嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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◆◆◆◆◆◆



「ブランケットボックスで殿下を見つけた時、私はすぐに抱きしめたかった」

『でも、マテウスはそうしなかった』

「殿下が言葉を取り戻す・・よい経験になると、私は思ってしまたった。辛い時にこそ、言葉を発することができれば・・それは大きな経験になる。自信に繋がる。失った言葉を取り戻すには、経験を積み重ねるしかないから。でも・・殿下は、私にそんな事は望んではいなかった」

『ファビアン殿下が、マテウスに求めていたものは、「言葉の先生」じゃなかったものね。殿下は、マテウスに産みの親になって欲しかった』

「だけど、私はファビアン殿下の産みの親にはなれない。そんな覚悟もしていなかった。だから、戸惑って言葉がでなかった。何の返事もしない私を・・ファビアン殿下は、どう思ったかな?」

『収納家具に閉じ込めるぐらいだから、怒ったか、或は、マテウスに失望したのかもね。まあ、マテウスに分からないことが、僕に分かるとは思えないけど』

「カールと私は、別人格でしょ?だったら、私とは別の感性を持っているはず。私には分からないことでも、カールにならわかるかもしれないよ?」

『まあ、確かに・・マテウスは、僕より鈍いみたいだね。マテウスはファビアン殿下の産みの親にはなれない。だけど・・産みの親になる覚悟は必要だと思うよ?』

「産みの親になる覚悟?」

『一週間前に・・マテウスは、ヘクトール兄上とセックスしただろ?』

「うぎゃ、何言い出すの!?」

『妊娠おめでとう、マテウス』

「は?」

『驚いた、マテウス?』

「ま、まって、カール!その、一週間前に確かに、えーと、兄上とセックスしたよ。だけど、一週間前だよ?一週間前!まだ、妊娠がわかる時期じゃないよ・・多分」

『まあ、僕も確信はないのだけれどね。でも、マテウスの体内に、僕とマテウス以外の血脈の流れを絶えず感じるんだ。こんな事ははじめてだよ。それって、マテウスの体内に・・新たな生命が、宿ったからではないのかな?』

「だけど、まだ何の症状もないよ?」

『だから、僕も確信はないんだ。だけど、マテウスは、産みの親となる覚悟はしておくべきだと思うよ。わかった?鈍い、鈍い、マテウス』

「鈍いを二回も言った!酷いよ、カール」

『ねえ、マテウス・・すごく疲れた顔をしているよ?少し休むといいよ』

「ブランケットボックスの中で、私は泣き疲れて眠っちゃったからね。疲れた顔をしていても当然かな?でも、精神世界では・・美形でいたかった。ねえ、カール?この灰色の世界で眠ったら、私は二重に寝ていない?」

『精神を休めるんだよ、マテウス。手を繋いだまま・・僕と一緒に横になろう』

「うん、カール」

俺とカールは、灰色の世界で横たわった。

『心を落ち着けて、マテウス』

「む、無理だよ!私は、産みの親に!産みの親に、なっているのかも知れないんだよね?ヘクトール兄上の赤ちゃんが、お腹にいるかもしれないのに!それに、ファビアン殿下。殿下も私に、産みの親になって欲しいと言ったんだよ!全然、産みの親になる覚悟ができていないのに。無理だぁ!」

『マテウス、落ち着いて』

「落ち着けないよ、カール!それに、収納家具から・・どうやって出たらいいの?後宮には門限もあるのに、皆に心配を掛けちゃうよ。収納家具の中でも、呼吸が出来ているのはありがたいけれど、このまま飲食できないと・・ミイラになっちゃうかも。ひぃ!不細工が保存されるなんて最悪だ!展示されたらどうしよう、やだよ!どうしよう、カール!」

『少しは落ち着いてよ、マテウス。大丈夫だよ。多分、そうはならないから』

「どうしてそう思うの?」

『殿下が蓋を開けてくれるよ。だから、ミイラの心配はないと思うよ、マテウス?』

「うー、それも辛いな。ファビアン殿下に、合わせる顔がないよ。ねえ、カール。私は、どんな態度を取ればいいのかな?まだ答えが出せていないんだ・・情けないけど」

『それなら、こうしたらどうだろう?しばらく、マテウスの代わりに僕が外に出るよ。あのね、マテウス。僕はほんの少しでいいから、外に出たいんだ。後宮ならヘクトール兄上に見つかって、消される心配もないから安心だし。どうかな、マテウス?駄目かな?』

「カール・・」

『ほんの少しだけ・・僕に色彩をくれないか、マテウス。マテウスが、この世界で心を癒している・・その間だけでいいから。ねえ、マテウス。駄目かな?』

「そんなに外に出たいの、カール?でも、目覚めても、ブランケットボックスの中かもしれないよ?この世界より狭いよ?」

『オーク材に触れたい。収納家具の内側にも、繊細な彫刻が施されていた。気がつかなかった、マテウス?僕は、それに触れたい。指先に、身体中に、僕は外の世界を感じたいんだ』

俺は寝転がり、カールを見つめた。自然と笑みが浮かび、俺はカールを抱き寄せていた。

「カールを抱き枕にしま~す。そして、マテウスは寝ちゃいま~す。だから、カール・・外の世界に行ってらっしゃい」

『ありがとう、マテウス』

「行ってらっしゃい、カール」
『お休み、マテウス』

俺はカールを抱きしめて、深い深い眠りに落ちていった。


◇◇◇


カチリカチリ


収納家具の鍵が外れる音を耳にしながら、カールは目覚めた。そして、ぼそりと呟く。

「ぎりぎり、間に合ったかな?」

繭の形で横たわったまま、カールは収納家具の蓋が開かれるのを待つ。

キイイ

耳障りな音と共に、カールに声が掛けられる。

「マテウス、大丈夫か?」

「・・ヴェルンハルト殿下」


◆◆◆◆◆◆

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