120 / 239
第四章
155
しおりを挟む
◆◆◆◆◆
「監禁部屋・・」
俺はショックを隠せなかった。軟禁されているとは聞いていたが、本格的な監禁に移行しているなんて。もっと早くに、ヴォルフラムの見舞いに来るべきだった。
「本来なら、ディートリッヒ家で解決すべき問題に、貴方を巻き込んでしまった。申し訳ない、マテウス卿。ヴォルフラムの監禁場所は邸の端でね、もう少し歩く。明かりとりの小さな窓しかなく、昼でも薄暗い場所でね。早く出したいのだが・・全く頑固な弟で困る」
フリートヘルムの言葉には、ヴォルフラムへの愛情が感じられた。産みの親も違い、父親も違うのに・・ディートリッヒ家の兄弟は固い絆で結ばれているようだ。
不意に、もう一人の兄弟である、アルトゥール= ディートリッヒの事を思い出した。アルトゥールは『永遠の妃候補』と呼ばれるようになりしばらく立つ。
彼が鬱状態に陥っているとは聞いていない。だが、原作の『愛の為に』ではファビアン殿下は、アルトゥールの護身用の小剣で襲われたと書かれていた。
だが、殿下が襲われた、時と場所を・・俺は思い出せないでいる。或いは、小説自体に記載がなかったのかもしれない。
ファビアン殿下は、一週間後には王城の自室から、後宮に居を移す予定だ。後宮で襲われる事のないように、殿下に進言しなくてはならない。それに、王太子殿下が、ファビアン殿下を後宮に移す決定を下した理由も知りたい。
王城に出仕したら、まずは殿下にお会いしてじっくり話を聞こう。でも、穏やかに会話ができるだろうか?殿下とは相性が悪いからなぁ。
「マテウス様」
「えっ?」
「フリートヘルム卿が話し掛けておいでです」
アルミンに背後から声を掛けられて、俺は我に返った。フリートヘルムが俺を見つめている。俺はあわてて言葉を発した。
「ひゃ、会話を聞き逃しました!ごめんなさい、フリートヘルム様・・」
「いや、『今から部屋の鍵を開けます』と声を掛けただけです。マテウス卿、俺は貴方に無理強いはしたくない。ヴォルフラムに会うのが辛いなら・・正直に言って欲しい」
「いいえ、フリートヘルム様。私は、ヴォルフラム様に会いたいのです。私は・・」
それ以上は感情が乱れて、言葉には出来なかった。扉の向こうに、ヴォルフラムがいる。拷問を受け傷付いたヴォルフラムに、どう接するべきか未だに分からないでいる。でも・・
「フリートヘルム様、鍵を開けてください」
「分かった、マテウス卿」
扉には二つの頑丈な鍵が掛かっていた。その鍵を外しながら、フリートヘルムが注意を促す。
「マテウス卿、俺がまず先に部屋に入ります。続いて、アルミン殿・・最後に、マテウス卿が部屋に入る。この順番を守って下さい」
「分かりました、フリートヘルム様」
二つの鍵を外したフリートヘルムは、俺とアルミンに視線を移した。俺とアルミンは、同時に頷いていた。フリートヘルムも頷き返すと、ゆっくりと扉を開いた。
フリートヘルムに続いて、アルミンが部屋に入る。俺も二人に続いて部屋に入った。不意に、アルミンが、背にいる俺の視線を遮る様に動いた。
それでも、俺にははっきりと見えた。ヴォルフラムが、部屋の中央で倒れていた。
「ヴォルフラム様!!」
俺は叫び声を上げて、ヴォルフラムに駆け寄ろうとした。だが、フリートヘルムとアルミンが、俺の動きを阻む。
「動くな、マテウス!」
「アルミン!ヴォルフラム様が倒れているんだよ!早く、助けないと!」
「俺がヴォルフラムの様子を確認する。アルミン殿は、マテウス卿をヴォルフラムに近付けないようにしてくれ」
フリートヘルムが、床に倒れたヴォルフラムに近づく。俺は我慢ならなくなって、アルミンの制止を振りきろうとした。
「離して、アルミン!」
「駄目だ、マテウス。フリートヘルムの判断と指示を待つ。それまでは待機する」
「待機なんて、嫌だ!」
俺が更に抗おうとすると、アルミンの胸に抱き込まれた。こうなっては、もう彼の拘束からは抜け出せない。
「アルミン、ひどいよ」
「悪い、マテウス」
気力が萎えるのと同時に、全身の力が抜けていくのを感じた。クッキー缶を握っていた手の力も抜けていく。俺は慌てて、クッキー缶を握りなおそうとして・・失敗した。
「あっ!」
手のひらから落ちたクッキー缶は、床で一度跳ね上がった。そして、もう一度床に落ちると、床を転がっていった。
「殿下のクッキーが・・」
クッキー缶は、倒れたヴォルフラムの腕に当たり動きを止めた。
だが、次の瞬間には、クッキー缶はヴォルフラムの手の内にあった。突如上体を起こしたヴォルフラムは、クッキー缶を手にしたままフリートヘルムに襲いかかった。
「やめて!」
「フリートヘルム、よけろ!」
アルミンが、フリートヘルムの名を叫んだ。だが、間に合わなかった。膝を折り、弟の様子をみていたフリートヘルムの頭上に、ヴォルフラムはクッキー缶を叩きつけた。
「ぐっ!」
クッキー缶が壊れて、部屋中にクッキーが飛び散った。だが、ヴォルフラムは壊れたクッキー缶を手放さず、さらに横に振り切る。
フリートヘルムは体を背後に倒して、クッキー缶の直撃をギリギリで避けた。体勢を完全に崩したフリートヘルムは、次の攻撃に備えて防御の体勢に入った。
だが、フリートヘルムの鼻先をすり抜けたクッキー缶は、ヴォルフラムの手を離れて、入り口に立つ俺達に向かって飛んできた。
ヴォルフラムの狙いは、フリートヘルムから、入り口に立つ俺達に移っていた。
◆◆◆◆◆
「監禁部屋・・」
俺はショックを隠せなかった。軟禁されているとは聞いていたが、本格的な監禁に移行しているなんて。もっと早くに、ヴォルフラムの見舞いに来るべきだった。
「本来なら、ディートリッヒ家で解決すべき問題に、貴方を巻き込んでしまった。申し訳ない、マテウス卿。ヴォルフラムの監禁場所は邸の端でね、もう少し歩く。明かりとりの小さな窓しかなく、昼でも薄暗い場所でね。早く出したいのだが・・全く頑固な弟で困る」
フリートヘルムの言葉には、ヴォルフラムへの愛情が感じられた。産みの親も違い、父親も違うのに・・ディートリッヒ家の兄弟は固い絆で結ばれているようだ。
不意に、もう一人の兄弟である、アルトゥール= ディートリッヒの事を思い出した。アルトゥールは『永遠の妃候補』と呼ばれるようになりしばらく立つ。
彼が鬱状態に陥っているとは聞いていない。だが、原作の『愛の為に』ではファビアン殿下は、アルトゥールの護身用の小剣で襲われたと書かれていた。
だが、殿下が襲われた、時と場所を・・俺は思い出せないでいる。或いは、小説自体に記載がなかったのかもしれない。
ファビアン殿下は、一週間後には王城の自室から、後宮に居を移す予定だ。後宮で襲われる事のないように、殿下に進言しなくてはならない。それに、王太子殿下が、ファビアン殿下を後宮に移す決定を下した理由も知りたい。
王城に出仕したら、まずは殿下にお会いしてじっくり話を聞こう。でも、穏やかに会話ができるだろうか?殿下とは相性が悪いからなぁ。
「マテウス様」
「えっ?」
「フリートヘルム卿が話し掛けておいでです」
アルミンに背後から声を掛けられて、俺は我に返った。フリートヘルムが俺を見つめている。俺はあわてて言葉を発した。
「ひゃ、会話を聞き逃しました!ごめんなさい、フリートヘルム様・・」
「いや、『今から部屋の鍵を開けます』と声を掛けただけです。マテウス卿、俺は貴方に無理強いはしたくない。ヴォルフラムに会うのが辛いなら・・正直に言って欲しい」
「いいえ、フリートヘルム様。私は、ヴォルフラム様に会いたいのです。私は・・」
それ以上は感情が乱れて、言葉には出来なかった。扉の向こうに、ヴォルフラムがいる。拷問を受け傷付いたヴォルフラムに、どう接するべきか未だに分からないでいる。でも・・
「フリートヘルム様、鍵を開けてください」
「分かった、マテウス卿」
扉には二つの頑丈な鍵が掛かっていた。その鍵を外しながら、フリートヘルムが注意を促す。
「マテウス卿、俺がまず先に部屋に入ります。続いて、アルミン殿・・最後に、マテウス卿が部屋に入る。この順番を守って下さい」
「分かりました、フリートヘルム様」
二つの鍵を外したフリートヘルムは、俺とアルミンに視線を移した。俺とアルミンは、同時に頷いていた。フリートヘルムも頷き返すと、ゆっくりと扉を開いた。
フリートヘルムに続いて、アルミンが部屋に入る。俺も二人に続いて部屋に入った。不意に、アルミンが、背にいる俺の視線を遮る様に動いた。
それでも、俺にははっきりと見えた。ヴォルフラムが、部屋の中央で倒れていた。
「ヴォルフラム様!!」
俺は叫び声を上げて、ヴォルフラムに駆け寄ろうとした。だが、フリートヘルムとアルミンが、俺の動きを阻む。
「動くな、マテウス!」
「アルミン!ヴォルフラム様が倒れているんだよ!早く、助けないと!」
「俺がヴォルフラムの様子を確認する。アルミン殿は、マテウス卿をヴォルフラムに近付けないようにしてくれ」
フリートヘルムが、床に倒れたヴォルフラムに近づく。俺は我慢ならなくなって、アルミンの制止を振りきろうとした。
「離して、アルミン!」
「駄目だ、マテウス。フリートヘルムの判断と指示を待つ。それまでは待機する」
「待機なんて、嫌だ!」
俺が更に抗おうとすると、アルミンの胸に抱き込まれた。こうなっては、もう彼の拘束からは抜け出せない。
「アルミン、ひどいよ」
「悪い、マテウス」
気力が萎えるのと同時に、全身の力が抜けていくのを感じた。クッキー缶を握っていた手の力も抜けていく。俺は慌てて、クッキー缶を握りなおそうとして・・失敗した。
「あっ!」
手のひらから落ちたクッキー缶は、床で一度跳ね上がった。そして、もう一度床に落ちると、床を転がっていった。
「殿下のクッキーが・・」
クッキー缶は、倒れたヴォルフラムの腕に当たり動きを止めた。
だが、次の瞬間には、クッキー缶はヴォルフラムの手の内にあった。突如上体を起こしたヴォルフラムは、クッキー缶を手にしたままフリートヘルムに襲いかかった。
「やめて!」
「フリートヘルム、よけろ!」
アルミンが、フリートヘルムの名を叫んだ。だが、間に合わなかった。膝を折り、弟の様子をみていたフリートヘルムの頭上に、ヴォルフラムはクッキー缶を叩きつけた。
「ぐっ!」
クッキー缶が壊れて、部屋中にクッキーが飛び散った。だが、ヴォルフラムは壊れたクッキー缶を手放さず、さらに横に振り切る。
フリートヘルムは体を背後に倒して、クッキー缶の直撃をギリギリで避けた。体勢を完全に崩したフリートヘルムは、次の攻撃に備えて防御の体勢に入った。
だが、フリートヘルムの鼻先をすり抜けたクッキー缶は、ヴォルフラムの手を離れて、入り口に立つ俺達に向かって飛んできた。
ヴォルフラムの狙いは、フリートヘルムから、入り口に立つ俺達に移っていた。
◆◆◆◆◆
21
お気に入りに追加
4,578
あなたにおすすめの小説
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います
ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。
フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。
「よし。お前が俺に嫁げ」
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。