嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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◆◆◆◆◆◆



「ヘンドリク= マーシャルは死んだ」

フリートヘルムの言葉に、俺は動揺して体を震わせていた。その震える背に、そっとアルミンの手が添えられる。

「・・アルミンは知っていたの?」
「すまない」

その一言で、アルミンがヘンドリクの死を知っていたことがわかった。俺はフリートヘルムを見つめて、真剣に尋ねた。

「ヘンドリクの死因はなんですか?」
「事故死だそうだ」

「・・事故死?フリートヘルム様、詳しい状況をご存知でしたら・・私にも教えて下さい」

「孕み子のマテウス卿に、詳しく話すことはできない。ヘンドリクの死は、事故として処理される・・これで、納得して頂きたい」

「フリートヘルム様は、お忘れですか?私は、シュナーベル家の孕み子です。人の死の話を聞き、卒倒するような人間ではありません」

「しかし、震えておいでだ。顔色も悪い」

「フリートヘルム様!私はヘンドリクに狙われた身です。彼がどのような最期を迎えたのか、知る権利があります」

俺の主張に、フリートヘルムは折れてくれた。

「・・昨夜、酒を大量に飲んだヘンドリクは、王城に忍び込み、城壁をよじ登った。その挙げ句に転落して・・彫像の槍で体を貫かれ死んだそうだ。マテウス卿、やはり顔色が悪い・・すまない。孕み子にこの様な話は、するべきではなかった・・」

「いいえ、フリートヘルム様に感謝します」

『彫像の槍で体を貫かれ死んだ』って・・まるで、串刺し刑の様な死に方じゃないか。

彫像の槍では、即死はできなかっただろう。一晩中、串刺しの状態でもがき苦しみ、ようやく朝になり、ヘンドリクは、絶命したのかもしれない。

「マテウス様」
「アルミン、私はまだ帰らないから・・」

アルミンが俺に声を掛けたが、先に言葉を制した。まだ、フリートヘルムには聞きたいことがある。

「マテウス様が倒れては、ディートリッヒ家にご迷惑が掛かることをお忘れなく」

「分かっているよ、アルミン」

俺達のやり取りを見聞きしていた、フリートヘルムが不意に口を開いた。

「お二人は随分と、信頼しあっているようだ。マテウス卿とアルミン殿は、古くからのお知り合いか?」

「アルミンは親族で、幼馴染みでもあります。幼い頃は三人で領地を駆け回り、秘密基地を作った事もありました。ふふ、懐かしい」

「三人?」

フリートヘルムの言葉に、俺は咄嗟に返事ができなかった。確かに、幼い頃に秘密基地を作ったけれど・・一緒に作ったのは、アルミンと私とカールで正しかった?カールはそこにいた?

「マテウス様の亡くなった弟君とも、仲良くさせてもらっていました。カール様が出来上がった基地を破壊してしまったので、マテウス様が大泣きして・・つられて、カール様も泣き出してしまい大変でした。その後、父上から、主家のお子を泣かせたと怒られまして・・忘れてしまったのですか?酷いですね、マテウス様」

アルミンの言葉が、俺の記憶を呼び覚ました。たしかに、そこにカールはいた!

小さなカールが、枯れ草を束ねて作った秘密基地に、体ごと突っ込み束ねた枯れ草を倒しては、上に乗っかりゴロゴロして遊んでいた。表情は・・確か・・

「カールは笑ってたね、アルミン」
「ああ、笑っていたな」

俺は知らずに笑みを浮かべながら、涙を溢していた。慌てて涙を拭おうとすると、フリートヘルムが、ハンカチを差し出してくれた。俺はありがたく受け取り、使わせてもらった。

「カール卿を亡くしたマテウス卿に、辛い記憶を思い出させてしまい・・申し訳ない」

「いえ、フリートヘルム様。これは、嬉しい涙です。良い想い出が心に甦り、嬉しかったのです。成長した私とカールは、疎遠な関係になってしまったので・・」

フリートヘルム様は軽く頷くと、少し愚痴を溢すように話し出した。

「俺の弟のアルトゥールは、昔から変わらず我が儘な性格で・・兄である俺は、今も昔も振り回されてばかりだ。ディートリッヒ家では、孕み子は滅多に生まれない。その為に、アルトゥールを甘やかし過ぎた。今頃になり、色々と悔やむばかりだ」

フリートヘルムは、アルトゥールの扱いに困っているのか。彼はファビアン殿下に危害を加える可能性があるので、現状が気になっていた。

「アルトゥール様は・・とても美しく成長されました。所作も美しく憧れの的ですよ?」

「だが、気が強く・・頑固だ」

「それは、アルトゥール様だけではありませんよ?私も、気が強く頑固です」

「たしかに」
「そうでしょ?」

「だが、マテウス卿は・・嫉妬深くは見えない。もしも、婚約者のヘクトール卿に、男の愛人ができたとしても、罵声を浴びせたりはしないのではないか?」

「え?」

フリートヘルムは憂鬱な表情で、紅茶を飲むと深いため息をついた。俺もつられて紅茶を飲む。そして、やはりまずい茶葉だと思ってしまった。

それにしても、フリートヘルムは、私に心を許しすぎではないだろうか?彼から・・警戒心を全く感じないのだが?

「アルトゥールは・・枢機卿が、王太子殿下の新しい恋人だと思い込んでいる様でね。嫉妬のあまり、殿下に罵声を浴びせて・・二人の仲は最悪な状態だ。あれでは、子は望めない。マテウス卿、孕み子の知恵で・・何か良いアドバイスを貰えないだろうか?」

え、待って!?

枢機卿とは、クリスティアン = バイラントの事だよな。え、小説では、二人の気持ちはすれ違い、愛を求めたクリスティアンが、友情を求めたヴェルンハルト殿下を、凌辱する展開になるはずなのだが・・すでに二人は、恋人になっちゃったの?

「フリートヘルム様、王太子殿下と枢機卿は・・恋人になっちゃったんですか?」

俺はかなりバカっぽい質問をしている。だが、知る必要があるので、恥じらいはない。


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