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第四章
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◆◆◆◆◆◆
一瞬のためらいや戸惑いが、相手を酷く傷付ける事がある。俺は失敗してしまった。気まずい沈黙を埋めたくて、再び口を開いたが喉が締まり言葉が出てこなかった。
「かくれんぼ、する」
「え?」
「かくれんぼ。マテウス、か、かくれて」
「あの、ファビアン殿下?」
突然、ファビアン殿下は立ち上がり、ブランケットボックスから抜け出す。そして、殿下は泣き顔で、箱型の収納家具を指差した。
「マテウス、はいる。かくれんぼ、する」
「えーと、私がここに入ればよいのですか、殿下?うーん、大人が入るにはちょっと・・」
俺が迷っていると、殿下が本格的に泣き出してしまった。俺の胸は激しく痛みだす。
収納家具で殿下を見つけた時に、抱きしめるべきだったのかもしれない。抱きしめながら、話を聞けば良かったのかな?
「か、かくれて、マテウス」
俺を見たくないから、箱に入れてしまいたいのかな?やっぱり、失敗したのかな?殿下を失ったのかな?自分の失敗から逃げ出したい。
恥ずかしいけど・・今すぐに、失敗から逃げ出したい。箱のなかに逃げ込みたい。
「分かりました、ファビアン殿下。今から、ブランケットボックスに入りますね」
意外と収納家具の内部は広く、俺でも入る事ができた。繭の様に体を丸めて、収納家具の底板に横たわった。すると、ファビアン殿下が無言で蓋を閉めた。
「殿下?」
かちりと何か音がした。不安に感じた俺は、ブランケットボックスの蓋を開けようとした。だが、内部から蓋を押しても少しも動かない。
「収納家具には、鍵は付いてなかった様に見えたけど・・見えない所に鍵が付いていたのかな?えー、まさか、ファビアン殿下・・鍵を閉めちゃったの?閉じ込められた?」
ファビアン殿下にそこまで嫌われたのかと思うと、ひどく悲しくて涙が溢れてきた。一度溢れた涙は止めどなく流れ、疲れはてて意識を失うまで泣き続けた。
◇◇◇◇
俺は灰色の世界に迷い込んでいた。いや、自らこの場所を目指したのだから、迷い込んだとは言わないかな。
灰色の世界には、やはりカールがいた。
彼は灰色の世界に一人立っていた。寂しい光景に、何だか悲しくなった。そんな俺の気持ちを感じ取ったのか、カールはちょっと悲しげに微笑んだ。
『マテウス、来たね』
「ごめん、来ちゃった・・カール」
俺が幼い頃に生み出した別人格は、カールの容姿をしている。会うたびに年齢は様々だが、幼い姿をしていることが多い。
でも、俺が別人格に気が付いたのは、ごく最近の事だから・・知らないことの方が多いかもしれない。
「元気にしていた、カール?」
『マテウスが会いに来てくれたから、元気が出てきたよ。でも、マテウスは元気がないね?』
「カールも見ていたのでしょ?私は、ファビアン殿下に嫌われてしまった」
『殿下に収納家具に閉じ込められるなんて、思いもしなかったね。大丈夫、マテウス?』
「大丈夫じゃないから、カールに会いに来たんだよ。ねえ、私の話を聞いてくれる?」
『いいよ。座って、マテウス』
「うん、カール」
灰色の世界には、境界線の様なものがない。だから、カールだけが世界を把握する手掛かりとなる。灰色の世界で、カールの存在は際立っていた。カールが俺に手を差し出してくれた。
俺はカールと手を繋ぐ。
「ありがとう、カール」
『どういたしまして、マテウス。ちなみに、僕の足元が地面だからね』
「それくらい、わかっているよ~」
俺は灰色の地面に座った。カールと手を繋いだまま、俺は思いを打ち明け始めた。
「ねえ、カール。私は間違っていたと思う?ブランケットボックスの中で殿下を見つけた時に、私は・・真っ先に殿下を抱きしめるべきだったかな?そうすべきだったのかな?」
『そうしたいと、マテウスは思っていた。だけど、我慢した。殿下がブランケットボックスに隠れていた理由を、自分の言葉で話して欲しかったんだよね・・マテウスは?』
「私は焦っていた。もしも、物語の筋書き通りに進めば、一年以内に陛下は亡くなる。そして、ヴェルンハルト殿下も・・王となる前に亡くなる。私は、その先の筋書きを知らない。だから、不安で堪らないんだよ、カール」
『どんな不安を抱えているの?』
「・・王位継承権を持つファビアン殿下は、必ず王家の争いに巻き込まれる。その時に、殿下が言葉をうまく話せないままなら・・どうなると思う?弱点は必ず、敵対勢力に攻撃される。異端審問官の事件で・・その事を私は思い知らされた。だから、ファビアン殿下は、もっと、もっと、強くならなくてはならないんだよ。生き残るために・・」
『ファビアン殿下に逃げ道はないの?だって、マテウスは、殿下が王位を継ぐことを望んでないだろ?』
「カールは私の心をお見通しだね。本当は、ファビアン殿下をシュナーベルの領地に招いて、自然の中で、心をゆっくりと癒して欲しい」
『そうすればいいじゃないか、マテウス。君もそれで、幸せになれるはずだよ?』
「無理だよ。王族の血脈から逃れたいと、ファビアン殿下自身が望んでもね・・無理なんだよ。周囲がそれを許してはくれないから。血脈が人を縛るんだよ。カールなら分かってくれるよね?長く続いた血脈は・・人を縛ると」
『分かるよ、マテウス』
◆◆◆◆◆◆
一瞬のためらいや戸惑いが、相手を酷く傷付ける事がある。俺は失敗してしまった。気まずい沈黙を埋めたくて、再び口を開いたが喉が締まり言葉が出てこなかった。
「かくれんぼ、する」
「え?」
「かくれんぼ。マテウス、か、かくれて」
「あの、ファビアン殿下?」
突然、ファビアン殿下は立ち上がり、ブランケットボックスから抜け出す。そして、殿下は泣き顔で、箱型の収納家具を指差した。
「マテウス、はいる。かくれんぼ、する」
「えーと、私がここに入ればよいのですか、殿下?うーん、大人が入るにはちょっと・・」
俺が迷っていると、殿下が本格的に泣き出してしまった。俺の胸は激しく痛みだす。
収納家具で殿下を見つけた時に、抱きしめるべきだったのかもしれない。抱きしめながら、話を聞けば良かったのかな?
「か、かくれて、マテウス」
俺を見たくないから、箱に入れてしまいたいのかな?やっぱり、失敗したのかな?殿下を失ったのかな?自分の失敗から逃げ出したい。
恥ずかしいけど・・今すぐに、失敗から逃げ出したい。箱のなかに逃げ込みたい。
「分かりました、ファビアン殿下。今から、ブランケットボックスに入りますね」
意外と収納家具の内部は広く、俺でも入る事ができた。繭の様に体を丸めて、収納家具の底板に横たわった。すると、ファビアン殿下が無言で蓋を閉めた。
「殿下?」
かちりと何か音がした。不安に感じた俺は、ブランケットボックスの蓋を開けようとした。だが、内部から蓋を押しても少しも動かない。
「収納家具には、鍵は付いてなかった様に見えたけど・・見えない所に鍵が付いていたのかな?えー、まさか、ファビアン殿下・・鍵を閉めちゃったの?閉じ込められた?」
ファビアン殿下にそこまで嫌われたのかと思うと、ひどく悲しくて涙が溢れてきた。一度溢れた涙は止めどなく流れ、疲れはてて意識を失うまで泣き続けた。
◇◇◇◇
俺は灰色の世界に迷い込んでいた。いや、自らこの場所を目指したのだから、迷い込んだとは言わないかな。
灰色の世界には、やはりカールがいた。
彼は灰色の世界に一人立っていた。寂しい光景に、何だか悲しくなった。そんな俺の気持ちを感じ取ったのか、カールはちょっと悲しげに微笑んだ。
『マテウス、来たね』
「ごめん、来ちゃった・・カール」
俺が幼い頃に生み出した別人格は、カールの容姿をしている。会うたびに年齢は様々だが、幼い姿をしていることが多い。
でも、俺が別人格に気が付いたのは、ごく最近の事だから・・知らないことの方が多いかもしれない。
「元気にしていた、カール?」
『マテウスが会いに来てくれたから、元気が出てきたよ。でも、マテウスは元気がないね?』
「カールも見ていたのでしょ?私は、ファビアン殿下に嫌われてしまった」
『殿下に収納家具に閉じ込められるなんて、思いもしなかったね。大丈夫、マテウス?』
「大丈夫じゃないから、カールに会いに来たんだよ。ねえ、私の話を聞いてくれる?」
『いいよ。座って、マテウス』
「うん、カール」
灰色の世界には、境界線の様なものがない。だから、カールだけが世界を把握する手掛かりとなる。灰色の世界で、カールの存在は際立っていた。カールが俺に手を差し出してくれた。
俺はカールと手を繋ぐ。
「ありがとう、カール」
『どういたしまして、マテウス。ちなみに、僕の足元が地面だからね』
「それくらい、わかっているよ~」
俺は灰色の地面に座った。カールと手を繋いだまま、俺は思いを打ち明け始めた。
「ねえ、カール。私は間違っていたと思う?ブランケットボックスの中で殿下を見つけた時に、私は・・真っ先に殿下を抱きしめるべきだったかな?そうすべきだったのかな?」
『そうしたいと、マテウスは思っていた。だけど、我慢した。殿下がブランケットボックスに隠れていた理由を、自分の言葉で話して欲しかったんだよね・・マテウスは?』
「私は焦っていた。もしも、物語の筋書き通りに進めば、一年以内に陛下は亡くなる。そして、ヴェルンハルト殿下も・・王となる前に亡くなる。私は、その先の筋書きを知らない。だから、不安で堪らないんだよ、カール」
『どんな不安を抱えているの?』
「・・王位継承権を持つファビアン殿下は、必ず王家の争いに巻き込まれる。その時に、殿下が言葉をうまく話せないままなら・・どうなると思う?弱点は必ず、敵対勢力に攻撃される。異端審問官の事件で・・その事を私は思い知らされた。だから、ファビアン殿下は、もっと、もっと、強くならなくてはならないんだよ。生き残るために・・」
『ファビアン殿下に逃げ道はないの?だって、マテウスは、殿下が王位を継ぐことを望んでないだろ?』
「カールは私の心をお見通しだね。本当は、ファビアン殿下をシュナーベルの領地に招いて、自然の中で、心をゆっくりと癒して欲しい」
『そうすればいいじゃないか、マテウス。君もそれで、幸せになれるはずだよ?』
「無理だよ。王族の血脈から逃れたいと、ファビアン殿下自身が望んでもね・・無理なんだよ。周囲がそれを許してはくれないから。血脈が人を縛るんだよ。カールなら分かってくれるよね?長く続いた血脈は・・人を縛ると」
『分かるよ、マテウス』
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