嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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◆◆◆◆◆◆



「・・ヴェルンハルト殿下」

王太子殿下がカールの声を聞きニヤリと笑う。

「随分と声が嗄れているな?泣いていたのか、マテウス?まあ、無理もない。可愛がっていたファビアンに、裏切られた気分はどうだ?」

カールは無言のまま、ヴェルンハルトを睨み付けた。王太子殿下はカールに睨み付けられ、更に笑みを深めた。

「そう睨むな、マテウス。狭い空間に閉じ込められて、体がうまく動かないだろ?俺が収納家具から出してやるから、俺に抱きつけ。ほら、マテウス」

「殿下の手助けは必要ありません。自分で出られますので・・うわぁ!」

カールは収納家具の縁を持って、自ら立ち上がろうとした。だが、足に力が入らずバランスを崩した。それを見越していたように、ヴェルンハルトはカールを抱き寄せた。

「このまま、ベッドに運ぶ。暴れるなよ?」

ヴェルンハルトは、カールを軽々と抱き上げるとベッドに向かう。そして、無造作にカールをベッドに転がした。

「あ、花が・・」

ベッドに転がされたカールの頬に、紫色の花弁が触れた。それは、マテウスが前庭で摘んだ紫の花だった。マテウスがベッドにその花を置いていた事を、カールはすっかり忘れていた。

紫色の色彩の美しさに目を奪われたカールは、その花を手にしようとした。だが、先にヴェルンハルトに花を奪われた。

「邸の庭に同じ花が咲いていたな。ただの雑草の癖に、妙に綺麗な花を咲かせるものだな。お前が摘んだのか、マテウス?」

「僕は摘んでいません。摘んだのはマテウスです、殿下。マテウスは花が好きですから。ただし、毒草が好みだから・・その花も毒を含んでいるかもしれませんよ?」

ヴェルンハルトは、カールとの会話に違和感を覚えた。片眉を上げながら口を開く。

「ファビアンに収納家具に閉じ込められた事が、よほどショックだったようだな、マテウス?主語を『僕』にしても、現実逃避はできないぞ、マテウス」

「現実逃避している訳ではないですよ、殿下?僕はマテウスではありません。僕は、カールです」

殿下は無言でベッドに乗り上がると、カールの頬を紫色の草花で叩いた。紫の花弁が全てベッドに散った。カールの頬には切り傷が出来たが、彼は気にすることなく口を開いた。

「殿下はカールの名を聞くだけで、すぐに感情的になりますね。ですが、僕はマテウスではなくカールです。ただし、殿下が求めているカールではありません」

「・・どういう意味だ、マテウス?」

ヴェルンハルトは、花弁を失った草花を乱暴に床に投げ捨てた。そして、カールを睨み付ける。カールは殿下の目を見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。

「僕は殿下の親友だった、カールではありません。信じるか、信じないは、殿下に任せます。僕は・・マテウスが生み出した、別人格です」

「マテウスの別人格だと?で、その別人格の名がカール?ふざけるな、マテウス。それとも、俺を馬鹿にしているのか?カールの名を出せば俺が狼狽えて、俺から逃げ出す機会が得られるとでも思ったか?どうなんだ、マテウス!」

ヴェルンハルトは、カールに覆い被さり怒鳴り付けた。だが、何時もは怒鳴るだけで体を震わせる孕み子が、平然としている。

その事に違和感を感じたヴェルンハルトは、眉を寄せて『マテウス』をじろじろと観察した。

「別人格ねえ?簡単に信じることはできないが、話ぐらいは聞いてやる。お前はどうやって生まれた?何故、カールと名乗っている?」

カールはヴェルンハルトを見つめたまま、静かに語りだした。

「マテウスの産みの親は、妊娠中に子宮が裂けて失血死をしました。幼いマテウスは、産みの親の死を血に濡れながら見てしまった。それが原因で、マテウスは一時的に言葉を失ってしまいました」

「たしか、亡くなったカールもそんな話をしていたな。産みの親が死んだ後、一時期マテウスと同室で過ごしたと言っていた。つまり、産みの親が目の前で死んだ事が原因で、別人格が生まれた訳か?」

「・・直接的原因は、カールです。傷心のマテウスに、カールはあまりにも献身的に接し過ぎました。それが、別人格を生まれる引き金となってしまいました」

「カールが原因?何故だ?」

「殿下も、産みの親の死を目の当たりにしたはずです。ですが、別人格は生まれなかった。まあ、殿下は性格が歪んでしまったようですが」

「は、言うじゃないか。話を続けろ」

「産みの親が亡くなって以来、弟のカールは大人の介入を許さなくなりました。そして、マテウスと同室で過ごすようになったカールは、献身的にマテウスに接してくれました。だけど、独占欲の強いカールの献身が、マテウスには耐えられなかったのです」

「マテウスは、随分と自分勝手な奴だな?カールの献身を、あいつは鬱陶しいと感じた訳か」


ヴェルンハルトの言葉に、カールは苦笑いを浮かべた。


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