嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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◆◆◆◆◆◆


「マテウス卿、アルミン殿、待たせて済まない。寛いで頂けただろうか?」

俺とアルミンはソファーから立ち上がり、応接室に入ってきたフリートヘルムを迎え入れた。

「フリートヘルム様、紅茶を頂き寛がせていただいております」

「それは良かった、マテウス卿。さあ、二人とも座ってくれ。俺も、紅茶を貰うとするか」

俺とアルミンが座ると、フリートヘルムもソファーに座った。使用人が即座に動き、主の為に紅茶をいれ始める。

俺は思わず、茶葉の種類に注目してしまった。

どうやら、フリートヘルムも、俺達が飲んだ紅茶と同じ茶葉の紅茶を飲んでいるようだ。シュナーベル家の者への嫌がらせかと疑いながら、紅茶を飲んだ自分が恥ずかしい。

「フリートヘルム様、お疲れ様です。ヴォルフラム様は、目を覚まされましたか?」

「少しの時間だが、目を覚まし会話もできた。ヴォルフラムは、貴方が牢獄に閉じ込められてはいない事も、拷問も受けていないことも、理解したようだ」

俺は安堵の息を付いた。不意に涙が出そうになり、目元に手をやった。

「良かったです・・」

「全ては、マテウス卿のお陰だ。ヴォルフラムから、早速左手用の剣を用意して欲しいと頼まれた。弟の目が生き生きしていて・・ヴォルフラムは、もう大丈夫だと確信できた。心から感謝する、マテウス卿」

「いえ・・きっと、ヴォルフラム様なら、左手で剣を自在に扱う、立派な剣士になられます。ですが、ヴォルフラム様自身が・・左手で剣を扱うのは邪道だと仰っていました。ディートリッヒ家の現当主は、左手利きの剣士を許して下さるでしょうか?」

俺の問いに、フリートヘルムはからりと笑う。

「父上は、ヴォルフラムに非常に甘い。ヴォルフラムが、左利き用の剣を求めていると知れば、父上は、名工に頼み最高の剣を作り上げる筈だ。父上はそういう人だ」

「まあ!」

俺は思わず笑顔になった。ディートリッヒ家の仲の良さが伝わり羨ましくなった。シュナーベル家の現当主とは大違いだ。

父上は死期を管理されながら、今も別邸に監禁され生きている。すでに、記憶の中の父上の面差しは曖昧になっている。記憶はなんて、移ろいやすいのだろう。

「マテウス様」
「アルミン?」

隣に座るアルミンが、俺の腕をつついていた。どうやら、フリートヘルムの会話を、聞き逃したみたいだ。

「あ、ごめんなさい。少しぼんやりとしておりました。フリートヘルム様、どうぞお話を続けてください」

「無理もない。ヴォルフラムの暴走を止められず申し訳ない。まさか、あそこまで動けるとは、思っていなかった」

「確かに、驚きました」

「体調が安定したら・・ヴォルフラムを、ディートリッヒ家の領地に連れ帰り、静養させる予定だった。今の様子なら、予想より早く領地に連れ帰れそうだ」

「えっ!?」

俺は思わず大きな声を出していた。ヴォルフラムが王都を離れることを、全く予想していなかった。

「マテウス卿、どうされた?」

「いえ・・ヴォルフラム様が、ディートリッヒ家の領地にお帰りなるとは思っていなくて。寂しくなります。領地で過ごされる期間は、年単位になりますか?」

俺の質問に対して、フリートヘルムはすぐには返答しなかった。少し間を置いて、フリートヘルムが口を開く。

「マテウス卿はご存知だろうが、ヴォルフラムの実父は王弟殿下だ。ヴォルフラムは、その出自が明らかになってから、陛下の指示で監視対象となっている。領地に長く引きこもると、王家の不審を招きかねない・・」

フリートヘルムは、表情を陰らせながらそう言うと、黙り込んでしまった。きっと、口にはしないが、王家に対する不満があるのだろう。

「では・・半年ぐらいでしょうか?」

「おそらく。一年程度は、ヴォルフラムを領地で静養させたいのだが・・無理だろうな」

ヴォルフラムが、半年間は王城を離れる。俺はちらりと、視線をアルミンに移した。何か聞くことは無いかと目線で訴えてみたが、特にはないようだ。

「ヴォルフラム様は、大切な同僚です。半年間も彼に会えないのは寂しいです。でも、ゆっくりと、静養して傷を癒して頂きたいです」

「マテウス卿、ありがとう。だが、ヴォルフラムの性格を考えると、すぐにでも体力作りと、剣術の訓練を始めそうだ」

俺は思わず笑みを浮かべてしまった。それは、実にヴォルフラムらしい行動に思えた。

「ヴォルフラム様ならあり得ますね。ですが、まずは、心身を癒して頂きたいです。ひどい目に遭われたのですから・・」

ふと、ヴォルフラムを拷問した、ヘンドリク = マーシャルの処遇が気になった。

兄上の話では・・ディートリッヒ家は、ヘンドリクを異端審問に掛ける事を望んでいたらしい。だが、諸事情で断念したと聞く。

異端審問所の上層部の人間が、何人か辞職に追いやられたとは聞いてはいるが・・フリートヘルムが満足しているとは思えない。

「・・ヘンドリク = マーシャルの処遇の件ですが、彼はどうなりましたか?」

俺の質問に、フリートヘルムはわずかにためらいを見せた。フリートヘルムはちらりとアルミンを見た。その後に、慎重な口調で言葉を発した。

「ヘクトール卿から、お聞きになっているものとばかり思っていたのだが・・」

「え?」

「ヘンドリク= マーシャルは死んだ」

フリートヘルムの言葉に、俺は動揺して体を震わせていた。その震える背に、そっとアルミンの手が添えられる。


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