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第四章

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◆◆◆◆◆◆


俺は自室のベッドで目を覚ました。ベッドの傍にはヘクトール兄上がいて、俺の手を握りしめていた。窓に目をやると、明け方の景色があった。

「ヘクトール兄上・・」
「マテウス、目が覚めたかい?」

「はい、兄上」

俺はそう返事をして、上半身を起こした。ヘクトール兄上が、俺の背中にクッションを置いてくれた。俺はクッションにもたれ掛かり、兄上を見つめながら口を開いた。

「兄上・・少しはお休みになられましたか?」
「休んでいるから心配するな、マテウス」

「ですが、もう明け方ですよ?本当に、ヘクトール兄上は、お休みになられましたか?最近は、悪夢を見ることも減りました。私は大丈夫ですから・・私の為に無理をしないで下さいね、ヘクトール兄さま」

俺がそう伝えると、兄上は何故か不安な表情を浮かべた。だが、それも一瞬の事で、ヘクトール兄上は俺に微笑んだ。

「アルミンから、マテウスの活躍を聞いたよ?ヴォルフラムの頬を叩き、彼を正気に戻すと、剣士の心得を説いて・・左利きの騎士としての道を、彼に示したそうじゃないか?」

ヘクトール兄上の言葉に、俺は頬を赤らめてしまった。そして、慌てて言葉を発していた。

「あ、兄上!活躍だなんて・・とんでもないです!兄上なら、アルミンの性格をご存知でしょ?アルミンは、何でも大袈裟に語るのが好きな、困った幼馴染みなのです!」

俺の言葉に、ヘクトール兄上が笑った。そして、俺の頬を優しく撫でてくれた。

「マテウス、照れる事はない。実際に、マテウスは全力を尽くし、ヴォルフラムと正面から向き合ったのだから。ディートリッヒ家では、嫌がらせも受けたようだけど・・よく頑張った、マテウス」

俺はヘクトール兄上に誉められて、素直に嬉しかった。だが、失敗も沢山してしまった。それを語らないことは、卑怯に思えて重い口を開いた。

「ヘクトール兄上、誉めてくださりとても嬉しいです。ですが、失敗も沢山あります。嫌味や蔑む視線を受けて・・私は、早々に気鬱状態に陥ってしまいました。嫌味を言ったディートリッヒ家の御者に腹を立てて、脅しを掛けてしまいました」

「そうらしいね。アルミンから聞いたよ」

アルミン・・ヘクトール兄上が怖くて、私の失敗も含めて全て語ったようだ。うー、恥ずかしい。

「それだけではありません。ファビアン殿下とヘロルド 殿下の事を巡って・・私は、フリートヘルム様と口論しました。挙げ句に、ディートリッヒ家のソファーで、眠ってしまったのです。シュナーベル家の次期当主の婚約者なのに・・マテウスはとても恥ずかしいです・・」

俺が恥ずかしくて自然と俯くと、ヘクトール兄上はベッドの上に置いた手をぎゅっと握ってくれた。

「『私はヘクトール兄上を、尊敬しております。その兄上の婚約者であることに・・私は満足しております』」

「えっ?」

「フリートヘルムに対して、そう言ってくれたのだろ?俺もマテウスを尊敬している。少し頑張りすぎだとは思うけどね?」

「ヘクトール兄上~」

ヘクトール兄上に締め上げられて、アルミンはディートリッヒ家での出来事を全て吐いてしまったらしい。だが、アルミンを責めるのはやめよう。兄上は、時々怖いから仕方ないよね。

「さて・・そろそろ、王城に出仕する準備をしなくてはならない。マテウス、ヴォルフラムを観察した結果を聞かせて欲しい」

俺ははっとして、ヘクトール兄上の顔を見た。兄上は真剣な表情を浮かべていた。俺も表情を引き締めて、兄上を見つめた。

「ヴォルフラムは、処刑計画の刃となりうるか?それとも、彼には無理か・・マテウス?」

俺は大きく息を吐き出した。そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「ヘクトール兄上。ヴォルフラムは、処刑計画の刃にはなれません。彼には無理です」

「・・アルミンの話では、ヴォルフラムは半年間は領地にて静養すると聞いた。だが、彼ならば、一年もすれば・・左手で自在に剣を操る護衛騎士として、王城に出仕している可能性もある。彼を計画から外すのは・・早計ではないかな、マテウス?」

「兄上・・時間が足りないのです」
「時間?」

兄上の重ねてくれた手を、俺はぎゅっと握り返した。そして、深く息を吐き出し、呼吸を整える。

「マテウス?」

俺はヘクトール兄上の目を見つめて、はっきりと言葉にした。

「ヘクトール兄上・・陛下は、一年以内に崩御されます」

ヘクトール兄上が、目を見開き俺を見た。やがて、兄上は慎重に言葉を紡いだ。

「マテウス・・それは予言かい?」
「・・先見をしました、ヘクトール兄上」

ヘクトール兄上は、戸惑いの表情を浮かべる。

「陛下は確かにご高齢だが、病気一つなくお元気だ。一年以内に崩御されるとは、到底思えないのだが・・もしや、暗殺か!?」

俺は首をふり否定した。実際のところはわからないが、王国民には突然死と発表された。だから、暗殺とは言えない。でも、疑惑を生む死に方には違いない。



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