128 / 239
第四章
163
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆
安心したような、残念な様な・・いやいや、二人の門出を祝おう!これで、ヴェルンハルト殿下の気性が穏やかになったら最高じゃないか!
「・・ですが、教会のどこを探しても、枢機卿の産みの親のルーツに繋がる墓標は見つからなかった。クリスティアン殿は、ひどく気落ちしておいででした」
「え、墓標が見付からなかったのですか?それは、クリスティアン様が気落ちされるのも無理ありませんね。では、殿下は枢機卿の事を・・さぞ気遣われた事でしょうね?そこから、恋心が生まれたのですね・・なんて素敵なの」
俺がそう呟くと、アルミンがぶふっと豚の鳴き声の様な声を出した。不審に思いアルミンを見たが、その時にはすでに、すました表情を浮かべていた。
「マテウス卿、夢を壊し申し訳無いのだが・・殿下は枢機卿に対して、気遣いの心を見せることはなかった。殿下は枢機卿に対して『貴方の産みの親は恥ずべき出自だったに違いない。それを隠すために、枢機卿には嘘をついたのだろう。貴方は産みの親のルーツなどに、拘るべきではなかった』と仰いまして・・二人の関係は一気に険悪になりました」
「ヴェルンハルト殿下ーーー!」
俺は思わず叫んでいた。危うくテーブルを叩くところだったが、何とか思いとどまる。しかし、どうして殿下は人の傷口に塩を塗るような真似をするんだ。
恨みの種を撒き散らし何がしたいの、殿下?
「・・殿下の産みの親は、魔物との通姦罪で火刑に処されました。フォルカー教の教義に反する罪で、殿下の産みの親は処刑されたのです。その事もあり、殿下は枢機卿に対して、何かしら含むところが、あったのかもしれません」
俺がそう口にすると、フリートヘルムも頷き少し憂鬱な表情を浮かべた。
「ヴェルンハルト殿下は、幼い頃から繊細な心の持ち主だった。産みの親の火刑を目の当たりにしてからは・・殿下は人を信じることが、出来なくなってしまわれた。その姿を見ると・・お痛わしく思う」
フリートヘルムは、やはり今でも殿下の事が好きなのだろう。彼は殿下に対して、好意的な見方をしている。しかし、ヴェルンハルト殿下と枢機卿が恋人関係にないなら、アルトゥールはどうして勘違いをしたのだろう?
「フリートヘルム様?」
「ん、どうされた?」
「殿下と枢機卿は、恋人関係ではないのですよね?アルトゥール様は、どうして、殿下の新恋人がクリスティアン様だと、思い込んでしまったのでしょうか?」
俺の質問に答えるべきか、フリートヘルムは迷いを見せた。俺は彼に再び脅しを掛けた。
「フリートヘルム様、借りを返してください」
「うっ。マテウス卿が、ヘクトール卿と同じ眼差しをしている。俺は獲物なのか・・」
「獲物だなんてとんでもない!私はフリートヘルム様を頼りにしているのです。それに、眼差しが似るのは、兄弟ですから当然ですよ?」
フリートヘルムには気の毒だが、ここで逃がしてたまるか!押しまくって、情報を引き出す!
「マテウス卿が、殿下の親友として招かれているならば・・隠す必要もないな。実は、陛下は以前より、フォルカー教国に連れてこられた、植民地の孕み子に興味をお持ちでした」
「えっ!?」
「孕み子のマテウス卿には、不快な話になるとは思うのだが・・陛下は、国内の孕み子に飽きてしまわれて、珍しい肌の色をしている植民地の孕み子を所望されておいでだ」
「陛下が、植民地の孕み子を求めておいでなのですね・・それは・・」
まずい。まずいぞ!
現国王の、ヴァルデマール = フォーゲル。
小説『愛の為に』の記述では、陛下は植民地の孕み子とのセックス中に、突然死したと書かれていた。いわゆる、腹上死である。
それも、植民地の孕み子を寝室に招くようになってから・・一年程で亡くなっている。
詳細は伏せたまま、ヴァルデマール陛下の崩御は、病死として王国民には発表される。だが、王城内では・・陛下の死因に関して、様々な陰謀説が持ち上がる事になる。
植民地の孕み子が、奴隷扱いに耐えられず毒を煽った結果、孕み子と交わった陛下がその毒にあたり死んだという説。
何者かが、植民地の孕み子の体内に毒を仕込み、陛下を死に至らしめたという説。
様々な噂が飛び交う中、植民地の孕み子を陛下に提供した、フォルカー教国の枢機卿のクリスティアンは、責任を問われてフォーゲル王国を追われる形で出国する羽目になる。
そういえば、殿下も・・陛下の暗殺に、関わったのではないかと疑われた。だが、結局のところ、陛下の死はうやむやにされる。
そして、新国王、ヴェルンハルト= フォーゲルが誕生するのだ。いや、戴冠式前に殺されるから、殿下は国王にはなれないけど・・
「マテウス様?」
「マテウス卿?」
アルミンとフリートヘルムに、同時に声を掛けられた。まずい!これ以上考え事をして、会話を途切れさせたら、アルミンに抱っこされて、帰りの馬車に放り込まれそうだ。
◆◆◆◆◆◆
安心したような、残念な様な・・いやいや、二人の門出を祝おう!これで、ヴェルンハルト殿下の気性が穏やかになったら最高じゃないか!
「・・ですが、教会のどこを探しても、枢機卿の産みの親のルーツに繋がる墓標は見つからなかった。クリスティアン殿は、ひどく気落ちしておいででした」
「え、墓標が見付からなかったのですか?それは、クリスティアン様が気落ちされるのも無理ありませんね。では、殿下は枢機卿の事を・・さぞ気遣われた事でしょうね?そこから、恋心が生まれたのですね・・なんて素敵なの」
俺がそう呟くと、アルミンがぶふっと豚の鳴き声の様な声を出した。不審に思いアルミンを見たが、その時にはすでに、すました表情を浮かべていた。
「マテウス卿、夢を壊し申し訳無いのだが・・殿下は枢機卿に対して、気遣いの心を見せることはなかった。殿下は枢機卿に対して『貴方の産みの親は恥ずべき出自だったに違いない。それを隠すために、枢機卿には嘘をついたのだろう。貴方は産みの親のルーツなどに、拘るべきではなかった』と仰いまして・・二人の関係は一気に険悪になりました」
「ヴェルンハルト殿下ーーー!」
俺は思わず叫んでいた。危うくテーブルを叩くところだったが、何とか思いとどまる。しかし、どうして殿下は人の傷口に塩を塗るような真似をするんだ。
恨みの種を撒き散らし何がしたいの、殿下?
「・・殿下の産みの親は、魔物との通姦罪で火刑に処されました。フォルカー教の教義に反する罪で、殿下の産みの親は処刑されたのです。その事もあり、殿下は枢機卿に対して、何かしら含むところが、あったのかもしれません」
俺がそう口にすると、フリートヘルムも頷き少し憂鬱な表情を浮かべた。
「ヴェルンハルト殿下は、幼い頃から繊細な心の持ち主だった。産みの親の火刑を目の当たりにしてからは・・殿下は人を信じることが、出来なくなってしまわれた。その姿を見ると・・お痛わしく思う」
フリートヘルムは、やはり今でも殿下の事が好きなのだろう。彼は殿下に対して、好意的な見方をしている。しかし、ヴェルンハルト殿下と枢機卿が恋人関係にないなら、アルトゥールはどうして勘違いをしたのだろう?
「フリートヘルム様?」
「ん、どうされた?」
「殿下と枢機卿は、恋人関係ではないのですよね?アルトゥール様は、どうして、殿下の新恋人がクリスティアン様だと、思い込んでしまったのでしょうか?」
俺の質問に答えるべきか、フリートヘルムは迷いを見せた。俺は彼に再び脅しを掛けた。
「フリートヘルム様、借りを返してください」
「うっ。マテウス卿が、ヘクトール卿と同じ眼差しをしている。俺は獲物なのか・・」
「獲物だなんてとんでもない!私はフリートヘルム様を頼りにしているのです。それに、眼差しが似るのは、兄弟ですから当然ですよ?」
フリートヘルムには気の毒だが、ここで逃がしてたまるか!押しまくって、情報を引き出す!
「マテウス卿が、殿下の親友として招かれているならば・・隠す必要もないな。実は、陛下は以前より、フォルカー教国に連れてこられた、植民地の孕み子に興味をお持ちでした」
「えっ!?」
「孕み子のマテウス卿には、不快な話になるとは思うのだが・・陛下は、国内の孕み子に飽きてしまわれて、珍しい肌の色をしている植民地の孕み子を所望されておいでだ」
「陛下が、植民地の孕み子を求めておいでなのですね・・それは・・」
まずい。まずいぞ!
現国王の、ヴァルデマール = フォーゲル。
小説『愛の為に』の記述では、陛下は植民地の孕み子とのセックス中に、突然死したと書かれていた。いわゆる、腹上死である。
それも、植民地の孕み子を寝室に招くようになってから・・一年程で亡くなっている。
詳細は伏せたまま、ヴァルデマール陛下の崩御は、病死として王国民には発表される。だが、王城内では・・陛下の死因に関して、様々な陰謀説が持ち上がる事になる。
植民地の孕み子が、奴隷扱いに耐えられず毒を煽った結果、孕み子と交わった陛下がその毒にあたり死んだという説。
何者かが、植民地の孕み子の体内に毒を仕込み、陛下を死に至らしめたという説。
様々な噂が飛び交う中、植民地の孕み子を陛下に提供した、フォルカー教国の枢機卿のクリスティアンは、責任を問われてフォーゲル王国を追われる形で出国する羽目になる。
そういえば、殿下も・・陛下の暗殺に、関わったのではないかと疑われた。だが、結局のところ、陛下の死はうやむやにされる。
そして、新国王、ヴェルンハルト= フォーゲルが誕生するのだ。いや、戴冠式前に殺されるから、殿下は国王にはなれないけど・・
「マテウス様?」
「マテウス卿?」
アルミンとフリートヘルムに、同時に声を掛けられた。まずい!これ以上考え事をして、会話を途切れさせたら、アルミンに抱っこされて、帰りの馬車に放り込まれそうだ。
◆◆◆◆◆◆
21
お気に入りに追加
4,575
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。