上 下
140 / 239
第四章

175

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆


『サド殿下の側室になりたい説』を、俺がきっぱりと否定すると、アルミンは更に奇妙な事を言い出した。

「じゃあ、マテウスの、その異常なテンションはナニ?後宮とは、殿下と側室がナニをするだけの・・実につまらない場所だぞ?ん?あっ!もしや、マテウスは、殿下と側室のナニを想像して・・興奮しているのか?そうなのか、マテウス!?そして、そんなマテウスの姿に興奮してきた俺は・・庭園の隅で、ナニをしてきても良いだろうか?」

俺はアルミンの足を蹴り飛ばした。

「変態のアルミンは黙りなさい!あのね、最初に言ったと思うけど・・私は純粋に、後宮に広がる景色を楽しみたいの!『セント・メアリ・ミード村』を散策したいだけ。ずっと、散策したいと憧れていたから、少し興奮してしまいました・・反省しています」

「ふむ?俺は全く、後宮の景色なんかに興味はないがなぁ?」

「アルミンも後宮の歴史を知れば、興味が沸くはずだよ!後宮は元々は、フォーゲル王国の初代王の正妃が、子供達と過ごす為に作った架空の田舎町『セント・メアリ・ミード村』がその始まりなんだよ?初代王妃が作った、美しい架空の田舎町を、現在でも散策できるなんて・・ロマンを感じるでしょ?あれ?もしかして、アルミンは『セント・メアリ・ミード村』の存在を知らなかった?」

俺の言葉にアルミンが肩を竦める。そして、嫌味な口調で話し出した。

「知ってるつーの。初代王の正妃が、王国民から搾取した税金で、王城内に作り上げた悪名高き田舎町『セント・メアリ・ミード村』だろ?今は後宮として、再利用されているが・・王家の贅沢な散財の象徴として、度々批難の的になっているからな。フォーゲル王国民なら、知らない奴はいないだろう。なあ、『セント・メアリ・ミード村』の年間維持費がいくらか知っているか、マテウス?」

アルミンが『セント・メアリ・ミード村』に対して攻撃的だ。俺は少しムッとなった。

「アルミン・・美しいものを維持する為には、お金が掛かるものなの!芸術とは、善悪が表裏一体で存在しているからこそ美しいの!もしも、『セント・メアリ・ミード村』の取り壊しの動きがあれば、私は真っ先に反対運動に参加するからね、アルミン。その時には・・アルミンには、私の影となり裏工作に暗躍してもらうから!」

「なんでだよ!嫌すぎる!」
「反論は許しませ~ん!」

『セント・メアリ・ミード村』は、俺の前世が確かに存在した証。同時に、俺がもうひとつの人生を生きた証。大切にしたい。

「あぁ、早く『セント・メアリ・ミード村』を散策したい!あ、もちろん、ファビアン殿下が心配だから、後宮に行くわけで・・後宮見学が、目的ではないからね!か、勘違いしないでよね、アルミン!」

「ちょっと待て、マテウス!やはり、マテウスには護衛が必要だ。ファビアン殿下の迎えは、後宮の者に任せれば事は済む」

「でも、ファビアン殿下は私を待っているはずだし・・寂しい想いはさせたくは無いよ」

俺がそう言うと、アルミンは真剣な表情で口を開いた。

「俺は、マテウスのバカっ・・能天気さが気掛かりでならないんだよ!後宮は、閉鎖された空間だ。なのに、マテウスは全然警戒していない。はっきり言わせてもらうが・・マテウスは、後宮に出入りすべきじゃない」

アルミンにはっきりと言われて、一瞬口ごもってしまった。一つ、深呼吸した。そして、俺はアルミンを見つめながら、正直な気持ちを伝えた。

「王太子殿下は・・相変わらず、嫌なところばかり目立つ人だと思う。だけど、ファビアン殿下の事を心配した殿下は、私に後宮の出入り許可札をくれた。そうであって欲しいという、私の願望も含まれているけど。殿下にも、普通に親子間の愛情があるのだと思いたい。そうでなければ・・ファビアン殿下が、父親に向ける愛情の行き先が・・失くなってしまうよ。そんなのは、寂しすぎるから・・私が二人の架け橋になりたい。傲慢な考え方でも、私はそうしたいと思ってる」

「マテウス・・」

「アルミン、心配かけてごめんね。そうだね・・今回は、ファビアン殿下と合流して用事を済ませたら、すぐに後宮を後にするね?『セント・メアリ・ミード村』の散策は、次の機会にするよ。門限は必ず守るから安心して、アルミン?」

「あー、くそ、安心できない!やはり、俺が孕み子に変装するしかない!」

「無理だからやめて、アルミン」

アルミンの提案を俺は即座に却下した。


◇◇◇


「あれ、後宮の門扉が閉じられているね?」
「・・そうだな」

後宮への出入りが可能な時間にも関わらず、後宮の門扉は閉ざされていた。二人の衛兵が後宮の門扉の前に立ち塞がっている。

「えーと?」

「門番所に待機している孕み子が、後宮への出入りを管理しているんじゃないか、マテウス」

「あ、そうだね!」

後宮の門扉の脇には門番所があり、一人の孕み子が待機していた。アルミンの指摘に従い、俺は門番所に駆け寄り声を掛けた。



◆◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。