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第四章

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「正直な気持ちを教えて欲しい。ヴォルフラムを愛しているのか、マテウス?」

互いの視線が絡み合い、静かに緊張感が高まる。ヘクトール兄上への返答は、すでに決まっていた。なのに、ためらいが俺の喉を締め付ける。声が出ない。

「マテウス」 

ヘクトール兄上が、俺の名を呼んだ。それが、呼び水となった。呼吸を整えると、喉の締め付けが弛んだ。

「ヘクトール兄上・・私は、ヴォルフラム様に好意を抱いています。ですが、愛してはおりません。この先も、ヴォルフラム様を愛することはありません」

俺がそう言い切ると、ヘクトール兄上はわずかに眉をよせた。そして、兄上は抱いた疑問を素直に口にした。

「この先も、ヴォルフラムを愛することはないと・・マテウスは、何故そう言い切れる?」 

俺は兄上を真っ直ぐに見つめた。全てを話したい。でも、この答えは、兄上を不快にする。そう思えた。だけど、自分の気持ちを偽りたくはない。

「ヴォルフラム様には、シュナーベル家の血脈が流れていません。ですから、彼に対する好意が愛情に変化するとは・・私には思えません」

ヘクトール兄上が、わずかに顔を強ばらせる。やはり、兄上には受け入れがたい答えだったようだ。それでも、俺は構わず言葉を続けた。

「ヘクトール兄上は・・深い愛情と熱い血脈を、私の体内に注ぎ込んで下さいました。その時に・・私はシュナーベル家の孕み子として、成熟したと感じております。シュナーベル家の孕み子として成熟した私が・・惹かれ愛する相手は、おそらく・・シュナーベル家の血脈を引く者だけです」

俺の言葉の終わりと重なるように、兄上が発言した。その声には焦りがみられた。

「マテウス、もう少し詳しく説明して欲しい。君が心を惹かれるのは・・シュナーベル家の血脈を引く者だけなのか?そう感じるのか?」

俺はわずかにためらった。だけど、兄上に嘘は付かないと決めたから、正直に答える事にした。たとえ、ヘクトール兄上に嫌われたとしても・・

「兄上には、不愉快な話かも知れません。ですが、正直に話しますね。私にも、やはり・・近親婚の弊害が現れているようです。私は、ヘクトール兄上が大好きです・・心から愛しています。ですが、シュナーベル家の男たちと触れあう度に、心が揺らぎ・・彼等の血脈の流れを感じて・・心が惹き付けられてやまないのです」

「マテウス!」

「ヘクトール兄上、私を軽蔑しましたか?私は、産みの親のグンナーと・・同じなのかもしれません。父上の罪は明らかです。ですが、グンナーにも罪はあった。父上に流れる血脈を、盲目的に愛するあまり・・孕んだ子と自らの命を、流してしまった。私は、グンナーを愛しながら・・同時に軽蔑もしていました。でも、今は、シュナーベル家の血脈を盲目的に愛した産みの親の気持ちが少しわかります。とても・・抗い難いものなのです、あにうえ」

俺の告白に、ヘクトール兄上は黙り込んだ。自室が沈黙でおおわれ、俺は辛くなりうつむいた。涙が出そうになるのを必死に我慢して、兄上の導き出す答えを待つ。

「正直なところ、マテウスの告白に・・戸惑いは感じている。だが、これだけは信じて欲しい。俺は、マテウスを軽蔑などしない。俺は、マテウスを愛している」

「あにうえ」

「その上で、聞いて欲しい。これは、俺が以前から感じていた危機感でもある。マテウスの話を聞き・・その危機感が現実味を帯びた」

「危機感ですか?」

「マテウスが心を揺らし、惹き付けられてやまない相手は・・アルミンだね?」

俺はわずかに肩を震わせた。それが答えだと、ヘクトール兄上はすぐに感じ取ったようだ。

「ヘクトール兄上、私は・・」
「マテウス、答えなさい」

「・・アルミンに、心が惹かれるのは確かです。おそらく、一線を越えたなら・・お互い離れがたくなる筈です。ですが、私は兄上の婚約者です。アルミンと一線を越える事など、あり得ません」

兄上が表情を陰らせ、俺から視線を外す。ヘクトール兄上の姿を見て、急に抱きつきたくなってしまった。だが、兄上は人に触れられることを嫌う。

今、抱きついて兄上に否定されたらどうすれば良いのか。そう思うと、足が動かなかった。

「マテウス」

不意に兄上に名を呼ばれた。兄上と視線が絡み合う。俺は言葉を発しようとして、唇を奪われていた。気がつけば、俺は入り込む兄上の舌に自身の舌を絡め互いに貪りあっていた。

兄上の濡れた唇が、俺の首筋に移動し肌をきつく吸わた。

「あっ!」

刺激がきつく声をあげると、兄上は動きを止めた。だが、兄上から溢れた声には強い意思が含まれていた。

「マテウス・・誰にも渡すつもりはない。俺の子を孕み、俺だけの孕み子になってくれ。抱きたい・・今すぐに・・」

「あにうえ」

俺はヘクトール兄上に抱き上げられていた。そして、そのまま兄上はベッドに向かい歩きだした。


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