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第四章
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◆◆◆◆◆◆
ヴォルフラムが、不意に動きをとめた。少し体を震わせながら口を開いた。
「うっ、これは、塩味のクッキーですか?なんと申し上げましょうか。その・・しょっぱくて、沢山は食べられませんが、その、ぐふっ、とにかく、美味しく・・頂きました」
ヴォルフラムは、ファビアン殿下のクッキーを食べた直後に、気を失ってしまった。俺は慌てて、アルミンとフリートヘルムにヘルプの視線を向けた。
俺とヴォルフラムのやり取りを見守っていた二人は、慌てて駆け寄ってきた。二人は口を揃えて、ファビアン殿下のクッキーを庇い始める。
「ヴォルフラムは、暴れすぎて気絶したようだ。殿下のクッキーが原因ではない。安心して欲しい、マテウス卿!」
「ファビアン殿下が・・お楽しみの当たりクッキーを、幾つか作りたいと言っていた。砂糖の塊を、生地に突っ込んでいるのだと思っていたが・・あれは、岩塩だったのか?いや、幼い殿下に罪はない。故に、俺にも罪はない!」
「そ、そうなんだ!ヴォルフラム様は、ファビアン殿下の作った、お楽しみの当たりクッキーに当たったんだね!なんて、ラッキーなんだ!ね、二人とも、そう思うよね?」
「間違いなく、弟は運がいい」
「確実にラッキーな男だ」
「それでは・・ヴォルフラム様をベッドに運び、医者を呼びましょう。フリートヘルム様、あの、その・・クッキーの件は、医師に話さなくても大丈夫でしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。マテウス卿の提案に従い、ヴォルフラムをベッドに運び、医者を呼ぶとしよう。二人は、応接室へどうぞ。お茶を用意させるので寛いで下さい。後で、俺も応接室に顔をだす。改めて挨拶をさせて欲しい」
フリートヘルムは言葉の通り、ヴォルフラムをベッドに運ぶと、彼は医者の手配をする為に部屋を出ていった。
俺は床から立ち上がる気力がなく、だだ、ぼんやりと、ベッドに横たわるヴォルフラムを見つめていた。
そんな俺を、アルミンが突然抱き上げる。
「うぉ、アルミン!だから、姫抱っこは、恥ずかしいからやめて。ここは、ディートリッヒ家だよ!アルミン、聞いてる?」
「あー、無視します」
アルミンは俺をお姫様抱っこしたまま、廊下に出た。数人の使用人が、廊下の隅で俺達を待っていた。フリートヘルムの命令により、応接室に案内してくれるらしい。
姫抱っこで現れた俺達に、目を丸くした使用人達だったが、黙って応接室に案内してくれた。でも、チラチラとこちらの様子を伺ってくる。
ディートリッヒ家で、お姫様抱っことか・・何の罰ゲームだよ!
◇◇◇◇
応接室に入ると、俺はようやくお姫様抱っこから解放された。俺は覚束ない足取りで応接セットに近付くと、ソファーに深く座り身を沈めた。
かなりだらしない格好だとは分かっていたが、疲れには太刀打ちできなかった。そういえば、朝から何も食べていない。
ふと視線をテーブルに移すと、ディートリッヒ家の使用人が、手際よく紅茶を淹れてくれていた。そして、テーブルセットには一口サイズのサンドイッチやスコーン、クッキーが用意されていた。
「マテウス様、ここはシュナーベル家の邸ではありません。上品に食べてくださいね」
どうやら、アルミンは俺の目線を捉えていたようだ。抜け目ないな。
「アルミン、私は何時だって食物に感謝の心を持ち、上品かつ優雅に食事をしているよ?」
淹れたての紅茶を口に運ぶ。一口飲んで、少しがっかりしてしまった。おそらく、あまり質の良くない茶葉を使っているのだろう。
「うーん、これは・・嫌がらせなのか、それとも、ディートリッヒ家の生活水準に見合った茶葉を出しているだけなのか・・判断に困るな。そう思わないか、マテウス」
「アルミン、なんて事を言うの!」
同じく紅茶を飲んで、アルミンも同様の感想を抱いたらしい。だが、小声でも口に出すのはマナー違反だ。俺がアルミンを睨むと、彼は肩をすくめた。
「聞こえてないから大丈夫だ、マテウス」
「ヘクトール兄上は、ディートリッヒ家とこれを機会に、関係を改善したいと言っていた。ヘクトール兄上に、叱られてもしらないよ?」
「・・自分の舌が、猫舌であることを忘れていた。熱々の紅茶を飲んだから、正確な味が分からなかった。だが、サンドイッチなら猫舌でも食べられる・・モグモグ、うむ、旨い」
「じゃあ、私もサンドイッチを貰おうかな?」
サンドイッチを一つ取り、パクリと食べた。サンドイッチの具には、缶詰のペーストが使われているようだ。スコーンも食べたが、もさもさした食感だった。結論はでた。
「ねえ、アルミン」
「なんだ、マテウス?」
「もしかして、シュナーベル家は、贅沢をしすぎではないだろうか?」
「今頃、気がついたのか?ちなみに、マテウスが、一番の金食い虫だと思うぞ?その茶色の衣服は、お前に良く似合っているが・・開発に相当の金額がつぎ込まれている。まあ、ヘクトール様の事だから、新しい生地を商売に繋げるとは思うけどな。ん、なんだ?マテウス?」
俺はまじまじと、アルミンを見つめていた。そして、事をはっきりさせる為に聞いてみた。
「私、可愛いかな?」
「んっ??」
「この怠惰の衣装を着た私を見てどう思った?今まで生きてきた中で、一番可愛いよね?」
「うっ・・」
「アルミン?」
「まあ、多少は・・可愛いかな?」
「よし!」
俺は笑顔でアルミンを見た。アルミンは俺を見たあと、少し顔を赤らめて視線を反らせた。ふふふ、ついにアルミンも、この怠惰の衣装の実力を認めたな!素直に嬉しい。
「マテウス卿、アルミン殿、待たせて済まない。寛いで頂けただろうか?」
俺とアルミンはソファーから立ち上がり、応接室に入ってきたフリートヘルムを迎え入れた。
◆◆◆◆◆◆
ヴォルフラムが、不意に動きをとめた。少し体を震わせながら口を開いた。
「うっ、これは、塩味のクッキーですか?なんと申し上げましょうか。その・・しょっぱくて、沢山は食べられませんが、その、ぐふっ、とにかく、美味しく・・頂きました」
ヴォルフラムは、ファビアン殿下のクッキーを食べた直後に、気を失ってしまった。俺は慌てて、アルミンとフリートヘルムにヘルプの視線を向けた。
俺とヴォルフラムのやり取りを見守っていた二人は、慌てて駆け寄ってきた。二人は口を揃えて、ファビアン殿下のクッキーを庇い始める。
「ヴォルフラムは、暴れすぎて気絶したようだ。殿下のクッキーが原因ではない。安心して欲しい、マテウス卿!」
「ファビアン殿下が・・お楽しみの当たりクッキーを、幾つか作りたいと言っていた。砂糖の塊を、生地に突っ込んでいるのだと思っていたが・・あれは、岩塩だったのか?いや、幼い殿下に罪はない。故に、俺にも罪はない!」
「そ、そうなんだ!ヴォルフラム様は、ファビアン殿下の作った、お楽しみの当たりクッキーに当たったんだね!なんて、ラッキーなんだ!ね、二人とも、そう思うよね?」
「間違いなく、弟は運がいい」
「確実にラッキーな男だ」
「それでは・・ヴォルフラム様をベッドに運び、医者を呼びましょう。フリートヘルム様、あの、その・・クッキーの件は、医師に話さなくても大丈夫でしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。マテウス卿の提案に従い、ヴォルフラムをベッドに運び、医者を呼ぶとしよう。二人は、応接室へどうぞ。お茶を用意させるので寛いで下さい。後で、俺も応接室に顔をだす。改めて挨拶をさせて欲しい」
フリートヘルムは言葉の通り、ヴォルフラムをベッドに運ぶと、彼は医者の手配をする為に部屋を出ていった。
俺は床から立ち上がる気力がなく、だだ、ぼんやりと、ベッドに横たわるヴォルフラムを見つめていた。
そんな俺を、アルミンが突然抱き上げる。
「うぉ、アルミン!だから、姫抱っこは、恥ずかしいからやめて。ここは、ディートリッヒ家だよ!アルミン、聞いてる?」
「あー、無視します」
アルミンは俺をお姫様抱っこしたまま、廊下に出た。数人の使用人が、廊下の隅で俺達を待っていた。フリートヘルムの命令により、応接室に案内してくれるらしい。
姫抱っこで現れた俺達に、目を丸くした使用人達だったが、黙って応接室に案内してくれた。でも、チラチラとこちらの様子を伺ってくる。
ディートリッヒ家で、お姫様抱っことか・・何の罰ゲームだよ!
◇◇◇◇
応接室に入ると、俺はようやくお姫様抱っこから解放された。俺は覚束ない足取りで応接セットに近付くと、ソファーに深く座り身を沈めた。
かなりだらしない格好だとは分かっていたが、疲れには太刀打ちできなかった。そういえば、朝から何も食べていない。
ふと視線をテーブルに移すと、ディートリッヒ家の使用人が、手際よく紅茶を淹れてくれていた。そして、テーブルセットには一口サイズのサンドイッチやスコーン、クッキーが用意されていた。
「マテウス様、ここはシュナーベル家の邸ではありません。上品に食べてくださいね」
どうやら、アルミンは俺の目線を捉えていたようだ。抜け目ないな。
「アルミン、私は何時だって食物に感謝の心を持ち、上品かつ優雅に食事をしているよ?」
淹れたての紅茶を口に運ぶ。一口飲んで、少しがっかりしてしまった。おそらく、あまり質の良くない茶葉を使っているのだろう。
「うーん、これは・・嫌がらせなのか、それとも、ディートリッヒ家の生活水準に見合った茶葉を出しているだけなのか・・判断に困るな。そう思わないか、マテウス」
「アルミン、なんて事を言うの!」
同じく紅茶を飲んで、アルミンも同様の感想を抱いたらしい。だが、小声でも口に出すのはマナー違反だ。俺がアルミンを睨むと、彼は肩をすくめた。
「聞こえてないから大丈夫だ、マテウス」
「ヘクトール兄上は、ディートリッヒ家とこれを機会に、関係を改善したいと言っていた。ヘクトール兄上に、叱られてもしらないよ?」
「・・自分の舌が、猫舌であることを忘れていた。熱々の紅茶を飲んだから、正確な味が分からなかった。だが、サンドイッチなら猫舌でも食べられる・・モグモグ、うむ、旨い」
「じゃあ、私もサンドイッチを貰おうかな?」
サンドイッチを一つ取り、パクリと食べた。サンドイッチの具には、缶詰のペーストが使われているようだ。スコーンも食べたが、もさもさした食感だった。結論はでた。
「ねえ、アルミン」
「なんだ、マテウス?」
「もしかして、シュナーベル家は、贅沢をしすぎではないだろうか?」
「今頃、気がついたのか?ちなみに、マテウスが、一番の金食い虫だと思うぞ?その茶色の衣服は、お前に良く似合っているが・・開発に相当の金額がつぎ込まれている。まあ、ヘクトール様の事だから、新しい生地を商売に繋げるとは思うけどな。ん、なんだ?マテウス?」
俺はまじまじと、アルミンを見つめていた。そして、事をはっきりさせる為に聞いてみた。
「私、可愛いかな?」
「んっ??」
「この怠惰の衣装を着た私を見てどう思った?今まで生きてきた中で、一番可愛いよね?」
「うっ・・」
「アルミン?」
「まあ、多少は・・可愛いかな?」
「よし!」
俺は笑顔でアルミンを見た。アルミンは俺を見たあと、少し顔を赤らめて視線を反らせた。ふふふ、ついにアルミンも、この怠惰の衣装の実力を認めたな!素直に嬉しい。
「マテウス卿、アルミン殿、待たせて済まない。寛いで頂けただろうか?」
俺とアルミンはソファーから立ち上がり、応接室に入ってきたフリートヘルムを迎え入れた。
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