136 / 239
第四章
171
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆
王太子殿下が、後宮への出入りを許してくれた事は、素直に嬉しかった。これで、ファビアン殿下の、後宮での生活を支えられる。
「今日は確か・・妃候補を寝所に召される曜日でしたね、殿下?」
「よく覚えていたな?お前が妃候補であった時と、曜日は変わっていない。今日はアルトゥールを抱く事になっている・・憂鬱だ」
ヴェルンハルト殿下が、心底憂鬱そうにため息を付いた。どうやら、フリートヘルムが言っていたように、アルトゥールと殿下は、全く上手くいっていないようだ。
「王太子殿下・・今から、ファビアン殿下と共に、後宮に行っても宜しいですか?ファビアン殿下の後宮でのお住まいを確認し、足りぬ品がありましたら・・シュナーベル家で用意させて頂きたく存じます」
俺の言葉に殿下は皮肉な笑みを浮かべる。
「ファビアンの後ろ楯に、本気でなるつもりなのか、マテウス?それが、シュナーベル家の総意なのかは知らぬが・・ファビアンの言葉がこれでは、王にはなれはしない。無駄な投資だ」
俺はムッとして反論しようとした。
「あー、発言をお許しください、殿下!」
だが、俺よりも声を張り上げた者がいた。それが、アルミンの声だったので、俺は驚いて部屋の端に視線を向けた。
「マテウス様、本日の後宮行きはお止めください。俺は孕み子ではないので、後宮には入れません。護衛無しに動かれては、ヘクトール様に叱られます。後日、孕み子の護衛を付けて、後宮に入らせて頂きましょう、マテウス様」
「アルミン、それは駄目だよ。それでは、ファビアン殿下が、後宮内で一人になってしまうよ。住むのに必要な物も確認しなくてはならないから、殿下を一人では行かせられないよ!」
「マテウス様!」
俺達が言い合っていると、殿下が突然側近に指示を出した。
「おい、アルミンを黙らせろ」
「承知しました、王太子殿下」
側近はアルミンの傍まで寄ると、脇腹に拳を叩き込んだ。うめき声をあげるアルミンの髪を側近は掴み、体を僅かに持ち上げると、鳩尾に蹴りをいれた。
「やめて、殴らないで!アルミンは抵抗していないじゃない!どうして、アルミンを殴る必要があるの!?こんなの酷い!」
俺が悲鳴を上げて近付こうとすると、アルミンは俺に近付かないよう視線を寄越した。俺はアルミンから無理やり視線を外して、王太子殿下を睨み付けた。殿下は笑いを浮かべながら、俺を見ている。
「殿下・・アルミンを、側近に殴らせる理由な何ですか?気に触った事があるなら謝ります。ですから、アルミンをこれ以上傷付けないで」
「もう殴らなくていいぞ」
「はい、殿下」
王太子殿下はあっさりと、俺の願いを受け入れた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「俺の後宮が安全ではないと・・アルミンは暗に言った。俺の管理する後宮が安全ではないとは・・随分と、不敬な発言ではないか?殴られても、仕方がないのではないか、マテウス?」
実際には、殿下は後宮の管理などしていないし、興味もないのだろう。ヘロルド殿下の産みの親のイグナーツが、好き勝手に後宮を支配下に置いても、何の関心も示さない。
それどころか、その後宮でファビアン殿下を、一人で生活させるつもりだ。自分の息子が、心配ではないのだろうか?
「王太子殿下、申し訳ございません。無礼な発言をお許しください」
俺は頭を深く下げた。そんな俺の手に、すがるような小さな手が触れた。ファビアン殿下が震えながら、俺の手に触れている。俺は唇を噛み締めたまま、頭を下げ続けた。
「マテウス、頭を上げろ。無礼を許してやる。それと、ファビアンの為に、お前を王城に呼んだ訳じゃない。相談事があるから、お前を登城させた。お前は俺の親友という立場で、出仕している。そのことを忘れるな、マテウス」
「承知しております、王太子殿下」
「では、ファビアンの手を振り払え」
「え?」
「ファビアンの手を振り払えと言った。聞こえなかったのか、マテウス?」
「殿下、私は・・」
「振り払え!」
俺は殿下の言葉に従い、俺の手に触れる小さな手を振り払った。驚き目を見開くファビアン殿下と視線が合い、胸が苦しくなった。
俺は何をしているんだ?
「よくやった、マテウス」
「はい・・」
「ファビアン、分かったか?マテウスは、お前の産みの親ではない・・甘えるのは止めろ!心底、マテウスを産みの親としたいなら・・それ相応の方法を考えろ。まあ、その足りぬ脳では、無理だろうがな?」
「殿下!!」
俺は大きな声を出していた。だが、その声でファビアン殿下を更に怯えさせてしまった。俺は混乱して、訳がわからなくなってしまう。
「マテウス様・・落ち着いて」
「・・アルミン」
俺はアルミンから声を掛けられ、はっとした。俺は、幼馴染みの姿を見ないまま、深呼吸を繰り返した。
少しでも落ち着かないと・・判断を誤る。
◆◆◆◆◆◆
王太子殿下が、後宮への出入りを許してくれた事は、素直に嬉しかった。これで、ファビアン殿下の、後宮での生活を支えられる。
「今日は確か・・妃候補を寝所に召される曜日でしたね、殿下?」
「よく覚えていたな?お前が妃候補であった時と、曜日は変わっていない。今日はアルトゥールを抱く事になっている・・憂鬱だ」
ヴェルンハルト殿下が、心底憂鬱そうにため息を付いた。どうやら、フリートヘルムが言っていたように、アルトゥールと殿下は、全く上手くいっていないようだ。
「王太子殿下・・今から、ファビアン殿下と共に、後宮に行っても宜しいですか?ファビアン殿下の後宮でのお住まいを確認し、足りぬ品がありましたら・・シュナーベル家で用意させて頂きたく存じます」
俺の言葉に殿下は皮肉な笑みを浮かべる。
「ファビアンの後ろ楯に、本気でなるつもりなのか、マテウス?それが、シュナーベル家の総意なのかは知らぬが・・ファビアンの言葉がこれでは、王にはなれはしない。無駄な投資だ」
俺はムッとして反論しようとした。
「あー、発言をお許しください、殿下!」
だが、俺よりも声を張り上げた者がいた。それが、アルミンの声だったので、俺は驚いて部屋の端に視線を向けた。
「マテウス様、本日の後宮行きはお止めください。俺は孕み子ではないので、後宮には入れません。護衛無しに動かれては、ヘクトール様に叱られます。後日、孕み子の護衛を付けて、後宮に入らせて頂きましょう、マテウス様」
「アルミン、それは駄目だよ。それでは、ファビアン殿下が、後宮内で一人になってしまうよ。住むのに必要な物も確認しなくてはならないから、殿下を一人では行かせられないよ!」
「マテウス様!」
俺達が言い合っていると、殿下が突然側近に指示を出した。
「おい、アルミンを黙らせろ」
「承知しました、王太子殿下」
側近はアルミンの傍まで寄ると、脇腹に拳を叩き込んだ。うめき声をあげるアルミンの髪を側近は掴み、体を僅かに持ち上げると、鳩尾に蹴りをいれた。
「やめて、殴らないで!アルミンは抵抗していないじゃない!どうして、アルミンを殴る必要があるの!?こんなの酷い!」
俺が悲鳴を上げて近付こうとすると、アルミンは俺に近付かないよう視線を寄越した。俺はアルミンから無理やり視線を外して、王太子殿下を睨み付けた。殿下は笑いを浮かべながら、俺を見ている。
「殿下・・アルミンを、側近に殴らせる理由な何ですか?気に触った事があるなら謝ります。ですから、アルミンをこれ以上傷付けないで」
「もう殴らなくていいぞ」
「はい、殿下」
王太子殿下はあっさりと、俺の願いを受け入れた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「俺の後宮が安全ではないと・・アルミンは暗に言った。俺の管理する後宮が安全ではないとは・・随分と、不敬な発言ではないか?殴られても、仕方がないのではないか、マテウス?」
実際には、殿下は後宮の管理などしていないし、興味もないのだろう。ヘロルド殿下の産みの親のイグナーツが、好き勝手に後宮を支配下に置いても、何の関心も示さない。
それどころか、その後宮でファビアン殿下を、一人で生活させるつもりだ。自分の息子が、心配ではないのだろうか?
「王太子殿下、申し訳ございません。無礼な発言をお許しください」
俺は頭を深く下げた。そんな俺の手に、すがるような小さな手が触れた。ファビアン殿下が震えながら、俺の手に触れている。俺は唇を噛み締めたまま、頭を下げ続けた。
「マテウス、頭を上げろ。無礼を許してやる。それと、ファビアンの為に、お前を王城に呼んだ訳じゃない。相談事があるから、お前を登城させた。お前は俺の親友という立場で、出仕している。そのことを忘れるな、マテウス」
「承知しております、王太子殿下」
「では、ファビアンの手を振り払え」
「え?」
「ファビアンの手を振り払えと言った。聞こえなかったのか、マテウス?」
「殿下、私は・・」
「振り払え!」
俺は殿下の言葉に従い、俺の手に触れる小さな手を振り払った。驚き目を見開くファビアン殿下と視線が合い、胸が苦しくなった。
俺は何をしているんだ?
「よくやった、マテウス」
「はい・・」
「ファビアン、分かったか?マテウスは、お前の産みの親ではない・・甘えるのは止めろ!心底、マテウスを産みの親としたいなら・・それ相応の方法を考えろ。まあ、その足りぬ脳では、無理だろうがな?」
「殿下!!」
俺は大きな声を出していた。だが、その声でファビアン殿下を更に怯えさせてしまった。俺は混乱して、訳がわからなくなってしまう。
「マテウス様・・落ち着いて」
「・・アルミン」
俺はアルミンから声を掛けられ、はっとした。俺は、幼馴染みの姿を見ないまま、深呼吸を繰り返した。
少しでも落ち着かないと・・判断を誤る。
◆◆◆◆◆◆
21
お気に入りに追加
4,575
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。