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第四章
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◆◆◆◆◆◆
「私は・・牢獄で死ぬべきでした」
ヴォルフラムの言葉に、胸が痛くなった。同時に、怒りが心に沸き立つ。俺は、ヴォルフラムの傷だらけの頬を思いっきり叩いていた。
驚き目を見開くヴォルフラムを見つめながら、俺は語気強く一方的に話し出していた。
「ヴォルフラム様は、何て視野が狭いの!貴方は、 ディートリッヒ家の人々に愛されています!ヴォルフラム様を牢獄から救いだす為に、幾人もの暗部の者が身を危険に晒しながら、貴方を救ったのです!ヴォルフラム様が、これ程の拷問を受けながら、先のような動作ができたのは、献身的な看護と治療のお陰でしょう!」
「マテウス卿、私は・・」
「黙って私の話を聞きなさい、ヴォルフラム!フリートヘルム様は、貴方を監禁しました。貴方は、理不尽に感じたかもしれません。ですが、貴方の兄上は、ヴォルフラム様の自由を、完全に奪うことはしなかった」
息切れがして、一度呼吸を整える。そして、再び強い口調で話しかける。
「ヴォルフラム様は、右足の腱を傷つけられましたよね?それにも関わらず、貴方は立ち上がり、歩き回るどころか、素早く動けた!それは、ヴォルフラム様が、右足の腱を固定して支える、専用のブーツを履いているからでしょ?処刑人の一族に生まれた私には、そのブーツがヴォルフラム様の為に特注された品だと良くわかります。フリートヘルム様は、貴方を監禁しながらも、ヴォルフラム様の再起を望んでいるのです。ヴォルフラム様なら、ディートリッヒ家の人々に愛されていることに、気づかない筈がない!いい加減に、甘えることを止めて、現実と対峙しなさい!」
「私は、もう剣を握れないのです!マテウス卿は、私にどう生きろと仰るのか!監視された私は、王城出仕を自らやめることはできない。だが、王弟殿下の息子を引き受けてくださる方は・・王太子殿下だけだ。だけどもう、殿下を守る護衛騎士には戻れない。右手の指がないのです!剣を掴めない私に、どう生きろと言うのですか!」
興奮するヴォルフラムの瞳を見つめたまま、俺は彼の左手を掴んでいた。そして、無理矢理に眼前に突きつける。
「左手をお忘れですか、ヴォルフラム様?」
「左手で剣は扱えない・・それは、邪道だ」
俺はさらに、ヴォルフラムの顔に自身の顔を近付けた。そして、左目を覗き込む。
「ヴォルフラム様の利き手は左手の筈です」
「・・っ!」
「幼い頃に、右手で剣を扱うように、矯正されたけれど・・ヴォルフラム様は、左手に剣を持つべきです。それが、一番自然な事だからです。ヴォルフラム様自身も、右手で剣を扱うことに・・違和感を感じていた筈です」
ヴォルフラムは目を見開き、俺を見つめる。そして、口を開いた。
「私の利き手が左だと・・どうしてご存じなのですか?父上と兄上以外は知らぬことです」
小説『愛の為に』では、ヴォルフラムと王太子殿下が、利き手について語り合う記載があった。でも、この世界の二人は、利き手について語り合う関係性にはないようだ。その事を、少し寂しくかんじながら、俺は口を開いた。
「ヴォルフラム様。私に不思議な力があるのはご存じでしょ?予見や先見以外にも・・分かることがあるのです。ヴォルフラム様は左手で剣を扱うべきです。左手で剣を扱うことを、邪道だと言う者は・・打ち倒せばよいのです」
「マテウス卿」
俺は両手でヴォルフラムの頬を包み込み、包帯で覆われた右目の上にキスを落とした。そして、身を離して話しかける。
「ヴォルフラム様、どうか・・ご自愛下さい。その上で、左手で剣を扱う護衛騎士として、王城に戻って来て下さい。頑固な貴方が、剣士であることを諦めるなんて・・あり得ないと、私には分かっていますから」
ヴォルフラムが不意に笑った。そして、右手で俺の頬に触れようとした。だが、指がないことにとまどい、手を下ろそうとした。
「逃げないで、ヴォルフラム様」
「マテウス卿」
ヴォルフラムは再び右手を持ち上げ、指がないことを確認した上で、俺の頬に触れた。
「気持ち悪くはないですか、マテウス卿?」
「気持ち悪くなどありません。熾烈な拷問を生き抜いた証です。私は、ヴォルフラム様を尊敬しています。また共に王城に出仕したいです」
「私も、早くマテウス卿と共に王城勤めをしたい。ファビアン殿下にもお会いしたい」
「そうだった!王城出仕を果たしたら、ヴォルフラム様は・・まずは、ファビアン殿下に謝って下さいね」
「?」
「部屋の床を見渡して下さい、ヴォルフラム様!フリートヘルム様の頭に、クッキー缶を叩きつけた上に、アルミンと私に、クッキー缶を飛ばして攻撃したでしょ!あの缶には、ファビアン殿下が、ヴォルフラム様の為に手作りした、レーズンクッキーがたっぷり入っていたのですよ?一緒にファビアン殿下に謝りましょうね、ヴォルフラム様」
ヴォルフラムが驚きの表情を浮かべ、俺を抱き寄せたまま上体を起こした。急な動きに、俺はヴォルフラムに抱きつく。
「ひゃぁ!」
「申し訳ない、マテウス卿。殿下のクッキーを、今すぐ頂きます」
ヴォルフラムは止める間もなく、床に転がり欠片となったクッキーを、口に放り込んだ。そして、咀嚼して食べてしまった。
◆◆◆◆◆◆
「私は・・牢獄で死ぬべきでした」
ヴォルフラムの言葉に、胸が痛くなった。同時に、怒りが心に沸き立つ。俺は、ヴォルフラムの傷だらけの頬を思いっきり叩いていた。
驚き目を見開くヴォルフラムを見つめながら、俺は語気強く一方的に話し出していた。
「ヴォルフラム様は、何て視野が狭いの!貴方は、 ディートリッヒ家の人々に愛されています!ヴォルフラム様を牢獄から救いだす為に、幾人もの暗部の者が身を危険に晒しながら、貴方を救ったのです!ヴォルフラム様が、これ程の拷問を受けながら、先のような動作ができたのは、献身的な看護と治療のお陰でしょう!」
「マテウス卿、私は・・」
「黙って私の話を聞きなさい、ヴォルフラム!フリートヘルム様は、貴方を監禁しました。貴方は、理不尽に感じたかもしれません。ですが、貴方の兄上は、ヴォルフラム様の自由を、完全に奪うことはしなかった」
息切れがして、一度呼吸を整える。そして、再び強い口調で話しかける。
「ヴォルフラム様は、右足の腱を傷つけられましたよね?それにも関わらず、貴方は立ち上がり、歩き回るどころか、素早く動けた!それは、ヴォルフラム様が、右足の腱を固定して支える、専用のブーツを履いているからでしょ?処刑人の一族に生まれた私には、そのブーツがヴォルフラム様の為に特注された品だと良くわかります。フリートヘルム様は、貴方を監禁しながらも、ヴォルフラム様の再起を望んでいるのです。ヴォルフラム様なら、ディートリッヒ家の人々に愛されていることに、気づかない筈がない!いい加減に、甘えることを止めて、現実と対峙しなさい!」
「私は、もう剣を握れないのです!マテウス卿は、私にどう生きろと仰るのか!監視された私は、王城出仕を自らやめることはできない。だが、王弟殿下の息子を引き受けてくださる方は・・王太子殿下だけだ。だけどもう、殿下を守る護衛騎士には戻れない。右手の指がないのです!剣を掴めない私に、どう生きろと言うのですか!」
興奮するヴォルフラムの瞳を見つめたまま、俺は彼の左手を掴んでいた。そして、無理矢理に眼前に突きつける。
「左手をお忘れですか、ヴォルフラム様?」
「左手で剣は扱えない・・それは、邪道だ」
俺はさらに、ヴォルフラムの顔に自身の顔を近付けた。そして、左目を覗き込む。
「ヴォルフラム様の利き手は左手の筈です」
「・・っ!」
「幼い頃に、右手で剣を扱うように、矯正されたけれど・・ヴォルフラム様は、左手に剣を持つべきです。それが、一番自然な事だからです。ヴォルフラム様自身も、右手で剣を扱うことに・・違和感を感じていた筈です」
ヴォルフラムは目を見開き、俺を見つめる。そして、口を開いた。
「私の利き手が左だと・・どうしてご存じなのですか?父上と兄上以外は知らぬことです」
小説『愛の為に』では、ヴォルフラムと王太子殿下が、利き手について語り合う記載があった。でも、この世界の二人は、利き手について語り合う関係性にはないようだ。その事を、少し寂しくかんじながら、俺は口を開いた。
「ヴォルフラム様。私に不思議な力があるのはご存じでしょ?予見や先見以外にも・・分かることがあるのです。ヴォルフラム様は左手で剣を扱うべきです。左手で剣を扱うことを、邪道だと言う者は・・打ち倒せばよいのです」
「マテウス卿」
俺は両手でヴォルフラムの頬を包み込み、包帯で覆われた右目の上にキスを落とした。そして、身を離して話しかける。
「ヴォルフラム様、どうか・・ご自愛下さい。その上で、左手で剣を扱う護衛騎士として、王城に戻って来て下さい。頑固な貴方が、剣士であることを諦めるなんて・・あり得ないと、私には分かっていますから」
ヴォルフラムが不意に笑った。そして、右手で俺の頬に触れようとした。だが、指がないことにとまどい、手を下ろそうとした。
「逃げないで、ヴォルフラム様」
「マテウス卿」
ヴォルフラムは再び右手を持ち上げ、指がないことを確認した上で、俺の頬に触れた。
「気持ち悪くはないですか、マテウス卿?」
「気持ち悪くなどありません。熾烈な拷問を生き抜いた証です。私は、ヴォルフラム様を尊敬しています。また共に王城に出仕したいです」
「私も、早くマテウス卿と共に王城勤めをしたい。ファビアン殿下にもお会いしたい」
「そうだった!王城出仕を果たしたら、ヴォルフラム様は・・まずは、ファビアン殿下に謝って下さいね」
「?」
「部屋の床を見渡して下さい、ヴォルフラム様!フリートヘルム様の頭に、クッキー缶を叩きつけた上に、アルミンと私に、クッキー缶を飛ばして攻撃したでしょ!あの缶には、ファビアン殿下が、ヴォルフラム様の為に手作りした、レーズンクッキーがたっぷり入っていたのですよ?一緒にファビアン殿下に謝りましょうね、ヴォルフラム様」
ヴォルフラムが驚きの表情を浮かべ、俺を抱き寄せたまま上体を起こした。急な動きに、俺はヴォルフラムに抱きつく。
「ひゃぁ!」
「申し訳ない、マテウス卿。殿下のクッキーを、今すぐ頂きます」
ヴォルフラムは止める間もなく、床に転がり欠片となったクッキーを、口に放り込んだ。そして、咀嚼して食べてしまった。
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