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第四章
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◆◆◆◆◆◆
ヴェルンハルトは、カールとの会話を楽しむようにゆっくりと話を進める。
「本来なら、マテウスにゲームを仕掛けるつもりだった。だが、不在ならば仕方がない。代わりとして、カールが俺のゲームに付き合え」
カールは眉を潜めて口を開く。
「この体は『マテウス』のものです。僕が勝手に、殿下の仕掛けるゲームに乗るわけにはいきません。どうせ、ろくでもないゲームに違いないでしょうから?」
ヴェルンハルトは、皮肉な笑みを浮かべた。そして、カールの髪を弄りながら会話を続ける。
「お前は既に分かっている筈だ。俺が仕掛けるゲームから、逃れることはできないと?後宮の門限までには、まだ時間がある。お前の番犬も門限を過ぎるまでは、大人しく門扉の前で待っているだろう。後宮の門限前に、ゲームは終わらせる。だから安心してゲームを楽しめ。まあ、お前が拒絶しようとも・・俺は、お前を逃す気はないがな?」
カールは深いため息を付いた。そして、肩を軽くすくめると、言葉を紡いだ。
「殿下の身勝手な行動には、もう慣れました。いいですよ、殿下。無駄に抵抗して、この体を傷付ける事は僕も望んでいません。できれば、楽しいゲームであることを望みます、殿下」
「ゲームに乗るわけだな、カール?では、セックスを始めるぞ。さっさと、服を脱げ」
「は?」
「簡単なゲームだ。今から、俺とお前はセックスをする。射精は一回限り。ディルドの使用は、お前が決めろ。この一回のセックスで、『マテウス』の体が妊娠すれば、カールの勝ちだ。中々に刺激的で単純なゲームだろ?」
「殿下・・意味が分かりません」
「お前は馬鹿なのか?」
「殿下こそ、頭がどうかなさった様です。この体が妊娠して、どうして僕の勝ちになるのですか?損失しかありません。少し考えれば分かる筈ですが・・馬鹿なのですか、殿下は?」
ヴェルンハルトは笑みを深め、カールを見つめる。そして、愛しげに頬を再び撫でた。
「ああ、そうかもな?俺は昔から馬鹿げたゲームが好きでな。勝利の褒美も・・馬鹿げたものが好ましい。まさに、馬鹿げた褒美だ」
「馬鹿げた褒美?」
「ああ、実に馬鹿げた褒美だ。もしも、『マテウス』の体が妊娠したなら、俺が国王となったその後も、シュナーベル家の存続を認めてやる。血族婚や近親婚を禁じる法律も作らない。どうだ、中々に魅力的な褒美だとは思わないか、カール?」
「・・何故、気が変わったのですか?亡くなった貴方の親友のカールは、シュナーベル家の滅亡を望んでいた筈です。殿下はカールの意思を継ぎ、近親婚を禁じて・・シュナーベル家を徐々に消滅させるつもりでは、無かったのですか?」
「確かに、そう考えていた」
「なのに、こんな馬鹿げたゲームを、殿下は僕に仕掛けている。僕には、殿下の考えがよく分かりません。親友のカールを裏切ってまで、『マテウス』を抱きたいと望む理由はなんです?まさか、今さら『マテウス』に惚れたなどと、つまらない答えは要りません。真実を教えて下さい、殿下」
「カールが『カール』を語るとは、奇妙なものだな?まあ、確かに俺には大した得はないな。親友のカールを、再び裏切る事になる。それに、リスクが高すぎる。ヘクトールを敵に回す訳だからな」
「殿下、僕の質問に答えていません。どうして、このようなゲームを『マテウス』に仕掛けるのですか?このゲームは殿下にとって、何の利益も生みません。ヘクトール兄上を敵に回してまで、ゲームを仕掛ける理由を教えて下さい、殿下!」
「理由は単純なものだ、カール。マテウスがヘクトールの婚約者になってから、時折感じていた。だが、今日は、はっきりと感じた。執務室に現れたマテウスは、明らかに良い香りを身に纏わせていた。だが、俺以外は、誰もその香りに気がついてはいなかった。いや、アルミンだけは、気づいていただろうな?」
カールは表情を険しくした。
「・・だから、何だというのですか!『マテウス』は、元は殿下の妃候補でしょ?その時に、殿下は散々この体を抱いたはずです。だけど、殿下は全く『マテウス』に愛情を抱かなかった。むしろ、ひどい扱いをして『マテウス』を傷付けた。それを今さら・・身勝手な事を言い出すのはやめてください、殿下!」
ヴェルンハルトが、カールの言葉に嗤う。
「マテウスは好みではなかった。愛せなくても当然だろ?妃候補の頃のマテウスは、俺の感情を乱すものを・・何も持ってはいなかった。それに、カールの痛みを何も知らないマテウスに・・苛立ちを感じていた。第一、孕み子の体は、俺の好みとはかけ離れている。痩せた体は、好きにはなれない」
「つまり、『マテウス』は、殿下の好みからは、かけ離れているわけですね?ならば、良い香りを『マテウス』が纏っていたとしても、抱き心地が変わる訳ではありません。殿下、これは無意味な行為です」
殿下はカールの言葉に笑みを深める。
「全く魅力を感じなかった『マテウス』から、良い香りを感じ取ってからは・・本気でその体を抱きたいと思っている。異常事態だろ思わないか、カール?これが、俺の単なる気まぐれだとは・・到底思えない。そうなると、シュナーベルの穢れた血脈が、この心変わりに関わっていると考えるのは・・当然の結論だろ?そう思わないか、カール?」
「・・シュナーベルの穢れた血脈」
「俺の産みの親は、シュナーベル家の傍流の出自だ。俺の体にもほんの僅かだが、シュナーベル家の血脈が流れている。カールを死に追いやった穢れた血脈。血脈で惹かれ合い、近親婚を繰り返す穢れた血脈。その正体を、俺自身の身で確かめられるなら・・危険を犯す価値はある。俺はそう思った」
「その為に、この馬鹿げたゲームを『マテウス』に仕掛けるのですか?」
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ヴェルンハルトは、カールとの会話を楽しむようにゆっくりと話を進める。
「本来なら、マテウスにゲームを仕掛けるつもりだった。だが、不在ならば仕方がない。代わりとして、カールが俺のゲームに付き合え」
カールは眉を潜めて口を開く。
「この体は『マテウス』のものです。僕が勝手に、殿下の仕掛けるゲームに乗るわけにはいきません。どうせ、ろくでもないゲームに違いないでしょうから?」
ヴェルンハルトは、皮肉な笑みを浮かべた。そして、カールの髪を弄りながら会話を続ける。
「お前は既に分かっている筈だ。俺が仕掛けるゲームから、逃れることはできないと?後宮の門限までには、まだ時間がある。お前の番犬も門限を過ぎるまでは、大人しく門扉の前で待っているだろう。後宮の門限前に、ゲームは終わらせる。だから安心してゲームを楽しめ。まあ、お前が拒絶しようとも・・俺は、お前を逃す気はないがな?」
カールは深いため息を付いた。そして、肩を軽くすくめると、言葉を紡いだ。
「殿下の身勝手な行動には、もう慣れました。いいですよ、殿下。無駄に抵抗して、この体を傷付ける事は僕も望んでいません。できれば、楽しいゲームであることを望みます、殿下」
「ゲームに乗るわけだな、カール?では、セックスを始めるぞ。さっさと、服を脱げ」
「は?」
「簡単なゲームだ。今から、俺とお前はセックスをする。射精は一回限り。ディルドの使用は、お前が決めろ。この一回のセックスで、『マテウス』の体が妊娠すれば、カールの勝ちだ。中々に刺激的で単純なゲームだろ?」
「殿下・・意味が分かりません」
「お前は馬鹿なのか?」
「殿下こそ、頭がどうかなさった様です。この体が妊娠して、どうして僕の勝ちになるのですか?損失しかありません。少し考えれば分かる筈ですが・・馬鹿なのですか、殿下は?」
ヴェルンハルトは笑みを深め、カールを見つめる。そして、愛しげに頬を再び撫でた。
「ああ、そうかもな?俺は昔から馬鹿げたゲームが好きでな。勝利の褒美も・・馬鹿げたものが好ましい。まさに、馬鹿げた褒美だ」
「馬鹿げた褒美?」
「ああ、実に馬鹿げた褒美だ。もしも、『マテウス』の体が妊娠したなら、俺が国王となったその後も、シュナーベル家の存続を認めてやる。血族婚や近親婚を禁じる法律も作らない。どうだ、中々に魅力的な褒美だとは思わないか、カール?」
「・・何故、気が変わったのですか?亡くなった貴方の親友のカールは、シュナーベル家の滅亡を望んでいた筈です。殿下はカールの意思を継ぎ、近親婚を禁じて・・シュナーベル家を徐々に消滅させるつもりでは、無かったのですか?」
「確かに、そう考えていた」
「なのに、こんな馬鹿げたゲームを、殿下は僕に仕掛けている。僕には、殿下の考えがよく分かりません。親友のカールを裏切ってまで、『マテウス』を抱きたいと望む理由はなんです?まさか、今さら『マテウス』に惚れたなどと、つまらない答えは要りません。真実を教えて下さい、殿下」
「カールが『カール』を語るとは、奇妙なものだな?まあ、確かに俺には大した得はないな。親友のカールを、再び裏切る事になる。それに、リスクが高すぎる。ヘクトールを敵に回す訳だからな」
「殿下、僕の質問に答えていません。どうして、このようなゲームを『マテウス』に仕掛けるのですか?このゲームは殿下にとって、何の利益も生みません。ヘクトール兄上を敵に回してまで、ゲームを仕掛ける理由を教えて下さい、殿下!」
「理由は単純なものだ、カール。マテウスがヘクトールの婚約者になってから、時折感じていた。だが、今日は、はっきりと感じた。執務室に現れたマテウスは、明らかに良い香りを身に纏わせていた。だが、俺以外は、誰もその香りに気がついてはいなかった。いや、アルミンだけは、気づいていただろうな?」
カールは表情を険しくした。
「・・だから、何だというのですか!『マテウス』は、元は殿下の妃候補でしょ?その時に、殿下は散々この体を抱いたはずです。だけど、殿下は全く『マテウス』に愛情を抱かなかった。むしろ、ひどい扱いをして『マテウス』を傷付けた。それを今さら・・身勝手な事を言い出すのはやめてください、殿下!」
ヴェルンハルトが、カールの言葉に嗤う。
「マテウスは好みではなかった。愛せなくても当然だろ?妃候補の頃のマテウスは、俺の感情を乱すものを・・何も持ってはいなかった。それに、カールの痛みを何も知らないマテウスに・・苛立ちを感じていた。第一、孕み子の体は、俺の好みとはかけ離れている。痩せた体は、好きにはなれない」
「つまり、『マテウス』は、殿下の好みからは、かけ離れているわけですね?ならば、良い香りを『マテウス』が纏っていたとしても、抱き心地が変わる訳ではありません。殿下、これは無意味な行為です」
殿下はカールの言葉に笑みを深める。
「全く魅力を感じなかった『マテウス』から、良い香りを感じ取ってからは・・本気でその体を抱きたいと思っている。異常事態だろ思わないか、カール?これが、俺の単なる気まぐれだとは・・到底思えない。そうなると、シュナーベルの穢れた血脈が、この心変わりに関わっていると考えるのは・・当然の結論だろ?そう思わないか、カール?」
「・・シュナーベルの穢れた血脈」
「俺の産みの親は、シュナーベル家の傍流の出自だ。俺の体にもほんの僅かだが、シュナーベル家の血脈が流れている。カールを死に追いやった穢れた血脈。血脈で惹かれ合い、近親婚を繰り返す穢れた血脈。その正体を、俺自身の身で確かめられるなら・・危険を犯す価値はある。俺はそう思った」
「その為に、この馬鹿げたゲームを『マテウス』に仕掛けるのですか?」
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