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第四章
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◆◆◆◆◆◆
俺は息を整える為に、一旦会話を切った。カールは俺の様子を伺いながら、聞いてきた。
「マテウス、それで終わり?」
「まだあるよ。カールに覚えられるかな?」
「マテウスよりは、頭は良いと思うよ?」
「同じ脳なのに?」
「同じ脳だけどね!」
「ふふ、頼もしいね。じゃあ、あと少しだけよろしくね、カール!」
「いいよ、マテウス」
俺は目を瞑り、ヘクトール兄上の姿を思い描きながら、口を開いた。
「『どうか、兄上。シュナーベル家の為に、手を血で染めて下さい。父上を殺して下さい。そして、侯爵家当主となってください。兄上、ヘクトール兄上。どうか、シュナーベル家の血脈を守って下さい。私達は『死と再生を司る神』の末裔です。たとえ、フォルカー教が世を席巻しようとも、我々は滅びてはならないのです。多様性を認め合えない国に、未来はありません。それは、歴史が証明しています・・』」
「マテウス?」
俺はカールにすがり付いて、いつの間にか泣き出していた。涙と共に、情けない本音がボロボロ溢れて止まらなくなってしまった。
「違う!!全然、違う!私が伝えたいことは、そんな事じゃない。ヘクトール兄上、全てはただの言い訳です。綺麗事です。どうか、兄上、私への『愛の為に』手を血で染めて下さい。私を、ヘクトール兄上の元に連れ帰るために、ヴェルンハルト殿下を・・殺して下さい。あにうえ、私はシュナーベル家に帰りたい。皆の元に帰りたいのです。あにうえ、ごめんなさい、帰りたいです。あにうえ、あにうえ、帰りたい、あにうえの元に、皆の元に、帰りたいです。」
泣き崩れる俺を、カールは優しく抱き止めてくれた。こんな情けない姿を見せたくはないけど、カールは私でもあるから・・許されるかな?
「・・マテウスは、頑張りすぎだよ。もう、休む時間だよ。ね、マテウス?」
「頑張ってないよ、私は何も頑張ってない」
「マテウス!」
「っ!」
カールに強い口調で呼び掛けられて、俺ははっとしてカールを見た。カールは穏やかな笑みを浮かべ、俺に話しかけてきた。
「ほら、聞こえるでしょ?後宮の門限の鐘が鳴っているよ、マテウス。あれは、教会の鐘だね?機会があれば、教会を見学にいこうよ、マテウス!だって、ここは、マテウスが大好きな村がモデルなんだろ?」
「うん、そうだよ。一緒にいこうね・・」
急激な睡魔に襲われる。俺は怖くなってカールに抱きついた。カールが俺の髪を、優しく撫でてくれた。俺はカールに抱き付いたまま、深い眠りについた。
◇◇◇◇◇
アルミンは、ベッドで眠る『マテウス』を見つけて後悔の念に駆られていた。『マテウス』は、怠惰の衣装ではなく、美しい絹の衣を身に纏いベッドで眠っていた。
「・・マテウス」
アルミンは、思わず幼馴染みの名を呼んでいた。そして、唇を噛み締めて、アルミンは己の浅はかな行動を悔いていた。
「マテウスを、後宮に行かせるべきじゃなかった。俺は護衛なのに・・何をしていたんだ」
アルミンは、何の妨害もなく後宮の邸に侵入することが出来た。その時点で、アルミンはマテウスの身に何が起きたのかを、ほぼ確信していた。
「くそ、後悔するのは後だ!今は、マテウスをシュナーベル家の邸に連れ帰って・・」
不意にベッドで眠る『マテウス』が、身じろぎをした。そして、ゆっくりと目を覚ます。
「んっ・・」
「マテウス、目が覚めたか?」
アルミンはベッドに近づき、目覚めたばかりの『マテウス』に小声で話しかける。
「どういう目的かは分からないが、後宮の警備が手薄になっている。今なら、マテウスを担いで後宮の壁を越えられる。だから、その・・体に触れてもいいか、マテウス?」
アルミンの言葉を聞くと、『マテウス』は深いため息を付いた。そして、上半身を起こしアルミンの視線を捉えた。
「どうやら、マテウスの殿下に対する評価は、正しかったみたいだね。アルミン、最初に訂正しておくね。僕は、マテウスじゃない。マテウスの別人格で、名前は『カール』。アルミンとは、初めましてだよね?」
「はぁ?別人格?で、名前がカール?いや、それはあり得ないだろ。ん、いや、まて!俺は、マテウスを、全否定した訳じゃないからな?その、あれだ。大丈夫だ!今は、混乱しているだけだ、マテウス!とにかく、シュナーベルの邸に戻って休もうな?」
アルミンが慌てて『マテウス』をファローする。アルミンが『カール』の存在を全く信じていない様子に寂しさを覚えつつも、カールは皮肉な笑みを浮かべて応じた。
「混乱しているのは、アルミンの方だと思うよ?僕はカールと名乗っているけれど、亡くなったカールとは別人だから・・混同しないでね、アルミン?さて・・混乱中のアルミンには悪いけど、マテウスからの大切な伝言を伝えないと駄目なんだよ。だから、冷静になってくれないかな、アルミン= シュナーベル?」
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俺は息を整える為に、一旦会話を切った。カールは俺の様子を伺いながら、聞いてきた。
「マテウス、それで終わり?」
「まだあるよ。カールに覚えられるかな?」
「マテウスよりは、頭は良いと思うよ?」
「同じ脳なのに?」
「同じ脳だけどね!」
「ふふ、頼もしいね。じゃあ、あと少しだけよろしくね、カール!」
「いいよ、マテウス」
俺は目を瞑り、ヘクトール兄上の姿を思い描きながら、口を開いた。
「『どうか、兄上。シュナーベル家の為に、手を血で染めて下さい。父上を殺して下さい。そして、侯爵家当主となってください。兄上、ヘクトール兄上。どうか、シュナーベル家の血脈を守って下さい。私達は『死と再生を司る神』の末裔です。たとえ、フォルカー教が世を席巻しようとも、我々は滅びてはならないのです。多様性を認め合えない国に、未来はありません。それは、歴史が証明しています・・』」
「マテウス?」
俺はカールにすがり付いて、いつの間にか泣き出していた。涙と共に、情けない本音がボロボロ溢れて止まらなくなってしまった。
「違う!!全然、違う!私が伝えたいことは、そんな事じゃない。ヘクトール兄上、全てはただの言い訳です。綺麗事です。どうか、兄上、私への『愛の為に』手を血で染めて下さい。私を、ヘクトール兄上の元に連れ帰るために、ヴェルンハルト殿下を・・殺して下さい。あにうえ、私はシュナーベル家に帰りたい。皆の元に帰りたいのです。あにうえ、ごめんなさい、帰りたいです。あにうえ、あにうえ、帰りたい、あにうえの元に、皆の元に、帰りたいです。」
泣き崩れる俺を、カールは優しく抱き止めてくれた。こんな情けない姿を見せたくはないけど、カールは私でもあるから・・許されるかな?
「・・マテウスは、頑張りすぎだよ。もう、休む時間だよ。ね、マテウス?」
「頑張ってないよ、私は何も頑張ってない」
「マテウス!」
「っ!」
カールに強い口調で呼び掛けられて、俺ははっとしてカールを見た。カールは穏やかな笑みを浮かべ、俺に話しかけてきた。
「ほら、聞こえるでしょ?後宮の門限の鐘が鳴っているよ、マテウス。あれは、教会の鐘だね?機会があれば、教会を見学にいこうよ、マテウス!だって、ここは、マテウスが大好きな村がモデルなんだろ?」
「うん、そうだよ。一緒にいこうね・・」
急激な睡魔に襲われる。俺は怖くなってカールに抱きついた。カールが俺の髪を、優しく撫でてくれた。俺はカールに抱き付いたまま、深い眠りについた。
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アルミンは、ベッドで眠る『マテウス』を見つけて後悔の念に駆られていた。『マテウス』は、怠惰の衣装ではなく、美しい絹の衣を身に纏いベッドで眠っていた。
「・・マテウス」
アルミンは、思わず幼馴染みの名を呼んでいた。そして、唇を噛み締めて、アルミンは己の浅はかな行動を悔いていた。
「マテウスを、後宮に行かせるべきじゃなかった。俺は護衛なのに・・何をしていたんだ」
アルミンは、何の妨害もなく後宮の邸に侵入することが出来た。その時点で、アルミンはマテウスの身に何が起きたのかを、ほぼ確信していた。
「くそ、後悔するのは後だ!今は、マテウスをシュナーベル家の邸に連れ帰って・・」
不意にベッドで眠る『マテウス』が、身じろぎをした。そして、ゆっくりと目を覚ます。
「んっ・・」
「マテウス、目が覚めたか?」
アルミンはベッドに近づき、目覚めたばかりの『マテウス』に小声で話しかける。
「どういう目的かは分からないが、後宮の警備が手薄になっている。今なら、マテウスを担いで後宮の壁を越えられる。だから、その・・体に触れてもいいか、マテウス?」
アルミンの言葉を聞くと、『マテウス』は深いため息を付いた。そして、上半身を起こしアルミンの視線を捉えた。
「どうやら、マテウスの殿下に対する評価は、正しかったみたいだね。アルミン、最初に訂正しておくね。僕は、マテウスじゃない。マテウスの別人格で、名前は『カール』。アルミンとは、初めましてだよね?」
「はぁ?別人格?で、名前がカール?いや、それはあり得ないだろ。ん、いや、まて!俺は、マテウスを、全否定した訳じゃないからな?その、あれだ。大丈夫だ!今は、混乱しているだけだ、マテウス!とにかく、シュナーベルの邸に戻って休もうな?」
アルミンが慌てて『マテウス』をファローする。アルミンが『カール』の存在を全く信じていない様子に寂しさを覚えつつも、カールは皮肉な笑みを浮かべて応じた。
「混乱しているのは、アルミンの方だと思うよ?僕はカールと名乗っているけれど、亡くなったカールとは別人だから・・混同しないでね、アルミン?さて・・混乱中のアルミンには悪いけど、マテウスからの大切な伝言を伝えないと駄目なんだよ。だから、冷静になってくれないかな、アルミン= シュナーベル?」
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