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第四章
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◆◆◆◆◆◆
俺は殿下の質問に狼狽えてしまった。BL小説『愛の為に』では、孕み子の妊娠出産に関する詳しい説明は省かれている。わざと、ふわっと設定にされているのだ。
「な、何ヵ月?」
その為なのか、この世界では、孕み子の妊娠出産に関する書物がほとんど出版されていない。書物からの知識が中心の俺には、詳しく語れるはずがなかった。
「どうした、マテウス。目が泳いでいるぞ」
「殿下、その・・医師の診察は受けてはいません。実は・・今日『カール』から、孕んでいるようだと聞かされたばかりなのです!私の体内で『カール』が、新しい血脈の流れを感じたらしいのです。まだ、体調の変化は感じてはいません。ですが、思い当たる節はあります」
「なるほど、で、思い当たる節とはなんだ?」
「え、そこまで聞きます。えーと、その、ヘクトール兄上と、一週間前に・・セックスしました。おそらく、その時の・・性交で、妊娠したと思われます!」
俺は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしていた。殿下にそんな顔を見せたくはないが、顔を手で覆うのも恥ずかしくてできなかった。
「マテウス・・馬鹿なのか?」
「バカとは何ですか!?おめでとうの言葉も言えないのですか、殿下は!」
「一週間前に、ヘクトールとセックスをした訳だな?だが、妊娠の兆候もなく、医師の診察も受けていない。その様子では、ヘクトールにも伝えてはいないだろ?自覚症状が無いにも関わらず、別人格の言葉を真に受けて・・妊娠を確信している。馬鹿としか表現しょうがない」
「馬鹿、馬鹿、言うのは止めてください。確かに、兄上には孕んだ可能性は・・伝えていません。でも、兄上とセックスした時期は、孕み子として充実した時期だったのです。子を孕んでいたとしても、何ら不思議はありません」
「ほう?鈍そうなマテウスでも、孕む時期がわかるのか。ふむ・・あの良い香りは、男を誘うために、発しているのかもしれないな?」
「殿下の感じた香りの件は、私にはわかりません。ただ、私は『カール』の言葉を信じただけです。『カール』は、私の体内の事に凄く詳しいのです。多分、医師より私の体の事に詳しいはずです。ですから、私は『カール』の言葉を信じます!今日聞いたばかりで。ビックリしました。早く、兄上に伝えたい・・」
俺の言葉に不意に、殿下が笑い出した。そして、俺の赤茶の髪をくしゃくしゃと撫でる。だが、優しい仕草とは裏腹に、その目には鋭い光が宿っていた。
「セックスから一週間では、医師でも妊娠の有無は確認は出来ないだろう。そして、お前も自覚症状なく過ごしてきた。そんな状態では、ヘクトールも、お前が子を宿しているとは、思ってもいないだろうな?」
「確かにそうですね。でも、孕んだ事を伝えたなら、兄上はきっと喜んで下さいます!沢山の赤ちゃん着を、作ってくれそう。そうだ、怠惰の衣装の生地で産着を作ってもらって、ん?」
殿下がベッドを軋ませ、俺の上に移動してきた。そして、俺に覆い被さり、首筋を舐めてきた。
「ひぎゃ!」
「色気のない声だな。だが、良い話を聞いた。セックスをするぞ、マテウス。お前が、本当に孕んでいるかどうかは知らん。だが、もしも孕んでいるなら、俺の精液をお前の子宮内の赤子に、ぶっかけてやる」
「なっ!?」
ヴェルンハルトは嗤いながら、俺の首筋を舐め耳元で囁いた。
「マテウスがもしも、子を孕んだなら・・出産まで、後宮でファビアンと共に過ごせ。赤子は王城の宮廷医師が見る。マテウスが、無事に子を産めば・・赤子と共に、ヘクトールの元に返してやる。近親婚も許してやる。新婚生活を楽しむといい」
「そんな事・・」
「マテウス、よくヘクトールの様子を、観察することだ。マテウスは、ヘクトールに『貴方の子供です』と伝えるといい。何度でも、ヘクトールに伝えろ。真実なのだから遠慮はいらない。だが、その時には、ヘクトールの顔をよく観察しろ。その表情に、疑惑や軽蔑、嫌悪の影がないかをな?」
「なっ!」
「だが、マテウスは鈍いところがあるから、気がつかない可能性もあるな。ヘクトールの本心を、見抜ける自信があるか、マテウス?もしも、自信がないなら、俺が代わりにヘクトールの心を覗いてやろう。マテウスがヘクトールに『貴方の子供』ですと、甘く囁く回数と同じく、『俺はマテウスを抱いた』と、ヘクトールに伝えるとしよう」
「嫌だ!やめて、殿下!」
「ヘクトールは、自身の子だと確信して、子を育てる事は無理だろうな?あいつの苦悩する姿を見ることが、毎日の楽しみになりそうだ!疑いと、嫉妬の眼差しで、ヘクトールが俺を睨み付ける。そう思うと・・ぞくぞくする。カールを死に追いやったヘクトールの心に、深い傷を加えられる」
俺は泣き出していた。ヘクトール兄上を、これ以上傷つけたくない。
「ヘクトール兄上は、ずっと、ずっと、カールの事で苦しんできました。もう、兄上を苦しめるのはやめて!」
「マテウス・・抵抗せず俺を受け入れろ。そうでなければ、孕んだ子が血と共に流れ出るぞ。『カール』がどんな思惑で、孕んでいることを秘密にしたのかは分からない。だが、マテウスは不用意にも、孕んでいる事を告白した。そんな事で、俺がセックスを取り止めるとでも思ったのか?マテウスは、やはり甘い。甘く育てられた結果がこれだ、マテウス」
「孕んだ子が血と共に流れ出る?」
俺は産みの親のグンナーの、最期の姿を思い出していた。体が震えだして止まらなかった。そんな俺を、殿下が抱き締める。
「安心しろ。子が流れぬように、優しく抱いてやる。射精も一回だけ。何も問題はない、マテウス。俺に体を開け。妃候補の頃よりも優しく抱く。いいな、マテウス?」
「・・殿下、孕んだ子は流れませんか?」
「俺に抵抗しないなら、流れはしない」
俺は泣きながら衣服のボタンを外し始めた。手が震えて、ボタンが外れない。やがて、殿下の手が重なりボタンを外し始めた。
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俺は殿下の質問に狼狽えてしまった。BL小説『愛の為に』では、孕み子の妊娠出産に関する詳しい説明は省かれている。わざと、ふわっと設定にされているのだ。
「な、何ヵ月?」
その為なのか、この世界では、孕み子の妊娠出産に関する書物がほとんど出版されていない。書物からの知識が中心の俺には、詳しく語れるはずがなかった。
「どうした、マテウス。目が泳いでいるぞ」
「殿下、その・・医師の診察は受けてはいません。実は・・今日『カール』から、孕んでいるようだと聞かされたばかりなのです!私の体内で『カール』が、新しい血脈の流れを感じたらしいのです。まだ、体調の変化は感じてはいません。ですが、思い当たる節はあります」
「なるほど、で、思い当たる節とはなんだ?」
「え、そこまで聞きます。えーと、その、ヘクトール兄上と、一週間前に・・セックスしました。おそらく、その時の・・性交で、妊娠したと思われます!」
俺は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしていた。殿下にそんな顔を見せたくはないが、顔を手で覆うのも恥ずかしくてできなかった。
「マテウス・・馬鹿なのか?」
「バカとは何ですか!?おめでとうの言葉も言えないのですか、殿下は!」
「一週間前に、ヘクトールとセックスをした訳だな?だが、妊娠の兆候もなく、医師の診察も受けていない。その様子では、ヘクトールにも伝えてはいないだろ?自覚症状が無いにも関わらず、別人格の言葉を真に受けて・・妊娠を確信している。馬鹿としか表現しょうがない」
「馬鹿、馬鹿、言うのは止めてください。確かに、兄上には孕んだ可能性は・・伝えていません。でも、兄上とセックスした時期は、孕み子として充実した時期だったのです。子を孕んでいたとしても、何ら不思議はありません」
「ほう?鈍そうなマテウスでも、孕む時期がわかるのか。ふむ・・あの良い香りは、男を誘うために、発しているのかもしれないな?」
「殿下の感じた香りの件は、私にはわかりません。ただ、私は『カール』の言葉を信じただけです。『カール』は、私の体内の事に凄く詳しいのです。多分、医師より私の体の事に詳しいはずです。ですから、私は『カール』の言葉を信じます!今日聞いたばかりで。ビックリしました。早く、兄上に伝えたい・・」
俺の言葉に不意に、殿下が笑い出した。そして、俺の赤茶の髪をくしゃくしゃと撫でる。だが、優しい仕草とは裏腹に、その目には鋭い光が宿っていた。
「セックスから一週間では、医師でも妊娠の有無は確認は出来ないだろう。そして、お前も自覚症状なく過ごしてきた。そんな状態では、ヘクトールも、お前が子を宿しているとは、思ってもいないだろうな?」
「確かにそうですね。でも、孕んだ事を伝えたなら、兄上はきっと喜んで下さいます!沢山の赤ちゃん着を、作ってくれそう。そうだ、怠惰の衣装の生地で産着を作ってもらって、ん?」
殿下がベッドを軋ませ、俺の上に移動してきた。そして、俺に覆い被さり、首筋を舐めてきた。
「ひぎゃ!」
「色気のない声だな。だが、良い話を聞いた。セックスをするぞ、マテウス。お前が、本当に孕んでいるかどうかは知らん。だが、もしも孕んでいるなら、俺の精液をお前の子宮内の赤子に、ぶっかけてやる」
「なっ!?」
ヴェルンハルトは嗤いながら、俺の首筋を舐め耳元で囁いた。
「マテウスがもしも、子を孕んだなら・・出産まで、後宮でファビアンと共に過ごせ。赤子は王城の宮廷医師が見る。マテウスが、無事に子を産めば・・赤子と共に、ヘクトールの元に返してやる。近親婚も許してやる。新婚生活を楽しむといい」
「そんな事・・」
「マテウス、よくヘクトールの様子を、観察することだ。マテウスは、ヘクトールに『貴方の子供です』と伝えるといい。何度でも、ヘクトールに伝えろ。真実なのだから遠慮はいらない。だが、その時には、ヘクトールの顔をよく観察しろ。その表情に、疑惑や軽蔑、嫌悪の影がないかをな?」
「なっ!」
「だが、マテウスは鈍いところがあるから、気がつかない可能性もあるな。ヘクトールの本心を、見抜ける自信があるか、マテウス?もしも、自信がないなら、俺が代わりにヘクトールの心を覗いてやろう。マテウスがヘクトールに『貴方の子供』ですと、甘く囁く回数と同じく、『俺はマテウスを抱いた』と、ヘクトールに伝えるとしよう」
「嫌だ!やめて、殿下!」
「ヘクトールは、自身の子だと確信して、子を育てる事は無理だろうな?あいつの苦悩する姿を見ることが、毎日の楽しみになりそうだ!疑いと、嫉妬の眼差しで、ヘクトールが俺を睨み付ける。そう思うと・・ぞくぞくする。カールを死に追いやったヘクトールの心に、深い傷を加えられる」
俺は泣き出していた。ヘクトール兄上を、これ以上傷つけたくない。
「ヘクトール兄上は、ずっと、ずっと、カールの事で苦しんできました。もう、兄上を苦しめるのはやめて!」
「マテウス・・抵抗せず俺を受け入れろ。そうでなければ、孕んだ子が血と共に流れ出るぞ。『カール』がどんな思惑で、孕んでいることを秘密にしたのかは分からない。だが、マテウスは不用意にも、孕んでいる事を告白した。そんな事で、俺がセックスを取り止めるとでも思ったのか?マテウスは、やはり甘い。甘く育てられた結果がこれだ、マテウス」
「孕んだ子が血と共に流れ出る?」
俺は産みの親のグンナーの、最期の姿を思い出していた。体が震えだして止まらなかった。そんな俺を、殿下が抱き締める。
「安心しろ。子が流れぬように、優しく抱いてやる。射精も一回だけ。何も問題はない、マテウス。俺に体を開け。妃候補の頃よりも優しく抱く。いいな、マテウス?」
「・・殿下、孕んだ子は流れませんか?」
「俺に抵抗しないなら、流れはしない」
俺は泣きながら衣服のボタンを外し始めた。手が震えて、ボタンが外れない。やがて、殿下の手が重なりボタンを外し始めた。
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