嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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王太子殿下が、後宮への出入りを許してくれた事は、素直に嬉しかった。これで、ファビアン殿下の、後宮での生活を支えられる。

「今日は確か・・妃候補を寝所に召される曜日でしたね、殿下?」

「よく覚えていたな?お前が妃候補であった時と、曜日は変わっていない。今日はアルトゥールを抱く事になっている・・憂鬱だ」

ヴェルンハルト殿下が、心底憂鬱そうにため息を付いた。どうやら、フリートヘルムが言っていたように、アルトゥールと殿下は、全く上手くいっていないようだ。

「王太子殿下・・今から、ファビアン殿下と共に、後宮に行っても宜しいですか?ファビアン殿下の後宮でのお住まいを確認し、足りぬ品がありましたら・・シュナーベル家で用意させて頂きたく存じます」

俺の言葉に殿下は皮肉な笑みを浮かべる。

「ファビアンの後ろ楯に、本気でなるつもりなのか、マテウス?それが、シュナーベル家の総意なのかは知らぬが・・ファビアンの言葉がこれでは、王にはなれはしない。無駄な投資だ」

俺はムッとして反論しようとした。

「あー、発言をお許しください、殿下!」

だが、俺よりも声を張り上げた者がいた。それが、アルミンの声だったので、俺は驚いて部屋の端に視線を向けた。

「マテウス様、本日の後宮行きはお止めください。俺は孕み子ではないので、後宮には入れません。護衛無しに動かれては、ヘクトール様に叱られます。後日、孕み子の護衛を付けて、後宮に入らせて頂きましょう、マテウス様」

「アルミン、それは駄目だよ。それでは、ファビアン殿下が、後宮内で一人になってしまうよ。住むのに必要な物も確認しなくてはならないから、殿下を一人では行かせられないよ!」

「マテウス様!」

俺達が言い合っていると、殿下が突然側近に指示を出した。

「おい、アルミンを黙らせろ」
「承知しました、王太子殿下」

側近はアルミンの傍まで寄ると、脇腹に拳を叩き込んだ。うめき声をあげるアルミンの髪を側近は掴み、体を僅かに持ち上げると、鳩尾に蹴りをいれた。

「やめて、殴らないで!アルミンは抵抗していないじゃない!どうして、アルミンを殴る必要があるの!?こんなの酷い!」

俺が悲鳴を上げて近付こうとすると、アルミンは俺に近付かないよう視線を寄越した。俺はアルミンから無理やり視線を外して、王太子殿下を睨み付けた。殿下は笑いを浮かべながら、俺を見ている。

「殿下・・アルミンを、側近に殴らせる理由な何ですか?気に触った事があるなら謝ります。ですから、アルミンをこれ以上傷付けないで」

「もう殴らなくていいぞ」
「はい、殿下」

王太子殿下はあっさりと、俺の願いを受け入れた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「俺の後宮が安全ではないと・・アルミンは暗に言った。俺の管理する後宮が安全ではないとは・・随分と、不敬な発言ではないか?殴られても、仕方がないのではないか、マテウス?」

実際には、殿下は後宮の管理などしていないし、興味もないのだろう。ヘロルド殿下の産みの親のイグナーツが、好き勝手に後宮を支配下に置いても、何の関心も示さない。

それどころか、その後宮でファビアン殿下を、一人で生活させるつもりだ。自分の息子が、心配ではないのだろうか?

「王太子殿下、申し訳ございません。無礼な発言をお許しください」

俺は頭を深く下げた。そんな俺の手に、すがるような小さな手が触れた。ファビアン殿下が震えながら、俺の手に触れている。俺は唇を噛み締めたまま、頭を下げ続けた。

「マテウス、頭を上げろ。無礼を許してやる。それと、ファビアンの為に、お前を王城に呼んだ訳じゃない。相談事があるから、お前を登城させた。お前は俺の親友という立場で、出仕している。そのことを忘れるな、マテウス」

「承知しております、王太子殿下」

「では、ファビアンの手を振り払え」

「え?」

「ファビアンの手を振り払えと言った。聞こえなかったのか、マテウス?」

「殿下、私は・・」
「振り払え!」

俺は殿下の言葉に従い、俺の手に触れる小さな手を振り払った。驚き目を見開くファビアン殿下と視線が合い、胸が苦しくなった。

俺は何をしているんだ?

「よくやった、マテウス」
「はい・・」

「ファビアン、分かったか?マテウスは、お前の産みの親ではない・・甘えるのは止めろ!心底、マテウスを産みの親としたいなら・・それ相応の方法を考えろ。まあ、その足りぬ脳では、無理だろうがな?」

「殿下!!」

俺は大きな声を出していた。だが、その声でファビアン殿下を更に怯えさせてしまった。俺は混乱して、訳がわからなくなってしまう。

「マテウス様・・落ち着いて」

「・・アルミン」

俺はアルミンから声を掛けられ、はっとした。俺は、幼馴染みの姿を見ないまま、深呼吸を繰り返した。

少しでも落ち着かないと・・判断を誤る。



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