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第四章
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◆◆◆◆◆◆
「失礼しました、フリートヘルム様。少し、植民地の孕み子が、どのような扱いを受けるのかが、気になったものですから・・」
「大丈夫ですか、マテウス卿?貴方を不快にさせる内容だろうが、話を続けてもいいのか?」
「ええ、勿論です。続きをお聞かせください、フリートヘルム様」
フリートヘルムは、俺を見つめてからゆっくりと頷き口を開いた。
「分かった。質の良い孕み子を求める陛下は、殿下に対して・・枢機卿と交渉して、植民地の若く美しい孕み子を手配するように命じられた。殿下はその命を受けて、枢機卿と頻繁にお会いになっている。陛下に献上する・・植民地の孕み子の選定を共におこなう為に」
「では、殿下と枢機卿は、共に仕事をこなしていらっしゃるのですね?ならば、お二人の関係は、改善されたのですか?」
「いや、全く改善されていない。殿下の執務室に枢機卿がおいでになると・・ぎすぎすして、俺でも耐え難い状態になる」
「うーん?お二人がそのような関係なのに、アルトゥール様は・・何故、枢機卿を殿下の新恋人と誤解されたのでしょう?」
フリートヘルムが、苦い表情を浮かべる。
「アルトゥールは、ヘロルド殿下の産みの親に、枢機卿に関する噂を吹き込まれたらしい。今のアルトゥールは、妃候補にも関わらず・・ヘロルド殿下の産みの親に、媚びへつらい頼りきっている。それ故に、偽りの噂を吹き込まれても単純に信じてしまったのだろうな・・」
ヘロルド殿下の産みの親・・名前は確か?
「側室のイグナーツ = ファッハ様が、アルトゥール様に、根も葉もない噂を吹き込んだということですか、フリートヘルム様?」
フリートヘルムは頷くと、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。そして、アルトゥールの現状を話し出す。
「まあ、そうなるな。アルトゥールは『永遠の妃候補』と呼ばれるようになって以来、すっかり自信を喪ってしまった。王城や後宮の笑い者になっていると思い込み・・アルトゥールは、王城の部屋に籠りきりだ」
「アルトゥール様が、部屋に籠りきりだなんて・・初めてお会いした印象からは、全く想像できません」
「俺もアルトゥールが、これ程脆いとは思っていなかった。アルトゥールは、ヘロルド殿下の後ろ楯でいることのみが、自分の地位を守る術だと、思い込んでいるようだ。それだけに、ヘロルド殿下の産みの親に、媚びて機嫌を損ねないようにしているらしい・・情けない話だ」
アルトゥールは、かなり追い詰められている。それに、ヘロルド殿下の産みの親のイグナーツも、一癖ありそうな人物だ。
おそらく、後宮内は、側室のイグナーツ = ファッハに牛耳れているだろう。そんな後宮で、ファビアン殿下は生活を送る事になるのか?アルトゥールの状態も最悪みたいだし
・・やばすぎない?何だか、胃がキリキリしてきた。うー、ファビアン殿下~!
「フリートヘルム様。後宮の話が出ましたので、ファビアン殿下の件も、お聞きしたいのですがよろしいですか?」
「俺が分かる範囲なら、お答えするが?」
俺は一呼吸おく。そして、フリートヘルムを、まっすぐに見つめて話しかけた。
「ファビアン殿下のお住まいを、王城から後宮に移すよう提案したのは・・どなたでしょうか?ご存知ですか、フリートヘルム様?」
フリートヘルムは僅かにためらいを見せたが、誠実に対応してくれた。
「アルトゥールが、殿下に提案したことになっているが・・実際には、側室のイグナーツ様の入れ知恵だろうな。イグナーツ様の目的はわからないが・・王太子殿下はこの件に関しては興味が無く関心を寄せてはおられない」
「そんな!ファビアン殿下は、王太子殿下のお子ですよ?興味が無いなんて、そんなことあり得ません。きっと殿下はファビアン殿下の為に、行動されている筈です。そうでなければ、無防備なファビアン殿下を、お一人で後宮に住まわせる訳には参りません!」
「マテウス卿。我々は、臣下に過ぎない。陛下や殿下のなさることに、このように疑問を抱いたり、反論したりすることは・・不敬に当たることだ。どちらにしても、我々は殿下の為さることを、拒絶は出来ない」
「ですが、フリートヘルム様も・・殿下に対して、思うところがおありでしょ?異端審問官に、ヴォルフラム様が捕らえられた時には、殿下に進言なさっていたではありませんか!」
俺の言葉に対して、フリートヘルムは不意にきつい口調で切り返してきた。
「マテウス卿、勘違いをされてはいませんか?確かに、ヴォルフラムの件に関しては、マテウス卿に恩義を感じております。それに見合う取り引きをしても、構わないと考えている。だが、ファビアン殿下に関しては、俺は貴方に救いの手を差し伸べるつもりはない」
「えっ?」
「我々、ディートリッヒ家は、アルトゥールや他の妃候補に子が出来ぬ場合は、ヘロルド殿下を未来の王にすべきと考えている。言葉の話せぬお子を、王にする事は適切ではない。ファビアン殿下を無理矢理王としても、殿下が不幸な人生を送られるだけだ。そうは思われないか、マテウス卿?」
フリートヘルムの鋭い眼差しが、俺の浅い思考を明らかにする。でも、仕方ないじゃないか。俺の未来は、ヴェルンハルト殿下が死ぬ瞬間で、止まってしまっているのだから。
「私には・・わからない」
「マテウス卿ならば、分かっておいでの筈だ」
「は~い、終了!」
今まで黙っていたアルミンが、突然発言した。アルミンは、フリートヘルムを睨み付けながら言葉を発する。
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「失礼しました、フリートヘルム様。少し、植民地の孕み子が、どのような扱いを受けるのかが、気になったものですから・・」
「大丈夫ですか、マテウス卿?貴方を不快にさせる内容だろうが、話を続けてもいいのか?」
「ええ、勿論です。続きをお聞かせください、フリートヘルム様」
フリートヘルムは、俺を見つめてからゆっくりと頷き口を開いた。
「分かった。質の良い孕み子を求める陛下は、殿下に対して・・枢機卿と交渉して、植民地の若く美しい孕み子を手配するように命じられた。殿下はその命を受けて、枢機卿と頻繁にお会いになっている。陛下に献上する・・植民地の孕み子の選定を共におこなう為に」
「では、殿下と枢機卿は、共に仕事をこなしていらっしゃるのですね?ならば、お二人の関係は、改善されたのですか?」
「いや、全く改善されていない。殿下の執務室に枢機卿がおいでになると・・ぎすぎすして、俺でも耐え難い状態になる」
「うーん?お二人がそのような関係なのに、アルトゥール様は・・何故、枢機卿を殿下の新恋人と誤解されたのでしょう?」
フリートヘルムが、苦い表情を浮かべる。
「アルトゥールは、ヘロルド殿下の産みの親に、枢機卿に関する噂を吹き込まれたらしい。今のアルトゥールは、妃候補にも関わらず・・ヘロルド殿下の産みの親に、媚びへつらい頼りきっている。それ故に、偽りの噂を吹き込まれても単純に信じてしまったのだろうな・・」
ヘロルド殿下の産みの親・・名前は確か?
「側室のイグナーツ = ファッハ様が、アルトゥール様に、根も葉もない噂を吹き込んだということですか、フリートヘルム様?」
フリートヘルムは頷くと、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。そして、アルトゥールの現状を話し出す。
「まあ、そうなるな。アルトゥールは『永遠の妃候補』と呼ばれるようになって以来、すっかり自信を喪ってしまった。王城や後宮の笑い者になっていると思い込み・・アルトゥールは、王城の部屋に籠りきりだ」
「アルトゥール様が、部屋に籠りきりだなんて・・初めてお会いした印象からは、全く想像できません」
「俺もアルトゥールが、これ程脆いとは思っていなかった。アルトゥールは、ヘロルド殿下の後ろ楯でいることのみが、自分の地位を守る術だと、思い込んでいるようだ。それだけに、ヘロルド殿下の産みの親に、媚びて機嫌を損ねないようにしているらしい・・情けない話だ」
アルトゥールは、かなり追い詰められている。それに、ヘロルド殿下の産みの親のイグナーツも、一癖ありそうな人物だ。
おそらく、後宮内は、側室のイグナーツ = ファッハに牛耳れているだろう。そんな後宮で、ファビアン殿下は生活を送る事になるのか?アルトゥールの状態も最悪みたいだし
・・やばすぎない?何だか、胃がキリキリしてきた。うー、ファビアン殿下~!
「フリートヘルム様。後宮の話が出ましたので、ファビアン殿下の件も、お聞きしたいのですがよろしいですか?」
「俺が分かる範囲なら、お答えするが?」
俺は一呼吸おく。そして、フリートヘルムを、まっすぐに見つめて話しかけた。
「ファビアン殿下のお住まいを、王城から後宮に移すよう提案したのは・・どなたでしょうか?ご存知ですか、フリートヘルム様?」
フリートヘルムは僅かにためらいを見せたが、誠実に対応してくれた。
「アルトゥールが、殿下に提案したことになっているが・・実際には、側室のイグナーツ様の入れ知恵だろうな。イグナーツ様の目的はわからないが・・王太子殿下はこの件に関しては興味が無く関心を寄せてはおられない」
「そんな!ファビアン殿下は、王太子殿下のお子ですよ?興味が無いなんて、そんなことあり得ません。きっと殿下はファビアン殿下の為に、行動されている筈です。そうでなければ、無防備なファビアン殿下を、お一人で後宮に住まわせる訳には参りません!」
「マテウス卿。我々は、臣下に過ぎない。陛下や殿下のなさることに、このように疑問を抱いたり、反論したりすることは・・不敬に当たることだ。どちらにしても、我々は殿下の為さることを、拒絶は出来ない」
「ですが、フリートヘルム様も・・殿下に対して、思うところがおありでしょ?異端審問官に、ヴォルフラム様が捕らえられた時には、殿下に進言なさっていたではありませんか!」
俺の言葉に対して、フリートヘルムは不意にきつい口調で切り返してきた。
「マテウス卿、勘違いをされてはいませんか?確かに、ヴォルフラムの件に関しては、マテウス卿に恩義を感じております。それに見合う取り引きをしても、構わないと考えている。だが、ファビアン殿下に関しては、俺は貴方に救いの手を差し伸べるつもりはない」
「えっ?」
「我々、ディートリッヒ家は、アルトゥールや他の妃候補に子が出来ぬ場合は、ヘロルド殿下を未来の王にすべきと考えている。言葉の話せぬお子を、王にする事は適切ではない。ファビアン殿下を無理矢理王としても、殿下が不幸な人生を送られるだけだ。そうは思われないか、マテウス卿?」
フリートヘルムの鋭い眼差しが、俺の浅い思考を明らかにする。でも、仕方ないじゃないか。俺の未来は、ヴェルンハルト殿下が死ぬ瞬間で、止まってしまっているのだから。
「私には・・わからない」
「マテウス卿ならば、分かっておいでの筈だ」
「は~い、終了!」
今まで黙っていたアルミンが、突然発言した。アルミンは、フリートヘルムを睨み付けながら言葉を発する。
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