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第四章
135 カールの欠片
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◆◆◆◆◆◆
「シュナーベル家の次期当主の立場から、王太子殿下の排除は已む無しと考える。そして、我々の手中にある、ファビアン = フォーゲル様を、新たな国王とする事を最良と判断した」
「王太子殿下の長男である、ファビアン殿下を国王に戴く。しかし、ディートリッヒ家が、それを認めるでしょうか?言葉の発声に問題を持つファビアン殿下より、次男のヘロルド = フォーゲル様を国王に望むのではないですか?」
ルドルフの言葉に、ヘクトールは頷き応じる。
「殿下の妃候補のアルトゥールは、ヘロルド殿下を管理下に置いている。当然、ディートリッヒ家は、ヘロルド殿下を国王に推すだろうな。だからこそ、ディートリッヒ家の発言力を削ぐ必要がある。その力を削ぐ最良の駒は、ヴォルフラムだ。やつは、ディートリッヒ家の愛し子だ。王弟殿下の子でありながら、不遇な境遇にも負けぬ実直な性格・・」
ヘクトールは、一度言葉を切った。そして、再び言葉を紡ぎだした。
「傷ついた奴の前では、誰もが警戒を緩ませる。半身を失った男が、人を殺せると誰が本気で思う?だが、本人にその気があれば・・殺人は容易だ。奴は短剣を懐に忍ばせ、背後から殿下の心臓を貫く。それで、人は死ぬ」
「っ!」
「・・っ」
「だが、その為には・・ヴォルフラムには、再び『マテウスの騎士』になってもらう必要がある。奴がここで潰れたなら、この計画は白紙に戻る。マテウスの役目は、ヴォルフラムの心を甦らせる事。そして、マテウスへの執着心を利用して『王太子殿下の死』だけが・・マテウスを救うのだと、ヴォルフラムの心に刻みつける事だ」
「マテウスに、そんな酷い行為をさせるつもりなのか、ヘクトール!?」
「その通りだ、アルミン。だが、マテウスは、その役目に・・耐えられるだろうか?あの子の心は、ヴォルフラムの心と共に、死にはしないだろうか?」
「ヘクトール様・・」
「・・王太子殿下の処刑を諦めて、シュナーベル家が滅びに向かう事を、受け入れる選択肢もある。殿下は王となり、血族婚を禁止するだろう。だが、それがあながち間違いとは言い切れない。血族婚の弊害を・・俺は身を持って知っているからな。だが、今さら俺は・・マテウスの兄に戻れるだろうか?とにかく、誰でもいい。俺に正しい答えをくれ」
ヘクトールの迷いは闇が深く、すぐに答えを出せる者は誰もいなかった。
◇◇◇◇
『マテウス』
『ん?』
『僕たちは、馬車に揺られて・・どこかに、向かっているみたいだよ、マテウス』
『カール、私達は馬車になんて乗っていないよ?どことも分からない空間で、私はカールの隣に寝そべって・・空を見上げているだけ』
『空を見上げているの、マテウス?君の見上げる空には何か見える?青空が見える?雲がみえる?何が見えているの、マテウス?』
『何もないよ。ただの灰色の空を・・ぼんやりと見上げているだけ。でも、そうだで。私の見上げている空間は、空と言えるのかな?この世界のすべてが灰色なのに。カールはどう思う?あれは、空かな?』
『そうだな?どうだろうね。でも、マテウスが久しぶりにここに来てくれたから、この世界は随分と明るくなってる。何時もは、もっと暗いんだよ?灰色の空を見上げるのは、僕にとっては・・とても、久しぶりな事なんだ』
『私は過去にも・・ここに来たことがあるの?カール、私には記憶にないのだけれど』
『マテウスが、よくここに来ていたのは・・随分と昔の事だよ。君が言葉を失い、カールと同じ部屋で過ごしていた頃。その頃が、一番多かったかな?本当に覚えていないの、マテウス』
『カールと同じ部屋で過ごした時の事は、ちゃんと覚えているよ?でも、おかしくない?それだと、カールが二人・・同時に存在していた事になるよ?あり得ないよ、カール』
『あり得るよ。だって、僕はマテウスが作り出したカールの幻だから。ねえ、マテウス。僕を『カールの幻』だと断定したのは、マテウスの方だよ?そんなに、がっかりした顔をしないで欲しいな。傷つくじゃないか、マテウス』
『・・カールは死んだ。貴方は、私が作り出した幻。カールを殺した罪の意識が、貴方の存在を生み出した。分かっている。私は、本物のカールには・・もう会えない。私は少しも、がっかりなんてしていないよ、カール?』
『がっかりしているよ。マテウスの顔が、ひどくがっかりしてる。でも、マテウスは・・とても大きな勘違いをしているよ?』
『勘違い?』
『僕の存在は・・カールを殺した罪の意識から、生み出された訳じゃない』
『意味がわからないよ、カール』
『さっきも言っただろ?僕が生まれたのは、ずっと昔。マテウスが言葉を失った時期だよ。あの時は、本当に苦しかったね』
『確かに、苦しかった。でも、何時だってカールが傍にいてくれたから・・耐えられた』
『本当に?定かではないけれど、僕が生まれたのは、マテウスがカールと一緒の部屋で過ごした時期だよ?あの頃、マテウスはカールに部屋に閉じ込められて・・ひどく息苦しく感じていたよね?』
『何を言い出すの!カールは私を大切に扱ってくれていた!確かに、カールとはずっと一緒に部屋で過ごしていたけど・・息苦しいなんて、一度も思ってない。勝手な事を言わないで!』
『マテウス、それでも・・君は息苦しくて、堪らなかったんだよ。君は何時だって、部屋の窓から・・シュナーベル家の領地を眺めていたじゃないか。カールはマテウスが窓をあけることさえ・・外の風を通す事さえ嫌がっていたよね。マテウスは、息苦しく感じて当然だよ。否定しなくても大丈夫だよ?』
『違う!私はカールとの生活に満足していた!カールは、何時だって優しかった!』
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「シュナーベル家の次期当主の立場から、王太子殿下の排除は已む無しと考える。そして、我々の手中にある、ファビアン = フォーゲル様を、新たな国王とする事を最良と判断した」
「王太子殿下の長男である、ファビアン殿下を国王に戴く。しかし、ディートリッヒ家が、それを認めるでしょうか?言葉の発声に問題を持つファビアン殿下より、次男のヘロルド = フォーゲル様を国王に望むのではないですか?」
ルドルフの言葉に、ヘクトールは頷き応じる。
「殿下の妃候補のアルトゥールは、ヘロルド殿下を管理下に置いている。当然、ディートリッヒ家は、ヘロルド殿下を国王に推すだろうな。だからこそ、ディートリッヒ家の発言力を削ぐ必要がある。その力を削ぐ最良の駒は、ヴォルフラムだ。やつは、ディートリッヒ家の愛し子だ。王弟殿下の子でありながら、不遇な境遇にも負けぬ実直な性格・・」
ヘクトールは、一度言葉を切った。そして、再び言葉を紡ぎだした。
「傷ついた奴の前では、誰もが警戒を緩ませる。半身を失った男が、人を殺せると誰が本気で思う?だが、本人にその気があれば・・殺人は容易だ。奴は短剣を懐に忍ばせ、背後から殿下の心臓を貫く。それで、人は死ぬ」
「っ!」
「・・っ」
「だが、その為には・・ヴォルフラムには、再び『マテウスの騎士』になってもらう必要がある。奴がここで潰れたなら、この計画は白紙に戻る。マテウスの役目は、ヴォルフラムの心を甦らせる事。そして、マテウスへの執着心を利用して『王太子殿下の死』だけが・・マテウスを救うのだと、ヴォルフラムの心に刻みつける事だ」
「マテウスに、そんな酷い行為をさせるつもりなのか、ヘクトール!?」
「その通りだ、アルミン。だが、マテウスは、その役目に・・耐えられるだろうか?あの子の心は、ヴォルフラムの心と共に、死にはしないだろうか?」
「ヘクトール様・・」
「・・王太子殿下の処刑を諦めて、シュナーベル家が滅びに向かう事を、受け入れる選択肢もある。殿下は王となり、血族婚を禁止するだろう。だが、それがあながち間違いとは言い切れない。血族婚の弊害を・・俺は身を持って知っているからな。だが、今さら俺は・・マテウスの兄に戻れるだろうか?とにかく、誰でもいい。俺に正しい答えをくれ」
ヘクトールの迷いは闇が深く、すぐに答えを出せる者は誰もいなかった。
◇◇◇◇
『マテウス』
『ん?』
『僕たちは、馬車に揺られて・・どこかに、向かっているみたいだよ、マテウス』
『カール、私達は馬車になんて乗っていないよ?どことも分からない空間で、私はカールの隣に寝そべって・・空を見上げているだけ』
『空を見上げているの、マテウス?君の見上げる空には何か見える?青空が見える?雲がみえる?何が見えているの、マテウス?』
『何もないよ。ただの灰色の空を・・ぼんやりと見上げているだけ。でも、そうだで。私の見上げている空間は、空と言えるのかな?この世界のすべてが灰色なのに。カールはどう思う?あれは、空かな?』
『そうだな?どうだろうね。でも、マテウスが久しぶりにここに来てくれたから、この世界は随分と明るくなってる。何時もは、もっと暗いんだよ?灰色の空を見上げるのは、僕にとっては・・とても、久しぶりな事なんだ』
『私は過去にも・・ここに来たことがあるの?カール、私には記憶にないのだけれど』
『マテウスが、よくここに来ていたのは・・随分と昔の事だよ。君が言葉を失い、カールと同じ部屋で過ごしていた頃。その頃が、一番多かったかな?本当に覚えていないの、マテウス』
『カールと同じ部屋で過ごした時の事は、ちゃんと覚えているよ?でも、おかしくない?それだと、カールが二人・・同時に存在していた事になるよ?あり得ないよ、カール』
『あり得るよ。だって、僕はマテウスが作り出したカールの幻だから。ねえ、マテウス。僕を『カールの幻』だと断定したのは、マテウスの方だよ?そんなに、がっかりした顔をしないで欲しいな。傷つくじゃないか、マテウス』
『・・カールは死んだ。貴方は、私が作り出した幻。カールを殺した罪の意識が、貴方の存在を生み出した。分かっている。私は、本物のカールには・・もう会えない。私は少しも、がっかりなんてしていないよ、カール?』
『がっかりしているよ。マテウスの顔が、ひどくがっかりしてる。でも、マテウスは・・とても大きな勘違いをしているよ?』
『勘違い?』
『僕の存在は・・カールを殺した罪の意識から、生み出された訳じゃない』
『意味がわからないよ、カール』
『さっきも言っただろ?僕が生まれたのは、ずっと昔。マテウスが言葉を失った時期だよ。あの時は、本当に苦しかったね』
『確かに、苦しかった。でも、何時だってカールが傍にいてくれたから・・耐えられた』
『本当に?定かではないけれど、僕が生まれたのは、マテウスがカールと一緒の部屋で過ごした時期だよ?あの頃、マテウスはカールに部屋に閉じ込められて・・ひどく息苦しく感じていたよね?』
『何を言い出すの!カールは私を大切に扱ってくれていた!確かに、カールとはずっと一緒に部屋で過ごしていたけど・・息苦しいなんて、一度も思ってない。勝手な事を言わないで!』
『マテウス、それでも・・君は息苦しくて、堪らなかったんだよ。君は何時だって、部屋の窓から・・シュナーベル家の領地を眺めていたじゃないか。カールはマテウスが窓をあけることさえ・・外の風を通す事さえ嫌がっていたよね。マテウスは、息苦しく感じて当然だよ。否定しなくても大丈夫だよ?』
『違う!私はカールとの生活に満足していた!カールは、何時だって優しかった!』
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