146 / 239
第四章
181
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆
「・・ヴェルンハルト殿下」
王太子殿下がカールの声を聞きニヤリと笑う。
「随分と声が嗄れているな?泣いていたのか、マテウス?まあ、無理もない。可愛がっていたファビアンに、裏切られた気分はどうだ?」
カールは無言のまま、ヴェルンハルトを睨み付けた。王太子殿下はカールに睨み付けられ、更に笑みを深めた。
「そう睨むな、マテウス。狭い空間に閉じ込められて、体がうまく動かないだろ?俺が収納家具から出してやるから、俺に抱きつけ。ほら、マテウス」
「殿下の手助けは必要ありません。自分で出られますので・・うわぁ!」
カールは収納家具の縁を持って、自ら立ち上がろうとした。だが、足に力が入らずバランスを崩した。それを見越していたように、ヴェルンハルトはカールを抱き寄せた。
「このまま、ベッドに運ぶ。暴れるなよ?」
ヴェルンハルトは、カールを軽々と抱き上げるとベッドに向かう。そして、無造作にカールをベッドに転がした。
「あ、花が・・」
ベッドに転がされたカールの頬に、紫色の花弁が触れた。それは、マテウスが前庭で摘んだ紫の花だった。マテウスがベッドにその花を置いていた事を、カールはすっかり忘れていた。
紫色の色彩の美しさに目を奪われたカールは、その花を手にしようとした。だが、先にヴェルンハルトに花を奪われた。
「邸の庭に同じ花が咲いていたな。ただの雑草の癖に、妙に綺麗な花を咲かせるものだな。お前が摘んだのか、マテウス?」
「僕は摘んでいません。摘んだのはマテウスです、殿下。マテウスは花が好きですから。ただし、毒草が好みだから・・その花も毒を含んでいるかもしれませんよ?」
ヴェルンハルトは、カールとの会話に違和感を覚えた。片眉を上げながら口を開く。
「ファビアンに収納家具に閉じ込められた事が、よほどショックだったようだな、マテウス?主語を『僕』にしても、現実逃避はできないぞ、マテウス」
「現実逃避している訳ではないですよ、殿下?僕はマテウスではありません。僕は、カールです」
殿下は無言でベッドに乗り上がると、カールの頬を紫色の草花で叩いた。紫の花弁が全てベッドに散った。カールの頬には切り傷が出来たが、彼は気にすることなく口を開いた。
「殿下はカールの名を聞くだけで、すぐに感情的になりますね。ですが、僕はマテウスではなくカールです。ただし、殿下が求めているカールではありません」
「・・どういう意味だ、マテウス?」
ヴェルンハルトは、花弁を失った草花を乱暴に床に投げ捨てた。そして、カールを睨み付ける。カールは殿下の目を見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「僕は殿下の親友だった、カールではありません。信じるか、信じないは、殿下に任せます。僕は・・マテウスが生み出した、別人格です」
「マテウスの別人格だと?で、その別人格の名がカール?ふざけるな、マテウス。それとも、俺を馬鹿にしているのか?カールの名を出せば俺が狼狽えて、俺から逃げ出す機会が得られるとでも思ったか?どうなんだ、マテウス!」
ヴェルンハルトは、カールに覆い被さり怒鳴り付けた。だが、何時もは怒鳴るだけで体を震わせる孕み子が、平然としている。
その事に違和感を感じたヴェルンハルトは、眉を寄せて『マテウス』をじろじろと観察した。
「別人格ねえ?簡単に信じることはできないが、話ぐらいは聞いてやる。お前はどうやって生まれた?何故、カールと名乗っている?」
カールはヴェルンハルトを見つめたまま、静かに語りだした。
「マテウスの産みの親は、妊娠中に子宮が裂けて失血死をしました。幼いマテウスは、産みの親の死を血に濡れながら見てしまった。それが原因で、マテウスは一時的に言葉を失ってしまいました」
「たしか、亡くなったカールもそんな話をしていたな。産みの親が死んだ後、一時期マテウスと同室で過ごしたと言っていた。つまり、産みの親が目の前で死んだ事が原因で、別人格が生まれた訳か?」
「・・直接的原因は、カールです。傷心のマテウスに、カールはあまりにも献身的に接し過ぎました。それが、別人格を生まれる引き金となってしまいました」
「カールが原因?何故だ?」
「殿下も、産みの親の死を目の当たりにしたはずです。ですが、別人格は生まれなかった。まあ、殿下は性格が歪んでしまったようですが」
「は、言うじゃないか。話を続けろ」
「産みの親が亡くなって以来、弟のカールは大人の介入を許さなくなりました。そして、マテウスと同室で過ごすようになったカールは、献身的にマテウスに接してくれました。だけど、独占欲の強いカールの献身が、マテウスには耐えられなかったのです」
「マテウスは、随分と自分勝手な奴だな?カールの献身を、あいつは鬱陶しいと感じた訳か」
ヴェルンハルトの言葉に、カールは苦笑いを浮かべた。
◆◆◆◆◆◆
「・・ヴェルンハルト殿下」
王太子殿下がカールの声を聞きニヤリと笑う。
「随分と声が嗄れているな?泣いていたのか、マテウス?まあ、無理もない。可愛がっていたファビアンに、裏切られた気分はどうだ?」
カールは無言のまま、ヴェルンハルトを睨み付けた。王太子殿下はカールに睨み付けられ、更に笑みを深めた。
「そう睨むな、マテウス。狭い空間に閉じ込められて、体がうまく動かないだろ?俺が収納家具から出してやるから、俺に抱きつけ。ほら、マテウス」
「殿下の手助けは必要ありません。自分で出られますので・・うわぁ!」
カールは収納家具の縁を持って、自ら立ち上がろうとした。だが、足に力が入らずバランスを崩した。それを見越していたように、ヴェルンハルトはカールを抱き寄せた。
「このまま、ベッドに運ぶ。暴れるなよ?」
ヴェルンハルトは、カールを軽々と抱き上げるとベッドに向かう。そして、無造作にカールをベッドに転がした。
「あ、花が・・」
ベッドに転がされたカールの頬に、紫色の花弁が触れた。それは、マテウスが前庭で摘んだ紫の花だった。マテウスがベッドにその花を置いていた事を、カールはすっかり忘れていた。
紫色の色彩の美しさに目を奪われたカールは、その花を手にしようとした。だが、先にヴェルンハルトに花を奪われた。
「邸の庭に同じ花が咲いていたな。ただの雑草の癖に、妙に綺麗な花を咲かせるものだな。お前が摘んだのか、マテウス?」
「僕は摘んでいません。摘んだのはマテウスです、殿下。マテウスは花が好きですから。ただし、毒草が好みだから・・その花も毒を含んでいるかもしれませんよ?」
ヴェルンハルトは、カールとの会話に違和感を覚えた。片眉を上げながら口を開く。
「ファビアンに収納家具に閉じ込められた事が、よほどショックだったようだな、マテウス?主語を『僕』にしても、現実逃避はできないぞ、マテウス」
「現実逃避している訳ではないですよ、殿下?僕はマテウスではありません。僕は、カールです」
殿下は無言でベッドに乗り上がると、カールの頬を紫色の草花で叩いた。紫の花弁が全てベッドに散った。カールの頬には切り傷が出来たが、彼は気にすることなく口を開いた。
「殿下はカールの名を聞くだけで、すぐに感情的になりますね。ですが、僕はマテウスではなくカールです。ただし、殿下が求めているカールではありません」
「・・どういう意味だ、マテウス?」
ヴェルンハルトは、花弁を失った草花を乱暴に床に投げ捨てた。そして、カールを睨み付ける。カールは殿下の目を見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「僕は殿下の親友だった、カールではありません。信じるか、信じないは、殿下に任せます。僕は・・マテウスが生み出した、別人格です」
「マテウスの別人格だと?で、その別人格の名がカール?ふざけるな、マテウス。それとも、俺を馬鹿にしているのか?カールの名を出せば俺が狼狽えて、俺から逃げ出す機会が得られるとでも思ったか?どうなんだ、マテウス!」
ヴェルンハルトは、カールに覆い被さり怒鳴り付けた。だが、何時もは怒鳴るだけで体を震わせる孕み子が、平然としている。
その事に違和感を感じたヴェルンハルトは、眉を寄せて『マテウス』をじろじろと観察した。
「別人格ねえ?簡単に信じることはできないが、話ぐらいは聞いてやる。お前はどうやって生まれた?何故、カールと名乗っている?」
カールはヴェルンハルトを見つめたまま、静かに語りだした。
「マテウスの産みの親は、妊娠中に子宮が裂けて失血死をしました。幼いマテウスは、産みの親の死を血に濡れながら見てしまった。それが原因で、マテウスは一時的に言葉を失ってしまいました」
「たしか、亡くなったカールもそんな話をしていたな。産みの親が死んだ後、一時期マテウスと同室で過ごしたと言っていた。つまり、産みの親が目の前で死んだ事が原因で、別人格が生まれた訳か?」
「・・直接的原因は、カールです。傷心のマテウスに、カールはあまりにも献身的に接し過ぎました。それが、別人格を生まれる引き金となってしまいました」
「カールが原因?何故だ?」
「殿下も、産みの親の死を目の当たりにしたはずです。ですが、別人格は生まれなかった。まあ、殿下は性格が歪んでしまったようですが」
「は、言うじゃないか。話を続けろ」
「産みの親が亡くなって以来、弟のカールは大人の介入を許さなくなりました。そして、マテウスと同室で過ごすようになったカールは、献身的にマテウスに接してくれました。だけど、独占欲の強いカールの献身が、マテウスには耐えられなかったのです」
「マテウスは、随分と自分勝手な奴だな?カールの献身を、あいつは鬱陶しいと感じた訳か」
ヴェルンハルトの言葉に、カールは苦笑いを浮かべた。
◆◆◆◆◆◆
21
お気に入りに追加
4,575
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。