がっている。血が流れ・・子が流れることを。マテウスは、今度こそ壊れるかもしれないね・・心が」
「俺はそんな事は望んでいない。マテウスの心を壊してまで、堕胎を勧める訳がないだろ?」
「堕胎薬を見せられただけでも、マテウスの心にはヒビが入るだろうね。そして、心が壊れてしまったら・・僕が、主人格だね?なんて、魅力的だろう。でもね、僕はそうはしない。僕はマテウスに嫌われたくないからね。アルミンも嫌われたくないなら、堕胎の件は話題に出さない方がいいよ?まあ、出産までは、マテウスは後宮から出ないから・・アルミンは、当分はマテウスには会えないだろうけどね?」
マテウスは苦い顔をして、カールからは視線を反らした。カールはアルミンの様子を伺いながらも、先から気になっている事を口にした。
「ねえ、収納家具から微かに音がするのだけど・・あれは、何?」
「ああ、ファビアン殿下だ」
「ええ?ファビアン殿下を、収納家具にいれたの?どうして?アルミン、正気か?」
「邸に侵入する時に、裏庭でファビアン殿下を見つけた。マテウスと一緒に後宮から連れ出そうとしたら、抵抗されてな・・事情を聞いたら、全て吐いた。ファビアン殿下は、マテウスを騙して収納家具に閉じ込めて、門限まで足止めするよう企てた事をな。だから、ファビアン殿下を気絶させて、収納家具に突っ込んだ」
カールがあきれた表情で呟いた。
「・・アルミンは短気なのか?こんな奴に、処刑計画を任せて大丈夫なのか・・僕は心配でたまらないよ。とにかく、ファビアン殿下は、後で僕が救出するよ」
「ああ、ファビアン殿下の件はお前に任せる。短気かって?まあ、俺は処刑人としては・・短気だったかもな。罪人の首をすぐにはねるから、見学者には不評だった。見学者は処刑人が首をはねるのを失敗して、罪人が苦しむのをみたがるんだよな。だが、わざわざ失敗するなんて面倒だろ?肉塊の後片付けもあるし、俺は短気で面倒くさがりなんだよ。性格だから、仕方ないだろ、カール?」
「色々、心配だ・・」
「その反応はなんだよ。まあいい。処刑計画の立案は、ヘクトール様が担当するのだろ?ヘクトール様なら、上手くこなして下さる筈だ。うーん、マテウスの護衛の仕事がなくなると、領地で処刑人の仕事をこなしながら、ヘクトール様の手伝いをする事になるか?あるいは・・」
「アルミン・・マテウスに迷惑を掛けるような事は、絶対にするなよ?」
「分かっているよ、カール。それより、『マテウスの伝言』はそれで終わりか?」
「ああ、終わりだ。終わりだが・・」
カールは表情を暗くしてうつ向いた。
「なんだよ、いきなり?」
「マテウスが伝えることを望んでいるのか、分からないメッセージがある。僕は・・伝えたくない」
「カール・・マテウスの言葉を隠すな。独り占めするな。話すつもりがないなら、カールなら端からおくびにも出さなかった筈だよな?勿体ぶるな、カール」
アルミンの声は低く、殺気が籠っていた。カールははっとして、アルミンを見た。そして、マテウスの言葉を、カールは口にすることにした。
「『違う!!全然、違う!私が伝えたいことは、そんな事じゃない。ヘクトール兄上、全てはただの言い訳です。綺麗事です。どうか、兄上、私への『愛の為に』手を血で染めて下さい。私を、ヘクトール兄上の元に連れ帰るために、ヴェルンハルト殿下を・・殺して下さい。あにうえ、私はシュナーベル家に帰りたい。皆の元に帰りたいのです。あにうえ、ごめんなさい、帰りたいです。あにうえ、あにうえ、帰りたい、あにうえの元に、皆の元に、帰りたいです』・・これが、マテウスの本音」
「・・・」
アルミンは黙って頷いた。悲痛な表情を隠すことを諦めたのか、アルミンは辛そうに言葉を紡いだ。
「・・俺はもう行く。カール、マテウスを頼むな。マテウスは、ヘクトール様だけではなく『皆の元』に帰りたいと言ったんだよな?なら、その中に俺は含まれている筈だ。ならば、俺はヘクトール様の為ではなく・・俺自身の為に、マテウスを取り戻す」
アルミンは、それだけをカールに伝えると素早く身を離した。そして、カールを振り替えることもなく、その場を去っていった。カールはアルミンの後ろ姿を見送った後、深く息を吐き出した。
「さて、まだ厄介な子の対応が残っているな」
カールは、収納家具に視線を送ると、ぼそりと呟いた。カールは髪をくしゃりと弄った後、収納家具に向かい歩きだしていた。ファビアン殿下にどう接したらよいものかと、頭を悩ませながら。
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