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第四章

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安心したような、残念な様な・・いやいや、二人の門出を祝おう!これで、ヴェルンハルト殿下の気性が穏やかになったら最高じゃないか!

「・・ですが、教会のどこを探しても、枢機卿の産みの親のルーツに繋がる墓標は見つからなかった。クリスティアン殿は、ひどく気落ちしておいででした」

「え、墓標が見付からなかったのですか?それは、クリスティアン様が気落ちされるのも無理ありませんね。では、殿下は枢機卿の事を・・さぞ気遣われた事でしょうね?そこから、恋心が生まれたのですね・・なんて素敵なの」

俺がそう呟くと、アルミンがぶふっと豚の鳴き声の様な声を出した。不審に思いアルミンを見たが、その時にはすでに、すました表情を浮かべていた。

「マテウス卿、夢を壊し申し訳無いのだが・・殿下は枢機卿に対して、気遣いの心を見せることはなかった。殿下は枢機卿に対して『貴方の産みの親は恥ずべき出自だったに違いない。それを隠すために、枢機卿には嘘をついたのだろう。貴方は産みの親のルーツなどに、拘るべきではなかった』と仰いまして・・二人の関係は一気に険悪になりました」

「ヴェルンハルト殿下ーーー!」

俺は思わず叫んでいた。危うくテーブルを叩くところだったが、何とか思いとどまる。しかし、どうして殿下は人の傷口に塩を塗るような真似をするんだ。

恨みの種を撒き散らし何がしたいの、殿下?

「・・殿下の産みの親は、魔物との通姦罪で火刑に処されました。フォルカー教の教義に反する罪で、殿下の産みの親は処刑されたのです。その事もあり、殿下は枢機卿に対して、何かしら含むところが、あったのかもしれません」

俺がそう口にすると、フリートヘルムも頷き少し憂鬱な表情を浮かべた。

「ヴェルンハルト殿下は、幼い頃から繊細な心の持ち主だった。産みの親の火刑を目の当たりにしてからは・・殿下は人を信じることが、出来なくなってしまわれた。その姿を見ると・・お痛わしく思う」

フリートヘルムは、やはり今でも殿下の事が好きなのだろう。彼は殿下に対して、好意的な見方をしている。しかし、ヴェルンハルト殿下と枢機卿が恋人関係にないなら、アルトゥールはどうして勘違いをしたのだろう?

「フリートヘルム様?」
「ん、どうされた?」

「殿下と枢機卿は、恋人関係ではないのですよね?アルトゥール様は、どうして、殿下の新恋人がクリスティアン様だと、思い込んでしまったのでしょうか?」

俺の質問に答えるべきか、フリートヘルムは迷いを見せた。俺は彼に再び脅しを掛けた。

「フリートヘルム様、借りを返してください」

「うっ。マテウス卿が、ヘクトール卿と同じ眼差しをしている。俺は獲物なのか・・」

「獲物だなんてとんでもない!私はフリートヘルム様を頼りにしているのです。それに、眼差しが似るのは、兄弟ですから当然ですよ?」

フリートヘルムには気の毒だが、ここで逃がしてたまるか!押しまくって、情報を引き出す!

「マテウス卿が、殿下の親友として招かれているならば・・隠す必要もないな。実は、陛下は以前より、フォルカー教国に連れてこられた、植民地の孕み子に興味をお持ちでした」

「えっ!?」

「孕み子のマテウス卿には、不快な話になるとは思うのだが・・陛下は、国内の孕み子に飽きてしまわれて、珍しい肌の色をしている植民地の孕み子を所望されておいでだ」

「陛下が、植民地の孕み子を求めておいでなのですね・・それは・・」

まずい。まずいぞ!

現国王の、ヴァルデマール = フォーゲル。

小説『愛の為に』の記述では、陛下は植民地の孕み子とのセックス中に、突然死したと書かれていた。いわゆる、腹上死である。

それも、植民地の孕み子を寝室に招くようになってから・・一年程で亡くなっている。

詳細は伏せたまま、ヴァルデマール陛下の崩御は、病死として王国民には発表される。だが、王城内では・・陛下の死因に関して、様々な陰謀説が持ち上がる事になる。

植民地の孕み子が、奴隷扱いに耐えられず毒を煽った結果、孕み子と交わった陛下がその毒にあたり死んだという説。

何者かが、植民地の孕み子の体内に毒を仕込み、陛下を死に至らしめたという説。

様々な噂が飛び交う中、植民地の孕み子を陛下に提供した、フォルカー教国の枢機卿のクリスティアンは、責任を問われてフォーゲル王国を追われる形で出国する羽目になる。

そういえば、殿下も・・陛下の暗殺に、関わったのではないかと疑われた。だが、結局のところ、陛下の死はうやむやにされる。

そして、新国王、ヴェルンハルト= フォーゲルが誕生するのだ。いや、戴冠式前に殺されるから、殿下は国王にはなれないけど・・

「マテウス様?」
「マテウス卿?」

アルミンとフリートヘルムに、同時に声を掛けられた。まずい!これ以上考え事をして、会話を途切れさせたら、アルミンに抱っこされて、帰りの馬車に放り込まれそうだ。




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