嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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ヘクトール兄上は、俺を見つめて難しい顔をした。そして、兄上は、フリートヘルムに視線を合わせ話し出した。

「・・マテウスが異端審問官に捕まってはいない事は、弟のヴォルフラム卿に何度も伝えた事だろうね、フリートヘルム卿?だが、彼は君の言葉を信じなかった?」

「確かに、俺は何度も説得した。ヴォルフラムの思い込みを解こうと説得を繰り返した。『マテウス卿は囚われていない。拷問も受けていない』と何度も伝えた。だが、弟は信じようとはしなかった」

「相変わらず、ヴォルフラム卿は思い込みが激しいらしい。少しは成長したかと思ったが、学園時代と変わらないね。兄である君は苦労するね、フリートヘルム卿?」

兄上の皮肉に、フリートヘルムは僅かに眉を動かしたが反論はしなかった。彼はただ静かに、言葉を続けた。

「現在、ヴォルフラムは・・ディートリッヒ家の自室に軟禁している。ヴォルフラムの安全の為の軟禁だ。だが、その状況を長く続ける訳にもいかない。今の現状を改善したい。その為には、マテウス卿の助けが必要なんだ」

「お待ち下さい、フリートヘルム様!ヴォルフラム様を軟禁など酷すぎます!牢獄に監禁されていた人を、軟禁するなんて」

俺の言葉は非難めいた口調になっていた。だが、フリートヘルムは静かに応じた。

「安静を要する体にも関わらず・・ヴォルフラムは、隙を見て半身を引きずり邸から抜け出した。そして、庭で気絶し倒れているところを、使用人に発見された。弟は異端審問所の牢獄に向かい・・マテウス卿を、救うつもりだったらしい。それ以来、俺はヴォルフラムを軟禁している」

フリートヘルムは、暗い表情を浮かべていた。彼は兄弟想いの人物だ。葛藤の末に、ヴォルフラムを軟禁状態にしたのだろう。だけど、牢獄から解放されたヴォルフラムが、再び、兄の手により軟禁状態にされるなんて。

彼はどんな思いで、部屋で過ごしているのだろう。こんな事態は、早く解消しないと駄目だ。

「ディートリッヒ家の次期当主は、家族の問題を解決出来ずに・・夜更けのシュナーベル家に助けを求めに来たわけかい?随分と図々しい申し出だと・・俺は思うがね?」

「兄上!」
「マテウスは黙っていなさい」
「ですが、兄上」
「マテウス・・命令だ」

俺は兄上の言葉に黙るしかなかった。代わりに言葉を紡いだのは、フリートヘルムだった。

「ヘクトール卿、貴方の指摘は正しい。だが、俺には正直打つ手がない状態だ。今のままでは、ヴォルフラムはせっかく拾った命さえ・・落としかねない。どうか、ヴォルフラムとマテウス卿の面会を許可して頂きたい、ヘクトール卿」

フリートヘルムはソファーから立ち上がると、俺達に向かい頭を下げた。

「悪いが、今のヴォルフラム卿は・・到底、正気とは思えない。大切な婚約者であり、弟のマテウスを、危険人物に合わせることはできない。帰ってくれ、フリートヘルム卿」

兄上の言葉を聞き、俺はソファーから立ち上がっていた。そして、兄上に向けて口を開いた。

「ヘクトール兄上は、私に権限を与えてくださいました。ヴォルフラム様がどのような状態にあるのか・・私は判断する必要があります。兄上は、その為にこの会合に、私を参加させて下さったのではないのですか?私の権限を奪わないで下さい、ヘクトール兄上!」

フリートヘルムにとっては、意味の分からない内容だろう。だが、不審な内容を話しているとは、思っているかもしれない。でも、兄上には処刑計画に関することを、俺がわざと口にしていることは分かっている筈だ。実際、兄上は困り顔で俺を見つめている。

やがて、兄上は肩を竦めて、ソファーから立ち上がった二人に、再度座るように促した。俺とフリートヘルムは、それに素直に従いソファーに座った。

ソファーに座ると一気に疲れに襲われた。俺は少し深めにソファーに身を沈めた。

「・・友を自ら選び付き合う権限を、俺はマテウスに確かに与えた。仕方ない・・マテウスがそこまで望むのなら、ヴォルフラム卿に会っておいで。そして、彼が友に相応しい人物か・・再度確認しておいで。傷ついた時こそ、その人物の本質が見えるものだ。マテウスに全てを任せるよ」

ヘクトール兄上は、処刑計画の実行犯として・・ヴォルフラムが機能するかどうかをよく見極めろと言いたいのだろう。それでも、会いにいけるならありがたい。

「兄上、ありがとうございます!」

「但し、今夜行くなどと・・言い出さないでくれよ、マテウス?この一週間は王城を休む予定だから、昼間に見舞いに行くといい。関係の良くなかったシュナーベル家と、ディートリッヒ家が・・これを契機に、関係改善を進めるのも悪くはない。とにかく、マテウス・・お前はひどく疲れている。もう、部屋に戻ってお休み」

兄上は俺の為に、譲歩してくれた。感謝の気持ちを示したくて、俺は立ち上がるとヘクトール兄上の頬にキスをしていた。



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