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第四章

143 ヴォルフラムを愛しているのか?

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「処刑計画を実行すれば失敗する・・そう言いたいのかい、マテウス?」

「そうは申してはおりません、兄上。ですが、ヴォルフラム様の今の姿と、私が先見したヴォルフラム様の姿と・・どの程度の隔たりがあるのかを、私は知りたいのです。その上で、彼を処刑計画の実行犯にするべきかどうかを、再考すべきと申し上げています、ヘクトール兄上」

兄上は僅かに眉を寄せた。

「マテウス、再考はあり得ない。この処刑計画の実行犯は、ヴォルフラム以外には考えられない。ヴォルフラムを実行犯から外すなら、この処刑計画は白紙になる」

「兄上・・その判断を私にさせてください」

「マテウスは、処刑計画の決定権を得たいと考えている訳だね?ヴォルフラムに会い、今の姿を見て・・全てを決定したい。そう考えていると理解していいかな、マテウス?」

「そうです、兄上」

俺が頷くと、繋いだ兄上の手に少し力がこもった。兄上はややうつむきがちに呟く。

「ヴォルフラムを実行犯にしたくない。その思いだけで・・マテウスは、決定権を欲しているのではないのか?」

「兄上!」

「俺はこの処刑計画の実行犯を、どうしてもヴォルフラムにしたいと考えている。ヴォルフラムが、どれ程悲惨な状況であろうとも・・彼を操り、実行犯に仕立てるつもりだ。思い込みの激しいヴォルフラムならば・・操りやすいとも考えていた」

「・・・」

うつむき、小さく呟くヘクトール兄上の姿を、俺は黙って見つめていた。だが不意に、兄上の視線が俺に向けられ、俺はわずかに肩を震わせた。

「自分では手を汚さず、ヴォルフラムに殿下を殺害させる。そんな計画を立てる俺は・・卑怯で汚い人間だと、自分でも理解している」

「ヘクトール兄上、そのような事は・・」

俺は、兄上の言葉を否定しようとした。だが、ヘクトール兄上は俺の言葉を制した。

「マテウス、事実だから否定しないでくれ。かえって、辛くなる。俺は、シュナーベル家の存続の為には、王太子殿下は不要だと断じた。だが、本当は・・殿下とヴォルフラムを同時に葬る機会を得たいだけなのかもしれない」

「兄上?」

「俺には・・あの二人が、目障りでしかたないんだよ、マテウス。共に死んでくれたなら・・どれ程、安堵して夜眠れることか。俺は大義など有していない。ただ、安堵して眠れる夜を得るために・・俺はシュナーベル家を巻き込み、大罪を犯そうとしているのかもしれない」

俺は、ヘクトール兄上の発言に反論するように、繋いだ手を強く握り返した。はっとして、兄上が俺と視線を絡ませる。俺は、ゆっくりと口をひらいた。

「兄上も私も、誰も彼も・・各々の思いや決断に従い、もがき、足掻きながら、この世界で生きています。兄上、もしもヴォルフラム様が殿下を殺害したならば、それは彼の意思です」

「俺は彼を操り、殿下を殺害させる。それでも、ヴォルフラムの意思だといえるかい?」

「ヘクトール兄上、人を操ることは容易な事ではありません。その事は、兄上がよくご存じのはずでは?どれ程望んでも・・変えられない人がいたでしょ、兄上?」

「そうだな・・俺は父上を何度も操ろうとした。改心させようとした。だが、変わりはしなかった。逆に俺が知らぬ間に、操られていた気さえする・・」

「兄上は父上に操られてなどいません」
「そうだといいがな・・」

俺は兄上の手を強く握りしめた。兄上の手がわずかに震えている。今でも、兄上は父上が恐ろしいのだ。

俺は胸にまた蕀が食い込むのを感じた。

「私の先見では・・ヴォルフラム様は、自らの意思により殿下を害しました。もしも、運命というものが存在するならば、先見のヴォルフラム様には、運命が積極的に加担している様に、私には感じられました。ですが、今の傷付いたヴォルフラム様に、運命が加担するかは・・私には判断できません」

不意に、ヘクトール兄上が椅子から立ち上がった。繋いだ手が離れていく。それだけで、胸がチクチクする。

「兄上・・」

ヘクトール兄上は俺の声を聞き流した。兄上は、部屋の中をうろうろと落ち着きなく歩く。俺がヘクトール兄上の動きを見つめていると、兄上は急に動きを止めた。そして、こちらに向き直る。

「マテウス」
「はい、ヘクトール兄上」

「マテウスに、この質問をするのは・・二度目になる。一度目は、カールの処刑計画について話し合った時だ。その時は、マテウスは答えをはぐらかした。一度目はそれを許した。だが、二度目は・・はぐらかしたりしないで、正直に答えて欲しい」

「答えます、兄上」

ヘクトール兄上が、真剣な眼差しで俺をみつめる。俺も兄上を見つめ返し言葉をまった。兄上が、ゆっくりと口を開く。


「正直な気持ちを教えて欲しい。ヴォルフラムを愛しているのか、マテウス?」



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