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第四章
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◆◆◆◆◆
「庭へ散歩に行きたいのですね?もちろん、喜んでご一緒します。手を繋ぎましょうね、ファビアン殿下!」
俺は嬉しくなって、殿下の手に触れた。不意に、ファビアン殿下が怯えた表情を見せた。俺は驚き、殿下の手から自らの手を離そうとして・・やめた。
「ファビアン殿下、突然手に触れてしまい申し訳ございません。ですが、私の手は殿下を傷つけるものではありません。人の手は相手を労る為にあります」
殿下の反応はなかったが、俺は話しかける事をやめる気にはなれなかった。
「ですが、殿下は人の手を怖いと感じているのですね?ファビアン殿下は人の手で、何度も叩かれた経験がおありなのでしょうか?そして、今でも記憶として・・心に痛みが残っているのでしょうか?もしもそうならば、それは・・とても怖いことですね。恐ろしいでしょうね。でも、もしも、殿下が恐怖心を人に話すことができたなら、殿下の心の助けとなると思います」
もっと分かりやすい言い方はないかな?
「ファビアン殿下、心が怖がっていたら・・回りの人に助けを求めて下さい。ひとりで、怖いのは嫌でしょ、殿下?」
俺の言葉が伝わったかどうかなどわからない。でも、殿下が大きな声で泣き出したときに、俺は不安よりも、安堵の気持ちが大きかった。
だが、ふと思った。俺は、カールが泣く姿を見たことがない。俺があまりにも大泣きするものだから、カールから泣く機会を奪ってしまったのかもしれない。
胸がチクチクして心がざわつく。この感情が、ファビアン殿下に伝わってしまったらどうしよう。そう思った時、アルミンに声を掛けられた。
「マテウス、大丈夫か?」
「ん、アルミン・・ありがとう」
アルミンが俺の腕に僅かに触れていた。それだけで、アルミンの心配や優しさが伝わり心が和んだ。和らいだ私の気持ちが、手のひらを通して、ファビアン殿下に伝わってくれたならと、心から願った。
その後、泣き止んだファビアン殿下と共に邸の庭園を散策した。おずおずと差し出された殿下の手は少し震えていたが、俺は構わず手を繋ぎ歩いた。
庭園に出ると、アルミンは護衛の体勢に入り、言葉数も少なくなった。すると、俺は途端に会話に困ってしまった。俺はおしゃべりな人間だと、自負していたのに・・
だが、アルミンの合いの手がないだけで、会話に詰まってしまうなど・・絶対に認めたくなかった。俺は必死に面白い話題を考えたが、結局は庭の草花の話題に帰着した。
俺はファビアン殿下に、シュナーベルの邸に植えられた花の説明をしていた。なのに、いつの間にか・・俺は好みの毒草について、熱心に殿下に話し掛けていたらしい。
気がつくと、アルミンに頭を叩かれていた。
「ふにゃ!」
「毒草の話題を、楽しげに殿下に話すな!」
「どくそー、すき、マテウス!」
だって、毒草のベラドンナが地味に花を咲かせていたんだから・・仕方ないじゃないか!
◇◇◇
その夜遅くに、ヘクトール兄上は珍しい客人を連れて、シュナーベル家の邸に帰宅した。
俺は兄上の帰宅に気がつかず、ベッドで書物を読みながらうとうとしていた。だが、突然にヘクトール兄上が、俺の部屋に現れた為に眠気はぶっ飛んでいった。
ヘクトール兄上は、俺の様子を伺い見た後に、共に応接室に来るように伝えてきた。不審に思いながらも、俺は寝着兼外出着の怠惰の衣装のまま、ヘクトール兄上の後に続き応接室に向かった。
何故か、この時の俺は、応接室に客人がいる可能性を完全に失念していた。その為、応接室で、フリートヘルム = ディートリッヒの姿を見た時、俺は驚きを隠せず彼の名を叫んでいた。
「フリートヘルム様!」
「マテウス卿、夜分にすまない」
フリートヘルムはソファーから立ち上がると、簡素な言葉使いとは裏腹に、礼儀正しく俺に挨拶してくれた。
「いえ、フリートヘルム様。起きておりましたので、大丈夫です。ですが、兄上・・フリートヘルム様が応接室にいらっしゃるなら、先にお知らせ頂きたかったです。髪も整えずに来てしまいました。恥ずかしいではありませんか!」
「すまなかったね、マテウス。だが、髪は乱れてはいないよ?それより、マテウスは早くソファーに座りなさい。フリートヘルム卿を、何時までも立たせるつもりかい?」
「分かりました、ヘクトール兄上」
フリートヘルムは紳士的な人物だ。俺のようなブサイク孕み子でも、ソファーに座るまでは立って待ってくれるようだ。
その礼儀正しいディートリッヒの次期当主が、夜分に事前連絡なく、シュナーベル家を訪れるとは・・何か重要事案があったのだろうか?だけど、俺を呼び出したのは何故だ?
「これはどういう趣の会合でしょうか?お二人で、王国転覆の密談でもなさっておいでだったのかしら?それならば・・私もぜひ参加させてくださいませ」
「マテウス、露悪趣味はやめなさい」
「申し訳ございません、兄上」
うぉ、ヘクトール兄上がかなり不機嫌な様子だ。俺はそそくさとソファーに座った。
◆◆◆◆◆◆
「庭へ散歩に行きたいのですね?もちろん、喜んでご一緒します。手を繋ぎましょうね、ファビアン殿下!」
俺は嬉しくなって、殿下の手に触れた。不意に、ファビアン殿下が怯えた表情を見せた。俺は驚き、殿下の手から自らの手を離そうとして・・やめた。
「ファビアン殿下、突然手に触れてしまい申し訳ございません。ですが、私の手は殿下を傷つけるものではありません。人の手は相手を労る為にあります」
殿下の反応はなかったが、俺は話しかける事をやめる気にはなれなかった。
「ですが、殿下は人の手を怖いと感じているのですね?ファビアン殿下は人の手で、何度も叩かれた経験がおありなのでしょうか?そして、今でも記憶として・・心に痛みが残っているのでしょうか?もしもそうならば、それは・・とても怖いことですね。恐ろしいでしょうね。でも、もしも、殿下が恐怖心を人に話すことができたなら、殿下の心の助けとなると思います」
もっと分かりやすい言い方はないかな?
「ファビアン殿下、心が怖がっていたら・・回りの人に助けを求めて下さい。ひとりで、怖いのは嫌でしょ、殿下?」
俺の言葉が伝わったかどうかなどわからない。でも、殿下が大きな声で泣き出したときに、俺は不安よりも、安堵の気持ちが大きかった。
だが、ふと思った。俺は、カールが泣く姿を見たことがない。俺があまりにも大泣きするものだから、カールから泣く機会を奪ってしまったのかもしれない。
胸がチクチクして心がざわつく。この感情が、ファビアン殿下に伝わってしまったらどうしよう。そう思った時、アルミンに声を掛けられた。
「マテウス、大丈夫か?」
「ん、アルミン・・ありがとう」
アルミンが俺の腕に僅かに触れていた。それだけで、アルミンの心配や優しさが伝わり心が和んだ。和らいだ私の気持ちが、手のひらを通して、ファビアン殿下に伝わってくれたならと、心から願った。
その後、泣き止んだファビアン殿下と共に邸の庭園を散策した。おずおずと差し出された殿下の手は少し震えていたが、俺は構わず手を繋ぎ歩いた。
庭園に出ると、アルミンは護衛の体勢に入り、言葉数も少なくなった。すると、俺は途端に会話に困ってしまった。俺はおしゃべりな人間だと、自負していたのに・・
だが、アルミンの合いの手がないだけで、会話に詰まってしまうなど・・絶対に認めたくなかった。俺は必死に面白い話題を考えたが、結局は庭の草花の話題に帰着した。
俺はファビアン殿下に、シュナーベルの邸に植えられた花の説明をしていた。なのに、いつの間にか・・俺は好みの毒草について、熱心に殿下に話し掛けていたらしい。
気がつくと、アルミンに頭を叩かれていた。
「ふにゃ!」
「毒草の話題を、楽しげに殿下に話すな!」
「どくそー、すき、マテウス!」
だって、毒草のベラドンナが地味に花を咲かせていたんだから・・仕方ないじゃないか!
◇◇◇
その夜遅くに、ヘクトール兄上は珍しい客人を連れて、シュナーベル家の邸に帰宅した。
俺は兄上の帰宅に気がつかず、ベッドで書物を読みながらうとうとしていた。だが、突然にヘクトール兄上が、俺の部屋に現れた為に眠気はぶっ飛んでいった。
ヘクトール兄上は、俺の様子を伺い見た後に、共に応接室に来るように伝えてきた。不審に思いながらも、俺は寝着兼外出着の怠惰の衣装のまま、ヘクトール兄上の後に続き応接室に向かった。
何故か、この時の俺は、応接室に客人がいる可能性を完全に失念していた。その為、応接室で、フリートヘルム = ディートリッヒの姿を見た時、俺は驚きを隠せず彼の名を叫んでいた。
「フリートヘルム様!」
「マテウス卿、夜分にすまない」
フリートヘルムはソファーから立ち上がると、簡素な言葉使いとは裏腹に、礼儀正しく俺に挨拶してくれた。
「いえ、フリートヘルム様。起きておりましたので、大丈夫です。ですが、兄上・・フリートヘルム様が応接室にいらっしゃるなら、先にお知らせ頂きたかったです。髪も整えずに来てしまいました。恥ずかしいではありませんか!」
「すまなかったね、マテウス。だが、髪は乱れてはいないよ?それより、マテウスは早くソファーに座りなさい。フリートヘルム卿を、何時までも立たせるつもりかい?」
「分かりました、ヘクトール兄上」
フリートヘルムは紳士的な人物だ。俺のようなブサイク孕み子でも、ソファーに座るまでは立って待ってくれるようだ。
その礼儀正しいディートリッヒの次期当主が、夜分に事前連絡なく、シュナーベル家を訪れるとは・・何か重要事案があったのだろうか?だけど、俺を呼び出したのは何故だ?
「これはどういう趣の会合でしょうか?お二人で、王国転覆の密談でもなさっておいでだったのかしら?それならば・・私もぜひ参加させてくださいませ」
「マテウス、露悪趣味はやめなさい」
「申し訳ございません、兄上」
うぉ、ヘクトール兄上がかなり不機嫌な様子だ。俺はそそくさとソファーに座った。
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