嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

文字の大きさ
上 下
131 / 239
第四章

166

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆


俺は自室のベッドで目を覚ました。ベッドの傍にはヘクトール兄上がいて、俺の手を握りしめていた。窓に目をやると、明け方の景色があった。

「ヘクトール兄上・・」
「マテウス、目が覚めたかい?」

「はい、兄上」

俺はそう返事をして、上半身を起こした。ヘクトール兄上が、俺の背中にクッションを置いてくれた。俺はクッションにもたれ掛かり、兄上を見つめながら口を開いた。

「兄上・・少しはお休みになられましたか?」
「休んでいるから心配するな、マテウス」

「ですが、もう明け方ですよ?本当に、ヘクトール兄上は、お休みになられましたか?最近は、悪夢を見ることも減りました。私は大丈夫ですから・・私の為に無理をしないで下さいね、ヘクトール兄さま」

俺がそう伝えると、兄上は何故か不安な表情を浮かべた。だが、それも一瞬の事で、ヘクトール兄上は俺に微笑んだ。

「アルミンから、マテウスの活躍を聞いたよ?ヴォルフラムの頬を叩き、彼を正気に戻すと、剣士の心得を説いて・・左利きの騎士としての道を、彼に示したそうじゃないか?」

ヘクトール兄上の言葉に、俺は頬を赤らめてしまった。そして、慌てて言葉を発していた。

「あ、兄上!活躍だなんて・・とんでもないです!兄上なら、アルミンの性格をご存知でしょ?アルミンは、何でも大袈裟に語るのが好きな、困った幼馴染みなのです!」

俺の言葉に、ヘクトール兄上が笑った。そして、俺の頬を優しく撫でてくれた。

「マテウス、照れる事はない。実際に、マテウスは全力を尽くし、ヴォルフラムと正面から向き合ったのだから。ディートリッヒ家では、嫌がらせも受けたようだけど・・よく頑張った、マテウス」

俺はヘクトール兄上に誉められて、素直に嬉しかった。だが、失敗も沢山してしまった。それを語らないことは、卑怯に思えて重い口を開いた。

「ヘクトール兄上、誉めてくださりとても嬉しいです。ですが、失敗も沢山あります。嫌味や蔑む視線を受けて・・私は、早々に気鬱状態に陥ってしまいました。嫌味を言ったディートリッヒ家の御者に腹を立てて、脅しを掛けてしまいました」

「そうらしいね。アルミンから聞いたよ」

アルミン・・ヘクトール兄上が怖くて、私の失敗も含めて全て語ったようだ。うー、恥ずかしい。

「それだけではありません。ファビアン殿下とヘロルド 殿下の事を巡って・・私は、フリートヘルム様と口論しました。挙げ句に、ディートリッヒ家のソファーで、眠ってしまったのです。シュナーベル家の次期当主の婚約者なのに・・マテウスはとても恥ずかしいです・・」

俺が恥ずかしくて自然と俯くと、ヘクトール兄上はベッドの上に置いた手をぎゅっと握ってくれた。

「『私はヘクトール兄上を、尊敬しております。その兄上の婚約者であることに・・私は満足しております』」

「えっ?」

「フリートヘルムに対して、そう言ってくれたのだろ?俺もマテウスを尊敬している。少し頑張りすぎだとは思うけどね?」

「ヘクトール兄上~」

ヘクトール兄上に締め上げられて、アルミンはディートリッヒ家での出来事を全て吐いてしまったらしい。だが、アルミンを責めるのはやめよう。兄上は、時々怖いから仕方ないよね。

「さて・・そろそろ、王城に出仕する準備をしなくてはならない。マテウス、ヴォルフラムを観察した結果を聞かせて欲しい」

俺ははっとして、ヘクトール兄上の顔を見た。兄上は真剣な表情を浮かべていた。俺も表情を引き締めて、兄上を見つめた。

「ヴォルフラムは、処刑計画の刃となりうるか?それとも、彼には無理か・・マテウス?」

俺は大きく息を吐き出した。そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「ヘクトール兄上。ヴォルフラムは、処刑計画の刃にはなれません。彼には無理です」

「・・アルミンの話では、ヴォルフラムは半年間は領地にて静養すると聞いた。だが、彼ならば、一年もすれば・・左手で自在に剣を操る護衛騎士として、王城に出仕している可能性もある。彼を計画から外すのは・・早計ではないかな、マテウス?」

「兄上・・時間が足りないのです」
「時間?」

兄上の重ねてくれた手を、俺はぎゅっと握り返した。そして、深く息を吐き出し、呼吸を整える。

「マテウス?」

俺はヘクトール兄上の目を見つめて、はっきりと言葉にした。

「ヘクトール兄上・・陛下は、一年以内に崩御されます」

ヘクトール兄上が、目を見開き俺を見た。やがて、兄上は慎重に言葉を紡いだ。

「マテウス・・それは予言かい?」
「・・先見をしました、ヘクトール兄上」

ヘクトール兄上は、戸惑いの表情を浮かべる。

「陛下は確かにご高齢だが、病気一つなくお元気だ。一年以内に崩御されるとは、到底思えないのだが・・もしや、暗殺か!?」

俺は首をふり否定した。実際のところはわからないが、王国民には突然死と発表された。だから、暗殺とは言えない。でも、疑惑を生む死に方には違いない。



◆◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

嵌められた悪役令息の行く末は、

珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】 公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。 一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。 「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。 帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。 【タンザナイト王国編】完結 【アレクサンドライト帝国編】完結 【精霊使い編】連載中 ※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。