127 / 239
第四章
162
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆
「フリートヘルム様、王太子殿下と枢機卿は・・恋人になっちゃったんですか?」
俺はかなりバカっぽい質問をしている。だが、知る必要があるので、恥じらいはない。
「マテウス様・・話題に食い付き過ぎです。それでは、噂好きの案内係と変わりませんよ?」
アルミンは俺の質問をバカな内容だと判断したらしい。だけど違うからね!これは重要な案件だから!
「アルミン・・私を、噂好きの案内係と一緒にしないでくれる?私は彼らと違って『どちらが抱くのかしら?きゃー、殿下が抱かれる方ならどうしよう。興奮する!』などということには、興味ないから!」
「・・そうですか」
アルミンの眼差しが、完全に『おバカさん』に向けるそれに変化した。俺はアルミンに、言い訳せずにはいられなかった。
「私は王太子殿下の親友として、王城に招かれ出仕している身だよ?殿下に新しい恋人ができたのなら、その人物が殿下にとり安全な人物かを知る必要があるの。まして、相手はフォルカー教国の枢機卿だよ?フォルカー教との繋がりも、考えないとまずいでしょ?」
「殿下の親友ねえ・・マテウス様が、殿下と親友らしく談笑している姿を、一度も見ておりませんが・・親友と言えますかねえ?」
小説の記載では・・私と殿下は『親友になった』と書いてあったのだけどなぁ。でも、現実は程遠い。もしも、殿下と私が親友になれたなら、奇跡に違いない。
「アルミン、嫌味は止めて。今は、私と殿下の関係より、ヴェルンハルト殿下とクリスティアン様の関係が問題なの!」
俺はアルミンとのやり取りを切り上げ、ターゲットをフリートヘルムに移動させた。フリートヘルムは、一瞬顔を強ばらせた。
「それで、フリートヘルム様!王太子殿下と枢機卿は、恋人関係になられたのですか?二人の出逢いと馴れ初めを、私に教えて下さい!」
「殿下と枢機卿の・・出逢いと馴れ初めを、俺が語るのか?噂好きの案内係のように?」
フリートヘルムが、戸惑いの表情を見せた。ヤバい、忘れていた・・フリートヘルムは、殿下の事が大好きな『白豚野郎』だった。
俺は彼に、酷な質問をしている。でも、大切な質問なので繰り返し口にした。
「殿下と枢機卿の関係を、私に教えて下さい。フリートヘルム様が、殿下に特別な感情を抱いている事は知っています。ですが、私はここで、借りを返してもらいます・・二人の関係を教えて下さい、フリートヘルム様」
フリートヘルムは、僅かに目を細めて俺を見た。そして、不意に笑い出す。
「マテウス卿には敵わないな。確かに、俺は殿下に対して、特別な感情を抱いていた。だが、マテウス卿のお陰で・・俺は、現実を直視できるようになった」
「私のお陰?」
「俺に現実を直視するよう促したのは、貴方ですよ・・マテウス卿?そして、現実を直視して気がついた。俺は実らぬ恋の為に・・ディートリッヒ家次期当主の座を、捨てることは出来ないとね」
フリートヘルムの赤裸々な発言に、俺は目を丸くしてしまった。俺はフリートヘルムを見つめたまま、言葉を発していた。
「殿下への恋心を・・喪ってしまったのですか、フリートヘルム様?」
「いや、殿下への恋心はある。だが、何時までも・・恋に溺れてはいられない。俺の叶えたい夢は、時間と労力が掛かる」
「貴方の夢は何ですか?」
「俺の夢は・・ディートリッヒ家の領地改革を、俺の代で軌道に乗せる事だ。そして、領民に安心して暮らせる領地を与える事」
フリートヘルムの言葉に、俺は思わず微笑んでいた。もしかすると・・小説の登場人物の中で、フリートヘルムが、最も成長しているかもしれない。
最初に会った時は、最悪の印象だった。だが、今の彼は中々に良い男だと思う。それに対して、殿下の成長が見えない・・残念すぎる。
「ヘクトール兄上が、フリートヘルム様の事を高く評価していましたよ」
「ヘクトール卿に高く評価されるのは嬉しいが、早々に潰されそうな気がしてならない」
フリートヘルムはそう言いながら、居心地悪そうにソファーに座り直す。うーん、ヘクトール兄上は、フリートヘルムを怖がらせるような事を、なさったのだろうか?
ありそうだけど・・アルミン、腹を抱えて笑うんじゃない!
「『枢機卿は王城内にある教会に、お忍びで通う事を希望されている』・・マテウス卿よりそう伺い、俺は陛下より教会に入る許可を頂きました。ただし、お忍びとはいえ、相手は枢機卿。礼節を重んじた陛下は、案内役として、王太子殿下を指名されました」
「そうだったのですか!?」
小説『愛の為に』には、なかったエピソードだ!この世界では、二人は出逢いから違うようだ。新エピソードを見逃すとは・・無念!
小説内での殿下と枢機卿は、公式の場で出逢っている。互いの容姿に、まず心を惹かれ合う二人。そこから、徐々に心の距離を縮めていく。
だが、その後、二人の感情はすれ違い・・やがては、殿下への凌辱に繋がる。
だが、この世界の二人は・・教会で出逢った。趣ある教会を二人で巡る内に、素敵な感情が芽生えたのだろうか?両想いなら、枢機卿が殿下を凌辱するエピソードはなくなるだろう。
安心したような、残念な様な・・いやいや、二人の門出を祝おう!これで、ヴェルンハルト殿下の気性が穏やかになったら最高じゃないか!
◆◆◆◆◆◆
「フリートヘルム様、王太子殿下と枢機卿は・・恋人になっちゃったんですか?」
俺はかなりバカっぽい質問をしている。だが、知る必要があるので、恥じらいはない。
「マテウス様・・話題に食い付き過ぎです。それでは、噂好きの案内係と変わりませんよ?」
アルミンは俺の質問をバカな内容だと判断したらしい。だけど違うからね!これは重要な案件だから!
「アルミン・・私を、噂好きの案内係と一緒にしないでくれる?私は彼らと違って『どちらが抱くのかしら?きゃー、殿下が抱かれる方ならどうしよう。興奮する!』などということには、興味ないから!」
「・・そうですか」
アルミンの眼差しが、完全に『おバカさん』に向けるそれに変化した。俺はアルミンに、言い訳せずにはいられなかった。
「私は王太子殿下の親友として、王城に招かれ出仕している身だよ?殿下に新しい恋人ができたのなら、その人物が殿下にとり安全な人物かを知る必要があるの。まして、相手はフォルカー教国の枢機卿だよ?フォルカー教との繋がりも、考えないとまずいでしょ?」
「殿下の親友ねえ・・マテウス様が、殿下と親友らしく談笑している姿を、一度も見ておりませんが・・親友と言えますかねえ?」
小説の記載では・・私と殿下は『親友になった』と書いてあったのだけどなぁ。でも、現実は程遠い。もしも、殿下と私が親友になれたなら、奇跡に違いない。
「アルミン、嫌味は止めて。今は、私と殿下の関係より、ヴェルンハルト殿下とクリスティアン様の関係が問題なの!」
俺はアルミンとのやり取りを切り上げ、ターゲットをフリートヘルムに移動させた。フリートヘルムは、一瞬顔を強ばらせた。
「それで、フリートヘルム様!王太子殿下と枢機卿は、恋人関係になられたのですか?二人の出逢いと馴れ初めを、私に教えて下さい!」
「殿下と枢機卿の・・出逢いと馴れ初めを、俺が語るのか?噂好きの案内係のように?」
フリートヘルムが、戸惑いの表情を見せた。ヤバい、忘れていた・・フリートヘルムは、殿下の事が大好きな『白豚野郎』だった。
俺は彼に、酷な質問をしている。でも、大切な質問なので繰り返し口にした。
「殿下と枢機卿の関係を、私に教えて下さい。フリートヘルム様が、殿下に特別な感情を抱いている事は知っています。ですが、私はここで、借りを返してもらいます・・二人の関係を教えて下さい、フリートヘルム様」
フリートヘルムは、僅かに目を細めて俺を見た。そして、不意に笑い出す。
「マテウス卿には敵わないな。確かに、俺は殿下に対して、特別な感情を抱いていた。だが、マテウス卿のお陰で・・俺は、現実を直視できるようになった」
「私のお陰?」
「俺に現実を直視するよう促したのは、貴方ですよ・・マテウス卿?そして、現実を直視して気がついた。俺は実らぬ恋の為に・・ディートリッヒ家次期当主の座を、捨てることは出来ないとね」
フリートヘルムの赤裸々な発言に、俺は目を丸くしてしまった。俺はフリートヘルムを見つめたまま、言葉を発していた。
「殿下への恋心を・・喪ってしまったのですか、フリートヘルム様?」
「いや、殿下への恋心はある。だが、何時までも・・恋に溺れてはいられない。俺の叶えたい夢は、時間と労力が掛かる」
「貴方の夢は何ですか?」
「俺の夢は・・ディートリッヒ家の領地改革を、俺の代で軌道に乗せる事だ。そして、領民に安心して暮らせる領地を与える事」
フリートヘルムの言葉に、俺は思わず微笑んでいた。もしかすると・・小説の登場人物の中で、フリートヘルムが、最も成長しているかもしれない。
最初に会った時は、最悪の印象だった。だが、今の彼は中々に良い男だと思う。それに対して、殿下の成長が見えない・・残念すぎる。
「ヘクトール兄上が、フリートヘルム様の事を高く評価していましたよ」
「ヘクトール卿に高く評価されるのは嬉しいが、早々に潰されそうな気がしてならない」
フリートヘルムはそう言いながら、居心地悪そうにソファーに座り直す。うーん、ヘクトール兄上は、フリートヘルムを怖がらせるような事を、なさったのだろうか?
ありそうだけど・・アルミン、腹を抱えて笑うんじゃない!
「『枢機卿は王城内にある教会に、お忍びで通う事を希望されている』・・マテウス卿よりそう伺い、俺は陛下より教会に入る許可を頂きました。ただし、お忍びとはいえ、相手は枢機卿。礼節を重んじた陛下は、案内役として、王太子殿下を指名されました」
「そうだったのですか!?」
小説『愛の為に』には、なかったエピソードだ!この世界では、二人は出逢いから違うようだ。新エピソードを見逃すとは・・無念!
小説内での殿下と枢機卿は、公式の場で出逢っている。互いの容姿に、まず心を惹かれ合う二人。そこから、徐々に心の距離を縮めていく。
だが、その後、二人の感情はすれ違い・・やがては、殿下への凌辱に繋がる。
だが、この世界の二人は・・教会で出逢った。趣ある教会を二人で巡る内に、素敵な感情が芽生えたのだろうか?両想いなら、枢機卿が殿下を凌辱するエピソードはなくなるだろう。
安心したような、残念な様な・・いやいや、二人の門出を祝おう!これで、ヴェルンハルト殿下の気性が穏やかになったら最高じゃないか!
◆◆◆◆◆◆
22
お気に入りに追加
4,578
あなたにおすすめの小説
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います
ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。
フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。
「よし。お前が俺に嫁げ」
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。