嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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アルミンは目を細めたり、目を大きく見開いたりしながら『マテウス』をじろじろと観察した。そして、首をひねり結論を出すことを断念した。

「見た目は、どう見てもマテウスだが・・お前が、自分を『カール』だと主張するなら、俺はそれに従う。きっと、そうする必要があるのだろうから。で、俺は今のお前を『カール』と呼べばいいのか?」

「ああ、そうだね。僕の事は、カールと呼んで欲しい。主人格のマテウスだけど、今は深い眠りに入っているから。だから、今は別人格の僕との人格の入れ替わりは不可能なんだ。だから、マテウスを出せとか、僕に無理難題は言わないでね、アルミン」

「うーむ。分かった、カール。じゃあ、カールを担いで、後宮を後にするとするか」

カールは、自身を抱き上げようとする、アルミンの行動を制した。そして、口を開く。

「マテウスからの伝言があると言った筈だよ、アルミン?、今からアルミンにマテウスからの伝言を伝えるから・・全てを聞いてから、アルミンには行動をして欲しい」

「マテウス、伝言ならシュナーベル家で聞く」
「僕はカールだよ、アルミン?」
「カール、伝言ならシュナーベル家で聞く」

カールは、再びため息を付いた。そして、アルミンをきつく睨み付けて、言葉を発していた。

「マテウスの伝言の中には、当分の間は後宮に留まるという内容も含まれている。それに、僕はね・・アルミンの事は、護衛として信用していないから。今の状況で、マテウスをシュナーベル家に連れ帰ると言っている時点で、処刑人としての感覚が鈍っているとしか思えない」

「なっ!」

カールは涼しい顔で言葉を続けた。

「ヘクトール兄上も、アルミンも、マテウスに対する愛情が過剰なんだよ。だから、判断を誤る。ヘクトール兄上は、アルミンをマテウスの護衛に付けるべきではなかった。そして、アルミンは護衛の任を自ら退くべきだった。そうすれば、今日のような出来事は起きなかった筈だよ?違う?」

アルミンは返事に詰まり、黙り込んだ。そして、ようやくアルミンは、相手がマテウスではない別人格のカールであると認識し始めていた。

「・・マテウスは、本当に眠っているだけなんだろうな?全ては、別人格のお前がマテウスを押し退けて・・主人格に成り代わろうとしているだけじゃないのか?」

警戒を露にし始めたアルミンに、カールは正直困っていた。カールは苦笑いを浮かべて、アルミンに応じる。

「アルミンは・・ヘクトール兄上と、同じ考えの持ち主みたいだね。あのね、僕はヘクトール兄上に消される事を恐れて、ずっと、ずっと、マテウスの心の中に隠れるしかない、か弱い存在なんだよ?だけど、シュナーベル家の男たちがあまりに、頼りないから・・僕が表に出てきたんじゃないか。僕を責める前に、まずは自分達を責めなよ。鬱陶しいな・・」

「なんか・・すげーむかつくんだが。本物のカールと、話している時の事を思い出した。あいつは不幸な奴だった。だが、それでも話しているとムカついてくるんだよな。俺を臭いとか言いやがって。カールの記憶が甦ってきた。うん?え、まさか?マテウスに・・死んだカールが憑いて・・えっ?え?」

カールはベッドから降り立つと、アルミンの股間を蹴り飛ばした。アルミンは不意をつかれて、避けることが出来なかった。

「ぎゅおおっ!」
「ああ、可哀想なアルミン」

カールは前屈姿勢になったアルミンに抱き付いた。そして、アルミンの耳元でぼそりと呟いた。

「今から、アルミンに抱きついたまま、小声で話しかけるね。これは、マテウスからの大切な伝言だから、アルミンの虫並みの脳でも意地でも覚えて。そして、一言一句違えずに、ヘクトール兄上に伝えて。いい、アルミン?」

「くそ、股間を蹴るとか・・貴様は鬼畜か!だが、お陰で頭に血が巡り、記憶するには最高の状態になった。抱きついて耳元で囁くなら、定番は愛の言葉だな。まあ、処刑話の場合もあるか?どちらだ、カール?」

カールはニヤリと笑い、逢瀬に焦がれる孕み子を演じる。そして、アルミンの耳元で『マテウスの伝言』を囁き始めた。


◇◇◇◇◇


アルミンは『マテウスの伝言』を、全て聞き終わった時には処刑人の顔をしていた。その事に満足したカールは、アルミンから身を離そうとした。だが、それをアルミンは制した。

「カール・・マテウスを出せ」

「だから、今は眠っているから無理だと言っただろ?アルミンは聞いていなかったのか?」

「マテウスと言葉を交わしたい。本当に、これが・・マテウスの望みなのか、信じることは難しい。お前は、信用できない・・カール」

カールは肩を竦めて、アルミンに応じる。

「それは、僕も同じだ。僕はね、アルミンもヘクトール兄上も、死んだカールも大嫌いなんだよ。そして・・マテウスが孕んだ子もね。僕は、マテウスが眠っているうちに・・堕胎したい。だけど、マテウスは子を産むことを望んでいる。僕の葛藤がわかる、アルミンに?」

アルミンは躊躇いがちに、カールに提案した。

「俺は、堕胎薬を持っている」

「僕も、たぶんそうだと思っていたよ?」


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