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第四章
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◆◆◆◆◆◆
「フリートヘルム様、王太子殿下と枢機卿は・・恋人になっちゃったんですか?」
俺はかなりバカっぽい質問をしている。だが、知る必要があるので、恥じらいはない。
「マテウス様・・話題に食い付き過ぎです。それでは、噂好きの案内係と変わりませんよ?」
アルミンは俺の質問をバカな内容だと判断したらしい。だけど違うからね!これは重要な案件だから!
「アルミン・・私を、噂好きの案内係と一緒にしないでくれる?私は彼らと違って『どちらが抱くのかしら?きゃー、殿下が抱かれる方ならどうしよう。興奮する!』などということには、興味ないから!」
「・・そうですか」
アルミンの眼差しが、完全に『おバカさん』に向けるそれに変化した。俺はアルミンに、言い訳せずにはいられなかった。
「私は王太子殿下の親友として、王城に招かれ出仕している身だよ?殿下に新しい恋人ができたのなら、その人物が殿下にとり安全な人物かを知る必要があるの。まして、相手はフォルカー教国の枢機卿だよ?フォルカー教との繋がりも、考えないとまずいでしょ?」
「殿下の親友ねえ・・マテウス様が、殿下と親友らしく談笑している姿を、一度も見ておりませんが・・親友と言えますかねえ?」
小説の記載では・・私と殿下は『親友になった』と書いてあったのだけどなぁ。でも、現実は程遠い。もしも、殿下と私が親友になれたなら、奇跡に違いない。
「アルミン、嫌味は止めて。今は、私と殿下の関係より、ヴェルンハルト殿下とクリスティアン様の関係が問題なの!」
俺はアルミンとのやり取りを切り上げ、ターゲットをフリートヘルムに移動させた。フリートヘルムは、一瞬顔を強ばらせた。
「それで、フリートヘルム様!王太子殿下と枢機卿は、恋人関係になられたのですか?二人の出逢いと馴れ初めを、私に教えて下さい!」
「殿下と枢機卿の・・出逢いと馴れ初めを、俺が語るのか?噂好きの案内係のように?」
フリートヘルムが、戸惑いの表情を見せた。ヤバい、忘れていた・・フリートヘルムは、殿下の事が大好きな『白豚野郎』だった。
俺は彼に、酷な質問をしている。でも、大切な質問なので繰り返し口にした。
「殿下と枢機卿の関係を、私に教えて下さい。フリートヘルム様が、殿下に特別な感情を抱いている事は知っています。ですが、私はここで、借りを返してもらいます・・二人の関係を教えて下さい、フリートヘルム様」
フリートヘルムは、僅かに目を細めて俺を見た。そして、不意に笑い出す。
「マテウス卿には敵わないな。確かに、俺は殿下に対して、特別な感情を抱いていた。だが、マテウス卿のお陰で・・俺は、現実を直視できるようになった」
「私のお陰?」
「俺に現実を直視するよう促したのは、貴方ですよ・・マテウス卿?そして、現実を直視して気がついた。俺は実らぬ恋の為に・・ディートリッヒ家次期当主の座を、捨てることは出来ないとね」
フリートヘルムの赤裸々な発言に、俺は目を丸くしてしまった。俺はフリートヘルムを見つめたまま、言葉を発していた。
「殿下への恋心を・・喪ってしまったのですか、フリートヘルム様?」
「いや、殿下への恋心はある。だが、何時までも・・恋に溺れてはいられない。俺の叶えたい夢は、時間と労力が掛かる」
「貴方の夢は何ですか?」
「俺の夢は・・ディートリッヒ家の領地改革を、俺の代で軌道に乗せる事だ。そして、領民に安心して暮らせる領地を与える事」
フリートヘルムの言葉に、俺は思わず微笑んでいた。もしかすると・・小説の登場人物の中で、フリートヘルムが、最も成長しているかもしれない。
最初に会った時は、最悪の印象だった。だが、今の彼は中々に良い男だと思う。それに対して、殿下の成長が見えない・・残念すぎる。
「ヘクトール兄上が、フリートヘルム様の事を高く評価していましたよ」
「ヘクトール卿に高く評価されるのは嬉しいが、早々に潰されそうな気がしてならない」
フリートヘルムはそう言いながら、居心地悪そうにソファーに座り直す。うーん、ヘクトール兄上は、フリートヘルムを怖がらせるような事を、なさったのだろうか?
ありそうだけど・・アルミン、腹を抱えて笑うんじゃない!
「『枢機卿は王城内にある教会に、お忍びで通う事を希望されている』・・マテウス卿よりそう伺い、俺は陛下より教会に入る許可を頂きました。ただし、お忍びとはいえ、相手は枢機卿。礼節を重んじた陛下は、案内役として、王太子殿下を指名されました」
「そうだったのですか!?」
小説『愛の為に』には、なかったエピソードだ!この世界では、二人は出逢いから違うようだ。新エピソードを見逃すとは・・無念!
小説内での殿下と枢機卿は、公式の場で出逢っている。互いの容姿に、まず心を惹かれ合う二人。そこから、徐々に心の距離を縮めていく。
だが、その後、二人の感情はすれ違い・・やがては、殿下への凌辱に繋がる。
だが、この世界の二人は・・教会で出逢った。趣ある教会を二人で巡る内に、素敵な感情が芽生えたのだろうか?両想いなら、枢機卿が殿下を凌辱するエピソードはなくなるだろう。
安心したような、残念な様な・・いやいや、二人の門出を祝おう!これで、ヴェルンハルト殿下の気性が穏やかになったら最高じゃないか!
◆◆◆◆◆◆
「フリートヘルム様、王太子殿下と枢機卿は・・恋人になっちゃったんですか?」
俺はかなりバカっぽい質問をしている。だが、知る必要があるので、恥じらいはない。
「マテウス様・・話題に食い付き過ぎです。それでは、噂好きの案内係と変わりませんよ?」
アルミンは俺の質問をバカな内容だと判断したらしい。だけど違うからね!これは重要な案件だから!
「アルミン・・私を、噂好きの案内係と一緒にしないでくれる?私は彼らと違って『どちらが抱くのかしら?きゃー、殿下が抱かれる方ならどうしよう。興奮する!』などということには、興味ないから!」
「・・そうですか」
アルミンの眼差しが、完全に『おバカさん』に向けるそれに変化した。俺はアルミンに、言い訳せずにはいられなかった。
「私は王太子殿下の親友として、王城に招かれ出仕している身だよ?殿下に新しい恋人ができたのなら、その人物が殿下にとり安全な人物かを知る必要があるの。まして、相手はフォルカー教国の枢機卿だよ?フォルカー教との繋がりも、考えないとまずいでしょ?」
「殿下の親友ねえ・・マテウス様が、殿下と親友らしく談笑している姿を、一度も見ておりませんが・・親友と言えますかねえ?」
小説の記載では・・私と殿下は『親友になった』と書いてあったのだけどなぁ。でも、現実は程遠い。もしも、殿下と私が親友になれたなら、奇跡に違いない。
「アルミン、嫌味は止めて。今は、私と殿下の関係より、ヴェルンハルト殿下とクリスティアン様の関係が問題なの!」
俺はアルミンとのやり取りを切り上げ、ターゲットをフリートヘルムに移動させた。フリートヘルムは、一瞬顔を強ばらせた。
「それで、フリートヘルム様!王太子殿下と枢機卿は、恋人関係になられたのですか?二人の出逢いと馴れ初めを、私に教えて下さい!」
「殿下と枢機卿の・・出逢いと馴れ初めを、俺が語るのか?噂好きの案内係のように?」
フリートヘルムが、戸惑いの表情を見せた。ヤバい、忘れていた・・フリートヘルムは、殿下の事が大好きな『白豚野郎』だった。
俺は彼に、酷な質問をしている。でも、大切な質問なので繰り返し口にした。
「殿下と枢機卿の関係を、私に教えて下さい。フリートヘルム様が、殿下に特別な感情を抱いている事は知っています。ですが、私はここで、借りを返してもらいます・・二人の関係を教えて下さい、フリートヘルム様」
フリートヘルムは、僅かに目を細めて俺を見た。そして、不意に笑い出す。
「マテウス卿には敵わないな。確かに、俺は殿下に対して、特別な感情を抱いていた。だが、マテウス卿のお陰で・・俺は、現実を直視できるようになった」
「私のお陰?」
「俺に現実を直視するよう促したのは、貴方ですよ・・マテウス卿?そして、現実を直視して気がついた。俺は実らぬ恋の為に・・ディートリッヒ家次期当主の座を、捨てることは出来ないとね」
フリートヘルムの赤裸々な発言に、俺は目を丸くしてしまった。俺はフリートヘルムを見つめたまま、言葉を発していた。
「殿下への恋心を・・喪ってしまったのですか、フリートヘルム様?」
「いや、殿下への恋心はある。だが、何時までも・・恋に溺れてはいられない。俺の叶えたい夢は、時間と労力が掛かる」
「貴方の夢は何ですか?」
「俺の夢は・・ディートリッヒ家の領地改革を、俺の代で軌道に乗せる事だ。そして、領民に安心して暮らせる領地を与える事」
フリートヘルムの言葉に、俺は思わず微笑んでいた。もしかすると・・小説の登場人物の中で、フリートヘルムが、最も成長しているかもしれない。
最初に会った時は、最悪の印象だった。だが、今の彼は中々に良い男だと思う。それに対して、殿下の成長が見えない・・残念すぎる。
「ヘクトール兄上が、フリートヘルム様の事を高く評価していましたよ」
「ヘクトール卿に高く評価されるのは嬉しいが、早々に潰されそうな気がしてならない」
フリートヘルムはそう言いながら、居心地悪そうにソファーに座り直す。うーん、ヘクトール兄上は、フリートヘルムを怖がらせるような事を、なさったのだろうか?
ありそうだけど・・アルミン、腹を抱えて笑うんじゃない!
「『枢機卿は王城内にある教会に、お忍びで通う事を希望されている』・・マテウス卿よりそう伺い、俺は陛下より教会に入る許可を頂きました。ただし、お忍びとはいえ、相手は枢機卿。礼節を重んじた陛下は、案内役として、王太子殿下を指名されました」
「そうだったのですか!?」
小説『愛の為に』には、なかったエピソードだ!この世界では、二人は出逢いから違うようだ。新エピソードを見逃すとは・・無念!
小説内での殿下と枢機卿は、公式の場で出逢っている。互いの容姿に、まず心を惹かれ合う二人。そこから、徐々に心の距離を縮めていく。
だが、その後、二人の感情はすれ違い・・やがては、殿下への凌辱に繋がる。
だが、この世界の二人は・・教会で出逢った。趣ある教会を二人で巡る内に、素敵な感情が芽生えたのだろうか?両想いなら、枢機卿が殿下を凌辱するエピソードはなくなるだろう。
安心したような、残念な様な・・いやいや、二人の門出を祝おう!これで、ヴェルンハルト殿下の気性が穏やかになったら最高じゃないか!
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