嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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BL小説『愛の為に』は、主人公である王太子殿下の恋愛模様を、耽美的文体で描かれた王国物語である。但し、王城を舞台とした恋愛エピソードは、数多く有るにも関わらず、後宮を舞台とした恋愛エピソードはほとんど無い。

その原因は、殿下が好きになる相手が、王城に出仕する凛々しい男性が中心だからである。

どうやら、BL小説内の美化された殿下も、現実の殿下と同様に、孕み子にはあまり興味がないようだ。まあ、小説内の殿下は『信頼できない語り手』だから、信用しないけどね。

しかし、マニアな読者・・つまり、俺の様な読者になると、たとえ、恋愛の舞台にならなくとも、後宮は要チェックの場所である。

何故なら、BL小説『愛の為に』の作者は、アガサ・クリスティをこよなく愛するあまり、後宮内部に架空の田舎街『セント・メアリ・ミード村』を作り上げてしまったのだ。

『セント・メアリ・ミード村』とは、推理作家のアガサ・クリスティが創作した、名探偵老婦人ミス・マープルが住む英国の田舎街である。

マリー・アントワネットが、プチ・トリアノンの庭に擬似農村の『王妃の村里』を作り上げた事は有名だ。

そこから着想を得たBL作家は、作中の後宮内に『セント・メアリ・ミード村』を、ぶち込む事を思い付いたに違いない。

著作権的にどうなのだろうか?・・そんなお節介な心配をしつつも、同じくアガサのファンであった前世の俺は、愛読書に『セント・メアリ・ミード村』が登場した時には、素直に喜んだ記憶がある。


◇◇◇


「アルミン、急いで!急いで!もうすぐ、後宮の入り口だよ!後宮内の『セント・メアリ・ミード村』を、散策できるなんて嬉しい~!にやける~!」

俺はニヤニヤしながら、後宮に繋がる回廊を進んでいた。気分が上がり、久しぶりにスキップなどしてみた。

「マテウス、その奇妙な動きは止めろ!跳び跳ね方が、非常に気持ち悪い!」

「気持ち悪いとは、何事っ!?」

俺がアルミンに抗議すると、幼馴染みは別の質問を返事として返してきた。

「とにかく落ち着け、マテウス。後宮内はヘロルド殿下の産みの親の、イグナーツ = ファッハが支配している場所だ。もう少し緊張感を持ってくれ・・頼むよ、マテウス」

「もちろん、その事は理解しているよ?」
「・・本当か?」

アルミンが疑わしそうな表情で、俺を見つめてきた。だが、俺は寛大な心で、アルミンの問に応じた。

「ヘロルド殿下の産みの親が、後宮内で幅を利かせている事は知ってるよ?でも、支配していると言うには・・大げさじゃない?それに、後宮は広いから、イグナーツ = ファッハに出会う事はないと思うよ?もし出会っても・・優雅に挨拶して、相手を威圧するから大丈夫だよ!」

「駄目だ・・マテウスが、後宮内で騒動を起こす姿しか想像できない」

「アルミン、そんなに不安なの?じゃあ、出来るだけ気配を消して『セント・メアリ・ミード村』を散策するね?安心して!」

「マテウス・・ファビアン殿下を迎えに行く為に、後宮に行くんだよな?後宮散策が、マテウスの真の目的に思えるのは・・俺の勘違いだよな?勘違いだと言ってくれ、マテウス」

アルミンが鋭い指摘をしてきた。なんとか、誤魔化さなくてはならない。

「もちろん後宮に行くのは、ファビアン殿下を迎えに行く為だよ?でも、後宮に入れる事は単純に嬉しいよ。だって・・あの王太子殿下から、正式に後宮の出入り許可札を手渡されたんだよ?これって・・殿下が、私に少しは心を開いてくれた、証じゃないのかな?そう思わない、アルミン?それに、この許可札!こんなに緻密な彫刻が施せるのは・・殿下が、繊細な心の持ち主だという事の現れじゃない?なんだか、ちょっとだけ・・殿下に好意を抱いちゃったよ!」

殿下から手渡された後宮の許可札を、俺は取り出した。許可札の繊細な彫刻を見ると、自然に笑みが浮かぶ。

だが、そんな俺の姿を見たアルミンが、妙な事を言い出した。

「あんな扱いを受けながら、殿下に好感を抱くとは・・マテウスは、真正マゾなのか?ん、んん?まさか、ヘクトール様のサド加減に満足できずに、婚約破棄するつもりじゃないだろうな、マテウス!?そして、真正サド殿下の元に夜逃げして・・サド殿下の側室の座に収まるつもりか!?なんてことだ!夜な夜な・・サド殿下のお仕置きを楽しむつもりなんだな、マゾのマテウス!?」

アルミンの馬鹿げた妄想に呆れながら、俺は反論を開始した。

「『マゾのマテウス』って、何だよ!?アルミンは、馬鹿なの?私はサド殿下の側室なんて、絶対に嫌だから!それに、殿下が言っていた事を忘れたの、アルミン?殿下が後宮に通わない日限定で、私は後宮への出入りを許可されたんだよ?後宮の側室は美形揃いだから、その中に不細工な私を見かけたら・・アソコが萎えるって、殿下自身が言ったのだから。そんな私が、殿下の側室に、なれるわけがないでしょ?なりたくもないしね!」



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