嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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後宮の門扉の脇には門番所があり、一人の孕み子が待機していた。アルミンの指摘に従い、俺は門番所に駆け寄り声を掛けた。

「こんにちは。私は王太子殿下に仕えている、マテウス・シュナーベルと申します。殿下より、後宮への出入り許可札を頂いたのですが、今から、後宮に入ることは可能ですか?」

「許可札を見せていただけますか?」

後宮の窓口係と思われる孕み子に、事務的にそう言われて、俺は慌てて許可札を差し出した。許可札を受け取った孕み子は、じっくり確認した後に許可札を返してくれた。

「許可札を確認しました。ようこそ、後宮へ。マテウス卿が後宮にいらっしゃる事は、王太子殿下より通知を頂いております。初めて後宮に入られる方には、案内地図と注意書きをお渡しする決まりとなっております」

窓口の孕み子から、俺は案内地図と注意書きを受け取った。俺はワクワクしながら、後宮の案内地図を早速チェックした。

だが、案内地図には、後宮の敷地の半分が、立ち入り禁止地区と明記されていた。これはどういう事だ?

「あの、後宮の半分が、立ち入り禁止地区となっていますが・・どういう事ですか?私は『セント・メアリ・ミード村』を、隅々まで散策したいのですが、これでは十分に満喫できません。何故、立ち入り禁止地区になっているのでしょうか・・改修工事か何かですか?」

俺がそう聞くと、案内係の孕み子は表情を変える事なく、すらすらと説明してくれた。

「いえ、改修工事ではありません。『ヘロルド殿下の安全面を考慮して、殿下のお屋敷の敷地内は、立ち入り禁止地区に指定する』と、イグナーツ様より通達がございました。もしも、マテウス卿が『セント・メアリ・ミード村』を隅々まで散策されたいとお考えならば、イグナーツ様より、直接許可を貰って下さい、」

「えー??」

「イグナーツ様より直接許可を貰って下さい」

案内係は同じ言葉を繰り返すだけだった。それにしても、後宮を散策するのに・・その都度、イグナーツの許可が必要とは面倒すぎる!

「つまり、後宮の敷地の半分は、ヘロルド殿下の屋敷の敷地内に当たると・・イグナーツ様は、お考えなのですね?随分と一方的な通達に思われますが、他の側室の方々は今の環境に満足していらっしゃるのでしょうか?」

「私にはお答えしかねます」

後宮の窓口係の人に、愚痴を言っても仕方ない。俺は、本来の目的に徹することとした。

「ファビアン殿下と合流したいのですが、殿下はすでに後宮にお入りですか?」

「ファビアン殿下は、以前お住まいだった邸に一人で向かわれました。幸い、邸は立ち入り禁止地区には御座いませんので、邸でゆっくり過ごされているかと思われます」

「ファビアン殿下は、お一人で邸に向かわれたのですか?邸付の使用人は、お迎えに来なかったのですか?殿下が後宮で過ごされることは、事前に王太子殿下より知らせがあった筈です。後宮の管理者が、殿下の為に使用人を配置していないとすれば・・それは、職務怠慢に当たりはしませんか?」

知らず知らず、俺の眉間にシワができる。不機嫌さが丸出しになってきた。実際、不機嫌なのだが・・

「現在、後宮の管理者は不在となっております。後宮内での決定事項は、全てイグナーツ様がなさいますので、何ら問題はございません。イグナーツ様から・・ファビアン殿下に関する通達事項はただ一つ。『ファビアン殿下とは、一切関わりを持たない事』です」

「ええ!?」
「・・虐めかよ」

俺はアルミンの言葉を聞きながら、暗い気分になってしまった。とにかく、早くファビアン殿下と合流しようと思った時に、窓口担当の孕み子に話しかけられた。

「マテウス卿」
「はい?」

「本来なら、窓口業務は二人で行う事が決まりとなっております。ですが、幸いな事に今日の窓口担当は、ずる休みをよくする人物で・・今頃は、親しい側室と孕み子同士で楽しんでいるところです。なので・・しばらくは、帰ってきません」

窓口担当の孕み子が、妙な事を言い出したぞ?それにしても、孕み子同士で・・何をどう楽しむのだろうか?にやつくな、アルミン!

「はあ・・それで?」

「私は以前、ファビアン殿下にお仕えしておりました。イグナーツ様が後宮を支配してからは、『ファビアン殿下』の名を出すことも、憚られるようになりました。ですが、殿下が後宮にお帰りになると聞き、以前殿下に仕えていた使用人が、各々で邸の掃除や手入れを密かに行ってきました。邸に家具等はほとんどございません。ですが、すぐに清潔に生活できるように整えておきました」

「え?あ、有難うございます!」

「いえ、私たちに出来ることは・・本当に限られているのです。どうか、マテウス卿。ファビアン殿下が、快適に後宮で過ごせますよう・・よろしくお願いします」

俺は表情を引き締めて、窓口係の孕み子の目をしっかりと見つめて頷いた。

「できる限りの事はさせてもらいます。ファビアン殿下の後ろ楯となれるよう・・励みます」




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