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第四章

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◆◆◆◆◆◆


「ちちうえ、ま、まってる!てがみ、うれし、うれしい。マテウス!いこう!」

馬車が王城に到着すると、ファビアン殿下は興奮気味に俺に話しかけてきた。

「はい、ファビアン殿下。マテウスも、殿下より手紙を頂きとても嬉しいです。お父上に会いにいきましょうね」

アルミンに抱かれたファビアン殿下が、馬車から降りる。俺も、殿下に続き馬車を降りた。

それにしても不思議だ。異端審問官事件の際には、ファビアン殿下は、王太子殿下から酷い罵声を浴びせられた。その時のファビアン殿下は、解離状態となり・・恐怖や恐れをやり過ごしていた。

今のファビアン殿下を見る限り、父親のヴェルンハルト殿下から手紙をもらい、心から喜んでいるように見える。

「親子関係って・・よくわからないな」
「マテウス様、行きますよ」

「うん、アルミン。あ、ねえ?」
「なんです?」

「その、私の護衛として・・アルミンも執務室に入ってくれる?殿下に嫌味を言われそうだけど・・我慢してくれる?」

アルミンはニヤリと笑う。そして、幼馴染みの口調になり俺の問いに応じてくれた。

「当然、護衛としてマテウスと共に、殿下の執務室に入るつもりだ。殿下に抱かれるのは二度と御免だが、嫌味ぐらいは耐えるさ。意地でも執務室からでないから安心しろ、マテウス」

俺は思わず安堵の息を付いた。不意に、ファビアン殿下が俺の手を掴んだ。

「マテウス、いこう!ちちうえ、まってる!」
「はい、ファビアン殿下!」

俺はファビアン殿下と手を繋いで歩きだした。ふと、ファビアン殿下の髪を見ると、茶色に染められた髪色が、元の金髪に戻りつつあった。

その姿には、もう幼い頃のカールの面影はない。その事を少し寂しく思っていると、不意にファビアン殿下が俺を見上げた。

「マテウス、ど、どうした?」

「いえ・・今日は、ファビアン殿下が沢山話し掛けて下さるので、とても嬉しいのです」

ファビアン殿下から、カールの面影が消えて寂しいなんて・・殿下に対して失礼過ぎる。俺は反省しながら、殿下の問いに答えた。

「ぼく、の、ことば、まだ、じょうず、ない。だから、だめ」

「そんな事はありませんよ、ファビアン殿下。アルミン、殿下はすごく成長しているよね?」

「最初にお会いした時と比べて、随分言葉数が増えましたよ、ファビアン殿下」

ファビアン殿下は照れ臭そうに、頬を赤らめた。あまりの可愛らしさに、殿下に抱きつこうとしたら、アルミンに止められた。

「マテウス様、顔面が変態です」
「が、顔面が変態って、何!?」

「マテウス、へんたい?」

「ち、違います。マテウスは、決して変態ではありません。変態人体標本を作るならば、アルミンが最適であると私は思います!」

「ふざけるな、マテウス!俺を人体標本にしようと考えるお前の頭が変態だ」

「だって、アルミンが『顔面が変態』なんて言い出すから!怠惰の衣装のお陰で、中の下の可愛さに食い込む奇跡が起こっているのに、『顔面が変態』なんて酷いよ~、アルミン!」

不意に、アルミンが表情を改めた。俺もつられて表情を引き締めた。

「マテウス様、周囲の視線が厳しくなってきました。そろそろ、天気や茶葉の値段変動について語り合いながら、執務室に向かいましょう」

確かに、周囲からの視線が痛い。シュナーベル家の次期当主の婚約者が、『顔面が変態らしい』などという噂を流されては、兄上に顔向けができない。

「そうだね、アルミン。最近の茶葉の値段の変動は、気候が関わっているのかしら?」

「そう思われます、マテウス様」
「シュナーベル、こうちゃ、おいしー!」

「殿下、流石です!我が家の紅茶は、最高品質の茶葉を使っております。茶葉は輸入品に頼っておりますが、シュナーベル家の領地でも栽培したいものです」


◇◇◇◇


王太子殿下の執務室にたどり着いた時には、慣れない会話を交わした俺とアルミンはすっかり疲れていた。

「アルミン・・疲れた」

「はぁ~、俺も疲れました。それでは、執務室への入室許可をもらってきます。こちらで、殿下と共にお待ち下さい、マテウス様」

「分かった。よろしくね、アルミン」
「アルミン、はやく!はやく!ちちうえ!」

アルミンはファビアン殿下に急かされて、早足に王太子殿下の執務室に向かった。そして、扉を守る衛兵に取り次ぎを依頼する。しばらくすると、アルミンが俺とファビアン殿下の元に戻ってきた。入室の許可が降りたようだ。

「入室の許可が降りました、マテウス様」
「アルミンも入室できるの?」

「ヴェルンハルト殿下に、絶対に近づかない事を条件に、入室の許可が降りました」

「アルミンとのセックスが・・相当のトラウマになったみたいだね。殿下、可哀想~」

俺がファビアン殿下に聞かれない様に、こっそり呟くと、アルミンがぶつぶつと文句を言い始めた。

「俺は殿下とのセックスで、死にかけたんだぞ!殿下に同情するとか、あり得んだろ!」

「死にかけるのと、ペニスが超絶に腫れ上がるのと・・どちらが辛いのかな、アルミン?」

「うっぐ、超絶に晴れ上がる、ペニ・・ス」

アルミンは小さな声で呟き、こっそり己の下半身を見たことを俺は見逃さなかった。俺は笑いを堪えつつ、ファビアン殿下と手を繋いで、執務室に向かった。そして、アルミンに声を掛けた。

「アルミンが、私の為に命を張ってくれた事は、忘れてないからね。私の大切な護衛さん」

「そうかよ」

アルミンは、照れ臭そうにそう答えると、俺とファビアン殿下のあとに続き、殿下の執務室に入っていった。




◆◆◆◆◆◆


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