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第四章
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◆◆◆◆◆◆
殿下からの命令を逃れようと、俺は必死に言い訳をした。だが、いつの間にか枢機卿もやって来て、俺は殿下と枢機卿に挟まれる形になってしまった。最悪だ!
「それができないので困っております、マテウス卿。実は、殿下とは何度も話し合いを重ねたので。ですが、殿下と殴り合いに発展しそうになり、危うく・・私は神の教義に背くところでした。どうか、マテウス卿。私からもお願いします」
立ち襟の黒の祭服を隙なく着込んだクリスティアンが、俺に向かい頭を下げた。金糸で彩られた緋色のローブをふわりと舞う。
「うっ、倪下・・頭を上げてください。あの・・その、分かりました」
「マテウス卿、感謝いたします!」
クリスティアンが柔らかく笑う。祭服姿が迫力ありすぎて、押し負けた。黒服に惑わされた!
「ちょっと待て、マテウス!枢機卿の言葉には素直に従い、俺からの命令は拒絶するとはどういうことだ!そうか、わかったぞ!香水をつけて登城したのは、クリスティアンに会った場合の為だな?婚約者のある身で浮気か、マテウス?」
「だから、香水なんて付けていません!いい加減にしてください、殿下!分かりました。私が、七人の植民地の孕み子を選びます!前列、右側から七人の孕み子さんが、陛下の好みに違いありません。これで、いいですね・・殿下、枢機卿!私は決めましたよ。異議は認めません!」
右側の孕み子を指差して、その人から七人を指名した。指差された植民地の孕み子たちは、一瞬で顔をひきつらせた。
俺は胸に痛みを覚えたが、変更はしなかった。
「殿下、枢機卿、お願いがあります。植民地から連れてこられた孕み子たちは・・不安に苛まれている筈です。どうか、十分な配慮をお願いします。それと、セックス前の避妊の処置には、問題があります。王家の作法が遅れていたために、アルミンが死にかけました。孕み子は使い捨ての玩具ではありません。殿下、検討していただきたく願います」
俺はできるだけ誠実にみえるように礼をした。
「植民地の孕み子に、避妊の必要はない。子を孕み産み落としても、肌の色が違う赤子を王として担ぎ上げようとする輩はいないからな」
殿下の言葉に、俺は複雑な思いを抱いた。避妊するか、避妊しないかは、結局は孕み子には選べないのだ。俺は落胆を隠せぬまま、顔を上げた。
「ヴェルンハルト殿下、私のやるべき事は終わりましたでしょうか?そろそろ、後宮にいらっしゃるファビアン殿下の元に向かいたいのですが・・宜しいでしょうか?」
「ああ、かまわない。ご苦労だった、マテウス。ふむ、この七人はなかなか良い選択だな。こんなに簡単に決まるなら、早々にマテウスに相談すべきだった」
王太子殿下は執務室に向かうと、机の引き出しから木の札を取り出した。そして、それを俺に向かって投げ飛ばした。
「うわっ!」
俺は慌てて飛んできた木札を掴んだ。木札には、繊細な彫刻が施されていた。落とさなくて良かった。割れてしまっては美しさが損なわれる。
「殿下、美しい彫刻を施された木札を、乱暴に扱っては駄目です。床に落とし亀裂が入っては、彫刻を施した方に申し訳ないです」
「ああっ?いや、うむ。」
「殿下?」
「その彫刻は俺が施した」
「え!?」
「暇潰しだ」
いやいや、暇潰しの域を越えてるだろ。そういえば、ルイ16世は錠前造りが好きだっけ。処刑されたけど。
「とても美しいです。気に入りました。後宮に出入りする許可証に相応しい、愛らしさがありますね」
俺が笑って木札を見つめていると、殿下が俺に背中を向けた。そして、執務室を出るように促す。
「後宮には門限がある。その時間を過ぎれば、その木札があろうとも、朝までは出られない。門限前には鐘を鳴らし時を報せる習わしになっている。門が閉まる前に、ファビアンと合流して、用事を済ませて出てくることだ。いいな、マテウス?」
「はい、殿下。では、失礼します」
「ああ、行け」
「クリスティアン様、失礼します」
「またお逢いしたいものです、マテウス卿」
「はい」
俺は一礼してから、執務室の扉に向かい歩きだした。アルミンに視線を送ると、幼馴染みは静かに執務室の扉に近づき扉を開けてくれた。俺は、足早にならぬ程度に執務室を後にした。
「脱出に成功したぁ~」
「マテウス、大丈夫か?」
「アルミンこそ、大丈夫なの?殿下の愛人の側近に殴られていたじゃない!怪我はない?大丈夫?殿下の愛人の側近はムキムキだから、筋肉が炸裂していたよ?」
「マテウス、落ち着け。『殿下の愛人の側近』は、表現的におかしいだろ。鳩尾に食らったのは、さすがに苦しかったが・・それよりも、奴の尻に殿下がペンを挿入する姿を想像して・・吐きそうになった」
「え、そこは喜ばしいことでは?二人の微笑ましい愛情に触れて、嬉しかったけど?」
「マテウスは変態標本になるべきだ!」
「アルミン、なんでだよー?」
俺達は執務室から脱出した嬉しさに、すっかり幼馴染みの関係に戻っていた。『変態』を連発する俺達への厳しい視線に気がついたのは、だいぶ歩いてからだった。
◆◆◆◆◆◆
殿下からの命令を逃れようと、俺は必死に言い訳をした。だが、いつの間にか枢機卿もやって来て、俺は殿下と枢機卿に挟まれる形になってしまった。最悪だ!
「それができないので困っております、マテウス卿。実は、殿下とは何度も話し合いを重ねたので。ですが、殿下と殴り合いに発展しそうになり、危うく・・私は神の教義に背くところでした。どうか、マテウス卿。私からもお願いします」
立ち襟の黒の祭服を隙なく着込んだクリスティアンが、俺に向かい頭を下げた。金糸で彩られた緋色のローブをふわりと舞う。
「うっ、倪下・・頭を上げてください。あの・・その、分かりました」
「マテウス卿、感謝いたします!」
クリスティアンが柔らかく笑う。祭服姿が迫力ありすぎて、押し負けた。黒服に惑わされた!
「ちょっと待て、マテウス!枢機卿の言葉には素直に従い、俺からの命令は拒絶するとはどういうことだ!そうか、わかったぞ!香水をつけて登城したのは、クリスティアンに会った場合の為だな?婚約者のある身で浮気か、マテウス?」
「だから、香水なんて付けていません!いい加減にしてください、殿下!分かりました。私が、七人の植民地の孕み子を選びます!前列、右側から七人の孕み子さんが、陛下の好みに違いありません。これで、いいですね・・殿下、枢機卿!私は決めましたよ。異議は認めません!」
右側の孕み子を指差して、その人から七人を指名した。指差された植民地の孕み子たちは、一瞬で顔をひきつらせた。
俺は胸に痛みを覚えたが、変更はしなかった。
「殿下、枢機卿、お願いがあります。植民地から連れてこられた孕み子たちは・・不安に苛まれている筈です。どうか、十分な配慮をお願いします。それと、セックス前の避妊の処置には、問題があります。王家の作法が遅れていたために、アルミンが死にかけました。孕み子は使い捨ての玩具ではありません。殿下、検討していただきたく願います」
俺はできるだけ誠実にみえるように礼をした。
「植民地の孕み子に、避妊の必要はない。子を孕み産み落としても、肌の色が違う赤子を王として担ぎ上げようとする輩はいないからな」
殿下の言葉に、俺は複雑な思いを抱いた。避妊するか、避妊しないかは、結局は孕み子には選べないのだ。俺は落胆を隠せぬまま、顔を上げた。
「ヴェルンハルト殿下、私のやるべき事は終わりましたでしょうか?そろそろ、後宮にいらっしゃるファビアン殿下の元に向かいたいのですが・・宜しいでしょうか?」
「ああ、かまわない。ご苦労だった、マテウス。ふむ、この七人はなかなか良い選択だな。こんなに簡単に決まるなら、早々にマテウスに相談すべきだった」
王太子殿下は執務室に向かうと、机の引き出しから木の札を取り出した。そして、それを俺に向かって投げ飛ばした。
「うわっ!」
俺は慌てて飛んできた木札を掴んだ。木札には、繊細な彫刻が施されていた。落とさなくて良かった。割れてしまっては美しさが損なわれる。
「殿下、美しい彫刻を施された木札を、乱暴に扱っては駄目です。床に落とし亀裂が入っては、彫刻を施した方に申し訳ないです」
「ああっ?いや、うむ。」
「殿下?」
「その彫刻は俺が施した」
「え!?」
「暇潰しだ」
いやいや、暇潰しの域を越えてるだろ。そういえば、ルイ16世は錠前造りが好きだっけ。処刑されたけど。
「とても美しいです。気に入りました。後宮に出入りする許可証に相応しい、愛らしさがありますね」
俺が笑って木札を見つめていると、殿下が俺に背中を向けた。そして、執務室を出るように促す。
「後宮には門限がある。その時間を過ぎれば、その木札があろうとも、朝までは出られない。門限前には鐘を鳴らし時を報せる習わしになっている。門が閉まる前に、ファビアンと合流して、用事を済ませて出てくることだ。いいな、マテウス?」
「はい、殿下。では、失礼します」
「ああ、行け」
「クリスティアン様、失礼します」
「またお逢いしたいものです、マテウス卿」
「はい」
俺は一礼してから、執務室の扉に向かい歩きだした。アルミンに視線を送ると、幼馴染みは静かに執務室の扉に近づき扉を開けてくれた。俺は、足早にならぬ程度に執務室を後にした。
「脱出に成功したぁ~」
「マテウス、大丈夫か?」
「アルミンこそ、大丈夫なの?殿下の愛人の側近に殴られていたじゃない!怪我はない?大丈夫?殿下の愛人の側近はムキムキだから、筋肉が炸裂していたよ?」
「マテウス、落ち着け。『殿下の愛人の側近』は、表現的におかしいだろ。鳩尾に食らったのは、さすがに苦しかったが・・それよりも、奴の尻に殿下がペンを挿入する姿を想像して・・吐きそうになった」
「え、そこは喜ばしいことでは?二人の微笑ましい愛情に触れて、嬉しかったけど?」
「マテウスは変態標本になるべきだ!」
「アルミン、なんでだよー?」
俺達は執務室から脱出した嬉しさに、すっかり幼馴染みの関係に戻っていた。『変態』を連発する俺達への厳しい視線に気がついたのは、だいぶ歩いてからだった。
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