156 / 239
第四章
191
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆
全身に甘い痺れを感じて、カールは目を覚ました。目覚めたカールは、一瞬自分がどこにいるのか、分からなかった。
何故なら、紫の花を開花させたシルフィウムの花畑が、どこまでも広がっていたからだ。カールは目を一度閉じた。そして、ゆっくりと開いた。再度開いたカールの眼差しにも、紫の色彩が写り込んでいた。
「シルフィウムの花畑だ!いや、花弁が紫だから、シルフィウムの亜種の花畑かな?」
上空を見上げると、そこには相変わらず灰色の空が広がっていた。でも、紫の花びらが上空に舞い、灰色の世界が紫色に霞んでいた。
「綺麗だな・・」
カールはシルフィウムの色彩に目を奪われ、そのまま地面に転がった。さわさわと優しく草花が揺れる。思わず笑顔が漏れた。
「んっ!?」
その時、また体に甘い痺れを感じて、カールは身を起こした。カールは首を傾げて、周囲を見回す。だが、美しいシルフィウムの花畑以外は何もなかった。
『殿下・・』
『なんだ、マテウス?』
カールは、突然聞こえた『マテウス』の声に体を震わせた。カールはそこでようやく『マテウス』と無理矢理に、人格を交代した事を思い出した。
◇◇◇
『殿下・・射精は一回の約束です』
『体内に出したのは一回だけだろ?だが、勃起が止まらないのだから、マテウスが責任をとるべきだ。俺を、煽りに煽ったのだからな』
『だからって・・顔に掛けますか、普通?』
『マテウスが、気を失いかけていたからだ。だから、顔に掛けた。目が覚めただろ?殴ってもよかったが・・痛いのは嫌だろ、マテウス?さて、ゲームは終了した』
『シュナーベル家に、にいさまの元に、帰りたい。わたし、帰りたいです・・殿下』
『孕んでいなければ、すぐにシュナーベルの家に返してやる。だが、孕んでいる場合は、後宮ですごせ。ファビアンも喜ぶだろう』
『ファビアン殿下は、どこにいらっしゃいますか?私は殿下に謝らないと・・』
『ファビアンなら、この邸の裏庭に隠れているところを俺が見つけた。その時に、あいつがマテウスを、収納家具に閉じ込めた事を聞いた』
『そうですか。殿下が無事でよかった』
『・・そうか。マテウスはファビアンの裏切りを知らないのか。収納家具から出たときは、カールだったからな』
『ファビアン殿下が・・裏切った?』
『そうだ。ファビアンは、己の願いを叶えるために、俺の指示に従った。収納家具に閉じ込めたのは予想外だったが、後宮の門限までマテウスを足止めすることに成功した。成功報酬をファビアンにやらねばな』
『ファビアン殿下の願いとは何だったのですか?教えてください、ヴェルンハルト殿下!』
『中々に無茶な願いだが・・ファビアンはマテウスを、己の産みの親にしたいらしい。随分と懐かれたな、マテウス。ファビアンは本物の産みの親より、お前が欲しいらしい』
『ファビアン殿下・・あぁ・・』
『マテウス、泣いている場合ではないぞ?ファビアンに、裸に精液まみれの姿は見られたくはないだろ?邸の一階には、後宮の孕み子が待機している。側室の扱いには慣れているから、彼らに全てをまかせろ、マテウス』
『私は側室ではありません、殿下』
『ああ、そうだったな。だが、お前を世話する孕み子たちは、お前を側室と思い世話をするだろう。それだけのことだ。さて、俺はこれから王城に戻り・・妃候補のアルトゥールを抱かねばならない。王太子の義務だが、疲れる』
『このような馬鹿らしいゲームを、殿下が仕掛けるから疲れるのです。疲れているからといって、アルトゥール様に当たらず、大切に扱って下さいね、殿下』
『嫉妬もなしか、マテウス。まあいい・・俺は行く。また来る、マテウス』
『・・・』
『返事をしろ、マテウス』
『行ってらっしゃいませ、殿下』
『ああ、行ってくる』
◇◇◇
カールは会話を全て耳にして、その場に蹲った。涙が止まらなくなったカールは、風にゆれるシルフィウムを引きちぎり口に含んだ。
「マテウス、マテウス!」
本来のシルフィウムは黄色の花を咲かせる。この花は紫の花弁だ。シルフィウムの亜種ではないのかもしれない。それでも、カールは花弁をいくつも口に含み飲み込んだ。
「僕は、本当は、マテウスに孕んでなんて欲しくなかった!ヘクトール兄上の子供なんて、欲しくなかった!子供なんて、流れればいい!」
もしも、シルフィウムと同じく堕胎の効能があるのならば、腹の子は流れればいい。カールはそう思いながら、紫の花弁を口に含み続けた。
「マテウス、僕だけのマテウス。僕はここにいる。僕を忘れないで、マテウス!」
『カール?』
不意にカールを呼ぶ声が聞こえた。カールは体を震わせながら、その人の名前を呼んだ。
「マテウス!」
『声が・・よく聞こえないよ、カール。私、気を失いそうで・・ねえ、カールに会いに行くから、私を見つけてくれる。カール?カール?』
「見つけるよ!早くおいで、マテウス!灰色の世界が、紫の花でいっぱいなんだ!綺麗だよ!だから、早くおいで。マテウス!」
『カール、聞こえている?』
カールは、紫の花咲く草原を走り出した。カールは感覚を研ぎすませながら、マテウスを探す。
「マテウス、聞こえているよ!僕はここにいるよ。マテウス!マテウス!」
きっと見つけると心に想いを刻み、カールはマテウスの名を叫び続けた。
「マテウスーー!」
◆◆◆◆◆◆
全身に甘い痺れを感じて、カールは目を覚ました。目覚めたカールは、一瞬自分がどこにいるのか、分からなかった。
何故なら、紫の花を開花させたシルフィウムの花畑が、どこまでも広がっていたからだ。カールは目を一度閉じた。そして、ゆっくりと開いた。再度開いたカールの眼差しにも、紫の色彩が写り込んでいた。
「シルフィウムの花畑だ!いや、花弁が紫だから、シルフィウムの亜種の花畑かな?」
上空を見上げると、そこには相変わらず灰色の空が広がっていた。でも、紫の花びらが上空に舞い、灰色の世界が紫色に霞んでいた。
「綺麗だな・・」
カールはシルフィウムの色彩に目を奪われ、そのまま地面に転がった。さわさわと優しく草花が揺れる。思わず笑顔が漏れた。
「んっ!?」
その時、また体に甘い痺れを感じて、カールは身を起こした。カールは首を傾げて、周囲を見回す。だが、美しいシルフィウムの花畑以外は何もなかった。
『殿下・・』
『なんだ、マテウス?』
カールは、突然聞こえた『マテウス』の声に体を震わせた。カールはそこでようやく『マテウス』と無理矢理に、人格を交代した事を思い出した。
◇◇◇
『殿下・・射精は一回の約束です』
『体内に出したのは一回だけだろ?だが、勃起が止まらないのだから、マテウスが責任をとるべきだ。俺を、煽りに煽ったのだからな』
『だからって・・顔に掛けますか、普通?』
『マテウスが、気を失いかけていたからだ。だから、顔に掛けた。目が覚めただろ?殴ってもよかったが・・痛いのは嫌だろ、マテウス?さて、ゲームは終了した』
『シュナーベル家に、にいさまの元に、帰りたい。わたし、帰りたいです・・殿下』
『孕んでいなければ、すぐにシュナーベルの家に返してやる。だが、孕んでいる場合は、後宮ですごせ。ファビアンも喜ぶだろう』
『ファビアン殿下は、どこにいらっしゃいますか?私は殿下に謝らないと・・』
『ファビアンなら、この邸の裏庭に隠れているところを俺が見つけた。その時に、あいつがマテウスを、収納家具に閉じ込めた事を聞いた』
『そうですか。殿下が無事でよかった』
『・・そうか。マテウスはファビアンの裏切りを知らないのか。収納家具から出たときは、カールだったからな』
『ファビアン殿下が・・裏切った?』
『そうだ。ファビアンは、己の願いを叶えるために、俺の指示に従った。収納家具に閉じ込めたのは予想外だったが、後宮の門限までマテウスを足止めすることに成功した。成功報酬をファビアンにやらねばな』
『ファビアン殿下の願いとは何だったのですか?教えてください、ヴェルンハルト殿下!』
『中々に無茶な願いだが・・ファビアンはマテウスを、己の産みの親にしたいらしい。随分と懐かれたな、マテウス。ファビアンは本物の産みの親より、お前が欲しいらしい』
『ファビアン殿下・・あぁ・・』
『マテウス、泣いている場合ではないぞ?ファビアンに、裸に精液まみれの姿は見られたくはないだろ?邸の一階には、後宮の孕み子が待機している。側室の扱いには慣れているから、彼らに全てをまかせろ、マテウス』
『私は側室ではありません、殿下』
『ああ、そうだったな。だが、お前を世話する孕み子たちは、お前を側室と思い世話をするだろう。それだけのことだ。さて、俺はこれから王城に戻り・・妃候補のアルトゥールを抱かねばならない。王太子の義務だが、疲れる』
『このような馬鹿らしいゲームを、殿下が仕掛けるから疲れるのです。疲れているからといって、アルトゥール様に当たらず、大切に扱って下さいね、殿下』
『嫉妬もなしか、マテウス。まあいい・・俺は行く。また来る、マテウス』
『・・・』
『返事をしろ、マテウス』
『行ってらっしゃいませ、殿下』
『ああ、行ってくる』
◇◇◇
カールは会話を全て耳にして、その場に蹲った。涙が止まらなくなったカールは、風にゆれるシルフィウムを引きちぎり口に含んだ。
「マテウス、マテウス!」
本来のシルフィウムは黄色の花を咲かせる。この花は紫の花弁だ。シルフィウムの亜種ではないのかもしれない。それでも、カールは花弁をいくつも口に含み飲み込んだ。
「僕は、本当は、マテウスに孕んでなんて欲しくなかった!ヘクトール兄上の子供なんて、欲しくなかった!子供なんて、流れればいい!」
もしも、シルフィウムと同じく堕胎の効能があるのならば、腹の子は流れればいい。カールはそう思いながら、紫の花弁を口に含み続けた。
「マテウス、僕だけのマテウス。僕はここにいる。僕を忘れないで、マテウス!」
『カール?』
不意にカールを呼ぶ声が聞こえた。カールは体を震わせながら、その人の名前を呼んだ。
「マテウス!」
『声が・・よく聞こえないよ、カール。私、気を失いそうで・・ねえ、カールに会いに行くから、私を見つけてくれる。カール?カール?』
「見つけるよ!早くおいで、マテウス!灰色の世界が、紫の花でいっぱいなんだ!綺麗だよ!だから、早くおいで。マテウス!」
『カール、聞こえている?』
カールは、紫の花咲く草原を走り出した。カールは感覚を研ぎすませながら、マテウスを探す。
「マテウス、聞こえているよ!僕はここにいるよ。マテウス!マテウス!」
きっと見つけると心に想いを刻み、カールはマテウスの名を叫び続けた。
「マテウスーー!」
◆◆◆◆◆◆
21
お気に入りに追加
4,575
あなたにおすすめの小説
悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する
モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。
番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。
他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。
◇ストーリー◇
孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人
姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。
そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。
互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!?
・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。
総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。
自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。