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第四章

137 カールの欠片

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『カールとの・・あまりに濃密な関係が、君の孕み子としての本能を刺激しただけだよ。マテウスは、弟には何もしていないから安心して』

『それは・・救いになるの?私は、本当にカールに何もしなかった?カールが突然に消えたのは、私がカールを・・襲ったからじゃないの?だから、カールは私が怖くなって、私の前から逃げたしたのじゃない?やっと、私から逃げだしたのに・・カールは今度は父上に囚われた』

『マテウス、もうすぐ目覚めそうだよ?』

『嘘でしょ?待ってよ!貴方の知っていることを、全部わたしに教えて!貴方が私の作り出したカールの幻なら、この世界が私の作り出した世界ならば・・私は命じます!すべてを話しなさい。私に全てを話して!貴方が、今までどう過ごしてきたのか、すべてだよ。すべて、教えなさい!』

『・・僕と一緒にいたから、マテウスの目覚めはすでに随分と遅れている。どうも、馬車に揺られて着いた先は、王都のシュナーベル家の邸みたいだ。ねえ、マテウスを心配して、待っている人がいっぱいいるよ?それに、やるべきこともある筈だよ?』

『私は、我が儘で性悪男だから・・まだ、待ってもらう。邸に戻った事が事実なら、おそらく・・私には、何も出来ることはないという事だよ。貴方にも、わかるでしょ?』

『名前がないのはやはり・・嫌だな。貴方ではなく、カールと呼んで欲しい。』

『いいよ、カール。でも、まだ私に・・付き合って。まずは、この灰色の世界の事を教えて?カールは、私がまだ幼い頃から・・ずっと、ここにいたの?こんな灰色の世界にずっと』

『今は明るい方だよ?でも、本当の明るさに憧れて・・僕は、一度だけ外に出た』

『?』

『カールが突然いなくなって、泣き止まないマテウス。君を抱き上げ、庭に連れ出してくれたのは、ヘクトール兄上だった。部屋に閉じ籠りのマテウスには、あまりに緑が鮮やかで、風が心地よくて、花が美しくて・・この世界まで、きれいな色に染まった。鮮やかすぎて、あまりにも、鮮やかで・・何色だったのか思い出せない。でも、とても綺麗で・・できるなら、マテウスと一緒に見たかったな』

『よく分からないよ』

『カールと部屋に閉じ籠っていた頃は、時々マテウスはこの世界に逃げ込んできた。この世界では、マテウスは自由に話せるようだった。君は僕を相手に、よく話していたよ?カールへの愚痴を、カールの幻に聞かせるなんて・・マテウスは、少し意地悪だよね。でも、それでも良かった。マテウスが来てくれたなら、僕は一人ではなくなるから。ひとりは寂しいものだよ、マテウス』

『私の中に住んでいるのに、寂しいの?』

『寂しいよ。当然だろ?でも、カールが突然いなくなって・・君は辛いはずなのに、この世界に逃げ込まなくなっていった。原因はすぐにわかった。沢山の人が、君に尽くしていたから。言葉を取り戻すように、マテウスに誠実に尽くしていた。特に、ヘクトール兄上は・・君にすごく尽くしていたな。君の心を覗くと、よくわかった。悔しかった』

『悔しかった?』

『だから、悪戯したんだ。僕は外に出た』

『外に出るとは、どういう意味?』

『そのままの意味だよ。僕は君を眠らせて、外に出たんだよ。ちょうど、ヘクトール兄上と庭を散歩しているところだった。兄上と庭を散歩する事が、日課になっていた。だから・・少しなら大丈夫だと思ったんだよね。マテウスのふりをして、ヘクトール兄上と散歩。楽しかったよ。いいよね・・外の世界は綺麗で、花に触れて、地面を感じ、風を感じて・・僕は、とてもはしゃいでしまった』

『カール・・それって、もう、私の別人格になってない?カールは、私を乗っ取ることが可能なんだね・・』

『たった一度の外出だよ、マテウス。だけど、その一回で、ヘクトール兄上は・・僕の正体を見破った。それからは、この世界で大人しく過ごしていたよ、マテウス。君が来てくれるのを、何時も、ずっと、ずっと、待っていた』

『カール・・』

『だけど、ヘクトール兄上は・・僕の存在を許さなかった。兄上は、僕の存在を消すことに必死になった。僕はこの世界に身を潜めて、やり過ごすしかなかった。やがて、ヘクトール兄上は・・僕からマテウスを奪いとった。いつの間にか、僕の世界は闇に覆われた。それでも、ヘクトール兄上は・・今でも僕がマテウスの中に潜んでいると疑っている。随分、時がたつのにね・・』

『ヘクトール兄上が、必死になるのは当然だよ、カール。気がつけば、弟が別人格に入れ替わっているなんて・・恐怖だよ』

『マテウスも、僕が怖い?』

『不思議だけど・・私は、あまりカールが怖くない。体を乗っ取られたのに・・あなたが、何だか好きみたい。もしかして、貴方は、本物のカールが私の心の中に残していった・・血脈の欠片からできているのではない?』

『マテウスは、奇妙な発想をするね?「カールがマテウスの心の中に残した血脈の欠片」いいかも、それ!そう思いたいよ、僕自身がね。マテウスのワガママの欠片の集まりより、何だかカッコいいよね。うん、気に入った!』 

『ふふ、気に入った?私も自身のワガママの塊と会話してるとか・・恥ずかしいから、やだよ。ん、あれ・・目覚めが近い?』

『・・そうだね。もうすぐ、マテウスとお別れだ。ねえ、マテウス・・どうしても耐え難い瞬間がきたら、僕を呼んで。僕が外に出るから。君がカールを強く意識しだしたお陰で、また外に出られそうなんだ』

『私を乗っ取って、貴方が辛い思いをするの、カール?私は、そんなに弱くないよ?それに、卑怯ものみたいで嫌だよ。私は、頑張るよ!それとも・・外に出たいのカール?』

『さあ、どうかな。でも、覚えていて。僕を呼んで、マテウス。助けにいくから、必ず』

『うん、ありがとう。もう、いくね。あ、ねえ、貴方をカールと呼んでいい?新しい名前が欲しい?』

『マテウスはやっぱり、変わってる。できれば、カールと呼んで。存在を許してくれてありがとう、マテウス』

『また来るから、必ず!』


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